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漫才台本「独特の街グルメ」

想定:四十代男性コンビ

A 「孤独のグルメ」っていうドラマ、人気だよね。松重豊さん演じるビジネスマンが、仕事で立ち寄った街で、ひたすらうまそうに飯を食うっていう。

B 見てると、こっちまで腹が減ってきますね。でも実際、なんの情報もなしにふらっと入った店が、どこもうまいなんてこと、ありますかね。

A まあドラマだからね。ちょっとやってみようか。「あー、腹へったなあ。お、この店よさそうだな。中華料理店かな? 入ってみるか。」

B いらっしゃい。何にしましょう。

A ラーメン一つ。

B すみません、うちはラーメンやってないんです。

A ラーメンないの? 店の雰囲気、いかにも街の中華屋なんだけど。

B 以前中華料理店だった場所を借りて、最近店を始めたんです。

A へえ、そうなんだ。じゃあ、何料理の店なの?

B 初心者料理です。

A 初心者料理? なにそれ。

B 自粛期間中に自炊を始めて、手ごたえを感じたので、店を出してみました。

A 初心者料理って、よくマイナス要素を前面に押し出したな。まあいいや、味には自信あるんでしょ。メニューは何があるの。

B 二種類の日替わり定食のみです。今日は、AセットがYouTubeを見ながら初めて作る料理、Bセットはわたしのアドリブ料理です。

A どっちもリスク高そうだな。いっそ賭けに出るか。Bセットのアドリブ料理で。

B かしこまりました。おまたせしました。目玉焼き定食です。

A ずいぶん普通なやつ出てきたな。ドキドキして損したわ。

B 今日はめずらしく卵があったもので。

A 定食屋に、卵がない日ってあるのかよ。あ、値段聞くの忘れてた。いくら?

B 二千円です。

A 二千円? このあたりの店にしちゃ、ちょっと高くないか。

B でも、割引サービスがあります。

A へえ、どんな割引してくれるの?

B お客様にご迷惑をかけたぶん、料金が安くなるサービスです。

A ものすごく不安になるサービスだな。一応システム聞こうか。

B たとえばこの目玉焼き定食、うっかり卵の殻が入っていたら百円引きです。

A めちゃめちゃ料理初心者っぽいな。まあいいや、百円安くなるならラッキーだよ。

B あとは、唐揚げにうっかりニワトリの羽が入っていたら二百円引き、トンカツに豚足が入っていたら三百円引き、牛丼に牛革が入っていたら五百円引きです。

A ずいぶん野趣あふれるうっかりだな。肉、店でさばいてるのかよ。肉の仕入れ方、見直した方がいいんじゃない。

B それと、食べて体調が悪くなった場合は半額、通院が必要な時は九割返金、入院された場合は無料です。

A 医療保険のCMか。だったら入院費用も保証しろ。

B そうそう、うち、実は裏メニューがありまして。

A 店を始めたばかりで、もう裏メニューがあるの? 

B はい、いつか常連さんができた時のために。

A 逆だろ、常連のリクエストが裏メニューになるんだから。で、何なの、裏メニューって。

B 隣のコンビニ弁当です。

A よく堂々と言えたな。料理人のプライドないのか。

B でも、一番儲かるんで。

A まさか、二千円で売ってんのか。

B はい、割引サービスもしなくていいんで。

A だろうな。俺も、コンビニ弁当に裏切られたことないわ。もういいよ、目玉焼き食ったらすぐ出てくから。厨房に戻ってて。

B お客さん、ズルしないでくださいね。ポケットに卵の殻、隠してないですか?

A そんなわけないだろ。なんだよ、ひどい店に当たったな。

B ね、やっぱり知らない街で飯を食うときは、下調べしたほうがいいでしょ。

A いい加減にしろ。

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