【禍話リライト8】これがあれば


Aさんは、一戸建ての購入を検討していた。
新築も考えたけれど、できるだけ安く済ませたくて中古住宅を探すことにした。
すると早速、とても安い物件を紹介されたという。

内見の当日、不動産業者に案内され足を踏み入れると、これこそ正に新古住宅というやつだろうか。
どこもかしこも真新しく、ほとんど使われた形跡がない。
これであの値段は安すぎる。つまり……

「もしかして……事故物件ですか?」「そうなんですよ~」

普通に教えてくれたという。


「いやあ。お客さん安いの探してるっていうから」

確かにそうは言ったのだが、

「事故物件、なんですね……」

「はい、そうなんですよ! 首つったんですよね」

ハキハキと答えられてしまった。

「その方が亡くなってそのままってことですか」
「いえ、そのあと何人か入居されてますよ」

「えっ? じゃあ、それをこっちに言う義務ってないですよね、確か……」

告知義務というやつである。

「いやまあそうなんですがね、やっぱり出るんですよ。住む人住む人、部屋着姿の人が出てくるとか言って、みんな引っ越しちゃって……。
でも安心して下さい、試しにウチの社員が住んでみたら対策がわかったんで、それをお伝えしたくて──」

言いながら担当者はクローゼットを開けた。


踏み台があった。


「これ、実際に使われたやつなんですけどね」

「……」

「もちろん、一回警察が持って行って調べたんですけど、返ってきたので」

「返ってくるんですか……」

「まあ、蹴ったぐらいですもんね」

蹴ったぐらい。

「ウチの社員が泊まった時にね、亡くなった場所で寝るのは怖いんで……あっそれは二階なんですけど」

二階なんだ。

「二階は怖いんで、一階で寝てたら、そっちにも出るんですよね……。
出るなあ、やだなあと思ってたんですけど、クローゼットの中にしまってたこの踏み台を置いたらね、いなくなったんですよ。死んだことを思い出したらしくて。

なので!  もし現れても、この踏み台を見せればすぐいなくなっちゃいますから。
いなくなったら一ヶ月くらいは現れません、大丈夫です!」

笑顔で太鼓判を押されたので、Aさんは新築で家を建てることにしたそうだ。


***

しかし考えてみれば、霊にしても気の毒な話である。
生きているつもりで生活して、あるときふと踏み台を目にする。それでああ、自分は死を選んだのだと思い出し、消える。その感情の波を繰り返しているのだから。

住む側としても、しばらく現れなければいいというものではなく、月に一度は遭遇してしまうのが問題なのだ。
現れても知らないうちに消えるように、家のあちこちに同じタイプの踏み台を置くのも手かもしれない。
するとその家はいつしか地元でこう呼ばれるようになるのだろう──『踏み台の家』、と。


【おわり】


◆こちらは「ツイキャス」にて配信されている怖い話「禍話」を書き起こし、編集したものです。
震!禍話 二十三夜 より。(1:14:00~)
当方は配信者のかたとは関係のない、いちファンです。
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(画像配布元:禍話 簡易まとめWiki様)

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