最近の記事

林檎の虫喰い穴-5

第一章 虫穴の行く世界 ニノ3 (夢)  目が覚めたとき目前は大きな背中だった。あの人いつも背筋が真っ直ぐで、おんぶしてくれたときでさえ真っ直ぐのままだった。あの人は腕部でこっちの両足を囲んで支えてくれた。それにも関わらず、落ちそうな不安があって居心地は良くなかった。降りたいと思う。けどこんな時は滅多にないから、そのままガンマンしていた。  「起きた?」あの人は気づいた。  「点滴5本も打って、熱は下げた。お前はそのまま寝ちゃたんだ。もうすぐうちに着く。そのまま寝てていい

    • 林檎の虫喰い穴-4

      第一章 虫穴が行く世界 ニノ2  着地した時初めて衝突音が聞こえた。それに至るまで少しの間があった。その間は長かったようで短かったようだった。空中を飛んでいた感覚はまだ残ってる。錯覚がどうかも、一瞬透き通った綺麗な星空が目前を過った気もした。着地する時空を仰向けてた。地面にぶつかる時の痛みも全くなかった。白息が空中で散りさって、そこから白い花が舞い降ってきた。ゆっくりと、長い時を経ったかのように、漸く彼女に触れた。  「雪だ…」十二月に雪が降った。  「迎えが来た…信じて

      • 林檎の虫喰い穴-2

        第一章 虫穴の行く世界 一ノ2  ……静まりな水面に彼女の頭が浮かび上がってきた。水面の中央に大きな木があった。ここは天井の空けてる巨大な洞窟の中だった。天井の穴から白く淡げな光が一筋、真っ直ぐと降り注いでいた。その光はとても柔らかく、優しく木を照らしていた。その木はとても喜んでいるかのようで、枝の上に白い花がいっぱい咲いてた。可愛い白玉蘭の花だった。なぜわかったのだと?水面から白玉蘭の香りが漂って彼女に伝わってきたからだ。風を感じていないのに、枝は勝手に揺れ始め、白い花

        • 夢-2

          第一話-2  そして、どこからおじさんが出て来た。その一家のご機嫌をとり、お迎えの言葉を唱えた。  「お待ちしておりました。はるばる遠い国からお越しいただき、何という光栄でございます。さあ、長い旅でお疲れになったでしょう。荷物は使用人がお部屋へ運びいたします。どうぞ御自分の家のようにくつろいでくださいませ。」  話が一旦終わって、おじさんは男性客の方に近づき小声でこう話した。  「例の件は、殿様とご家族が落ち着いてから、いつでもご案内ができますように手配を済んでおりました。

        林檎の虫喰い穴-5

          夢-1

          第一話-1  田舎のばあちゃん家にいる頃。  この日うちに珍しい客を迎えることになる。 イギリスにいるおじさんの知り合いで、白人一家っとしか私には情報が入って来なかった。とにかくビッグな方で、何一つ失礼なことをしてはならないとじじに言われた。  急なことなので、前日の夜から家中慌しくなった。じいちゃん、ばあちゃん、私あと使用人の何人かが別の家に引っ越することを始めた。今の家は客にゆっくりしてもらうため、空けておいたのである。一晩中忙しくて眠れなかった。私は何もしていないけど

          林檎の虫喰い穴-6

          三ノ1  闇の中、一つ小さな火の玉がポツっと現れた。火焔の中に人の姿をするものが一人、体を丸く縮こませている。まるで母のお腹に新生を待つ胎児のようにスヤスヤと眠ている。遠くから見ると、ここ一帯はこのような火の玉に覆われている。しかし、その中誰一人同じような色の火焔はいない。皆違う顔を持っている。  反対側の遠くから、異なった光方をする何物がゆらゆらと近づいてくる。壊れかけの電球みたい点滅している。近づくにつれ電球が大きくなり、光がついてないときと、ついているときに進んだ距離

          林檎の虫喰い穴-6

          林檎の虫喰い穴-3

          第一章 虫穴の行く世界 二ノ1  雨は激しく地面と衝突する。軋む車輪に雨水が混じり、ペタルを漕ぐ足が重くなってくる。肌を刺す寒風、顔面を強打する雨、加速する度痛みが増してくる。目に雨が染み込んで視界が曇る。行き来する車燈が異常なぐらい眩くなる。近づく車輌は地面にたまった雨水を猛烈に潰し怒りをぶつかってくる。恐怖と寒気が全身に染み渡って、心臓の震えが血流を痺れ一瞬一瞬で脳を刺激する。今は最高に興奮した状態に至る。彼女はもう止めることができない。   視界はゼロに近づき、進む

          林檎の虫喰い穴-3

          林檎の虫喰い穴-1

          第一章 虫穴の行く世界 一ノ1 「ここは?」  …...意識が朦朧と戻ってきた。ぼんやりした視覚が広げて目前は暗いままだった。無味、無声、けど、虚無でもなかった。彼女は微かに周囲の抵抗を感じとれてたが、何も掴めることはできなかった。彼女の体はこの混沌と闇の宇宙に漂っていた。  その時、彼女はようやく気づいた。首当たりに何かの力があって、彼女を一つの方向に引っ張っていた。きつく縛られもがく彼女、体は動けなかった。まるで頭だけが引っ張られて、首の下が空っぽ、手足の感覚もなかっ

          林檎の虫喰い穴-1