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定年後小説2編追加

定年後小説という分野があるのか知らないが、最近読んだ黒井千次の「羽根と翼」と、今日読了した桐野夏生の「魂萌え!」は確実にその分野に入ると思う。一般には誰も指摘はしないだろうが、高齢者までにはとどかない揺れ動く定年後(夫婦にとっての定年後)を見事に描いていると思う。一方はサラリーマン、他方は専業主婦という平凡な主人公に、あたかも思考実験するごとく小説にする筆力は流石であり、エンターテインメントに終わらない純文学の香りがする。現在の自分と似た年代の設定がこんなにもリアルに感じさせ、作中に引き込むのか改めて小説の面白さを感じさせてくれた2冊だった。

2冊を読み終わって今思い返してみると、対比構造が共通して小説のテーマの中に隠されていることに気づいた。「羽根と翼」では青春時の学生運動で経験した現実否定と、サラリーマンとして企業内で出世競争を勝ち抜いていく現実肯定という対比。「魂萌え!」では妻の座と愛人(結婚と不倫の関係と)の対比がある。そのどちらが「ほんとう」であるかがこれ以上ないまでに厳しく問われている。その追求の仕方がぼくに、小説による「思考実験」のように感じさせたのだと思える。

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