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【最近の判例】R2.7.30の判決レビュー|GPS最高裁判決

GPS最高裁判決というのが出たらしく、へーと思ったので見てみました。

この最高裁判決は、車にGPSを取り付け遠隔監視する行為について、ストーカー規制法(ストーカー行為等の規制等に関する法律)にいう「見張り」にあたらないと判断した、というものです。

ニュースとしては、例えばこちら。

ストーカー専門家ら「法改正を」 凶悪事件への発展懸念―GPS判決(時事ドットコムニュース)

なお、文章中の引用部分について、一部省略・太字・下線などは筆者によるものです。


ストーカー規制法をちょっと見

「ストーカー行為」の定義は、条文がややこしいです。

が、簡単にいうと、

①ストーカー行為とは、不安を覚えさせるような方法で「つきまとい等」を反復してすること、であり、

②その「つきまとい等」のひとつとして、「見張り」行為が挙げられている、

という構造になっています。

条文は、次のとおり。

▽ストーカー行為等の規制等に関する法律
(定義)
第二条 この法律において「つきまとい等」とは、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることをいう。
一 つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所(以下「住居等」という。)の付近において見張りをし、住居等に押し掛け、又は住居等の付近をみだりにうろつくこと
二〜八 (略)
2 (略)
3 この法律において「ストーカー行為」とは、同一の者に対し、つきまとい等(第一項第一号から第四号まで及び第五号…(略)…に掲げる行為については、身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる場合に限る。)を反復してすることをいう。


最高裁の判断

最高裁の判断は、以下のとおりです。

なお、同じ争点があった事件が2つあり(佐賀地裁の事件と福岡地裁の事件)、以下は佐賀地裁の方の事件の最判ですが、もう片方の事件も概ね同様の判断が下されています。

▽最判令和2年7月30日(平成30(あ)1529号)
「しかしながら,ストーカー規制法2条1項1号は,好意の感情等を抱いている対象である特定の者又はその者と社会生活において密接な関係を有する者に対し,「住居,勤務先,学校その他その通常所在する場所(住居等)の付近において見張り」をする行為について規定しているところ,この規定内容及びその趣旨に照らすと,「住居等の付近において見張り」をする行為に該当するためには,機器等を用いる場合であっても,上記特定の者等の「住居等」の付近という一定の場所において同所における上記特定の者等の動静を観察する行為が行われることを要するものと解するのが相当である。そして,原判決の認定によれば,被告人は,元交際相手が利用していた美容室の駐車場等においてGPS機器を上記自動車に取り付けたが,同車の位置の探索は同駐車場等の付近から離れた場所において行われたというのであり,また,同駐車場等を離れて移動する同車の位置情報は同駐車場等の付近における同人の動静に関する情報とはいえず,被告人の行為は上記の要件を満たさないから,「住居等の付近において見張り」をする行為に該当しないとした原判決の結論は正当として是認することができる。」


▽原文はこちらから:裁判所HP(最判令和2年7月30日(平成30(あ)1529号))

【パッと見たときの感想】

刑事事件だし、文言解釈を重視したんだなーと思いました。たしかに、普通の日本語として読んで、GPSがこれにあたるかというのはキツいというのはわかる(文言は、「住居その他その通常所在する場所の付近において見張りをし…」となっている)。

「その他」の前で並列されているのは「住居」「勤務先」「学校」だし、ここに可動する空間を含むのは難しい、と言われれば、そうだなと思うしかないという感じ。

2つの地裁の判断

下級審からの流れをみると、実は、高裁判決の段階ですでに「見張り」該当性は否定されていて、本件は検察側からの上告となっています。

が、地裁判決の段階では、どちらの事件でも「見張り」該当性は肯定されていました(※ちなみに、本件の2件よりも以前にあった別の事件でも、該当性を肯定した高裁判決がありました[福岡高判平成29年9月22日])。

