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音や見た目の変化よりも充実した楽曲群が肝だった 『Achtung Baby』 U2

私くらいの世代(1972年生まれ)にとって、好き嫌いに関わらずU2は大きな存在だろうと思います。

初めて聴いたU2は1987年リリースの『The Joshua Tree』で、当時はその背景や意義を全く知らずにいましたが、そんな中学生の私にも「何か崇高なものが鳴っている」ように感じられました。聴き込むほどに引き込まれていき、すっかりU2のファンになりました。

過去作を貪るように後追いしながら『Rattle And Hum』(1988年)のリリースを迎えます。これもさほどその背景を理解していませんでしたが、高まったU2熱を放出するべく新しい音源を求めていた私は “Desire” や “Hawkmoon 269”、“All I Want Is You” なんかをアホほど聴きながら、「U2ってすごい !」と崇拝するような気持ちだったことを覚えています。

そんな2作をリアルタイムで聴いたのち、1991年にリリースされたのが『Achtung Baby』でした。今ではU2の大いなる転換点とされていますし、その勇気ある変貌ぶりが賞賛され、語り尽くされている名盤と言って差し支えないかと思いますが、当時の私がどんな風に受け取っていたかを書いてみたいと思います。

⑴ Zoo Station 冒頭のギターにはやっぱりビビりましたね。「え?ほんとにU2?」となったところで聴こえてくるビートにも「あれ?」となり、加工されたボノのヴォーカルに「あれれ?」と戸惑いました。

⑵ Even Better Than The Real Thing は ⑴ に比べれば遥かに聴きやすかったわけですが、それでも「なんかちょっと違うな」と。

そこで、⑶ One が登場します。始まった瞬間から安心したこの曲は、さまざまな場面で歌われる大きな意味を持つ歌となりましたが、ドキュメンタリー映画『From The Sky Down』でこの曲が形になっていくシーンには鳥肌が立ちました。もしこの曲がなかったらバンドも消滅していたかもしれないとなるとより大きな意味を持っていたことになります。“We’re one”と歌いながらも、“But we’re not the same” とするところがU2らしさなのかもしれません。

⑷ Until The End Of The World では冒頭のドラミングでラリーらしさを感じられるのですが、曲が進むにつれて「やっぱり今までとはなんとなく違うな」と感じました。

⑸ Who's Gonna Ride Your Wild Horses はスケールの大きな美しい曲で、音の違いはあれど私が知っていたU2らしい曲で幾分、ホッとした覚えがあります。

そこに、⑹ So Cruel がやってきます。とてつもなく良い音で録音されているラリーのドラムに感動しながら、なんともロマンティックに歌われるこの曲は、このアルバムを初めて聴いた時から私にとって特別な曲となり、これだけでこのアルバムの価値はあったと思えた曲でした。

と、満足(というか安心)したところで唐突にやってくるのが ⑺ The Fly です。それはもう「全然違うじゃないか!」とツッコミつつも「ヒュー!!」とノリまくる分裂状態でした。ボノが「Joshua Treeを切り倒す音」と表現したこの曲は、改めて聴くとそのリズムのカッコよさにシビれます。

そしてもう1つ、「だいぶ違うな」とつぶやいてしまう ⑻ Mysterious Ways が畳み掛けてきます。しかしながら思わず歌ってしまうサビのキャッチーさには抗えず、振り返れば本作を象徴するような曲だったと言えるかもしれません。

⑼ Tryin' To Throw Your Arms Around The World は控えめな音で仕上げられた大人な曲で、ここまでの起伏の激しい感情を落ち着かせてくれました。

そして、私にとってはハイライトとなった ⑽ Ultra Violet (Light My Way) が鳴り響いたわけです。いやー、ドラマチック!ラリーのドラミングとエッジが刻むリズムにアダムの強烈にカッコいいベースラインが乗っかるこの曲は、従来のU2らしさと変化したU2の新しいサウンドが融合しているように感じました。そしてボノの歌唱の素晴らしさ。特に“I remember when we could sleep on stones”(3:15~)からにはグッときますね。

⑾ Acrobat では『The Unforgettable Fire(焔)』あたりの雰囲気を感じつつ、こちらもラノワ的雰囲気でいっぱいの ⑿ Love Is Blindness でエッジのエモーショナルなギターソロを聴きながら終わっていきます。

当時の印象を思い出しながら改めて聴くとやはり大きな路線変更だったと思いますが、恥ずかしながら当時の私はそこまで変化を感じ取れていませんでした。

もちろん、アルバムジャケットからして「ちょっと様子が違うな」とは思いましたし、⑴ Zoo Station や ⑺ The Fly なんかには前述した通りに「かなり違うな」と戸惑いました。もしアルバムに先行してリリースされた “The Fly” のMVから入っていたら、ロックスター然としたボノの様子に影響を受けてもっと印象が変わっていたかもしれませんが、その時はあくまで音だけでしたし、そこまでの変貌だとは感じていなかったのです。

その理由を考えてみると、それまでとは違う雰囲気の楽曲はありながらも ⑶ One や ⑹ So Cruelなど、それまでの延長線上で聴ける曲が絶妙に配置されており、戸惑い始めたところでいったん安心できる構造になっていたことが大きいと思います。このあたりの曲の力を借りながら、全編を繰り返し聴くことで他の曲にも慣れ、その良さやそこでの新しさに気がついていったように思います。

そして、本作をこんなにも長く聴いてこれたのは、音や見た目やステージでの変化以上に、並べられた12曲が優れていたからなのでしょう。

最近ではラスベガスのSphereでライブを行ったU2ですが、動画で本作から複数の曲が公開されていることも、変化で話題になった曲の数々が時代の変化にも耐える楽曲だったことを証明していると思います。

今さら付け加えることなど何もない名盤だと承知しておりますが、改めて聴いても「捨て曲なしだな」と圧倒されました。U2ってすごいわー。

追記(2024/05/02)
とか言ってたらSphereでの“Ultraviolet(Light My Way)”が公開されました。やっぱりカッコいいです!


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