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徳田秋聲礼賛

今年3月3日にノーベル文学賞受賞作家大江健三郎氏が亡くなられた。享年88歳。私は大江文学の熱心な読者ではないので何か語れるものがあるわけではないが、世界が認め、これまでのノーベル文学賞受賞作家の中に加えられるほどの、世界文学へ通じる日本からの文学的達成を示したことに間違いはないと思う。実力が認められたし文学の普遍性に達し得た、近代から現代の小説の系譜につながった作品を残した訳で、ある文芸批評家の言うように、日本の宝なのだと思う。さて大江健三郎の他にノーベル文学賞受賞作家がいた。川端康成である。川端康成が世界でどれほど評価されているか、例えば戦争という20世紀が犯してしまった問題にどう向き合ったのかという普遍性には達していないように思われる。しかし、日本文学を世界に開くに値するほどの日本の文学の達成を示したことは確かだと思える。トルストイがロシアの文豪であり、デーテがドイツの文豪であり、シェイクスピアがイギリスの劇作家であり、ジョイスがアイルランドの作家であり、プルーストがフランスの作家である、というふうにその国を代表する文学者だとすれば、日本を代表する文学者は夏目漱石ではなく、川端康成だと思う。

ここまで述べてきたのは、日本の文学の系譜が源氏物語に始まり西鶴に飛び、西鶴から秋聲に飛ぶ、と称賛した川端康成の言を紹介したかったからだ。徳田秋聲こそ日本の文学の系譜を近代に引き継ぐ文豪であると、日本を代表する川端康成の見立てを紹介したかったのである。

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