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『巨人の肩』(続)ニュートンはやっぱり巨人!


それでは、アイザック・ニュートン自身は、誰の肩に乗っていたのでしょうか? もっと正確に言うならば、ニュートンは誰の著作から「巨人の肩」の格言を知ったのでしょうか?

これに関してはジョージ・サートンが1935年に、「ニュートンはおそらく、1676年には第8版 が出ていたロバート・バートンの『憂鬱の解剖学』によってこの格言に触れたのであろう」と 述べているそうです。

しかし、これまで膨大な資料にあたり、サートンやコワレの肩に乗ってロバート・バートンと ディエゴ・エステラの向こうを見、シャルトルのベルナールに行き着いたマートンは、サートンのこの主張に納得はしません。マートンにとってサートンは敬愛する師であり友人でもあるけれども、学問上のこととなれば話は別であります。マートンの見るところ、 ジョージ・サートンの主張は単なる憶測にすぎません。実際、ニュートンの時代にあっては、 ロバート・バートンが「巨人の肩」の主要な広報マンであったという証拠すらもないのです。

次に挙げるのは、マートンが突き止めた、ニュートン以前、そしてニュートン以後の用例です(これがすべてだというわけではまったくありません)。 どの用例にも、ニュアンスや文脈や表現など、それぞれ独自のドラマがあるに違いありませんが (実際、いくつかはマートンも取り上げています)、 このリストを眺めるだけでも興味深いですね。

c.112E BERNARD OF CHARTRES
12th century John of Salisbury
c.1150-1200 Alexander Neckman
1180 Peter of Blois
c.1190 Alan (of Lille? of Tewksbury?)
13th century Henricus Brito
13th century Isaiah ben Mali of Trani
c.1280 Zedekiah ben Abraham 'anav
1306-20 Henri de Mondeville
1363 Gui de Chauliac
1531 Johannes Ludovicus Vives
1574  Azariah de Rossi
1578 DIDUCS STELLA
1581 Alexandre Dionyse
1601 Francois Martel
1605 Josephus Quercetanus
1616 Godfrey Goodman
1621 Nathanael Carpenter
1624 ROBERT BURTON
c.1625 John Donne
?1627 George Hakewill
1634 Merin Mersenne
1642 Thomas Fuller
1649 John Hall
1651 Alexander Ross
1665 Merchamount Nedham
1667 Thomas Sprat
1676 ISAAC NEWTON
1690 Sir William Temple
1692 Sir Thomas Pope Blount
1705 William Wotton
1812 Samuel Taylor Coleridge
1865 Claude Bernard
1868 John Stuart Mille
1874 Friedrich Engels
1901 Sir Michael Foster
1902 Theodor Gomperz
1905 Charles Sanders Peirce
1931 Frank Harris
1931 Nikolai Ivanovich Bukharin
1942Robert K. Merton
1954 Howard Becker
1955 George Sarton
1959 David Zeaman
1960 Herman Ausubel
1961 Gerald Holton
timeless SIGMUND FREUD

なるほど….近現代においては、 ”みんな知ってる「巨人の肩」”…というわけですね…..

さて、最後に感慨めいたことを述べますと、マートンの著作を眺めてきて思うのは、「巨人の肩」の格言を広めるうえでの影響力においても (物理学全般における影響力は言うまでもなく)、ニュートンは巨人だったのだなぁ~ということです。 わたしはこれまで何度も「巨人の肩」の格言に出会いましたが、それはいつもニュートンがらみでしたし、 わたしが訳した『物理と数学の不思議な関係』の原題も、ニュートンの文脈での On the Shoulders of Giants だったのです。(ちなみに、この記事のトップに掲げた画像は、この本の原書の表紙です。わたしはいまだ、ここに掲げられた人物が誰なのか突き止めておりません! キャップに書かれている文字がわかれば判明するはずなのですが….。どなたか~~、お分かりになる方、教えてください!!)


とまれ、今後もこの格言は(シャルトルのベルナールよりはむしろ)ニュートンとの関係で語られることでしょう。それでも、このたびシャルトルのベルナールの言葉に触れ、それ以後、使い手によって微妙なニュアンスが与えられてきた経緯を知ったことは、わたしにとって楽しくも有益な旅でした。


追記:國方英二さんが、この記事のトップに掲げた画像の人物について、この人物のキャップに書かれている文字列は、ΑPIΣΤOΤEΛHΣ(ARISTOTELES)だと教えてくださいました! 最後にΩがあるので、文字列には続きがありそうですが、見えないのでわからないそうです。

数学と物理の不思議な関係という文脈では、アリストテレスというのはちょっと意外ですが、しかし、後世多くの人をその肩に乗せて来た「巨人」としては、ぴったりの人選だと思います!

國方さんの近著はこちら。


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