見出し画像

北温泉と那須湯本

北温泉。栃木県那須郡那須町の山間にある渋さたっぷりの温泉旅館。
映画「テルマエロマエ」で上戸彩さん演ずる山越真実の実家として登場した温泉宿。
タイトル画像は昭和40年代に同旅館で販売されていた絵葉書で、宿の前にある温泉プールの写真(天地トリミング)。着色写真のようだ。

昭和40年代半ば、当時まだ子供だった私は家族旅行でこの宿を訪れた。
タイトル画像の絵葉書を買ったのだが、写真内容が寂しいので、別の絵葉書を一枚もらった。
それが下の絵葉書。

北温泉絵葉書

地元の子供たちなのか、どこからか林間学校で来た子供たちなのか、にぎやかな風景だ。

北温泉へは、三浦から父親がライトバンを運転して延々と下道を走り続けて行った。当時高速といえば首都高速くらいしかなく、それもなれないからと乗ることはなく下道を走って東京を通過した。

私の当時の記憶は、出がけにカメラを忘れ、戻るか戻らないかを悩んだ結果、戻らず、写真は絵ハガキでいいということになったこと。
殺風景なプール写真の絵葉書では申し訳ないと宿の人が別の絵葉書をくれたこと。
結局、北温泉でご飯を食べた記憶もなければ、お風呂に入った記憶もない。
当然ご飯は食べてるだろうが、風呂はめんどくさいからいいとか言って入らなかった可能性はある。
今でこそ温泉ファンだが、子供の頃は温泉に興味はない。
温泉に入った最古の記憶は、高校生くらいの時、やはり家族旅行で長野県茅野市にあった八岳(はちがく)鉱泉の風呂に入った記憶だけはかすかにある。

八岳鉱泉のマッチ

話がそれた。(笑)

帰り際に北温泉の入り口近くでバスを待っていた老婆と孫娘を見かけ、父が那須湯本までだったか、黒磯までだったか忘れたが車に乗せて送ってあげたことは記憶している。
茶臼岳にも登ったはずだがその記憶もない。

北温泉絵葉書 1970年前後に販売されていたもの

その後30年余り。
2001年に友人らと北温泉を再訪した。

2001年10月下旬ころの北温泉

上記の写真と絵葉書を見比べると建物の色が変わっていたり増築されているのがわかる。
その時の記憶はかなりあるが、とにかく渋い宿だったという印象が強い。
大きな天狗の面のある天狗の湯、その奥にあった寝湯。など、5種類くらいの湯船につかった。
朝方には温泉プールにも入ったが、そのわきを服を着た人が散策していたので、何となく恥ずかしい気持ちになった。
やはりプールは水着でないと入りづらい(笑)

その後、漫画家のつげ義春さんが水木しげるさんとこの宿を訪問していることをつげさんの著作で知った。
昭和40年代のことだ。
つげさんといえば渋い温泉宿を舞台にした作品も描き、ご本人も鉱泉宿温泉宿など渋い宿がお好きのようであった。
その著作には、私が家族と共に北温泉に宿泊した一週間前につげさんらが宿泊していたことが書かれていた。
一週間ずれていれば、つげさんにも水木さんにもお会いできたのだった。
だが、子供の私にはつげさんは名前も顔も知らないし、水木さんは(ゲゲゲの鬼太郎で知られていたので)名前は知っているけど顔はわからないので、同じ日に宿泊しても、ただのおじさんでしかなかったんだろうなと思った(笑)

北温泉から湯元の温泉街に下り、温泉街すぐ手前にあるのが殺生石
硫化水素などが噴き出し周囲は植物が生えない。
その中に注連縄のかけられた大きな殺生石があり、昨年、ひびが入り割れてしまったと言う。
殺生石には、玉藻の前という美女に化けた九尾の狐が悪行を働いた末に退治され、石になり毒を吐き続けているという伝説がある。
毒と言われるのが、硫化水素などの火山性のガスであろう。
九尾の狐を退治したのが、今年の大河ドラマでおなじみの、上総介広常、千葉介常胤、三浦介義明らであった。
ドラマでは三浦介は話の上でしか出てこなかったのが個人的には不満であったが(笑)

殺生石の周りは草木が生えていない

殺生石から少し下ったところにあるのが、那須のシンボルとでも言うべき共同浴場鹿の湯
大人になってからは、那須湯本まではたびたび訪問している。
鹿の湯の熱湯風呂とでもいう48度の湯船もわずか10秒ではあるが挑戦したのが思い出深い(笑)。
高温の湯に入るコツは、極力湯を動かさないこと。他人と同じ湯船につかる際は、同時に入り、同時に出ないと怒られる(笑)
湯が動くと熱さが倍増する感じになるからだ。
ちなみに湯船の温度は6段階で41度のぬるめの湯船もある。

鹿の湯入口
鹿の湯を裏側(殺生石側)から見た風景

酸性の硫黄泉である鹿の湯に対し、弱アルカリ性硫黄泉の老松温泉喜楽旅館
鹿の湯から温泉街をくだり、途中からわき道に入り川を渡ったところにあるが、それは裏側の入り口で、そこから入ると宿が朽ちているのでビビる(笑)
ということで昨今、ボロ宿としてテレビなどで紹介され有名になってしまったが、それまでは知る人ぞ知る温泉宿だった。(2019年末頃に閉館)
それでも昭和40年代の旅行ガイドブック(アルパインガイド/山と渓谷社)には、短い文章ながらもしっかりと紹介されていた。
客室もあったし、仕出しによって提供される食事はうまいと言う話もあったが、ほとんどは日帰りのお客。

老松温泉 向かいにある受付とこの建物は地下道で結ばれている
(訪問時には通れないようだったが)
老松温泉湯船

那須の温泉街にはこのほかにも共同浴場が何軒かあるが、地元民と宿泊客専用だ。

地元民、宿泊者専用の河原の湯
河原の湯 湯船
地元民、宿泊者専用の滝の湯
滝の湯 湯船

温泉街の宿では立ち寄り湯も営業しているが、お気に入りは雲海閣。ドラマ「日本ボ○宿紀行」(深川麻衣主演)にも登場した本当にしぶ~い宿だ。
このドラマ、続編が見たいが、タイトルがあれだけに、撮影を許可してくれる宿もあまりなさそうだ。

ドラマにも登場した雲海閣 渋くて好きな宿

最後に、この地にかつて住んでいた人の話。
「温泉は体にいいとは言うけどね、自分らは毎日にのように共同浴場に通っていたけど、病気する時は病気するしね、温泉に入ったからってみんながみんな健康で丈夫な体にはなるとは限らないんだよ」と。
温泉は、身体によい影響を与えるのか?
基本的にはよい影響を与えそうだが、そうでない場合もありそうだ。
とくに、病気になった人が誤った入浴方法で入浴すれば、病気は悪化するし、特に那須温泉のように強酸性で成分が濃い温泉は要注意だろう。

そういえば、那須にはかつて有名人がいた。
医師だった見川泰山さんは見川鯛山の名で「本日も休診」などを執筆し、作家としても活躍していた那須の名物先生だった。

十数回通った那須温泉だが、もう10年以上訪問していない。
そろそろ、白濁の湯につかりたくなった。

※掲載の写真は、2000年から2005年の間に撮影したもの