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黒澤明『羅生門』について

 ほとんどが登場人物の回想シーンで映画が進行していく。その各シーンでの、名優たちの鬼気迫る演技が凄まじい。

 一番好きな演技としては、最後の志村喬演じる人物の回想シーンで、三船敏郎と森雅之が決闘するシーンでの演技だ。CGだのワイヤーだのを使わず、効果音などで過剰に演出されることなく、ただひたすら生身の人間で体を張った生の決闘が凄まじい。なんか、名プレイヤー同士のジャズのインプロヴィゼーションみたいな緊張感があって凄まじい。

 昔観たはずなのだが、割と忘れてしまっていて、途中で4人の人物の供述をノートにメモしながら観た。多分そこまで詳細に理解していなくても、とにかく4人の話が食い違っていることがざっくりとでも理解できていればそこまで問題はないと思うが、これも脚本を書くうえで相当練り込んで作ったんやろなとか思ってしまった。

 テーマとしては、「人を信じるとはどういうことか」ということになるのだろうか?志村喬の「誰も彼も自分のことばかりだ!」とか、千秋実の「人が信じられなくなったらこの世は地獄だ!」というようなセリフが、そのことを感じさせた。最後のシーンで、捨て子を志村喬が引き取るシーンに救いを感じた。しかし、テーマに関する答えとして俺は「自分ばかりでなく、他人を思いやる心を持つ」ことかと一瞬思ったのだけど、それでは小学校の下手な道徳の授業のような安っぽさを感じる。そうではなく、この映画のように、人は自己都合で事実を解釈しがちであるし、そのような人間が多数派かもしれない、それでも人を信じるとはどういうことかということを、この『羅生門』は観るものに問うているのではないかと思う。

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