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まちづくりにファイナンスを活かす⑧~勢いでまちづくり会社をつくってみた!~

気づいたら4月になっていました。毎週一回は更新するつもりが、毎月一回になってしまっている現状があり、今年度は心を入れ替えてアウトプットに励んでいこうと思っている渡邉です。

さて、私は不動産とファイナンスのアドバイザリーを担う合同会社アーバンギークス(和訳すると都市おたく、、、ですね)の代表を務める傍ら、福山市鞆の浦でまちづくりを担う鞆まちづくり会社の代表もしています。今はやりの多拠点居住、、、までは行けてませんが、(コロナ前は)大体月二回程度鞆の浦に滞在していました。今回は、その謎多き「鞆まちづくり会社」についてお話ができたらと思います。

合同会社鞆まちづくり会社って?

合同会社鞆まちづくり会社は2018年9月に私、鞆の浦生まれ・育ちの若手、そして私の大学時代の恩師の3名を出資者として生まれた純粋民間会社です。よく誤解されるのですが行政による補助金はこれまで一円も入っていませんし、出資も受けていません。会社の設立目的は、鞆の浦の希少な古民家群を”収益不動産として再生・運用”し、永続的に自助努力で資金が循環するような仕組みをつくっていくこと、です。これは、わたしが不動産ファンド時代に感じていた”マーケットベースでの不動産再生”を実現化させようとしたものです。そんな志だけは高く、でもお金はない、、、そんな感じで鞆まちづくり会社はスタートしました。

古民家再生はお金がかかる、ぞよ??

収益源がない鞆まちづくり会社、そんなわけでまずは手ごろな古民家を借りる・買うかして、収益源をつくらないとというごく当たり前な現実に直面しました。が、そこは本当にありがたいことに、当方が学生時代からずーっとお世話になっているNPO代表の方が、「あなたに改修した古民家を運営委託しても良いよ」とおっしゃってくださいました。もともと、ご自身で宿泊施設にしようとしていたところ、まちづくり会社に運営委託してもよいとのこと。正直なところ、ほとんど贈与みたいな条件でしたが、、、ご厚意に甘える形で物件をお借りし、宿泊施設としての運営をスタートすることにしました。

とはいえ、自分で再生物件をつくらなければ一人前とは言えません。改修した古民家(のちに「そわか楼」と名付けられました)の宿泊施設運営の準備を進めつつ、同時並行で新たな改修物件の探索に乗り出すことになりました。

鞆の浦は、江戸時代中期からの町並みが現在も残っている、瀬戸内でも非常に希少性の高いまちです。多くの町家は個人の方が現在も所有されていますが、高齢化も進んでおりなかなか改修も進んでいません。鞆町の一部は文化庁の重要伝統的建造物群保存地区に指定されており、構造補強には一定の補助が行われていますが、予算額に対して改修を必要とする町家が多すぎてなかなか追いついていないのが実情です。広島県による「鞆一口町方衆」という寄付型のクラウドファンディング事業も行われており、幅広く資金を集めているというのが現実ではあります。

まぁ、そんな状況なので「古民家を宿泊施設に」といったお話をすると、「じゃあ、うちの建物も見ていってくれ」というご要望、多く頂くことがありました。ただ見てみると、、、、、、素人目にも建物が傾いていたり、屋根の雨漏りがかなり進んでいたりと、宿泊施設まで持っていくにはどれだけお金がかかるんだろう、という物件ばかりでした。夜、見させて頂いた物件を基に事業プランを弾くわけですが「むむむ、どうやっても数字が合わない・・・」というジレンマに苛まれました。補助金には頼れないし、頼りたくないけど、目の前の数字は自主財源だけでは採算ベースに乗らない、という現実を突き付けてくるのです。。。

まずは小さくいこう♪

そんなことを繰り返して約半年、一つの結論に到達しました。

資金力も実績もプライドもない弊社の一号物件、それは「小さくとも事業的に成立する物件にしよう。」という(今思えば)当たり前の帰結でした。鞆の浦では、一泊素泊まり8000円/人程度のこじんまりとした宿が不足していることは分かっていました。周りは大型旅館が中心、これらは一泊二食かつ複数名の予約が前提、であれば”その逆”を行くような顧客であれば、ある程度需要の獲得ができるかもしれない、と思ったのです。

