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黒い液体との邂逅

コーヒーは、コーヒー豆2粒をこなごなにしてどれだけ抽出しても30%ぐらいしか抽出されない。残りの捨てられる70%のようなくだらない人生をうだうだうだ26年過ごした僕がしゃんと背筋を伸ばして午前11時にキッチンに向かうのは何年振りなのだろうか。

何も上手くいかなかった

いきなり話が逸れるが、コーヒーを淹れる前は家賃30,000円ワンルーム6畳でみっちりと壁に貼られた注意書きを横目に神経症を患っている。僕はとろとろとコンビニに向かい、午後1時に黒い液体と酸化し切った油の匂いの揚げ物や無機質な固形物で栄養をとっていた。いや、味覚が意思を覚えたように味を感じる機能が著しく低下していた。コーヒーも黒い液体に近い味がする。

不安障害。

初老の精神科医はパソコンをじっと見つめながら無愛想にボソリと呟いた。

心の中に将来として漠然とした不安に終始縛られていた。好きな読書や散歩も心が一向に晴れることがなく、いつもの散歩道も当てもなくふらふらとし、苦痛でたまらなかった。

僕は2023年でIT会社を退職し、愛するパートナーにも愛想を疲れ、なかば孤独で鬱々と貯金が右肩下がりになるトリプルパンチを喰らっている。2024年5月時点ではライターと自称しているが、稼働はほとんどできていない。(傷病手当金は年金加入期間が短いと支給されない。)

黒い液体との出会い

ドームができると一種の満足感を覚える。

黒い液体との出会いは7年前。浪人中に友人が何気なくブラックをコンビニで買っており、僕も飲んでみたが苦味で少しだけ飲んでオエッとなった記憶が鮮明に目に浮かぶ。しかし、不思議と不快感はなく僕の身体が以前から待ち望んでいたような感覚。

その日から、僕は唐揚げ弁当と一緒に少し緊張した面持ちで「Sサイズ1つください」と言って、まるで大人への階段を登ったかのような高揚感を覚えながらコンビニ横のパチンコを彷彿とさせるダークブラウンの機械についているボタンを押した。

補足:電動ミルとの出会い


カリタ NEXT 電動ミル 業務用にも使えるグラインダー。


電動ミルの購入は「モノ」感があってインテリア映えもする。何者でもない僕がコーヒー職人の焙煎士になったかのような錯覚に陥る。

黒い液体からコーヒーに出会った瞬間

就活でお祈りメールをもらい続け排水溝をぼーっと眺めて途方に暮れていたときも、論文をダメ出しされてちょっぴりブルーな気分になっても、黒い液体は顔色ひとつ変わらず「僕の尻を叩いてくれる。」

「まだお前はやれる!」「応援してるよ!」と。

肌寒い冬の朝、窓の外には白い息を吐く通行人たちが早足で通り過ぎる。薄い霧が街を包み込み、静寂と冷たさが辺りに漂っている。そんな中、私はキッチンのテーブルに座り、両手で大切にホットコーヒーのカップを包み込んだ。

カップから立ち昇る蒸気が、ゆっくりと天井に向かって上がっていく。「ふわっ」とした温かさが手のひらに広がり、冷えた指先にじんわりとしたぬくもりが戻ってくる。カップを持ち上げて、コーヒーの香ばしい香りを深く吸い込むと、その瞬間に心がほぐれていくのがわかる。

「ズズッ」と一口飲むと、ほろ苦さとほのかな甘さが口の中に広がり、全身にエネルギーが満ちていく。体の芯から温まるこの感じは、コーヒーの苦味が寒さを忘れさせ、気持ちを落ち着かせてくれる。

外では風が「ビュウビュウ」と音を立てて吹き抜け、木々が「カサカサ」と揺れている。でも、ここの暖かなキッチンでは、そんな音さえも遠くに感じる。私はカップを持つ手を少し緩め、再び一口、ゆっくりと味わう。「ハァー」とため息をつきながら、心地よい静寂と温かさに包まれる。

気づいたら、気づかぬうちに黒い液体、いやコーヒーは僕にとっての支えとなっていた。


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