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ここ数年続いている、誰もやらない変な習慣その二

四、五年前から、夫婦そろって続けている習慣があります。

それは、毎日夕食の時だけ、左手で箸を使うこと。

きっかけは、朝刊の読者投稿欄でした。投稿者は、高齢の女性だったと記憶しています。年を重ねるにつれ、体の衰えを実感することが増えた彼女は、怪我や病気で利き腕が使えなくなったときに備え、左手で箸を持つ練習を始めたそうです。

私は目からうろこが落ちる思いでした。確かに、左手でもお箸が使えたら、ものすごく便利じゃないか! なぜ今まで気づかなかったんだろう!

その日の夕食の時、わたしは早速、左手で箸を持ってみました。利き手では長年使ってきたお箸です。それを鏡に映した形で左に持ち替えればいいだけだと、最初は軽く考えていたのですが、いざ持ってみると、思うように指が動かせず、正しいフォームでお箸を握ることさえできませんでした。何かをつまんで持ち上げるなど、難しすぎてほぼ不可能です。

四苦八苦しているわたしを不思議そうに見ている夫に、新聞で読んだ記事の話をすると、箸の練習なんてしなくても、左手でスプーンなりフォークを使えばいいだけだろうとあきれられました。ですが、多少面白いとも思ったのでしょう。その日から一日一回、夕食の時だけ、夫婦二人、左手でお箸を使うようになりました。

最初に書いた通り、もう四、五年続けていますが、いまだに左手で箸を持つのは難しいです。焼き魚をほぐして骨から外したり、海苔をご飯の上にのせ、上からお箸で押さえて巻いたり、汁椀を持ち上げて、箸で具をかきこむ(お行儀はよくありませんが)といった動作はいまだに苦手で、右手に箸を持ち替えることもしばしばです。

夫のほうはわたしより上達が早く、器用ですねと感心していたのですが、あるとき夫が子供の頃は左利きだったということがわかり、それはズルではないのかと口論になったことがありました。夫曰く、物心つくかつかないかの頃に、すぐ右利きに矯正させられたのだから、ズルではないということで、一応の決着を見ています。

今のところやめるきっかけもありませんし、これからもこの習慣は続くだろうと思います。図らずも、両手でお箸が使えるという、隠れた特技を習得することもできました。それに加え、身に染みて感じたことがひとつ。それは、お箸の練習はとても難しいということです。

子供の頃は、親からずいぶんお箸の持ち方を注意されたものでした。あの頃のわたしを、今のわたしは叱ることができません。声をかけるなら「いっしょにやろう」でしょうか。なにしろ、わたしもいまだに、アジの開きをきれいに食べる練習の真っ最中なのですから。


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