それは一泊一棟で20,000円程度、かつ年間稼働率は30-40%程度で十分元本償還まで回るもの。そんな事業計画をもとに上限となるコストをはじき出したところ、10年での投資回収コストをひっくるめて改修コストは6百万、什器備品や諸々含めてトータル8百万円が損益分岐点というものでした。(一応不動産ファンド出身のはしくれ、、、なのでこのあたりのシミュレーションは何度も計算しました。。。)

そんな物件あるのかな??と探していたところ、これがあったのです。つくづくこういったところは運だなぁと思うのですが、鞆の浦を気に入ってくれているとある高名な経済アナリストの方が所有する物件、こちらの借主が退去するという話が聞こえてきました。規模は約70㎡とこじんまりしていて、基本的な改修が終わっていること、何より海が見えることが魅力的でした。速攻で賃貸借契約を締結させて頂き、改修工事に入ることになりました。

古民家改修、難しいけど楽しい!

そんなところで改修工事に入りました。工事会社さんは、飛騨高山で古民家再生を経験された方、とても経験値が高く安心してお任せできる方でした。そんな方に対して(今思うと大変失礼でしかなかった…のですが)、”改修コストは600万円しかありません。そのなかでできることをご提案ください”とのたまっていました。工事会社さん、そこで気を悪くすることもなく、むしろ限られた予算で何ができるか、本当に考えて工事をしてくださいました。この工事では、”建物が傾いている”、”地盤もだいぶ悪くなっている”、新しくベランダをつくらないといけない、など無茶な要望ばかり出たのですが、その度に「ここはコスト掛けずにそのままで活かしましょう」、「この基礎だけは補強しますね」といったご提案を頂き、なんとか竣工にこぎつけることができました。

できただけではお客さんは来ない!

実は、竣工前後において一つ問題が上がっていました。宿泊施設の名前を何にするか?です。この建物、もともとは所有者さまの名前を借りて「M庵」と呼ばれていました。ただ、そのまま一般化するわけにもいきません。他方、何か施設としての明確なコンセプトがないとお客さんが来ない、そういったジレンマもありました。予算が足りずお風呂はシャワーブースになったという負い目もあります。悩んだうえでできたのが、「鞆猫庵」です。

実は、この建物の近くは、鞆の浦でも有数の猫スポットです。ベランダ挟んだ向かいには猫の保護シェルターがあり、近くの通路は猫の通り道となっていて、いろんな猫が日なたぼっこしています。なので、”猫嫌いの人からはクレームになるよなぁ、絶対”という立地なのですが、そこを逆手にとって敢えて猫好きが集まる場所として、「ともねこあん」という名前にしたのです。

そして鞆猫庵は”ともにゃーん”になった

そうして竣工した”ともねこあん”、宿泊事業を営むには旅館業に基づく申請が必要です。私たちは早速、福山市の保健所に往訪しました。そこで、申請書面を見た若い女性が「施設名は、えーっと、ともにゃーんってお読みするんですかね??」とおっしゃいました。「は、ともにゃーん、とな???」しかし、そうきたか!と思いました。

結局、その方の一言で施設名は「ともねこあん」から「ともにゃーん」となり現在に至っています。猫を全面押しした施設として開業し、猫好きの方々を中心に多くの方に泊まっていただけるようになりました。

鞆まちづくり会社のこれから

なんか結果オーライで回っている会社みたいに思われてしまいそうですが、鞆の浦の古民家再生にかける思いは真摯であると自画自賛している鞆まちづくり会社、これからも収益をきちんと得ながら、その収益をまちへ還元していく媒体でありたいと思っています。

コロナ禍において、古民家再生の主眼となっていたインバウンド向け宿泊事業という潮流も大きく変わってくると思っています。僕らも、その先にある地域ビジネスのあり方を見据えながら、新しい古民家再生ビジネスのかたちを、ここ鞆の浦でつくり上げていきたいと考えています。

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