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葛西臨海水族園の整備案;新水族園設立までの経緯〜なぜ既存の水族園は使われなくなるのか

葛西臨海水族園とは

  • 1989年10月に開園し、今年で35年目となる水族館である

  • 東京湾岸地区整備事業の一環として上野動物園開園100周年を記念して計画された

  • 世界ではじめて外洋性の魚の群泳を実現したクロマグロの大水槽がある

  • 東京都建設局の所管だったが、2006年からは園全体の運営管理を東京動物園協会が指定管理者として受託している

  • 水族「園」と名付けられたのは、建物や水槽だけの水族“館”ではなく屋外施設や海辺というロケーションも含め公園全体での体験を提供したいとの想いから

建築情報

施主:東京都
設計:建築: 谷口建築設計研究所 / 構造: 木村俊彦構造設計事務所
施工:間組、東亜建設工業、古久根建設、中里建設JV
竣工:1993年

受賞歴:毎日芸術賞(1990)、建築業協会賞(BCS賞)(1991)、
公共建築賞(1994)

建築・ランドスケープの特徴

①建築へ向かうアプローチ
葛西臨海水族園は、駅から10分ほど歩いた場所にあります。
目玉はもちろん水族園ですが、駅からまっすぐと伸びる道の先には同じく谷口吉生設計のクリスタルビューがまず出迎えます。

すぐの場所にない、そして道中にも公園自体を散策して楽しむ工夫があることで、建物内にとどまらず楽しい時間を過ごすことができます。

出典:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000247.000011196.html

駅から伸びる一本道の先に立つ「クリスタルビュー」
クリスタルビューからの景色
30年経ってこんもりとした木々と遠くのディズニーランドが見えます


②入念に計画された建築と周辺環境との結びつき
訪れてみて驚いたのが、水族園の建物の全体はどこからも見えないということです。

葛西臨海水族園は、こちらのサイトによると東京都で最も大きく、また全国でも10番目の延床面積を誇るのですが、周辺環境との一体性が意識された結果、どこからも全体は見えないのです。

この水族園の設計のために谷口は世界中の水族館を見て回った

出典:Googlemap

③池の水面と東京湾の海面が連続して見えるような演出
葛西臨海水族園の入り口部分のドーム横は水が張られており、その水と奥に見える東京湾の海面が連続して見えるようになっています。
東京や千葉の街並みをランドスケープとして取り込んでいるのです。

葛西臨海水族園(仮称)整備等事業とは

概要

都は隣接する土地に最大約276億円をかけて別の建物を新築し、PFI-BTO(建設・移管・運営)方式で事業化することを想定している。報告書案によれば、7年後に新施設の完成、開園を目指す計画だ

リニューアルする理由として東京都が挙げているもの

東京都が挙げている理由は以下の4つです。(東京都の説明書では6個あるように書かれていますが内容の重複があるので実際は以下4つだと判断しました)

①展示水槽のアクリルパネルが劣化している

②バリアフリーでない部分がある

具体的には、来園者が使用できるエレベーターは職員も搬入等で使用する1基のみ

③過密な配管のため、樹木を撤去しなければろか器が交換できない

④飼育スペースの天井が低い

4つの理由の妥当性

① 展示水槽のアクリルパネルが劣化している
こちらは確かに交換の必要はありますが、アクリルパネルのみ交換すれば良いのであって、建物ごと新しくする必要はありません。

・アクリルパネル交換の事例がある
もちろん、大水槽の交換に際し、一部壁の取り壊しなどが必要になると考えられる場合もありますが、一旦水を抜いてトンネル水槽を交換しようとしている事例はあります。(例:琵琶湖博物館)

・同じく30年程度経つ水族館でも交換されておらずクリーニング等によって集客力に衰えがない事例がある
例:マリンワールド海の中道(1989年開業)

交換が必要なパネル数と交換費用の試算が必要なのではないでしょうか。これを理由にしてしまうのであれば、これからまた30年ごとに建物を建て替える必要が出てきてしまいます。
https://readyfor.jp/projects/biwahaku2023

