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[看護師採用サイトをつくる③]病院と看護学生・求職者の間にある”溝と壁”

「病院のホームページはいいことしか言わない」

“ブラック企業”という言葉に象徴されるように、職場の待遇や労働環境に厳しい目が向けられています。病院職員の採用でも「ブラック病院の見分け方」「ブラック病院の特徴」といった見出しがネット上には踊り、「職員の年齢層がベテランばかり(若い看護師への対応が厳しいから)」「勉強会や飲み会への強制参加を求められる(勤務時間外の業務がある)」などがブラック病院の典型例として挙げられています。
特に既卒者・中途採用では、現職や前職で不遇や苦い経験があり、新天地ではそれを繰り返さないことが職場選びのポイントと考えます。「実際に働いてみると入職前のイメージと違う」という経験のある求職者は「ホームページはいいことばかり載っているが実際のところどうなのか?」を非常に気にします。これにどう応えるかもホームページの大切なテーマです。また、この考え方は新卒が入職後、職場に失望して退職するのを防ぐのにも有効です。

他方、病院・採用側では良い面や当たり障りのないことを見せて、不都合な面は隠しておきたいという心理が働いてしまうため、求職者の「実際のところどうなのか?」「実態を知りたい」という思いに逆行してしまいます。病院側が言いたくないことほど、求職者は知りたいことというわけです。これが”溝と壁”です。

評判のいいホームページ

ホームページの出来について「学生から評判がいい」「面接のときにほめてもらった」というお話をときどきうかがいます。立場的に弱い学生や求職者は、採用担当に向かって「いまいちだと思う」「ここはこうした方がいい」と批判的な意見は言いません。社交辞令的に「素敵ですね」と言います。本心を語ってもらえれば改善へのヒントを得られますが、初対面で本音を聞き出すことはなかなか難しいものです。

これもときどきある傾向として、採用担当や看護部長の趣味・嗜好でデザインや雰囲気が決まることがあります。ファッション系のハイブランドのイメージに寄せたりして、ご当人の満足度は高くなる一方で、新卒採用ではターゲットは20代前半です。ブランドのイメージを借りて興味を持ってもらえても、実際の職場やスタッフがそのイメージに合致しないと失望にも繋がりかねません。ターゲット層が好むものを調べたり、若い職員にヒアリングしたり「市場調査」も必要です。

求職者は何が知りたいのか

自分が転職する立場なら考えることも、いざ採用する側に立つと、その心理をイメージするのが難しくなります。また、新卒と既卒は求める情報が異なり、一般企業では別々のホームページを設けるところすらあります。非常に大雑把になりますが、ひとまずは下記を意識したホームページ作りを心がけてください。

  • 〈新卒〉やりたい看護が実現できる病院かわかる、期待と安心を満たす情報がある

  • 〈既卒〉前職の退職理由となった課題が解決できる職場であると確信できる

合わせて、コンテンツ(内容)を考える上でヒントになるものをピックアップしました。

その前に一言申し添えますと、正直なところ、組織内部の事情その他で「必要なのはわかっているけど言えない」「病棟はそんなに甘くない」という状況もあると想像します。ただ、知ってほしいのは、求職者が働く先を探すということは、自分の人生や家族の未来を決める決断と一体ということです。失敗できません。求職者が自分の事情を優先すると必然的にこのような情報を求めるとお考えください。

〈充実すべき7つの視点=学生・求職者が知りたいこと〉

  • 自分が担当することになる業務の内容

  • 自分に求められるスキルや経験

  • 職場の雰囲気

  • 給与や休暇・シフト・残業頻度

  • 教育制度・専門や認定の資格取得サポート

  • スタッフに関するデータ

  • 説明会参加やエントリーから内定後までの流れ

次にこれらを載せる意図と狙いをかいつまんで説明します。

  1. 自分が担当することになる業務の内容
    これは「2. 自分に求められるスキルや経験」と表裏一体です。やりたい仕事ができるのか、自分のスキルや経験が活かせるのか、苦手なことを要求されないかが明確であれば、履歴書を送るべきか前向きに検討ができます。病棟やキャリアで業務内容や責任が変わる場合はそれも含めて説明があるとさらによいでしょう。

