シャニマスの『OO-ct. ノー・カラット』を小説っぽくしたヤツ(1/4)
初めに
『アイドルマスターシャイニーカラーズ』(以下シャニマス)
それは25人の個性豊かなアイドルたちを育成するゲーム。独自の色と輝きを持つ少女たちが、アイドルの頂を目指すまでの道のりを、プロデューサーとして支えるゲーム。
そんなシャニマスのなかにはいくつものイベントシナリオが用意されているのだけど、とかくその出来がいい。本当にいい。昨日オモコロの方にこういう動画+記事が出るくらいにはクオリティが高い。
動画内でも触れられているように、シャニマスのシナリオは非常にリアルだ。ちょっと生々しいくらいの質感。実在性が高い。
そのなかでも今回扱われている【SHHis(シーズ)】は、設定からして『アイマス』という15年続くコンテンツのなかでもかなり類を見ない。
私はこの2人に焦点を当てた初めてのイベントシナリオ『OO-ct. ノー・カラット』がハチャメチャに大好きだ。
好きすぎて、友人に無理矢理読ませるため、文字媒体のみである程度完結するように小説仕立てにしたくらいである。
昨日オモコロの動画を見終わった後に自分の文章を読み返すと、やはりというべきか、所々に独自の解釈が混じっていた。明言されていない感情や心の機微をこちら側で補完していたりする。
それが結構──こういう解釈をするのか的な意味で──面白かったので、今回はnoteの方に全部書きだしていく。
元の物語からして結構長いので、小説としての文章量もそれなりにあります。何回かに分けて載せていきますので、そこんとこどうぞよろしくです。
オープニング『Ⅰ』
奈落。
ステージの下、客席のざわめきを一番感じる場所。
ここを上がったら、ひとりになる。
──七草にちかは、そう考える。
奈落。
見上げる場所、始める場所。
ここを上がった時のために、全てがある。
──緋田美琴は、そう考える。
弾む呼吸、滲む汗。
上がる舞台に、期待を重ねて。
鳴り出した音楽に、心音を重ねて。
一瞬フラッシュライトで白んだ視界が、彩り豊かなペンライトを捉えると同時に。
ひと時の舞台が、幕を開ける。
雑居ビルの立ち並ぶストリートを多くの人が忙しなく行きかう。大通りを過ぎ行く人の足並みは、何かに急かされるようだ。
「……」
そんななか、七草にちかは立ち止まっていた。見つめる先では、アマチュアの芸人志望が面白みのない掛け合いを披露している。
本当に、つまらない。
「はー、なんかベタだなー。個性ないし。500万回は見たことあるし」
「うわっ、しかもギャグに逃げるんだ……テクニックないですって感じだもんなー。めちゃめちゃ冴えないし」
つらつらと一人悪態をつく。見ていると何だかむかむかして、言葉にもつい棘が出ていた。
「……最悪」
ポロっとこぼれたのは、彼らの態度への苛立ちが限界を迎えたから。彼らは至らぬ所ばかりを残したまま、逃げるように昼食の予定を立てはじめていた。
「こんなタイミングでご飯休憩?絶っ対そのまま帰ってゲームして寝る」
その姿を想像しただけで、やはり心が波立った。ざわざわはむかむかに。怒りとは似て非なる感情が、抑えきれずに溢れている。
──そういうの、最悪だと思う。
ツルんでいるのがコンビだと思っていたり、お互いに緊張感なくダベッていたり、食べることとか休憩とかにダラダラ時間を使っていたり。
そういうことを重ねて……結局何も仕上がらない、完成しない。
仲良しこよしで中途半端なのは、最悪だと思う。
けれど、それなら自分はどうなのだろう。
自分と美琴さんと──シーズの関係性は、どうなのだろう。
仲は悪くない。一緒にレッスンするし、喧嘩だってしていないし。
……一緒にご飯を食べたりなんてしないし、いつも会うと緊張してばかりだし。
そう、言うなればストイック。
だからきっと、私たちは正しい。
七草にちかは、差し当たってそう思うことにした。思い込むことにした。
見つめる先では、冴えないお笑い芸人モドキが歩きながらぎゃははと笑い合っていた。理想ばかりを語り合って、面白みなんて一つもない。
「……売れるな、ばーか」
気づけば、そう呟いていた。そして同時に、あの日言われた言葉を思い出す。
「にちかは、幸せになるんだ」
WINGで優勝した日、今の時間を勝ち取った日、Pさんに言ってもらった言葉。
真摯な祈りは不釣り合いで、ほんの少し胸に痛い。
「絶対売れるな。幸せにもなるな」
「ばーか」
