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『氷の城壁』第5巻購入・紹介・感想(その2終)

この記事は(その1)に続くものとなります、こちらをご覧ください。

(その2)では、こゆん、美姫がそれぞれつっこちんと行動を共にする友達となっていく場面を中心に書いていきます。

つっこちんが実質的に初登場となった30話の最後のほうで、つっこちんは「1年2組図書係 霜島月子 想像力豊かな美術部員」というキャプションがつけられています。このキャプションがなくても絵的に「想像力豊かな」という側面は描かれていますが、このキャプションが、特に49話の美姫との初対面時のシーンにものすごく生きてきます。
以下こゆん、そして美姫と決定的な友達となるシーンなどについて書いておきます。


1.こゆんとつっこちんが友達となるシーン

44話ですでにこゆんとつっこちんは、2人だけで美術室で一緒に昼食をとる関係になっていますが、つっこちんがクラスメイトたちとの協調的側面の強さに対し負の感情といえる言葉をこぼしてしまったときに、こゆんはドキリとなる表情で「わかり過ぎて 気分悪くなってきた」と反応し、「エンパシー」というキャプションもさらにつけてものすごい共感を示した表現をします。そしてさらに「あのね・・・」「私も集団行動苦手」という言葉も出てきます。
それに加えて、つっこちんが完全にこゆんに共感をもつことを示すセリフを51ページの末尾で発します。

あ~~~・・・

もっとはやく 小雪ちゃんと 話せるように なりたかったな~~・・・
こんな クラスが変わる 直前じゃなくて

『氷の城壁』第5巻 p.51 44話 進歩・足踏み より 

これに続く52ページ冒頭では、こゆんの表情がいい方向の複雑な表情で描かれ、かつ、このコマでのセリフはありません。こゆん独自で高校に入って初めての女の子の真の友達ができた瞬間をこのように描き切っています。

2.美姫とつっこちんが友達となるシーン

30話から44話までの1か月程度かけてこゆんとつっこが真の友達になったのに対し、美姫との場合は49話での2年生のクラス分け初日、つっこちんが美姫を見かけてから数十秒以内、美姫が挨拶しておそらく15秒くらいで2人は真の友達(少なくとも美姫はつっこちんを全面的に信頼できると思った)になったと言えるでしょう。

この伏線ですが、3話ですでに美姫の素のキャラクターとしておおよそ示されていますが、具体的には38話にあります。1年時に一緒に行動していた友達女子3人との関係に違和感を感じ始め、バイト先の男女先輩との相談の際に「あと私、「可愛い」よりも 「カッコイイ」って 言われたい~~~・・・」と、阿賀沢先生の手書きにて、本来おもわれたい素の美姫の感情が言葉として発せられています。ここの部分が手書きなのが悩みの深刻さを物語っているような気がしました。

で、49話に戻ると、ミナト・ヨータ・こゆん・つっこちんが集まっている場所に金髪ピアスの美姫がやってきて、初めて会うつっこちんに対し「あ はじめましてー 美姫って いいまーす  よろしくね」とあいさつしたのに対する、つっこちんの口に出した反応は「かっこいい~~・・・ いいなぁ~」でした。
そして一瞬の間のあと、美姫がいきなりつっこちんに対し、ぎゅっと抱きしめるという行動をとります。美姫が本来思われたいことを会った瞬間に言われて、ものすごく美姫は自分の本来の姿をわかってくれるようで嬉しかった(実際に抱きしめる際の手書きキャプションにて、嬉、という表現もされています)と思います。
ちなみにこの文章を書き進めている最中に、このシーンを含む49話のボイコミがアップされました。確認したところ、実際に見かけてから数十秒で、美姫が挨拶してから15秒くらいで美姫がつっこちんを抱きしめています(音声がでますのでお気を付けのほどを・・・)ので、下記をごらんください。

ここで30話の「想像力豊かな」というキャプションが活きてきます。
それぞれと友達となるシーンにおいて、こゆんとは負の感情を共有して、美姫とは、みんなの期待に寄せていった行動をとってしまっていた美姫のイメージとは違っているが、素直に自分が感じた「かっこいい」という正の感情を通じて、関係を生じています。友達形成にあたって真逆の行動となりながらも信頼を結べていると言えます。
いまの時代の学生・生徒は自分でキャラをつくって「スクールカースト」をベースに関係を結んでいると一般的に言われています(次作『正反対な君と僕』ではその意識に関して、平を通じて描かれています)。これはなんらかの「正解」に基づいて演じているといえ、おそらく友達形成にあたってはその方向で統一していると推測されますが、少なくともつっこちんにはそのようなことは感じられません。黒髪でおさげで膝まで隠れるスカートという保守的ともいえる外見ながらも、自分に素直である子として描かれています。

3.『氷の城壁』における、つっこちん、について

こゆんも美姫もそれぞれ特徴のあるキャラクターに対して、つっこちんは素直でカンが良いものの、基本的に普通の子として描かれています。
いくつかのアプリのコメントでは「読者」目線のキャラクターと書かれていますが、それに加えて自分の独自の考えでは、つっこちんは「作者である阿賀沢先生自身のキャラクター」という側面がかなりあるのではと思っています。
人生の折り返し地点もとうに過ぎたおじさんとしては、どの登場人物にも肩入れせず俯瞰的に読み進めていきましたが、読者の多くを占めるであろう女子中高生の多数は、主人公こゆんの目線に従って読み進めていくのではないでしょうか。
『氷の城壁』はLINEマンガ、マンガmeeという、毎話のアップごとにコメントがつきますので、特定の人物に肩入れするコメントもその話を読んで即座に入ってきます。
これに対して阿賀沢先生自身はたしか、特定のキャラクターには肩入れしていない、と完結したのちにラジオか雑誌かでコメントしていました。
ということで、読者目線+阿賀沢先生の見方(くわえて、阿賀沢先生の高校生時代もつっこちんのように、それなりに陽キャの片隅にいて、表面上は誰とも問題なくクラスメイトとしての関係を築けているのに加えて、後の話で重要なシーンを構成する深い体験もされていると推測)を意図的に出し、俯瞰的かつ作者側から感じてもらいたいという、ある種の補助線として、つっこちんというキャラクターを出して描いてきたというのが私の個人的見解です。

ちなみにボイコミですが49話だけでなく、48話と同日に公開されています。こちらの公式ツイッターのコメントからご覧ください。

第6巻からは、いよいよ恋愛編が本格的に始まっていきます。どういうコマ割りで構成されるか楽しみです。

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