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フォートナイトという共通言語

「お父さんはね、ああいう、人をバンバン撃つようなゲームは好きじゃないんだよ」

これは私が息子(中1)からフォートナイトを初めて誘われたときに発した言葉である。

そうしてしぶしぶ初めてプレイしたときは息子の足を引っ張り、戦闘の途中に何か知らないけれども自分のプレイヤーが勝手に鉛筆を片手に歩き出したりして(これは「建築」と呼ばれるモードに入っていることを後に知る)まあ散々な内容ではあったものの私の心の中の何かに火をつけ、以来、ほぼ毎日欠かさず寸暇を惜しんでプレイをし続け、早2か月が経過した。

おかげさまでレベルは100を超え、ビクロイ(Victory royalの略で、100人中の1位を意味する)を狙えるくらいには成長することができた。なんでもかんでも年齢のせいにするのはどうかと思うが、反応速度が遅く決断を瞬時に行うことは今でも苦手ではあるが、それでも日々の成長を感じられとても楽しい(人をバンバン撃つゲームなのに!)

さてこの記事を初めて読む方のために説明をしておくと、中1の長男はいわゆる不登校である。しかも小3から始まっているのでキャリアはなかなかのものだ(余談だが、現在小4の娘と小1の次男も不登校である)。私は自分で言うのもなんだが合理的な人間で、成功とは努力の先にあるものと考えるし、継続は何にも勝るとも思っている(だからこそフォートナイトの練習を欠かさない)。そんな私だから、長男の不登校を受け入れるにはかなりの時間を要したし、なんならいまもなお、完全に受け入れられてはいないのかもしれない。

不登校が始まったとき、私は無理やり長男を学校に連れて行ったし、学校に行くことはもう難しいかもしれないと悟ったときにも、フリースクールなどの代替手段を手当たり次第に模索した(押しつけた)。こういった行為は不登校の開始直後の保護者の大部分が陥ることではあるけれども(自分で正当化しているだけとかいう厳しいご批判もあろうが)当時の長男を苦しめるだけだったという反省は一応している。ごめん。

このような「よかれと思って」は年数を経るごとに減少傾向にはあると思っているけれど(私も不登校保護者コミュニティなどを通じて学習したので)、それでもやっぱり100%の長男を、あるがままにというのだろうか、そういった形で受け入れることができずにいる。ただ、ひとつ、フォートナイトをのぞいて。

フォートナイトを一緒にプレイしているとき(専門的にはデュオという)長男は私の師であり、ライバルであり、戦友だ。これは掛け値なく心からそう思う。そう思うことができる、というのが正しいだろうか。不登校にまつわるもやもやを、きれいさっぱり私と長男とのあいだから取り除いてくれるのだ。私の小学生時代、Sくんという親友がいて、土曜日の13:30から17:00までぶっ通しでファミコンをやっていた(当然、私の母はいい顔はしていなかったが、大目に見てくれていたように思う)あのころを、まざまざと思い出させてくれる。当時、Sくんとともに注いだファミコンへの情熱。それとほとんど変わらない熱量を、40代もなかばを過ぎた私はいま、長男とフォートナイトにつぎこむことができているのだ。

将来の不安? そんなことは、ラヴィッシュ・レア―の孤高のトラ、オスカーを倒してから言え。学力の低下? そんなことは、レックレス・レイルウェイルズのヴァレリアの微笑の前では霞んで見える。友人関係? 私はいつか、スヌーティ・ステップのピーター・グリフィンと一緒にピザを食べたい。

だがしかし、最近のフォートナイトにまつわる悩みは、長男のモチベーションが下がっていることだ。本人いわく、成長が見えない、敵にやられてむかつく、ビクロイでなきゃ意味がないと。私など、ベスト10に入っただけでも十分にうれしくて、ついついプレイ後に「ザンネン」みたいに軽い感じでつぶやいてしまうのだが、それで長男の逆鱗に触れることがある。もっと悔しがれと。お前は悔しくはないのかと。申し訳ありません、たしかにおっしゃる通りです! だから最近はプレイ後「ざけんなよ、マジむかつく!」とお世辞にも美しい日本語とは呼べない言葉を率先して叫ぶようにしている。

話がそれた。長男のモチベーションがあがらず、デュオに支障が生じている。やる気が出ないなどとのたまうのだ。これがもし、学業であったり習い事であったりしたらどうだったろうか。

「いいかい、長男くん。継続は力なりという言葉があってね。そのつらさに耐え、日々の精進の先にこそ、努力が実るというものなのだよ。ここで逃げるなんて、今までの努力を無駄にする気かい?」

これくらいは口にしていたことだろう。やがて長男が大成したときに、なにかしらのインタビューで紹介されても恥ずかしくない父の言葉だ。マジで私はかつてこういうことを公言してはばからなかったし、今でもぬるっと口をついて出る。

だが、事はフォートナイト。上のようなセリフはグランド・グレイシャーのナルシスト、モンタギューを倒せぬ者が口にしてよいものではない。フェンシング・フィールドのニーシャの前で口にしようとしたならば、言い終えぬ前にその身を散らすことになるだろう。

フォートナイトで私が長男に語れることなど、なにもない。しばらくはソロでプレイするしかなかろう。私にはやらねばならないことがある。エイム。建築。編集。この間に、私は長男に追いつけるよう練習に励むこととする。長男よ安心してほしい。父はそう易々とポンプショットガンを置くことはなかろうよ。だから気が向いたらふらりと舞い戻ってきてほしい。私の隣は、いつでも空けておくから。

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