穏やかで美しくて辛辣な曲に魅了される 『Lost In Space』 AIMEE MANN
音楽は鳴らしたいけど、これといって聴きたいものがあるわけでもない時、私はエイミー・マンを選ぶことが多いです。うるさくなくて、無理な進行がなくて、ポップ過ぎずに優しくて美しい。どのアルバムもそんな曲でいっぱいです。
ニュー・ウェーブに分類されるバンド、ティル・チューズデイとしてデビューし、“Voices Carry” (1985年)がヒット。この曲はかろうじてリアルタイムで聴いていましたが、ここで歌っていたのがエイミー・マンだと知ったのは少し後になってからでした。
1993年に『Whatever』でソロ・デビューしていますが、私が聴き始めたのはその次の『I’m With Stupid』から。シングル向きとは言えない曲ばかりでしたがシンプルで飽きのこないアルバムでお気に入りになりました。
しかし、そこから新譜を見かけることがなく、しばらく購入が途絶えていたのですが、どうやらそれは彼女がゲフィンと対立し、3rdアルバム以降を自身が設立したレーベル「スーパーエゴ・レコード」からリリースしていたからだったのかもしれません。
3rdアルバム『Bachelor No. 2』は最初、自身のWEBサイトからメールオーダーでの発売となったそうなのですが、最終的には米国で20万枚以上を売り上げ、メジャー・レーベルに所属しなくとも活動できることを証明した、カッコいいアーティストです。綺麗なだけじゃないんですな。
そんなエピソードに加えて、映画『マグノリア』で “Save Me” や “Wise Up”が知られた時期とも重なって、『Bachelor No. 2』の評価が高い(もちろん私も大好きです)のですが、私がここでぜひおすすめしたいのはその次の4thとなる『Lost In Space』(2002年)です。
オープニングとなる ⑴ Humpty Dumpty は、タイトルが示す比喩の通り、「壊れると容易には元に戻らないもの」を彼女らしい語り口で、なんとも気だるく歌われるのですが、これがどういうわけか癖になるのです。
⑽ The Moth はこのアルバムのハイライトで、もし「エイミー・マンってどういう音楽?」と聞かれたら私はこれを紹介します。心地よいテンポに彼女らしいメロディと言葉が乗っていくこの曲は、シンガー・ソングライターとして評価が高い彼女の傑作だと思います。そして、「蛾は炎を見ても気にしない」と歌い出されるこの曲は、リスクが高いほど魅力的に見える事柄に誘惑され、それを知りながら自己破壊的な行動をとってしまう様が歌われているようで、そんな歌詞も彼女らしさ満点です。
そして、今とは違う何かを求める気持ちを歌いながらも“But It's Not”と否定する⑾ It’s Not でアルバムは終わります。なんて悲しいことを歌うんだと思いつつも、現実を受け入れる必要があることをこの年になると理解できます。
穏やかで美しいメロディーが魅力的なエイミー・マンの曲ですが、歌われているのは皮肉で辛辣なことが多く、その容姿と相まって時々恐ろしくなります。そして、それがまた魅力になっていくという不思議なアーティストです。
本作の日本盤にはボーナス・トラックとしてビートルズの“Two Of Us”が収録されています。ショーン・ペン主演の『 I am Sam』で使われたこの曲は彼女の夫、マイケル・ペン(ショーン・ペンの弟)と歌われていて、これがなんとも良いです。
おそらく “No Myth” のヒットで知られるマイケル・ペンは、その後にも良いアルバムを出していますので興味のある方はぜひ。
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