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原宿の商業施設にシジュウカラを呼ぶ 東急不動産の狙いとは

 「四十雀」という漢字を読めますか? 私は読めませんでした。タイトルの鳥の名前「シジュウカラ」です。この文章を公開している7月は、もうシジュウカラの季節ではないですが、東京・原宿の商業施設「東急プラザ表参道『オモカド』」の屋上庭園「おもはらの森」に巣箱を設置しています。2012年から毎年行っている取り組みで、17年に始めて営巣が確認できたそうです。今年も確認されました。近隣に明治神宮や新宿御苑、赤坂御所など緑が多いエリアがあり、鳥が立ち寄れる緑地を設けました。

 こうした取り組みは、「いきもの東急不動産」として情報発信をしています。渋谷駅を中心に約2.5キロのエリアを「広域渋谷圏」と位置付けて、東急不動産、東急㈱が協力して再開発などのまちづくりを行っています。東急不動産は、このエリアに39の物件・拠点がありますが、生物多様性に与える影響について検証・分析していく方針を打ち出しています。

 なぜ、不動産企業が生物多様性に取り組むのでしょうか? 意外かもしれませんが、生物多様性に取り組むことがこれからのビジネス拡大に有望だと判断しているからです。

東急プラザ表参道「オモカド」

 同社は環境の重点課題として「脱炭素社会」「生物多様性」「循環型社会」の3つを挙げ、それぞれが相互に関連して課題解決を行い、それをビジネスチャンスに変えていくことを目標としています。さきほどのシジュウカラの例は「生物多様性」の取り組みの一つです。生物多様性などの取り組みは、国際的な枠組み(TNFD)に沿った形として「TNFDレポート」としてまとめています。

 このレポートを公表したことで、対象エリア内の企業から一緒に取り組んでいきたいとの申し出が寄せられているといいます。東急不動産が持つ生物多様性や緑化に対応するためのノウハウやデータが、新たな企業との結びつきを生んでいます。「ネイチャーポジティブ」という言葉がありますが、企業に対して生物多様性や緑化に対応を求める動きもあり、関心が高まっていることが背景の一つにあります。

 「脱炭素社会」という意味では、同社は今年「RE100」を達成しました。日本では城南信用金庫、第一生命の併せて3社です(7月22日時点)。「RE100」とは、環境省のホームページによれば「企業が自らの事業の使用電力を100%再エネで賄うことを目指す国際的なイニシアティブ」のこと。同社のオフィスビルや商業施設などで使用する電力が再エネ由来のものとなっています。

 「RE100」達成によるメリットは、優良企業のテナントからの支持を得やすいことです。「RE100」は国際的な枠組みでの取り組みであり、大企業や外資系企業がオフィス選びの基準として「RE100」を満たす仕様のオフィスビルを指名することがあります。

 サステナビリティ推進部の松本恵部長は、「サステナビリティ・環境関連のイベントを行うときに、会場自体がサステナブルな施設でないとイベント自体の立ち位置が問われてきます。特にファッション業界などがそういった会場を探す際に我々の施設をご指名頂くことが出てきている」と「RE100」取得によるビジネスへの効果を話しています。

行政や大企業との連携につながる

 東急不動産の環境への取り組みは、行政や大企業との連携につながっています。北海道松前町との再エネに関する連携はその一つです。

 また、JR東日本との連携協定も、こうした取り組みをきっかけに実を結びました。東急不動産が戦略的に開発を進めている広域渋谷圏においても、7月25日にグランドオープンする「Shibuya Sakura Stage」と渋谷駅の新改札口をつなぐなど協力関係を深めています。

 不動産企業にとって、環境への取り組みは単なるイメージ戦略ではなくなりつつあります。東急不動産の狙いは、この分野をいち早く手掛け、競合が激しい従来型のビジネスに加え、新たな戦略事業に育てていくことにあります。

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