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中國鍼灸穴位通鑑における『中府』穴の鳳凰堂流解釈

中府穴 zhōng fǔ(LU1)

一、 出典
“寸口の脈が細、発熱、濁氣を吐くような場合は黄芩龍胆湯を服用すると良い。呕吐が止まらなければ橘皮桔梗湯を服用し、中府に施灸する。”≪脈経≫

二、 別名
1.“別名膺中兪”≪鍼灸甲乙経≫、
≪黃帝内経明堂≫、≪外臺秘要≫、≪医心方≫、
≪銅人腧穴鍼灸図経≫、≪聖濟總録≫、
≪鍼灸資生経≫、≪西方子明堂灸経≫、
≪普濟方≫、≪徐氏鍼灸大全≫、≪鍼灸集書≫、
≪秘伝常山楊敬齋鍼灸全書≫、≪鍼方六集≫、
≪類経図翼≫、≪経穴図考≫、≪重樓玉錀≫、
≪中華鍼灸學≫、≪鍼灸學≫

2.“別名膺兪”≪素問・水熱穴論≫註、
≪鍼灸聚英≫、≪古今医統大全≫、≪学古診則≫、≪鍼灸逢源≫、≪鍼灸指南≫、
≪古法新解会元鍼灸學≫、≪鍼灸學≫

3.“肺募”≪中華鍼灸學≫、≪中國鍼灸學≫、
≪鍼灸學≫

4.“府中兪”≪中華鍼灸學≫、≪鍼灸學≫

三、穴名の意味解釈
1.“府は聚なり。脾肺がこの穴で気を合わせる為、中府と言われている”
  ≪黃帝内経明堂類成≫

2.“手太陰の脈は中焦より生まれる為、中府と言われている。”≪医経理解≫

3.“中府は肺の絡系であり、府は陽気に従って、内から外へ達する。また膺輸とも呼び、上腕・胸の部へ通る輸穴であり、各経穴が胸から手に流れる事を意味している。”≪古法新会元鍼灸学≫

4.“集まるところは府や庫と言われ、この経穴は経気が集まるところを示している。肺の募穴に属し、手足の太陰脈の気がここに集まる、中気が府・聚するところという事から中府と名づけられている”≪経穴命名浅解≫

5.“本経は肝経、足厥陰の気を受け、体内(腹内)を巡って、膈を上り、肺に属す。肺は呼吸によって外気を集めるところである。また、本経の気は本穴から出て中から体表へ達する為、中府と名づけられている。本穴の元々の名前は「府中輸」、或いは「膺中輸」であり、後世の人が簡称として「中府」と言った。恐らく本経の気は体内の府から出てくるものである。つまり、外気を引き入れた後、経気がこれに従って通り、過ぎている場所である。本穴の効用は雲門穴とほぼ同じであり、共に内臓に抑圧された気を条達させる事ができる。≪鍼灸大成≫には少気不得臥を治すと著されている。中医の病理理論によれば、少気の人は安静に横臥している事を好む。もし、不得臥というのであれば、気が鬱して上昇しない為に中焦は気虚を起こしていない。本穴に施鍼すれば、気は昇降する事が出来るようになり、疏泄できるようになるのである。本穴は肺の募穴である。「募」という言葉の字義は匯であり、聚である。昔は招兵の事を募兵と言った。つまり装丁を集めて、これを選んだのである。”
 鍼灸治療では、多く調気に用いる。例えば行気、導気、提気、降気等は全て理気作用があることを指してる。また、鍼下に気を得る(得気を感じる)際に、捻転・提挿することを行気と呼び、鍼を下す際には呼気や吸気を行う事も全て気を調整することに他ならない。穴位の命名は多くが気、水、雲、玉、海、泉、𧮾、澤から取られているが、丘、陵、関、室は懐通する、降ろす、泻す等の意味を持たせて命名している“≪鍼灸穴名解≫

6.“本穴の別名は「膺輸」であり、最も古くは≪素問・水熱穴論≫に見られ、手太陰肺経の「募穴」とされている。≪甲乙経≫巻三には「雲門の下一寸、乳上三肋間の陷凹中」と書かれている。「中」を方角の意味として考えると四方の中央の中、左右の間としての中、内という意味にも考えられる。”≪易・坤卦≫には「黄裳は吉であり、父が中にいる」と書かれており、「府」は≪素問宝命全形篇≫には「これを懐府と言う」と書かれている。王冰注には「府とは胸である。肺を胸中という事が理由となっている」と書かれており、五臓が気を溜めるところを府と言っている。≪礼記・曲礼≫には「府にあるものを府と言い、庫にあるものを庫と言う」と書かれている。本穴は胸中にあり、胸中の肺気が集まり、結び、会するところである。手足の太陰の気がこの経穴にあつまるので中府と名づけられている。従って楊上善は「府は聚であり、脾肺の気が本穴で合う、ここから中府と言われている」と書いているのである。≪穴名釈義≫

7.“府は聚である。中府は手太陰肺脈の腧穴であり、肺は手太陽の脈(恐らく手太陰の間違え)が中焦から起こり、本穴に中気が集まるからである。また本穴は肺の募穴であり、募とは臓気が集まり、結ぶところ、府は募の意味をも含んでいる為、中府と名づけられている。”≪経穴釋義匯解≫

8.“中とは中気を指す。つまり天地の気である。また中焦、胸中や中間という意味を含んでいる。府とは府庫を指し、中府とは天地の気が胸中で蓄積するところという意味を持っている。”
 人は中気を持って生まれ、肺は中気が蓄積すると実となるところである。
≪素問・六微旨大論≫には「中とは天気である」と書かれ、また「空間においては、気が交わる部分を上中下の中とし、天人地で言うと人があるところとなる」と言っている。≪左伝・成十三年≫には「民は王地(恐らく天地の間違えだが、要調査)を受けて生まれる」と書かれている。≪千金要方≫の序には例として「人は天地における中和の気を受け、授かっている」と書かれている。このような事から、中気とは天地の気である。財産を収納するところを府と言う。≪呂覧・季春≫には「府庫とは貨幣を貯めるところである」と書かれている。≪素問・離合真邪論≫には「空間的に地の位置で地を観察、考察し、天の位置で天を観察、考察し、人の位置で人を観察、考察する。これを調整するのが中府であり、ここから三部を定める。」と書かれている。張介賓(張景岳)は「中府とは臓気である」と書いており、肺は胸中にあって全ての藏の蓋となっている。その脈は腸に絡し、胃を循り、中焦にある水穀の気を受けている。従って人の身体上を上中下の三部の気血に分けて考えると、ここに調節の作用があり、鎖骨下乳上は肺気の出入と貯わえた臓気の中間地帯と言える為、別名府中輸、膺中輸と言うのである“≪鍼灸穴名釈義≫

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