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寄稿 『私の今村昌平監督/関連作品選』初出:「日本映画大学だ!」第5号

解説:日本映画大学の年刊誌『日本映画大学だ! 』の【連載企画「日本映画大学の学生が観るべき1000本の映画」】に寄稿したアンケート文です。明日5月30日の14 回目の祥月命日に合わせて掲載します。

編集部からの趣旨は、「今回のテーマは『私の今村昌平監督/関連作品選』とし、今村昌平が監督もしくは脚本等で関わった作品から挙げていただきます。アプローチはいかようでもかまいません。純粋に映画評として、あるいは、ご自身がスタッフとして関わった経験や、今村監督の思い出など、本学らしい企画になればと願っています。」と云うものでした。
 

アンケート本文

① 作品名:
『復讐するは我にあり』
コメント:
リアルタイムで観た三本目の今村昌平監督作品。元祖・日本映画大学である横浜放送映画専門学院の研究科に在籍していた時に観て今までのイマヘイ作品とは亦、違った衝撃を受ける。製作が、私が学院に在籍していた時なのでスタッフに就けて貰いたかったが「学生はスタッフには就けないのであるッ。」と一蹴された。原作者よりも詳しくモデルとなった西口明と云う殺人鬼の周辺人物を調べたことによる人物造形の凄さ、「団子の串刺し」と云う結果だけを並べていく脚本術が作り物ではない迫力を齎している面白さ。しかも、浜松の貸席で清川虹子の死体を運ぶシーンから、別府の自宅である旅館へ転換するシュールな「並行のモンタージュ」の凄さ。愛する女を殺す愚かだがやり切れない哀れさを描写した演出力! そして父親との対峙の末、本当に殺したい人間に気づく悲しさ。何から何まで凄い作品。現在、観ても凄いの一言。

② 作品名:
『人間蒸発』
コメント:
1960年代中盤。高度経済成長を成し遂げようとしていた近代ニッポン。突如、居なくなってしまった大島裁と云う中小企業のサラリーマンを探す婚約者を主演にしたドキュメンタリーの傑作問題作。鬼のイマヘイの代わりに介添えとして行動を共にする俳優、露口茂。今村昌平監督の数々の企みにより、そのドキュメンタリーが何時しか単なるドキュメンタリーではなくなり、登場人物たちの想定外の確執、葛藤、嫉妬、ルサンチマン、闘いを炙り出し始める想定外の面白さ。伝説に成っている圧巻の「セット飛ばし」等々。正に、観ないで死ねるか!? の横綱的一本!! 


③ 作品名:
『にっぽん昆虫記』(1968年 日活)
コメント:
何故、こんな作品が昭和38年に生まれてしまったのか? 『豚と軍艦』までの今村作品には在った、第二の黒澤明的娯楽映画の醍醐味を全て否定した処から生まれた衝撃的なほど「新しい映画」。成人映画指定だったので小学生だった私はリアルタイムでは観ていないが、噂は聴こえて来、世の中が『にっぽん昆虫記』に騒然としていたのは覚えている。その後、何度か観たが、その凄さが少し解って来たのは大学生になってからか。結果だけ並べて行く「団子の串刺し」を最初に駆使し、東北の僻地の農家に生まれ、近代化された東京に出て来て、売春組織を作った女の半生を徹底的な調査の下に描き、戦後日本史を描き倒した問題作。まあ、アニメやハリウッド映画に毒されている今の大学生、否、日本人が観ても解るとは思えないが(笑)。

④ 作品名:
『神々の深き欲望』
コメント:
初めてリアルアイムで観ることが出来た「教祖イマヘイ」の前期代表作。『にっぽん昆虫記』で確立した民俗学から日本人を描き直すと云う前代未聞の「今平プロジェクト」の最高峰。しかしハリウッドの作劇を全否定しているにも拘らず米国アカデミー賞で「外国語映画賞」を受賞していると云うから驚く。最近、観直し、無関心で他力本願で保守的で閉鎖的で苛め好きの日本人を壮大なスケールで描いた作品だと云うことを再認識。今村監督の口癖だった様に「日本人は変わらないッ。」と云う思いを新たにした。


⑤ 作品名:
『ええじゃないか』
コメント:
リアルタイムで観た四本目のイマヘイ作品。と云うより私が映画界でスタートした思いで深い一本。横浜放送映画専門学院の研究科を終え、今村監督に直訴し今村プロに。上に述べて来た作品群を作った今村監督が、どの様な映画作りをして行くのか? 溢れる好奇心で臨んだ現場だ。『復讐するは我にあり』の直後で次回作を何にするか? と云う状態の今村プロだった。監督車の運転手、準備、調査から撮影終了後の時代劇大オープンセットの管理人、最後にはそのセットの解体までと、何でもやった2年間だった。校長先生ではない今村監督の実体に触れ、独立プロで映画を撮ると云うことはこういうことなのか!? と云うことも体感したカルチャーショック的な2年間。とてもこの欄で書き切れることではない。時々、講演会などでも話しているが、何れ何らかの形で纏めたいとも思っている。作品としては兎に角、大作。しかも、時代劇なので『にっぽん昆虫記』以降の「新しい映画」のイマヘイ作品ではなく、それ以前の「より良く出来た映画」である『豚と軍艦』の延長線上に在る作品になっている。

補 足

5番目の『ええじゃないか』は、私が映画界に入って最初に就いた作品なので選ばせて貰った作品であり、本来ならこの位置には『豚と軍艦』が入ります。『赤い殺意』も『にっぽん昆虫記』に勝るとも劣らない作品。正に「隣の小母さんにもドラマがある」を見事に映像化した作品であり、夫や姑に奴隷の様に扱われていた主人公・貞子が、強盗に強姦されると云う事件を通して最後に全ての立場を逆転させる、と云う見事な展開には只々、唸るだけです。今村監督自身も「代表作」と公言しておられました。5本の中には入れませんでしたが是非、御覧下さい。(2020/05/29)



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