そう呟いて、七草にちかは大通りを歩き始めた。
第1話『Ⅱ』
「さあさあ、今日は実力派アイドルユニットとして注目を集める、この2人に来てもらっていますよー。七草さん、緋田さーん」
「こんにちはー」
「こんにちは」
番組アナウンサーの妙にハキハキとした紹介に、にちかと美琴は挨拶を返す。
今日出ているのはお昼の情報番組……言ってしまえば、ゴシップ交じりのワイドショー。
最近、こういうのばかりだ。Pさんと美琴さんが快諾している以上、新人のにちかに言えることはない。これもプロモーションの一環であるのは事実だし、納得もできる。
「──いえっ、確かに大変ですけど……ずっと憧れてたお仕事なので、毎日凄く充実してます!」
だからきっと、もう何十回と繰り返したこの応答も納得してやるべき仕事だ。
新人アイドルの回答をネタにしてベテラン司会者が中堅女子アナをいじる流れに、あははと笑みを浮かべるのも、納得してやるべき仕事に違いない。
歌うことも踊ることもないけれど、納得してやるべきお仕事だ。
そう思っていると、司会者が美琴さんに話を振った。
「緋田さんはどうなのかな、仕事?一気に知名度あがったよねー」
「……すごく光栄に思っています。これから先、良いステージをお見せできるように準備しているので、期待していてください」
「おお……流石実力派ユニットですよ。なんだかスポーツ選手みたいだ」
確かに、その答えは凄く堂々としていた。自分のパフォーマンスに確固とした自信を持っているようにも見える。
──【実力派ユニット】
その言葉が、ザラつきとともににちかの胸を撫でた。
美琴さんはきっと、こんな情報番組なんて全然何とも思っていない。
でも、気は抜かない。
彼女は舞台を見ているから。どんな仕事だって、その先には舞台とレッスン場が映っているから。
初めのころから変わらず、彼女はずっとそうだった。
だからにちかもまた、冷静でいなければならない。
どんな番組でも、ダサいこと言って絶っっ対足引っ張れない。
──【実力派ユニット】
それは紛れもなく美琴さんのユニットなんだから。
夢も理想も希望も、つっかえつっかえ、どもりながら語るべきじゃない。
「ええと……」なんて言うのは、頭のなかだけで充分。
答えはいつだって側にあるんだから、迷わず堂々としていればいい。
「私はまだまだ駆け出しで、先輩には及ばないんですけど……パフォーマンスを磨いて、どんな時でも良いステージを作れるように頑張ります」
ほら、見たか。
真面目で、満点の、ありふれた回答。
ベタベタに手垢塗れで、500万回は見たことありそうだ。
──【実力派ユニット】
歌と踊りと……それだけが武器。
それ以外の魅力は、これといって見当たらない。
誰かをなぞる七草にちかの輝きは、今日も今日とてくすんでいた。
第2話『Ⅲ』
「……うん、そう。今はレッスン室に向かっているところ。そうだね、そのくらいには着くと思う……了解」
ショッピングモールのなか、緋田美琴は歩きながら電話に声を返す。
「今日はひとり?……ああ、ふたりで予約入ってるんだ。うん、よろしくね」
Pとの電話を打ち切り、出口を探して歩を進める。
そんな折聞こえたピアノの音色。美しく、鮮やかな、流れるような旋律。
けれど、そこには誰もいない。無人のまま鍵が弾かれ続ける。
人が奏でたような機械の音楽、すなわち自動演奏。
完璧で狂いのないその響きは、一体どれだけの人の心を掴めるのだろう。
「──メンデルスゾーン……ふふ、上手ね」
作曲者の名前と感想を呟いて、美琴は事務所に向けて歩き始めた。
「あーあーあーあーあー」
にちかはひとり、レッスン室で発声練習をしていた。声出しをしていると、ドアがガチャリと音を立てる。
「あーあー……あっ、美琴さん。お疲れ様です」
「お疲れ様……早いね」
「はい、少しでもレッスンしておこうかなって……あっ、ピアノ使ってください。私はストレッチやりますから」
「そうなんだ……でも、私も先にストレッチするね」
「あっ、はい。そうですか!」
そうしてふたり、深呼吸とストレッチを行なう。……別に協力して何かをするわけではないけど。
再び、ガチャリとノブを捻る音。現れたのは、今度はPさんだ。
「お疲れ、ふたりとも。急に悪いな」
「お疲れ様……どうしたの?」
「ああ、少し嬉しい話が決まったんだ。それをすぐに報告したくて」
「……?」
美琴さんとともに疑問符を浮かべる。
嬉しい話?今度出演する音楽フェスに関係することだろうか?
