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就職実績、就職率では伝わらない!この時代だからこそ受験生に伝えるべき、卒業後の情報とは何なのか。

受験生や保護者にとって、卒業後の情報は教育内容と同じか、その次にくるぐらい興味のある情報なように思います。でもそうだとすると、大事にも関わらず伝え方は卒業生メッセージ、就職実績、就職率ぐらいしかなく、かなりバリエーションが乏しいんですよね。今回、東京医科大学がそんな卒業後の情報を、これまでにないアプローチで伝える特設サイトを開設しているのを見つけました。この伝え方、すごくいいです。

じゃん。サイト名は「東京薬科大学 卒業生調査レポート」。うん、すごくわかりやすいです。このタイトルから連想するのは、グラフや数値が並ぶ白書的なものだと思うのですが、そうじゃないんです。このサイトは、調査結果について考察とともにまとめたレポートが、テーマごとに合計9つ載っています。読んだ印象としては、東洋経済であったり、週間ダイヤモンドなんかに載っている記事のようでした。

FireShot Capture 078 - 卒業生調査レポート - 東京薬科大学 - alumni-survey.toyaku.ac.jp

記事は筆者(?)視点で問題提議がされ、それに対して調査と分析、検証を語りかけるような口調でされています。卒業生調査レポートとあるものの、数値を大きく載せるわけではなく、調査したことで浮かび上がった事実に焦点を当てています。あくまで個人的な推測ですが、あえて数字を細かく載せなかったのではないかと感じました。数字=結果なので、そこが目立ってしまうと、数字がいいか悪いかにしか興味がいかず、数字だけでわかったと思ってしまい、内容を読む気が失せてしまうからです。

また、レポートを読んで面白かったのは、すごく視点がフラットなんですね。いいことも悪いことも、しっかりと書いている。というより、そもそもの目的が、東京薬科大をPRすることではなく、卒業生調査から何が浮かび上がってくるのかを分析して伝えることなのかなと感じました。たとえば、下記のくだりなんか衝撃的でした。「大学時代の努力は、年収にはほとんど影響しない」と言い切っちゃってるんです。

FireShot Capture 076 - 収入と仕事に対する満足決めるのは、社会で身につけた力 - 卒業生調査レポート - 東京薬科大学 - alumni-survey.toyaku.ac.jp

ただ誤解なきように伝えておくと、この後の記事で、大学教育に関わる3つの要素が社会人力を高めるファクターになっているという分析も出てきます。勉強なんてしても仕方ない!と言っているわけではありません。しかし、誤解を受けたり、曲解されそうな情報であっても、それが分析結果として出たのなら、しっかりと載せていることに、このサイトのスタンスを感じます。

今回、このレポートを読んでしみじみと感じたのですが、卒業していい企業に入りました、頑張って働いています!というのは、PRにはなるけれど、役に立つ情報ではないな、と。だって、毎年、何百人、何千人もの卒業生を輩出していたら、キラキラした人なんてどの大学にだって必ずいるわけです。そんなスペシャルな人の話より、自校を出た大勢の人がどんなキャリアを歩んでいるのか全体の傾向を教えてもらった方が、よっぽど受験生にとっては自分に関わる情報になります。そういう意味では、東京薬科大は真摯に受験生に必要な情報を発信しているといえます。

もう一つ思ったのは、終身雇用制が崩れ、今ある仕事の多くがAIに取って代わられると言われています。そういったなか大事になってくるのは、有名企業に就職したかではなく、卒業後、自立的に人生を切り拓けているかどうか、だと思います。人生を切り拓けているかどうかは、就職率や就職実績にはあらわれないため、別の客観的データで表現するしかないと思うのです。でも、今のところまだ社会が共通して持っている指標はありません。指標がないなかで説得力のあることを語るには、エビデンスとともに語る必要があります。今回の調査結果を分析しながら伝えるというのは、まさにこの就職率や就職実績からは伝わらない卒業後の情報を、説得力をもって伝えるよき手法なように思いました。

入試広報をしていると、つい受験生が欲しい情報を、欲しいかたちで伝えようとしてしまいます。しかし、卒業後に関わる情報は、受験生に合わせるのではなく、社会のあり方に合わせて伝えるべきだと思います。大学が何を重視して、卒業後の情報を発信しているのか。それを受験生に感じてもらうことで、受験生は社会が求めているものや、大学の教育スタンスを知ることができます。単に就職率の高さを謳うより、よっぽど意味があるし、他大学との差別化もはかることができます。東京薬科大の卒業生調査レポートには、この考え方を深めるヒントがたくさんあるように感じました。

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