クトゥルフ神話TRPG:6版→7版への探索者のコンバート

はじめに

 「新クトゥルフ神話TRPG」が発売されて早九ヵ月が経つ。巷の卓募集などを見ても、「クトゥルフ神話TRPG」(以後、6版)と「新クトゥルフ神話TRPG」(以後、7版)の募集はおおよそ半々で、まさしく過渡期にあると言って差し支えないだろう。
 しかし、両方遊んでみるとわかる事だが、実のところ6版と7版ではシステムは根本的に刷新され、ほぼ別ゲーと言い切って良いほどに異なっている。乱暴に言えばWindows XPからWindows 10に更新するようなものだ。
 システムがバージョンアップされた以上、いずれは殆どが7版になる事は間違いない。しかし、6版には2004年からの長い歴史があり、当然愛着のある探索者がいる人も多いだろうし、彼らを使い続けたいと考えるのも人情というものだ。
 そんな要求に応えるためか、7版には6版の探索者を7版仕様にコンバートする仕組みが存在している。いわば6版をサプリの一つとして使えるようになるという事である。
 しかしこのサービス精神溢れる仕組みなのだが、実のところあまり正しく運用されているのを見たことがない。無駄に作業量を増やしてコンバートするPLにもチェックするKPにも面倒ごとを増やしている例を見る事の方が多いくらいである。
 そういうわけでこの記事では、6版の探索者を7版に変換するやり方を例とともに解説しようと思う。
 ただし、当然両方のルールブックを持っていないと意味が分からない記述になるため、まずはルルブを買えhttps://www.amazon.co.jp/dp/4047358525

変換する探索者サンプル

以下の探索者を例に6版から7版への変換の流れを追っていく。
六空 七辺(ろくから ななへ) 性別:女 年齢:42 職業:エンターテイナー
能力値
STR:5 CON:10 POW:15 DEX:9 APP:15 SIZ:11 INT:11 EDU:20
HP:11 MP:15 SAN:75 IDE:55 LUK:75 知識:99 db:-1D4
技能値
言いくるめ:70 回避:60 隠す:70 聞き耳:70 芸術(手品):80
忍び歩き:60 信用:75 図書館:60 変装:60
ほかの言語(英語):25 母国語(日本語):99
財産
年収:$55,000 資産:$275,000
経歴
ベテランの手品師であり、かなり顔も売れている。生来器用なタイプではなかったが、長年の修練の結果一流の技術を身に着けている。
主に日本国内で活動しており、英語は通訳なしでは最低限しかできない。

工程① 能力値の変換

 変換過程

 まずは能力値を7版仕様に変えていく。基本的にはそれぞれ5倍だが、EDUが18以上の場合は専用の変換ルールを用いる。7版における年齢の影響は無視される。
Before
STR:5 CON:10 POW:15 DEX:9 APP:15 SIZ:11 INT:11 EDU:20

After
STR:25 CON50 POW:75 DEX:45 APP:75 SIZ:55 INT:55 EDU:92

 続いて能力値から算出される値の変換であるが、HP、正気度、幸運は変化しない。MP、アイデア、知識に関しては特別な記載がないため、変換後の能力値に準じる。
 7版特有の要素として、ビルドと移動率が存在する。正確には移動率は6版にも存在したが、一律8固定であまり気にされることはなかった。
この2種類の数値は変換後の能力値から7版の作成ルールに従い算出される。
Before
HP:11 MP:15 SAN:75 IDE:55 LUK:75 知識:99 db:-1D4

After
HP:11 MP:15 SAN:75 IDE:55 LUK:75 知識:92 BLD:-1 db:-1 MOV:7
能力値はこれで変換完了である。最終的に以下のようになった。

 変換結果

Before
STR:5 CON:10 POW:15 DEX:9 APP:15 SIZ:11 INT:11 EDU:20
HP:11 MP:15 SAN:75 IDE:55 LUK:75 知識:99 db:-1D4

After

STR:25 CON50 POW:75 DEX:45 APP:75 SIZ:55 INT:55 EDU:92
HP:11 MP:15 SAN:75 IDE:55 LUK:75 知識:92 BLD:-1 db:-1 MOV:7

工程② 技能値の変換

 変換過程

 能力値が終われば技能値の変換であるが、これも基本的には手を出さずにそのままである。初期値の技能も手を出す必要はなく、例えば登攀は40あるし心理学は5しかない。
 しかしそのまま7版で使おうとすると、統廃合によって消滅したため使用できない技能が存在する。
Before
言いくるめ:70 回避:60 隠す:70 聞き耳:70 芸術(手品):80
忍び歩き:60 信用:75 図書館:60 変装:60
ほかの言語(英語):25 母国語(日本語):99

