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シャチと国後島、黒いリュック⑤

翌日は、1人でクルーズ船に乗った。
同じ場所なのに、昨日とは違う景色。
心なしか、昨日の方が明るかった気がした。

今日もシャチに会えた。
でも、少しだけ他のことも考えていた。
もったいない。
あんなにずっとずっと会いたかったシャチ達が、目の前に2度も現れてくれているのに!

シャチの家族を、船から写真を撮る人間の家族・・・。

イシイルカもいた。
シャチに会ってしまった人間にとって、いくら水族館では飼育されていない珍しい種でも、なんだか小さな存在に見えてしまった。

下船後は、純の番屋で1人ランチ。
お一人様の外国人の女性がいて、達人のように思えた。
その人がビールを注文した。
私は運転があるからやめた。

その日は宿でゆっくり過ごした。
彼に、イシイルカが見れたとLINEした。
星空の話しもした。
せっかく北海道にきたのに、連日曇りで星がよく見えなかった。
昔撮ったらしい天の川の写真を送ってくれた。
初めて見る、絵本以外のそれだった。
天の川を7月7日限定でしか見られないものだと思っていた私。
「多分12時過ぎればもう見れるような気がするんですけど・・・。感覚で言ってるんで間違ってたらすみません」
と教えてくれた。
「なーんだ、織姫も彦星も会おうと思えばいつでも会えるんじゃんか」
と、羅臼の曇った夜空を眺めながら独り言ちた。

最終日。
羅臼神社に行った。
彼が昨日行ったと教えてくれた。
かわいらしいシャチのお守りをお土産用に数個、御朱印もいただいた。

野付半島を一人ドライブし、空港に着いた。
持ってきていた『SAVE THE CATの法則』を読みながら時間を潰した。
時折LINEに目を通しながら。
どこまでも続く自己紹介が歯がゆかった。

私が家路に着いた頃に、彼の飛行機が着陸したようだった。
「ただいま」
一足先に、玄関を開ける。

「お母さーん。明日のプールの準備手伝って」

現実世界へようこそ!

おわり


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