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漫才台本「パワースポット」

想定:二十代男女コンビ

A 最近パワースポットに興味あるんだけど、行ったことある? 

B 歴史のある神社や、お寺なら行ったことあるけど。

A 大きな滝とか、樹齢数百年の大木も、運気を上げるっていうよね。そういう、自然のパワースポット巡りをしてみたいなと思って。

B 俺は、あまりお勧めしないな。「触らぬ神にたたりなし」ってことわざもあるし。

A えー、そんなことわざある?

B そこから説明いる? じゃあ、俺が由緒ある神社のご神木だとして、あなた、人生に疲れた気になってる、幸薄い女子やってみて。

A なんか感じ悪いな、その言い方。まあいいや、やってみよ。「わあー、これが樹齢八百年の杉の木かあ。迫力あるなあ。パワーもらえそう。」(腕を広げて、相方を手の平で触ろうとする)

B ちょっと、やめて。そんなに近寄らないでよ。

A え? 誰? ひょっとして、あなたは。

B 神ですけど。

A へえ、ご神木って女神様だったんですね……(相方を観察しながら)じゃなくて男? IKKOさん的な?

B なんなのあんた。この時代に、よくそんなデリカシーのないこと言うわね。とっととお帰り。

A ごめんなさい。わたし、あなたに会いたくて、電車を乗り継いでこの神社まで来たんです。

B へえ、それはご苦労様。ちなみにわたし、仲間からはIKKOじゃなくて「神業界のミッツ・マングローブ」って呼ばれてるから。

A はあ、なるほど。杉の木とマングローブ、同じ植物つながりで。

B あと、わたし、見ての通り身長高いから。親戚に、涙もろい名司会者はいないけどね、ふふふ。

A 涙もろい名司会者? 徳光さんのことか。神様、たぶんめちゃテレビ好きだな。

B で、何の用事?

A あの、あなたに会うと、運気が上がって、願い事が叶うって聞いたんですけど。

B そうよ。ただし、イケメンに限る。

A えっ?

B イケメンの運気だけ、爆上げする。そういう神よ。

A 神様って、誰にでも平等じゃないんですか?

B は? 何言ってんの。あんたらこそ、女ばかりで集まって酒飲んじゃ「メイク変えたの、秒で気づいてくれる男っていいよね」「毎回割り勘だけど、おいしい店に詳しい男はありだよね」「スペック高いのに、お土産のセンスが残念な男、逆にかわいいよね」「ただし」「イケメンに限る!」「それな!」って、でかい声で盛り上がってるだろうが。

A 神様……居酒屋でバイトしてたんですか? 

B そもそも、人間の欲をかなえる神様に、ピュアな心を求めるんじゃないよ。この八百年に、何度も泥水飲んでこなきゃ、こんな仕事できるわけないでしょ。(煙草をふかす仕草)

A えっ、神様、タバコ吸うんですか。

B 何その「副流煙、迷惑」みたいな顔は。この百年で、めちゃめちゃ空気汚したの、あんたたちのほうでしょ。人間がもっと自然に敬意を払ってりゃ、今頃、みんな心豊かに暮らせてるんじゃないの。

A あ、初めて神様っぽいこと言った。

B それとあんた、遠路はるばるわたしに会いに来たようなこと言ってたけど、どうせ、この辺のパワースポット、はしごする気なんでしょ。

A まあ、そうですけど。

B あっちの神様こっちの神様、手当たり次第にご利益もらおうなんて、都合良すぎだと思わない?

A でも、アイドルグループだったら、メンバー全員のファンでもおかしくないですよね。神様を全員好きじゃいけないんですか?

B 神様を、令和のアイドルに例えるんじゃないよ。

A ごめんなさい!

B 昔のアイドルファンはもっと気合が入ってたよ。「少年隊のニッキとカッチャンとヒガシ、全員好き」なんて半端なファンはいなかったし、聖子と明菜、両方のファンなんていうやつは犯罪者だから。

A 神様、八十年代アイドル大好きだな。カラオケで若い子が、よかれと思って昭和歌謡を歌ったら「もっと名曲あるから」ってメドレーでマウントとってくるタイプだ。

B ま、あんたの言うことも間違っちゃいないけどね。

A どういうことですか?

B わたしはこんなに目立ってるから、祀り上げられてるけれど、すべての自然の中に、神様はいるんだよ。その辺の石ころにだって、今日芽が出たばかりの草花にだって、小さな神様が隠れてる。人間も自然の一部、あんたの中にも神様はいるんだ。自分の中の神様を信じて、大切にしなさい。そうすれば、内側からパワーがわいてくるから。

A わー神様。素敵なアドバイス、ありがとうございます。(相方に抱き着こうとする)

B だから、触ろうとするなって。イケメン以外、だめって言ったろ。それ以上近寄ったら呪うわよ。

A ごめんなさい。はあー、パワースポットってめんどくさいなあ。

B ほらね、触らぬ神にたたりなしだろ?

A 納得!

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