After
言いくるめ:70 回避:60 聞き耳:70 芸術/製作(手品):80
信用:75 図書館:60 変装:60
ほかの言語(英語):25 母国語(日本語):99
(隠す:70 忍び歩き:60)←存在しない!
今回の場合、隠す、および忍び歩きの技能に技能点を振り分けたのに無駄になってしまうという問題が発生している。それを解決するために存在するのが技能プールである。
 技能プールを使用する場合、まず6版の初期値を差し引いて割り振られた技能点を算出する。それらを全て技能プールに加えるのである。
技能プールに割り振った技能点は、その探索者を表現するために適切な技能に再配分される。主に7版で追加された技能の中からイメージに近いものを選ぶことになるだろう。今回は「隠密」と「手さばき」が妥当と思われる。
Before
隠す:70 忍び歩き:60

技能プール:105

After
隠密:60 手さばき:75
その他、技能間でのポイントの移動による調整もKPとPLの合意があれば可能である。今回は、APPが高いこの探索者は他人と交渉するにあたって言いくるめるよりも魅惑するほうが相応しいと両者が判断したとする。
Before
言いくるめ:70

After
言いくるめ:15 魅惑:70
以上で技能値の変換も完了である。最終的に以下のようになった。

 変換結果

Before
言いくるめ:70 回避:60 隠す:70 聞き耳:70 芸術(手品):80
忍び歩き:60 信用:75 図書館:60 変装:60
ほかの言語(英語):25 母国語(日本語):99

After
言いくるめ:15 隠密:60 回避:60 聞き耳:70 芸術/製作(手品):80
信用:75 手さばき:75 図書館:60 変装:60 ほかの言語(英語):25
母国語(日本語):99 魅惑:70

工程③ 経歴の変換

 変換過程

 技能が終われば、財産の変換である。これは6版で出した値をそのまま使う事もできるし、信用の値から新たに算出する事もできる。今回は探索者の信用が高く、高名なエンターテイナーであるという事から、新たに算出する事にする。
 最後に、探索者の経歴をバックストーリーへと変換する。6版の際はほぼフレーバー要素でしかなかった経歴だが、7版ではバックストーリーとしてより内面に踏み込む形で細分化され、システムに組み込まれている。まずは今ある経歴をそのままバックストーリーに落とし込んでみる。
Before
ベテランの手品師であり、かなり顔も売れている。生来器用なタイプではなかったが、長年の修練の結果一流の技術を身に着けている。
主に日本国内で活動しており、英語は通訳なしでは最低限しかできない。

After
※どこにも当てはまらない
ベテランの手品師であり、かなり顔も売れている。生来器用なタイプではなかったが、長年の修練の結果一流の技術を身に着けている。
主に日本国内で活動しており、英語は通訳なしでは最低限しかできない。
【容姿の描写】
(空欄)
【イデオロギー/信念】
(空欄)
【重要な人々】
(空欄)
【意味のある場所】
(空欄)
【秘蔵の品】
(空欄)
【特徴】
(空欄)

これはひどい。どうやら6版の時に考えていた経歴は殆ど内面に触れていなかったらしい。では、今度は経歴に紐づいた探索者の内面に話を広げる。

【容姿の描写】
(空欄)
【イデオロギー/信念】
雨垂れ石を穿つ。生来器用なタイプではなかったが、長年の修練の結果一流の技術を身に着ける事ができた。その経験から、どんな事もコツコツと積み上げれば成せると信じている。
【重要な人々】
(空欄)
【意味のある場所】
長年世話になっている劇場が存在し、いつでもそこに駆け付けられるようにと主に日本国内で活動しており、英語は通訳なしでは最低限しかできない。
【秘蔵の品】
(空欄)
【特徴】
自分の芸で人を笑顔にしたいという夢を追い続けているベテランの手品師であり、若い頃から最前線で活躍しているため、かなり顔も売れている。

これで最低限は埋まったと言えるが、もう少し想像を膨らませて残りを埋めてみる事にする。

【容姿の描写】
豊かな髪に山高帽を被せ、カラフルで目を引く装い。年齢からくる老いを化粧技術でカバーして若々しさを演出している。
【イデオロギー/信念】
雨垂れ石を穿つ。生来器用なタイプではなかったが、長年の修練の結果一流の技術を身に着ける事ができた。その経験から、どんな事もコツコツと積み上げれば成せると信じている。
【重要な人々】
不出来な弟子であった自分を鍛え導いてくれた師匠。既に第一線からは引いているが、高名なマジシャンであった彼を越えるエンターテイナーとなる事を目指している。
【意味のある場所】
長年世話になっている劇場が存在し、いつでもそこに駆け付けられるようにと主に日本国内で活動しており、英語は通訳なしでは最低限しかできない。
【秘蔵の品】
師匠から一人前の証として譲り受けた山高帽を大事に使い続けている。
【特徴】
自分の芸で人を笑顔にしたいという夢を追い続けているベテランの手品師であり、若い頃から最前線で活躍しているため、かなり顔も売れている。

