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エミーナの朝(1)

親友 ナゴン 1

 夫に先立たれてから初めてランチにでかける。ナゴンとのイタリアン·ランチである。そういえば買い物には行っているが、長い間、楽しい会食などはしていない。

 イタリアン·レストランは若い女性グループや熟年カップルなどで賑わっていた。

 こんな雰囲気でナゴンと二人で食事ができるのは心が浮き立つ思いである。

エミーナ
ナゴン
スカイレストラン和府駅前店/Tera

 わたしの心が晴れやかになるように、ナゴンは楽しい話題を探して話しかけてくる。

 ほんとうに有り難く思う。気づかいに感謝している。

「エミリン(エミーナのこと)、このチーズフォカッチャサンドは、ドライトマトの歯ごたえとジワッと来るオリーブオイルのビターな味わいがなんとも言えないわ。わたしドライトマトだーい好き」と子供みたいに言う。

「うん、うん、生ハムとチーズもしっかりして全体的に濃厚って感じ。うーん、なんか体も心も嬉しくなっちゃう」とわたしはナゴンの気持ちに応える。

 ナゴンは、書店で働いている。

 夫が入院したとき、看病に参考になる本を探すのを、心配そうな表情で、わたしに気づかいながら手伝ってくれた。

 後日、スーパーで買い物をしているときに偶然出会ったことがきっかけで友達になった。

 以後、時々、親族が夫を看病してくれているときには、美味しいスィーツや食事に、見晴らしの良いレストランへと、わたしを連れ出してくれた。

 ホッとした時間が持てた。わたしが倒れずに夫を最期まで看取れたのはナゴンのおかげである。

 わたしエミーナは、歳は四十四、子どもはいない。戸建てに一人で住んでいる。ナゴンは、一つ上の四十五である。彼女の過去のことは知らないが、アパートに一人で住んでいる。

スカイレストラン和府駅前店/Tera

 久しぶりの外食に、お互い差しさわりのない楽しそうな話を選びながら、おしゃべりを楽しんだ。

 でも、やっぱり一言、感謝の気持、伝えなくちゃ……

 近くのカフェに場所を変えた。そしてあらためて一言、「ナーチン(ナゴンのこと)、あの人が逝ってからも何かと気づかってくれた。心から感謝しているわ。本当にありがとう」

「何言ってんのよ、エミリン。やめて、やめて、大したことしてないし……」

「ところで、ナーチン、最近、服装の好みが変わったわね? ひょっとして、いい人出来たってことかな?」否定されると思って軽くきいてみた。

「……」

 あ……、あらら、黙ったー

「えっ、ま さ か!」

「でへっ、恥ずかしながら」 

「よかったわねーっ!」

「エミリンには、まだ言うつもりは無かったのに」

「嬉しいことじゃないのっ。遠慮しないで言ってよ」

 でも、本当は、気持ちの底のほうで、ちょっとざわついた……

 わたしは明るく「紹介してねっ!」

「あはは、うん、落ち着いたらね」とナゴンは言ってコーヒーをグッと飲み込んだ。

 何が落ち着いたら……かは分からないけど、「楽しみーっ!」と言っておいた。

 久しぶりのランチとコーヒータイムはナゴンの白状で、わたしの気持ちに変な緊張感を残して終わってしまった。

 ナゴンと別れた帰り道、ドライブしながら考えた。

エミーナのホーム/エミーナ

 ナゴンはその人と付き合いながら、私とも今まで通りの関係でいるだろうか?

 今まで通りにしてほしいけれど、そうはいかないだろう。淋しいな。

 夕飯の準備をしていても、ベッドに入っても、なんとなく気になっていた。

 いつの間にか寝てしまった。

 そして思わぬ出来事が……

 (エミーナの朝2へつづく)



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