地裁判決を見ると、肯定する場合にはどういう風に考えたのかが(個人的には)わかりやすかったので、以下引用します。

▽佐賀地裁平成30年1月22日(平成29(わ)112号)
「(争点に対する判断)
1 弁護人は,被告人の判示行為はストーカー行為等の規制等に関する法律2条1項1号所定の「住居等の付近において見張り」をする行為に該当しない旨主張する。
 しかしながら,本件で用いられたGPS機能付き電子機器(以下「GPS機器」という。)は充電して電源を入れればGPSと呼ばれる衛星測位システムを利用し,インターネットに繋がっているパソコンや携帯電話を使って位置情報が検索できるものであることに徴すると,GPS機器を自動車に取り付けて被害者の所在する場所の位置情報を検索する行為も「見張り」行為の一態様と解される。そして,「見張り」行為は法文上「住居,勤務先,学校その他その(特定の者の)通常所在する場所付近において」なされるものとされているところ,被害者が日常的に使用している自動車は「住居,勤務先,学校」とは場所的移動を伴う点で異なっているが,本件のようなGPS機器を自動車に取り付けた場合,特定の者が行く先々の位置情報を何時でも検索・把握し得るものであるから,自動車が特定の者の場所的移動の手段として日常的に利用されている限り,自動車自体が「その他その通常所在する場所」と考えるのが相当である。」

▽福岡地判平成30年3月12日(平成28(わ)585号・平成28(わ)893号)
「また,本法にいう「見張り」とは,社会通念上,主として視覚等の感覚器官によって相手方の動静を観察する行為をいうと解されるが,本法が,ストーカー行為が個人の身体,自由,名誉に対する危害に結びつきやすいことに鑑み,そうした危害を防止し,あわせて国民の生活の安全と平穏に資することを目的として制定されたものであること(法1条参照)に加え,本法がストーカー行為を構成する「つきまとい等」として列挙する行為の手段・方法は社会生活の変化に伴って変容し,あるいは多様化しうるものであることからすると,「見張り」についても前記のような行為態様に限定されるものではなく,相手方の動静を直接観察することは必須ではなく相手方が通常使用する物や建物の状況を観察することによって相手方の動静を把握する行為が含まれると解すべきであるし,電子機器等を使用して相手方に関する情報を取得することを通じてなされる動静観察行為も含まれると解すべきである。」


巷の解説

例えば、WestLawJapanの判例コラムに、前田雅英先生の解説がのっています。

▽判例コラム 第208号 GPS機器を用いた被害者の位置情報探索取得行為と「見張り」


私見

地裁の判決を読んだらそれはそれで説得力あると思うんですけど(趣旨から考えて車を「その他通常所在する場所」に含めさせる、という解釈)、やはり刑事罰だし、趣旨からの拡張解釈を嫌うので、難しい部分があったのかなという印象。

佐賀地判自身が言っているように、車は、並列列挙されている「住居,勤務先,学校」とは場所的移動を伴う点で異なっている、という部分がまさにネックだった、という感じなのかなと。

冒頭のニュースでコメントを引用されている識者の弁護士も、検察もがんばって起訴してきたんだけど…残念、という感じのコメント(←自分の印象です)。

いまは、相手の浮気を監視するため(?)とかで、お互いに位置確認できるアプリ入れておいて確認できるようにする、みたいな2人も世の中にはいるだろうし、そういったものともちゃんと切り分けできるようにするためには、解釈に含ませるよりはケースを洗い出したうえで文言にちゃんと書くようにする、というのは仕方ないのではと思います。

「不安を覚えさせるような方法により」という現在の文言によってそういった場合は除外する、とかの考え方もありそうな気もするけど、上記のような2人のうち片方がだんだんストーカーみたいになっていく…みたいなときにどうするのか定かでないし、やはり遠隔からの位置確認について一度正面から取り上げて立法で対応しようというのは、個人的には納得感あります。

法改正が要りますね。2条1項の1号と2号のミックスみたいな号をつくるとか。
1号の「見張り」と2号の「監視」(を相手に知り得る状態に置くこと)との谷間に落っこちてるみたいな感じですもんね。

しかし文言つくるの難しそうですね…。どうメスを入れるのか。


▽本記事のフルver.はこちらから(筆者のブログ)


[注記]
本記事は筆者の私見であり、筆者の所属するいかなる団体の意見でもありません。また、正確な内容になるよう努めておりますが、誤った情報や最新でない情報になることがあります。具体的な問題については、適宜お近くの弁護士等にご相談等をご検討ください。本記事の内容によって生じたいかなる損害等についても一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。



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