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「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」感想

「この着メロはウン十和音なんだぜ」
などと同級生が盛り上がっていた当時、僕が持たされていた携帯電話は、電話番号が3つしか登録できなかった。未就学児と老人をターゲットに開発された「安心だフォン」という機種である。安心だフォンは機能がショボいが、代わりに、電子音の着メロではなく録音した音声を着信音に設定できた。録音の質はいまいちでも電子音と比べれば圧倒的アドバンテージだ。クラスで一番ショボくて、クラスで一番高音質な携帯電話に設定したのは、インディ・ジョーンズのメインテーマ「レイダース・マーチ」であった。

実家には過去4作あるうちの1、2にあたる「失われた聖櫃」「魔宮の伝説」のDVDがあり、学生の時はこの2作ばかり何十回と繰り返し観ていた。愛着があると言うには異様に偏っているのだが、愛着はあるのだから仕方ない。
僕が初めて買ったCDは、映画のサントラ集「ファンタジー・ムービー・ヒッツ」だった。ほかにも好きな名作音楽がたくさん入っていたが、目当てはレイダース・マーチだ。14番目に入っているそれを再生し、スピーカーに安心だフォンを押し当てて強引に録音したことを覚えている。
それぐらい思い入れが強い作品だったはずなのに、社会に出てからはすっかりインディと疎遠になっていた。

インディ・ジョーンズの新作が公開されると知ってから、万全の状態で向き合うために過去4作を振り返った。大人になってから観るとまた違った見え方がするものだ。「魔宮の伝説」ではインドの宮廷料理が「甲虫の丸焼き」「猿の脳ミソのシャーベット」などと滅茶苦茶な描かれ方をしていて、これ現代でやったらやばそうだな、当時は怒られなかったのかなと思ったら、怒られていたらしい。
復習する中で、タイトルを並べてみて気づいたことがある。新作は命名規則が変わった。
・レイダース/失われた聖櫃
・インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説
・インディ・ジョーンズ/最後の聖戦
・インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国
・インディ・ジョーンズと運命のダイヤル
過去作はずっとサブタイトルがスラッシュ区切りだったのに、5作目で急に劇場版ドラえもん方式になったのだ。「ドラえもん のび太とブリキの迷宮」みたいに。それが良いか悪いかは分からない。いや、悪いか。DVDを並べたときに背表紙の座りが悪くなる。

ともあれ、準備万端、満を持しての新作は最高であった。過去一番と言ってもいいかもしれない。ジョージ・ルーカスが過去に言った「シリーズは5作製作する」を信じるなら今作が最後なのだが、本当にそうかもと思わせるほど贅沢な全部盛りだ。変装して敵陣へ潜入するインディ、列車の上で戦うインディ、颯爽と馬を乗りこなすインディ、大嫌いなヘビに似たウナギにビビるインディ。ギミックだらけの迷宮も嬉しいし、トゥクトゥクでモロッコの狭い路地を爆走するアクションはこれまでに観た映画のカーチェイスで一番好きかもしれない。過去作とつながる部分もあり、復習してから挑んでよかった。一度疎遠になっておいておこがましいことだが、新作を観て、インディ・ジョーンズは僕の人生と共にあったという気持ちになっている。

シリーズを完走して思い入れの深さを再認識した今、着信音を再びレイダース・マーチにしようか悩んでいる。もう10年ぐらい使っているIN THE MOODもそうとう気に入っているので、どちらも活かせる設定にしたい。
しかし懸念がある。このタイミングで設定して、何も知らない人が僕の着信音を聞いたら、
「ああ、今やってるもんね」
と表面的に捉えられてしまう可能性がある。僕とインディ・ジョーンズの歴史を何も知らないくせに。大して頭も働かせず省エネの推理で、手近に見つけた答えで真相を暴いたような気になって、したり顔で言うのだろう。
「ああ、今やってるもんね」
ムカつく。ムカつく!

レイダース・マーチでも聴いて落ち着くか。


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