思い出 クレアと土建屋と私

その日は、新台の『クレアの秘宝伝 眠りの塔と目覚めの石』が導入される日だった。三台の導入が予定されていたが、この店は過疎店で、9時開店でも8時45分に着けば余裕で確保できるほどだった。予想通り、9時少し前に到着しても数人しか並んでいなかった。

私は列の左端の台を確保し、遊戯を開始した。すぐに三台とも埋まり、私の隣にはタオルを頭に巻いた土建屋風の男と、ツルツル頭でちょび髭の親爺が座っていた。二人とも常連で、よく見かける顔だった。

昼頃まで同じメンバーで遊戯していると、当たり台が見えてきた。

土建屋の台だ。

彼は三十代くらいなのに、小役を数えることはおろか、スイカやチェリーもこぼしていた。しかし、それを補うかのようにボーナスを引いていた。

当時の解析情報はまだ不十分だったが、インターネットには設定差がありそうな情報が出回っていた。特に強いと言われていたのが赤ピラミッド揃いだ。

設定差大の赤ピラ揃い


土建屋は午前中にこの赤ピラ揃いを3回も引いていた。後の解析では、設定1で1/7281.1、設定6で1/2048という大きな設定差があることが明らかになった。

さらに、土建屋が消化したREG中に出現した赤カードが決定的だった。当時はまだ不確定だったが、強い示唆と言われていた。昼頃までに、土建屋はおそらく1500枚近くのメダルを出していた。

4以上確定の赤カード

余談だが、土建屋はカチ盛りが上手かった。中武一日二膳の俵のようにメダルを盛っていた。


中武一日二膳の俵積み

一方、私は5,000円ほど使ってから下皿を揉んでいるような状態だった。ツルツル頭の親爺も同じような状況だったが、ニコニコしながら打っていた。
彼は目押しが得意ではなく、ギャル店員に肩をポンポンされてボーナスを揃えていた。男の店員しかいない時はスイカをこぼさないようにしていたので、目押しができないフリをしてギャルに触られたいだけかもしれない。

そんな微妙な状況の中、私は辞めてラーメンでも食べに行こうかと考えていた。なにより隣で土建屋が上機嫌で俵を組んでいるのがなんとなく癪に触った。パチンコ屋の中でも建築するんじゃないよ、と内心毒づいていると、不意に土建屋が話しかけてきた。

「にいちゃん、これ、いつラッシュに入るんだ?」

確かに当時は五号機のAT機の販売が中止され、リノスペックの台が開発されるなど、規制の中でメーカーが色々なスペックの台を開発していた。それでも、昼頃まで打っていれば気づきそうなものだ。台の脇には小冊子も刺さっている。

「この台はラッシュとかないですよ。ボーナスとRTだけです」

そう答えると、「そうなんか」と残念そうな顔をした後、下皿のメダルを箱に移して立派な俵を組み始めた。そして、そのまま高設定濃厚な台を辞めていったのだ。

ラーメンを食べている場合じゃない、私はすぐに土建屋が高設定を確かめてくれた台に移動した。

読みは正しかったようで、その後も順調にクレアはメダルを排出し続けた。
しかし、気になることがあった。土建屋が真後ろの凱旋で1200ゲームもハマっていたのだ。

私がクレアと仲良く遊んでいる間、土建屋は青筋を浮かべながら俵を最高神に奉納していた。そして、私がボーナスを引く度に熱い視線を送っているのを感じた。自分が辞めた台が噴いていたら誰だって気になるだろう。自分がハマっていればなおさらだ。

その後も土建屋の熱いエールを受けながら夕方まで打ち続け、確か2400枚ほど流したと思う。寿司でも食べに行こうかとぼんやり考えながら交換所で計数を待っていると、神に年貢を奉納しきった後もさらに現金を捧げ続けた土建屋が店舗から歩いてきた。

「あ、これカツアゲされるの?」

貧弱な学生だった自分は怯えながら早く数え終われよ!と交換所のオバさんに思っていると、満面の笑みで土建屋が話しかけてきた。

「いっぱい出た?」

いっぱい出ましたよ。あなたも見てたでしょ。私もあなたを見てましたよ。扉も神の雷もフェイクリプでしたよね。G-STOPは鏡2枚で3が揃ってましたよね。黄7が4連すると溜める派なんですね。手首の数珠はギリシャ神話と相性が悪いと思いますよ。さっきは腕まくって二頭筋なんか見せてなかったじゃないですか。

一瞬のうちに色々なことが頭を駆け巡ったが、出てきた言葉は

「アッハイ」

だった。殴られるかと思ったが、土建屋は

「良かったな!頑張れよ!」

と肩をポンと優しく叩いてくれた。カツアゲ云々は私の偏見だった。人は見た目で判断しちゃいけないな、本当にそう思った。帰りに寿司を食べた。焼きアナゴが大きくて美味しかった。

別の日、土建屋は南国specialを打っていた。数珠は蝶々とは相性がいいようで、相変わらず俵を組んでいた。土建屋は嬉しそうに

「にいちゃん、この台よく連チャンするよ!」

と言っていた。私は何も言わずに笑顔で頷いた。俵はもう奉納しないで済むといいな、と思った。

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