残りの4項目は6版にも存在し、何も変える必要はない。狂気への慣れを適応したい場合は記載してもいいかもしれないが、一般的には記録されていないはずである。今回は全て空欄なので省略する。
以上で経歴の変換は完了である。最終的に以下のようになった。

 変換結果

Before
年収:$55,000 資産:$275,000
経歴
ベテランの手品師であり、かなり顔も売れている。生来器用なタイプではなかったが、長年の修練の結果一流の技術を身に着けている。
主に日本国内で活動しており、英語は通訳なしでは最低限しかできない。

After
現金:$7,500 資産:$750,000 支出レベル:$1,000
【容姿の描写】
豊かな髪に山高帽を被せ、カラフルで目を引く装い。年齢からくる老いを化粧技術でカバーして若々しさを演出している。
【イデオロギー/信念】
雨垂れ石を穿つ。生来器用なタイプではなかったが、長年の修練の結果一流の技術を身に着ける事ができた。その経験から、どんな事もコツコツと積み上げれば成せると信じている。
【重要な人々】
不出来な弟子であった自分を鍛え導いてくれた師匠。既に第一線からは引いているが、高名なマジシャンであった彼を越えるエンターテイナーとなる事を目指している。
【意味のある場所】
長年世話になっている劇場が存在し、いつでもそこに駆け付けられるようにと主に日本国内で活動しており、英語は通訳なしでは最低限しかできない。
【秘蔵の品】
師匠から一人前の証として譲り受けた山高帽を大事に使い続けている。
【特徴】
自分の芸で人を笑顔にしたいという夢を追い続けているベテランの手品師であり、若い頃から最前線で活躍しているため、かなり顔も売れている。

最終結果

 変換前の探索者と、全ての変換が終了した探索者を以下に記す。これらは当然どちらもKPとPLで共有されていなければならない
Before
六空 七辺(ろくから ななへ) 性別:女 年齢:42 職業:エンターテイナー
能力値
STR:5 CON:10 POW:15 DEX:9 APP:15 SIZ:11 INT:11 EDU:20
HP:11 MP:15 SAN:75 IDE:55 LUK:75 知識:99 db:-1D4
技能値
言いくるめ:70 回避:60 隠す:70 聞き耳:70 芸術(手品):80
忍び歩き:60 信用:75 図書館:60 変装:60
ほかの言語(英語):25 母国語(日本語):99
財産
年収:$55,000 資産:$275,000
経歴
ベテランの手品師であり、かなり顔も売れている。生来器用なタイプではなかったが、長年の修練の結果一流の技術を身に着けている。
主に日本国内で活動しており、英語は通訳なしでは最低限しかできない。

After

六空 七辺(ろくから ななへ) 性別:女 年齢:42 職業:エンターテイナー
能力値
STR:25 CON50 POW:75 DEX:45 APP:75 SIZ:55 INT:55 EDU:92
HP:11 MP:15 SAN:75 IDE:55 LUK:75 知識:92 BLD:-1 db:-1 MOV:7
技能値
言いくるめ:15 隠密:60 回避:60 聞き耳:70 芸術/製作(手品):80
信用:75 手さばき:75 図書館:60 変装:60 ほかの言語(英語):25
母国語(日本語):99 魅惑:70
財産
現金:$7,500 資産:$750,000 支出レベル:$1,000
バックストーリー
【容姿の描写】
豊かな髪に山高帽を被せ、カラフルで目を引く装い。年齢からくる老いを化粧技術でカバーして若々しさを演出している。
【イデオロギー/信念】
雨垂れ石を穿つ。生来器用なタイプではなかったが、長年の修練の結果一流の技術を身に着ける事ができた。その経験から、どんな事もコツコツと積み上げれば成せると信じている。
【重要な人々】
不出来な弟子であった自分を鍛え導いてくれた師匠。既に第一線からは引いているが、高名なマジシャンであった彼を越えるエンターテイナーとなる事を目指している。
【意味のある場所】
長年世話になっている劇場が存在し、いつでもそこに駆け付けられるようにと主に日本国内で活動しており、英語は通訳なしでは最低限しかできない。
【秘蔵の品】
師匠から一人前の証として譲り受けた山高帽を大事に使い続けている。
【特徴】
自分の芸で人を笑顔にしたいという夢を追い続けているベテランの手品師であり、若い頃から最前線で活躍しているため、かなり顔も売れている。

おわりに

 探索者の変換に関する7版ルールブックの難解な記述をできる限り分かりやすく解説したつもりであるが、如何だっただろうか。この記事が愛着のある探索者と共に7版へと踏み出す一助となれば幸いである。
 まぁ、簡単に死んだり発狂したりする探索者にとって、7版にまで引きずり回されることが幸せとは限らないが

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