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哀しさや儚さが美しく表現されていく 『Plans』 DEATH CAB FOR CUTIE

デス・キャブ・フォー・キューティー(DCFC)は1997年にシアトルの北側にあるワシントン州ベリンガム(ワシントン州って西海岸なんですね)で結成されています。バンド名はビートルズのテレビ映画「マジカル・ミステリー・ツアー」に登場するBonzo Dog Doo-Dah Bandの曲に由来しているんだそうです。

(↑いきなり別のバンドの曲ですみません)

ベン・ギバード(ヴォーカル/ギター)とクリス・ウォラ(ギター)が中心となって活動してきたバンドが、5枚目にしていよいよメジャーデビューとなったアルバムが『Plans』(2005年)になります。これももうすぐ20周年、はっえぇー…。

まさしくUSインディーロックバンドとして活動してきたDCFCが、アトランティックと契約した際には批判的な反応もあったようですが(前作『Transatlanticism』がとりわけ素晴らしかったので、インディーなDCFCを愛していたファンが複雑な気持ちになったことは想像できます)、本作でのサウンドはやっぱり何歩も前進していると思います。

それまで決して強烈なフック(“The Sound Of Settling” のBop-ba~♪は強烈ですけど)や大仰な展開のある曲を売りにしていたわけではなく、それこそがインディーらしさなのかもしれませんが、本作でもメジャーデビューだからといって急激にキャッチーになったりはしていません。むしろ、もともと持っていた美しいメロディはより繊細に磨かれ、落ち着いた曲調が増えた印象です。

⑴ Marching Bands Of Manhattan が聴こえてきたところでもう持っていかれるのは私だけ?これから始まる美しいアルバムのオープニングはこれしかありません。

⑵ Soul Meets Body はライブの定番となっているのも無理はなく、誰だって“Ba-da ba-da-ba-ba♪” と歌いたくなるでしょう。愛しい人を曲に喩え、A melody softly soaring through my atmosphere と繰り返されるのですが、この一節はこのアルバム全体をも表現しているかのようです。

しっとりとした ⑶ Summer Skin で夏の日々(あるいは怖いもの知らずだった若き日々)が過ぎ去る儚さに想いを馳せたあと、「同じ場所に異なる名前が付けられている。同じものに異なる名前が付けられている」と歌う ⑷ Different Names for the Same Thing を「人々の争いの根源を表している」と勝手に拡大解釈してその愚かさを嘆きながら、(私にとって)1つ目のハイライトとなる ⑸ I Will Follow You Into The Dark を迎えます。

あまりにも哀しく切ない、しかしとてつもなく優しく美しいこの曲は、レコーディングの休憩中にベン・ギバードがギターを手にとって歌い出したものをクリス・ウォラがトラッキングしたものなのだそうです。やっぱりそういうときに特別なものが生まれるんですな。“Love of mine, Someday you will die” と始まるこの曲を、はじめは後追いの歌かと思っていましたが、何度も聴くうちに、そんな時が来ても相手を安心させようとする優しさにあふれた歌なんだと思うようになりました。ベンの歌唱が素晴らしいです。

2つ目のハイライトは ⑼ What Sarah Saidです。美しいピアノで始まるこの曲で歌われるのは、病院での別れです。

生きていれば誰もがいつ遭遇してもおかしくない場面なのですが、こんなにも具体的な描写がメロディに乗って曲になるなんて、音楽っていうのは本当にすごいもんですな。サラの言葉として曲中に出てくる “Love is watching someone die” について考えさせられるわけですが、これを肝に銘じていれば近くの人にもっとやさしくできるような気がします。

勝手な解釈を書き連ねていることにはご容赦いただきたいのですが、とにかく他の曲も含めて、よくもこんなに儚くも美しい曲を並べられたもんですよ。おじさん、何回聴いても感動します。

ロックダウン時にベン・ギバードはLive From Homeとして弾き語り映像を頻繁に配信してくれていて、大阪に引っ越してまもなくコロナ禍となり、いささか途方にくれていた私を楽しませてくれました。2022年にリリースされた『Asphalt Meadows』も、今年リリースされたそのアコースティック版(Lowのカバー“The Plan”がまた泣かせる)も素晴らしく、これからも活躍を願うバンドです。

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