【禍話リライト5】坊主が来る
Aさんは、夫と子の三人で一軒家に暮らしていた。
子は幼稚園に行くか行かないかくらいの歳なのだが、ある日、幼い口調で
「きょうおぼうさんきてた!」
と言うのである。
「お坊さん?」
聞いてみると、どうもその「おぼうさん」というのは托鉢僧の姿をしているようだ。
傘を目深にかぶり、錫杖を持ち、足元にはお金や食べ物を喜捨する鉢を置いて立っている──
そういう僧形の者が来ていたのだと。
Aさんが住むのは新興住宅地なので、そんなところに托鉢僧というのは珍しい。
話のついでに近所の者に聞いてみても、みんな見かけたことはないと言う。
別に変質者ってわけじゃないから、来てたら来てたで気にすることもないのだけど。
そう思っていたところ、子がまた、
「おぼうさんきてた!」
と報告するのである。
「どこに来てたの?」
「おにわ!」
…庭?
玄関先ならともかく、庭は不法侵入になってしまう。
しかし、そんなところに立っていたら自分も気がつくはずである。
おかしいな。
まだ幼いし、空想を現実のように話しているのかな。
そう片付けて一週間後のことだった。
夜中、Aさんは自分を揺り動かす子の声で目が覚めた。
「おかあさんおかあさん。おかあさん」
「なに…?トイレ?」
「ちがうちがう、おぼうさんきてるよ」
「えっ?」
あわてて寝室のドアを開ける。
すると、廊下の向こうからお経を読むような声が普通に聞こえてくるではないか。
…やばい!
不法侵入者でも、霊でもやばい!
「あなた!あなた!」
急いで隣に寝ていた夫を揺り動かすと死んでいたそうだ。
冷たく、固くなった体を確かめてそれを悟った瞬間。
不意にドアのすぐ向こう、口をつけているかのような至近距離で、お経を唱える声がした。
***
「…おかあさん、おかあさん」
再び子の声がする。
「おぼうさん、行っちゃったよ」
その後、我に返ったAさんは自分を励まして警察に電話をし、慌ただしい日々に飲み込まれていった。
夫は、心臓発作だったということだ。
◆こちらは「ツイキャス」にて配信されている怖い話「禍話」を書き起こし、編集したものです。
【真・禍話/激闘編 第8夜】より。(1:20:12ごろから)
当方は配信者のかたとは関係のない、いちファンです。
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