② バリアフリーでない部分がある
確かにこちらは早急な対応の必要があるでしょう。エレベーターの増設、スロープの設置などは建て替える必要はなくとも、リノベーションはする必要があるでしょう。

③ 過密な配管のため、樹木を撤去しなければろか器が交換できない
こちらは言わずもがなですが、ろか器の交換のために撤去しなければならない樹木の本数の方が、リニューアル工事によって撤去もしくは移植(ダメージをいくらかは受けるでしょう)される本数よりも圧倒的に少ないはずです。

④ 飼育スペースの天井が低い
確かにこちらは飼育員の方の作業のしやすさに大きく関わりますので重大な問題でしょう。しかしながら、それほど重大ならばなぜ開館当初から問題にならなかったのかは疑問です。
一般的な飼育スペースの状況との比較、そしてなぜ天井が低いのか、天井が低いことによって生じている問題は何か、解決策は何が考えられるのか議論の必要があります。

以上、4つの理由のうち③は妥当ではなく、①②④については現状の問題点とその解決方法の洗い出し、建て替えとリノベーションのコスト比較が不十分であると考えます。

当該事業の提言〜決定までの経緯

🔸都の動き
🔹反対勢力の動き

🔸 2017年12月~2018年7月 葛西臨海水族園のあり方検討会(全5回)
…担うべき役割及びあるべき姿等について、有識者等による検討

🔹谷口建築設計研究所が改修の提案を行うが受け入れられず
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/na/18/00082/120500005/                                                                  🔸 2018年11月~12月 葛西臨海水族園の更新に向けた基本構想(素案)公表、意見募集

🔹 都が行ったパブリックコメントでは解体反対が89%を占めた

🔸 2019年1月 葛西臨海水族園の更新に向けた基本構想の公表

🔹 2019年2月 日本建築学会が都に要望書を提出
…竣工後 30年に満たない優れた建築物を、 建替えの可能性を含む検討の対象とすることは、持続可能な発展を目指す今日の社会が求める姿勢とは相容れないと述べた

🔸 2019年1月~2020年2月 葛西臨海水族園事業計画検討会(全5回)
…規模及び事業手法等について、有識者等による検討 

🔸 2019年12月~2020年1月 葛西臨海水族園の更新に向けた事業計画(素案)公表、意見募集
…反対の声が大きくなり、既存施設の解体ありきの方針から転換

🔸 2020年10月 西臨海水族園の更新に向けた事業計画の公表

🔸 2021年1月 PFI方式の民間業者の公募開始 

◽️ 2021年8月 テレビ東京「美の巨人」で葛西臨海水族園の放送
…建て替えに関しては一切触れないものの、この時期に葛西臨海水族園を取り上げたことで話題に。水族園の開園までの経緯や谷口吉生の水族園への思いをインタビューした。

🔸 2022年8月 落札者の決定

🔹 2022年11月 日本建築家協会メンバーの方が入札時の提出書類を都に開示請求したが、落札グループの案は全85ページのうち76ページがほぼ黒塗りだった

落札の経緯

  • 入札は2022年6月23日に都庁で行われ、2グループが参加し、①のグループが落札した

    • ①INOCHIグループ(NECキャピタルソリューション、大建設計、鹿島建設、安藤・間、乃村工藝社、新菱冷熱工業、日テレアックスオン、ハリマビステム)

      • 入札価格:431億円

    • ②TOKYO Aqua-Lifeグループ(五洋建設、西武建設、トータルメディア開発研究所、日本管財、東洋実業、日建設計)

      • 入札価格:422億円

  • 落札者は総合評価落札方式(加点審査700点、価格審査300点、計1000点)

  • INOCHIグループの得点は、それぞれ338.6点、293.4点、632.0点。TOKYO Aqua-Lifeグループは、268.0点、300.0点、568.0点だった

リニューアル案概要

2028年3月の開園を目指す
・本館は地上2階・地下1階建てで、延べ床面積は約2万4000m2
・環境負荷を軽減する最先端のシステムを備える
・水族園の屋上部分に太陽光パネルを設置
・既存の水族園のドームは壊さず何かしらの形で使用する予定(計画については未公開)

出典:

参考サイト

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