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まちづくりにファイナンスを活かす⑤~インド、バンガロールで思ったこと~

Facebookというのは便利なもので、昔の自分が何をやっていたのか?当の本人よりも忠実に記録し、そして思い出させてくれるという(ある意味ありがた迷惑な)機能があります。2016年の2月、私はひょんなことから人生初の海外出張をインド、バンガロールで迎えました。まぁ、かなり今更感満載ですが、その当時のことを(業務上守秘義務に抵触しない範囲・・・で)何となく書いてみたいと思います。

突然始まったインド出張

その出張は、突然決まりました。前々から海外プロジェクトに興味あり、慣れない英語mtgに参加していたりしたのですが、社長からの「お前も一度サイトを見に行ってみたほうが良いよ。そうすると雰囲気分かるから。」という雑談ベースの会話が、どうやら本気だったらしく、気づいたらインド共和国のビジネスビザを作成することになり、でも日本での日常的なアセットマネジメント業務はそのままということで、業務を両立しながらなんとかインドに出張することになったのでした。

行先は、インド共和国バンガロール。今でこそ日本から直行便が飛んでいますが、当時(5年前)はシンガポール経由が主流。日本でのルーティン業務の合間で行くことになっていましたので、羽田発深夜便でシンガポールに飛び、早朝にシンガポール着、そのままバンガロール行に乗り継ぐという強行軍での出発。しかもバンガロールでは何かの見本市が行われているらしく、帰りの便は空席待ち状態という「初めての海外出張にしちゃハードル高すぎじゃないか?」という状態でした。

バンガロールってどんな町?

ちなみにいくつかのおさらいというか、自分の記憶をたどりながらですが、当時(5年前)でも海外の不動産ファンドが既にインドバンガロールに進出しており、ITパークと呼ばれる巨大なIT企業のサポート集積拠点の開発に対して投資していたりしました。バンガロールは、インドのIT企業が集積する近代都市でして、中心部は”ザ・オールドインド”のたたずまいなのですが、その外縁部にはマイクロソフトやインテルなどの巨大IT企業のサポート機能が集積しており、優秀なインド人が集まってくるエリアです。
これら中流階級(注:インドの中流階級は、日本の中流階級よりもずっと人口比で少ないですが)向けに大規模なマンションが次々と開発されており、僕らのミッションはこれら住宅地開発に対する投資が可能か、どういった有望な開発があるか、それを肌で感じてくるといったものでした。

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そしてバンガロールのサイト。こんな感じで現地に案内所兼モデルハウスがあります。パースはとてもきれい。サイトにはまだ何もないけど。

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そして案内所にはすでに売れた部屋に「SOLD」を掲げていく看板も。なんか昔の日本の公団住宅の販売を見ている感じですね。それにしても、まだ基礎工事の段階なのに、この戸数が全て「SOLD」していることに驚きを感じざるをえません。実は、これにはインド独特のマンション販売からくりがあるのです。

インド独特のマンション販売の仕掛け

インドでは、基本的にマンションは完成前、もっと言うと計画段階で販売開始するのが一般的です。で、日本だと完成在庫が余ってくると「いま、この部屋だったらお安くできますよ(コソリ)。。」みたいな会話があるとかないとか聞きますが、インドの場合は真逆。

つまり、完成が近づくほど価格は劇的に上がっていき、完成後は当初の1.5倍近くになっていることも。つまり、良いマンション計画であれば、先買いしたほうが得な仕組みになっているのです。ここからは類推ですが、インドのディベロッパー、このあたりで得た資金で開発資金を回しているんじゃないかなと思います。というのも、インドは住宅ローン金利含めて調達コストが非常に高いため、できるだけ現金を早く回収しておく必要があるのです。そして、その調達金利の高さこそが外資マネーを誘引する一つの理由だったりします。

仕組みとしては単純です。インドは(当時_5年前)中央銀行による貸出金利が5%を超えていました。ですので、ディベロッパーとしては高い金利で資金調達をし、短期で開発資金を調達するモデルに頼らざるを得なくなります。ゼネコンに資金を払うタイミングと居室の売却によって売り上げを得るタイミング、これをできるだけ短縮しないと金利を払い続けることになってしまいます。そこで、開発段階でのディスカウント販売という仕組みができたんだと思います。

他方、これは購入者側にとってもメリットがあります。バンガロールの標準的な世帯にとってもマンションは非常に高額な商品です。かつ、住宅ローン金利も高いので、多くの家庭は”できるだけ早く”ローン返済に走る傾向にあるようです。共働きの場合、世帯収入の半分弱までローン返済に回し、10年で返済するような商品設計になっているとも聞きました。それでも、マンション購入に走るのは、それだけ住宅価格が高騰し、早晩購入できないレベルになると思われていたからかもしれません。少しでも安いマンションを購入するため、みんな必死なのです。

当時のインドでは、不動産開発に対する外資参入は歓迎される一方、収益案件を外資系が取得することは許容されていませんでした。これは、開発リスクのある案件に対して、外部資金にリスクを取らせる一方、海外不動産に対して割安なインド不動産を外資の投機マーケットから保護するという姿勢があったのだと思います。また、外資参入の仕組みがとても複雑、しかもルールがしょっちゅう変わるという、参入障壁が高かった記憶があります。ただ、上記のようなマーケットなので、開発期間中でも資金回収ができるという点からみれば、非常に資金効率の良いファンドになりそうだ、という読みもありました。

そして三井不動産もバンガロールにやってきた

まぁ、そんなマーケットなので2020年1月のニュースリリース。気づいたらそこに三井不動産。流石ですね。日系企業ですと2018年に住友商事がデリー郊外の高級住宅街、グルガオン地区でマンション開発をしていますが(現地企業との合弁)、バンガロールは三井不動産が先を越していきましたね。

バンガロールの都市設計、衛星都市と近隣住区論がベース?

ちなみにバンガロールはデカン高原の上、標高900mほどにあり、インドの軽井沢みたいな町で、インドのなかでは非常に過ごしやすい街です。旧宗主国であるイギリスの影響を受けているのか、ディベロッパーはバンガロールにおける衛星都市的な位置づけとして、自分たちのサイトの都市設計を考えているのがとても印象的でした。いまの日本のマンション開発と比べると、非常にコモンの位置づけを重視した開発をしており、エリアマネジメントの考え方を空間に反映させようという意欲的な設計になっていた記憶があります。

優れたレベルの学校をまず誘致して、そこを中心とした居住者コミュニティをつくりたいという発言もありましたが、近隣住区理論をまさに具現化しようとしているんだな、と非常にワクワクしたのを覚えています。

そして女性管理職の多いインドベンチャーディベロッパー

また、ディベロッパーに勤務する女性(総合職)がとても多く、プロジェクトを仕切っているのも印象的でした。日本だと、インド人は男尊女卑的なイメージを持たれがちですが、少なくともバンガロールのような都市圏では、そういったことは全くなさそうです。これまた意外(と言ったらインドの人に怒られますが…)夜遅くまで、皆さんがっつり働いていました。それだけ、自分たちの職務によって明日のまちづくりが進んでいくという、強い期待感があるからなのかなとも思います。

果たして、この当時のマンション計画が一体どうなっているのか、とても気になっています。世の中が落ち着いて、(お金に余裕があったら)また是非訪問してみたい街です。そのときに、またこの続きを書きたいと思います。


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