  2. 職場の雰囲気
    病棟の雰囲気をホームページだけで掴んでもらう、それも好印象をもってもらうのはなかなか難しいのですが非常に重要な要素です。スタッフが生き生きと働いている姿を写真や動画で、その一端を感じてもらえます。退職したときの差し替えの手間が懸念されますが、それを上回る効果があります。
    また、たとえばお互いの事情に寛容な職場風土であることはスタッフインタビューで経験談として語ってもらえると効果的です。制度面でのサポート案内だけでは「制度があっても利用できるのか?」と疑心暗鬼で終わってしまいます。
    インタビューは非常に読まれるコンテンツですし、スタッフを通して語ることでリアリティや親近感も得ることができます。

  3. 給与や休暇・シフト・残業頻度
    他職種との影響・バランス、現スタッフとの兼ね合いで明言をさけたいかもしれませんが、夜勤などでシフトが複雑な看護職ではことさら注目が高い情報です。とはいえ入職後に「聞いた話と違う」というトラブルになりやすい領域ですので、一般的な事実のみを載せましょう。
    始業から終業までの仕事がわかる「1日の流れ」、夜勤早番・休日などシフト状況が把握しやすい「1週間の流れ」も定番のコンテンツです。

  4. 教育制度・専門や認定の資格取得サポート
    新卒の期待と安心を満たす大きなウェイトを占めるのは教育制度や支援体制です。ラダーによる段階的なトレーニングや、プリセプターシップ制・PNSによるサポートは非常に強いアピールになります。キャリアプランや資格取得支援も魅力的な情報です。中途採用でも復職支援、継続教育は確実に伝えましょう。
    病院によっては教育プログラムに愛称(IMSグループ「アイナースプログラム」、自治医科大学附属病院「J-arise」など)をつけて浸透を図っていることも多いようです。

  5. スタッフに関するデータ
    年齢構成比、男女比、新卒と中途の割合、離職率、職員の出身校などの統計を載せて、職場の様子や働き方を客観的に伝えます。これは本稿の冒頭で触れた「このホームページはいいことしか言わない」への対応のひとつです。真実の公表にリスクがないわけではありませんが、オープンにすることで得られる最大の恩恵は信用です。厳しい数字で公表がはばかられる場合には、得られる信用とのバランスで判断することになります。
    なお、各データは表組みのような無味乾燥な体制でなく、インフォグラフィックと呼ばれるイラストも用いて演出するケースが、他業界も含めて多いです。直感的に俯瞰できることから「5分でわかる○○病院看護部」といったコンテンツがよく作られています。

  6. 説明会参加やエントリーから内定後までの流れ
    募集要項に書類審査・採用試験・面接がいつどのような手順で実施されるか掲載しないことが多いようです。採用担当にとっては毎年お決まりの流れで、わざわざ必要と思えないという考えもありそうですが、特に新卒にとっては初めての求職活動です。丁寧な案内で安心感を醸し出すことは無駄ではありません。
    NGコンテンツ例
    ここまでの流れを踏まえ、もし次に該当するコンテンツに心当たりがあれば、ホームページの見直しを検討された方がよいでしょう。

給与欄の記載が「応相談」「規定による」となっている。
→給与レンジでも構わないので目安となる給与額を記載してください。

求人票がハローワークや求人媒体に提出した内容をそのまま載せている。
→一定の法令を守ればホームページの記載内容に制限はありませんので、求職者が知りたいであろう情報を積極的に記載してください。

「西3(病棟)」「放治」といった“院内用語”や俗語が使われている。
→新卒や院外の方にも伝わるよう「内科病棟」「放射線治療」と言い換えてください。

新たに導入した設備、診療成績に関することばかり強調している
→職場としての魅力(駅やスタバが近い、社食や職員寮完備・新しい)など、スタッフがそこで働くメリットになる情報も載せてください。

管理職や教育担当者が使う教育プログラムの管理表やマニュアルなどをそのまま載せている
→求職者は内部資料を見ても自分に有益なのかを読み解けませんので、情報を整理した上で公開してください。

アクセス解析でホームページの利用状況を確認

アクセス解析という仕組みをホームページに導入すると、いつ、何人がホームページを見に来たかを計測できます。エントリーや問い合わせなど高いモチベーションほどではないけど「なんとなく気になる病院だったからホームページのぞいてみた」くらいの気持ちの求職者の数も把握できます。合説ブースへの来場数、パンフレットが捌けた部数、お問い合わせの電話件数以外にも、反響や手応えを数字で把握できますので、ぜひ導入を検討してください。
アクセス数が多い人気のページがわかれば、パンフレットにも掲載したり、説明会でより深い説明を加えることで、求職者に有益な情報を提供できます。

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