漫才台本「口癖」
想定:二十代男性コンビ
A 俺、こう見えてカレーが大好きなんだ。
B へえ、カレー好きなんだ。
A 好きすぎて、週一でカレー食べてる。
B 好きすぎる人の頻度ではないけどな、週一は。
A で、俺、こう見えて、実家で犬飼ってるんだけど。
B へえ、犬飼ってるんだ。
A 最近、彼女が猫飼い始めちゃって。俺が犬好きなのに、なんで猫? って話。
B まあ、あるだろうね。猫派か犬派かで、もめること。
A で、俺、こう見えてスニーカー好きだから。欲しいの見るとすぐ買っちゃって、いま全然お金ないの。
B あの、ちょっと。
A なに?
B さっきから「こう見えて」って口癖みたいに言ってるけど、おまえ、自分が周りからどう見えてると思ってるの? 俺から見たおまえは、どこにでもいそうな、二十代の日本人男性なわけ。二十代の男、だいたいカレー好きだし、まあまあ実家で犬飼ってるし、スニーカーに興味があっても驚かないから。
A なんだよー、ぶっ込んでくるねえ。
B ぶっ込んでないわ。何をぶっ込むんだよ、おまえの凪みたいな独り語りに。
A じゃあこれは初めて話すんだけど、ここだけの話、カレーって、作った次の日が一番おいしいよね。
B まあ、世間一般で言われてる話だけどな。
A ここだけの話、犬って散歩好きだよね。だから毎日散歩させたほうがいいよ。
B 一部の例外を除いて、そうだろうね。
A ここだけの話、人気のスニーカーって、だいたい高いよね。
B ちょっと待て。
A 何?
B まただよ、変な口癖。
A 口癖って?
B 「ここだけの話」って話のハードル上げといて、無邪気にハードルの下くぐってくるんじゃないよ。なんなんだ、そのしょうもない告白の数々。知り合ったばかりの女の子に、探り探り送ったラインか。
A え、もしかして、このあと驚きの衝撃事実?
B ないわ、衝撃事実。そもそも「ここだけの話」っていうのは、喫茶店で久しぶりに会った友達が、やばい宗教勧誘か、グレーな投資持ちかけてくるときに使う言葉なんだよ。気をつけろ。
A なにその、ためになりすぎるライフハック。マジで? 尊敬が止まらないわ。
B やめろ、恥ずかしいわ。せめて口癖の違和感を超えるくらい、人の心をつかむ話をしろ。
A 逆に、俺そんなつまらない話してる? じゃあ逆に、カレーって日本の国民食だよね。
B また出たな、イラっとする口癖。場合によっちゃ、宣戦布告とみなすぞ。
A カレーってそもそもインド料理じゃない? じゃあ逆に、インドで国民食になってる和食って、何かあるのかな。
B おっ、まともな会話になってるな。
A 逆に、猫を抱き上げて高い高いすると、めっちゃ伸びるよね。伸びすぎてちぎれちゃうんじゃないかと思って、逆にドキドキするよね。あと逆に、スニーカーが欲しくてこの間実家に電話したんだけど、お母さんに「子供の頃に預けたお年玉返して」って言ったら逆に「あるわけないでしょ」って言われて、逆にスニーカー買えなくなった。
B やめろ。「逆に」言いすぎだろ。幼児に囲まれて、一斉に話しかけられたくらい何言ってるかわからないわ。あと成人したら、預けたお年玉のことは忘れろ。大人の事情を理解しろ。
A なになに? 満を持してのYouTube参入?
B 満を持してないわ、俺がYouTube始めても周りは「へー、今から。」くらいのリアクションだよ、一体何個あるんだよ、そのイラっとする口癖。俺、“こう見えて”普段こんなに怒る人間じゃないんだよ。“ここだけの話”ビビりだし涙もろいし。そんな俺をここまでイラつかせるなんて、お前はたいしたやつだよ。うらやましいわ、“逆に”な!
A わぁーすごい! Ⅾボタンで投票?
B なんの投票だよ。おまえ、さっきから時々変な合いの手入れてくるけど、それも口癖か。
A まさか。口癖じゃないよ。
B じゃあ何なんだよ。
A ただの癖。
B いい加減にしろ!
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