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あまりにも完璧な12曲に今も圧倒され続ける 『Hysteria』 DEF LEPPARD

デフ・レパードが7年ぶりとなる通算12枚目のスタジオ・アルバム『Diamond Star Halos』のリリースを予定(5月27日)しています。本当に楽しみです。

そんなニュー・アルバムを前に、これまでお世話になってきた彼らのディスコグラフィーからどれかについて書いてみたいと考えました。

ある意味では異色作といえる『Slang』(1996年)を「これだって全然カッコいい」という思いで取り上げたい気持ちもありましたが、やはりこれまでの人生の大半を共に過ごしてもらっている『Hysteria』について書かなければバンドへの義理を果たせません。

『Hysteria』がリリースされたのは1987年の8月で、全米での1stシングルだった “Women” をMTVで観たのが最初でした。

中学3年生だった私は前作『Pyromania』も知らず、何やら人気のバンドが数年ぶりにアルバムを出したらしいということと、ドラマーが片腕で左足を駆使していることに驚いていましたが、“Women” にはあまりピンときていませんでした。CDを買ったのはその次のシングル “Animal” が出たあたりだったように記憶しています。

この頃はCDが主流になり始めてアルバムの収録時間が増えたことも魅力の1つとなっていて、本作が60分を超えるアルバムだったことも購入を決めた理由だった気がします。

家でCDを聴けるようになったばかりだったこともあって、その嬉しさから買ったCDは気にいるとか気に入らないとかは関係なく聴きまくったうちの1枚であるわけですが、いま振り返ればこれは本当に素晴らしい巡り合わせだったことになります。

4年を超える歳月を費やしてリリースされた本作は、最初のプロデューサーとうまくいかなかったことや、リック・アレンの交通事故の影響があったことを考えても長いレコーディング期間で、500万枚を超えないと赤字と言われていました。

そこまでの時間をかけた甲斐は十分すぎるほどで、聴くほどに「世の中にはこんなにもスキのないアルバムが存在するのか!」と中学生ながらに感動したものでした。それは30年以上経った現在でも変わらず、より一層その凄さに驚かされます。

改めて聴いても、とにかく聴き流すようなところがひとつもないのです。どの曲のどの瞬間にも細心の注意が払われており、最善を尽くされていることが分かります。全12曲が完璧な形で並べられていて、半分を超える7曲が全米チャートイン。2800万枚超えとか言われる数字はやっぱり伊達じゃありません。

最初はさほど気に入ってなかった ⑴ Women もリフのグルーヴ感に痺れますし、⑵ Rocket は最初から気に入った曲なのに2022年のいまも「カッコいい〜」とトリップさせられます。アフリカン・ドラミングも間奏部の逆回転利用も当時の私には未知なもので衝撃でした。

⑶ Animal や ⑷ Love Bites 、⑹ Armageddon It といったシングルヒットは言わずもがな、壮大な ⑺ Gods Of War や ⑻ Don’t Shoot Shotgun 、⑼ Run Riot というLeps的HM/HRも普通ならシングルですし、終盤の ⑾ Excitable 、⑿ Love And Affection もまったく飽きさせることのない出来で、⑿なんかはシングルにしてもっと知ってもらってもよかったんじゃないかと今でも思います。

最後にレコーディングしたとされる ⑷ Pour Some Sugar On Meは、曲のよさはもちろんなのですが、アルバム発売からしばらく経ってからのシングルがチャートを駆け上がり、再びアルバムが売れ始めて1位を獲るという現象を見せてくれた曲で、「シングルカットのシステムってすごい!」と感動したのを覚えています。

⑻ Hysteria は本作で最も聴いている曲で、いつどんな時に流れてきてもスキップすることなく最後まで聴ける、時代に左右されることのない名曲だと思います。エレクトリック・ギターってこんなにいろんな音で使えるものなんだと感動します。

改めてアルバム全体を通して聴いてみると、本当に細かなところまで様々な音が入っていることに感心しながらも、こんなにもツイン・リードだったんだなと気づかされます。スティーヴ・クラークが亡くなったのは数々の名盤がリリースされた1991年。もうヴィヴィアン・キャンベルの在籍期間の方が遥かに長いわけですが、やっぱり残念な気持ちになります。

そして、分厚いバックコーラスもこのバンドの特徴だと思います。『Def Leppard』収録の “We Belong” ではそれぞれのヴォーカルを披露しているくらいですからそのコーラスは素晴らしく、ヴィヴィアンが加入して「ライブでも本当にメンバーがコーラスを歌っていて驚いた」という話もカッコいいエピソードです。

本作ではコーラスが分厚いだけでなく、ギター同様に様々なパートが細かく配置されていて、それには自身もコーラスに加わっているプロデューサー、マット・ラングの手腕も多大です。アルバムに関するドキュメンタリーを見ると、バンドから「6人目のメンバー」と言われているマットの貢献は本当に大きいようで、マットがプロデューサーに復帰してから劇的にレコーディングが進んだ様子がわかります。そのこだわりは尋常ではありませんがバンド側もそれを受け入れており、双方の尽力がこの完璧な12曲を生み出しているようです。

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(ディスクにはMADE IN W. GERMANYの文字が!)


現在はレコーディングの方法も大きく変化したでしょうし、アルバムという単位の存在意義も薄れてきていると思います。ここまでの時間と労力をかけて作られた『Hysteria』のようなアルバムは、もう出てこないのかもしれません。

その良し悪しはわかりませんが、こんなにも長く聴けるアルバムを残してくれたことには感謝しかありませんし、そのバンドが現在に至るまで素晴らしいアルバムをリリースし続け、近々発売となるニュー・アルバムを楽しみにできるのは本当に幸せです。

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