「まぁ、座ってくれ。実はな……」
そうPさんが切り出したのは、確かにスケールの大きな話だった、と。
──七草にちかは、大勢の人が集結したレッスン室を見て思った。
「──実はな、バックダンサーがつくことになったんだ、次のフェスで!」
……そう、バックダンサーさん。ふたりだけのデュオユニットの後ろで、ステージを豪華にしてくれる存在。かつて美琴さんと共演したことのあるダンサーもいるというのだから、本当にありがたい話だ。
彼女は断る理由なんてないと言っていた。当然Pさんも。
だから、私も……。
「おお、にちかも問題ないのか?」
「……っ、問題ないですよ……全然!」
そんなやりとりがあって今に至る。いつも自分が練習している場所なのに、アウェーのように居心地が悪い。
「──この前の現場、めっちゃきつくってー!」
「あー、ドームだっけ!やばかったって噂は聞いたよー?」
ダンサーの方々の会話に混じることも出来ず、きょろきょろ周りを見渡してしまった。美琴さんはダンサーチームのリーダー格と打ち合わせ中だ。あの人が、元々美琴さんの知り合いだったという人らしい。
打ち合わせになんて、にちかは全然ついていけない。第一、専門的な用語を交えて話し合ったことさえない。
「緋田さんって、アップの指示も的確だよねー。ここの現場はすっごいやりやすそう」
「わかるー。ダンスを理解してるタレントさんって最高だよねー」
どうやら美琴さんは、専業のダンサーたちからも一目置かれているらしい。
──あまりにも、遠い存在。
「…………水、飲もう」
そう呟いて、にちかはひとり部屋を出た。
「……うわー、やっばー!こんなんでテレビ出ちゃうとかほんと終わってるよねー!」
アパートの一室、七草家。
にちかはテレビを見ながら、これ見よがしに声を上げた。
「ん~そう……?」
姉のはづきが穏やかに返すと、
「めっちゃめちゃ最悪じゃん、このユニット!盆踊りじゃない?日本人って根本的にダンスがダメなのかなー」
と、偉ぶって言ってみる。
「でも、可愛いもんねー。メンバー超仲いいし!そういうのみんな好きだもんなー!」
誰に向けてか、煽るように。或いは非難するように。
これ見よがしに、言ってみる。
はづきは何も言わない。けれど無言でチャンネルを変えてしまう。
「あっ、ちょっとお姉ちゃん……勝手に変えないでよ……!」
「……んー?嫌なんじゃないの~?」
「イヤって言うか……こんなレベルでいいんだー、みたいな……!」
不貞腐れたように、吐き捨てて。
「あーあ、現場大変なんだろうなぁー……!」
また、物知り顔で、分かったふうに、言ってみる。
──そこから続けた言葉が、決定的に良くなかった。
「あははっ、お姉ちゃんにはわかんないかー!こういうの好きな人たちには、ちょっと難しいかもねー。私たちの求めてるレベルって!」
おどけたように明るく言ってみたって無意味だ。
それが誰に見せつけるでもない虚勢だと、にちか本人だけは知っている。
だから、家を出たときには限界だった。
「……っ」
感情のまま駆けだして河川敷を目指す。一人でも夜遅くまでダンスのレッスンが出来る場所は、そこくらいしか知らない。
溢れていたのは、羞恥心と自己嫌悪だった。
──『求めてるレベル』だなんて……誰がどのツラ下げて言っているのだろう。特大ブーメランもいいところだ。
ダンサーさんのレベルは高い。ドームで踊ったこともあるそうだ。Pさんもいいダンサーが集まっていると言っていたのだから、間違いない。
美琴さんのレベルは高い。プロのダンサーさんたちにさえ評価され、対等以上に話し合っている。彼女の動きの質なんて、今さら語るべくもない。
『私たちの求めてるレベル』【実力派ユニット】
「高いのは、美琴さんと、ダンサーさんのレベル…………!」
そんなこと、とうに分かりきっていた。
あまりにも不均衡で、不釣り合いなんだって。
「やばい……」声が漏れる。
「やばい……」言葉がこぼれる。
「いいかげん終わるから……」その先だけは、口にしたくなかった。
──こんな、ラッキーな時間。
(続く)
シャニマスやれ!!
一旦ここで終わります。続きが気になる人は、よろしければ先に『シャニマス』のゲームの方をダウンロードしてください。
当たり前ですが、ゲーム本編では情報量が段違いです。キャラの表情、声優さんの演技、音楽、スクリプトなど、めっちゃイイ。本当にめっちゃイイから。私のへたっぴな文章なんかより遥かに面白いから。
今ならログインするだけで、全てのイベントシナリオが無料で開放できるアイテムが手に入るし、無料10連ガチャキャンペーンもやってます。これから4周年を迎えることもあって、まさに「始めるならイマ‼」というタイミングなんです、本当に。
だから「ちょっと面白いじゃん」って思ってくれた人は今すぐシャニマスをダウンロードしよう。しろ。
続きは投稿するけど、みんな先に本編をプレイするんだぞ。本編プレイした人が「へぇー、コイツはこういう解釈をしたんだ……面白いじゃん」って思うために読みに来てくれ。
じゃあ一旦終わります。
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