【禍話リライト３】骨壺の病室
これね、病院の話なんですよ。
聞いたのは高校生のときだったんですけど、今でも覚えてます。
夏休みに友だちの家に集まって怪談話をしたんですね。
その家のお姉さんは看護師をしてて、働いてる病院で「これはマジだ」と。
「ちょっと前にいた人がマジで体験したから、マジで気をつけて」と教わったって話なんです。
※※※
体験した若い看護師をAさんとしますけど、ベテランの先輩から常々言われてたらしいんですね。
「夜勤の見回り、四階はしなくていいから」
って。
四階は最上階なんですけど、重篤な患者さん専用のフロアになってたらしいんです。
いろんな機械を使ってなんとか命は繋げてるけど、意識はないって状態の人たちが入院してるわけですね。
「そういう患者さんになんか不測の事態があったら経験ないとウワーッてなっちゃって対応しきれないでしょ」
「夜勤のとき一人はベテランがいるようにするから」
「だから、四階の見回りは私たちがするから。他の階だけしてくれたらいいから」
そんな話だったんですって。説明上は。
Aさんもまあ、そういうもんかと思って、夜勤に当たったら下の階の見回りだけ担当してたらしいんです。
※※※
ところがあるときね。
夜勤をベテランと二人でやってたんですけど、ベテランの娘さんがインフルエンザか何かで39度ぐらい出てて。
心配じゃないですか。親としては。
しかも看護師ですよ、家で看病したいじゃないですか。だから、
「あーいいですよ」
って。
たまたま危なそうな患者さんが一切いなかったらしいんですね。そのとき。
万一なんかあったらまあ、ナースステーションでも分かるようになってるし、家も遠いわけじゃないし、みたいなことになって。昔の話ですから。
許可も出たんで、ベテランさんは早退していったそうです。
「四階はいいから」
って言い残して。
※※※
でその人が早退して、残業してた同僚とか、 医者もどんどん帰っていくわけですよね。
「じゃあお願いね～」
「はーい」
「なんかあったらすぐ来るから」
「はいはーい」
なんつって見送って、自分だけになって。
言われたとおり四階以外を見て回ってたんですけど、Aさん義務感というか、使命感のある人で。
ちょっと四階も見ようかな。
一応。
ってなったらしいんです。
患者さんの異変はナースステーションでも分かるけど、まあさらっと見て回るだけでも防犯になるじゃないですか。
で四階に上がってみたんですね。
夜の四階は初めて行ったらしいんですけど、いろんな部屋から呼吸器とかがピッ、ピッ、とかいっててちょっと怖いなみたいな。
他のフロアと違ってずっとみんな生死の境で眠ってるわけだし、変な話”こっち”と”あっち”の狭間みたいな空間になってるじゃないですか。
そう考えていくといま夜だし、やっぱり素直に怖いな。言われたとおりに下の階だけ見てればよかったかな、とか後悔しながら、歩いて行ったんですって。
でも、もう恐怖心は克服していこうと。
部屋の中まで確認することにしたんですね、あえて。
真面目ですから。
401号室から見ていって、当然みんな静かに寝ててまあまあまあ、こうだわなっつって。
402もまあ、こうだこうだこうだ、
403もああ、こうだこうだこうだ。
404もああ、こうこうこ……んん？？？ えっ？
404の部屋。
四人部屋なんですけどね、作り的には。
ベッドの一個一個に仕切りのカーテンあるじゃないですか。
それが全部シャアーッて開けられてて、しかも使用してなかったら鍵かけてればいいはずなんですけど開いたわけですよね。ドア。
（あれー？ 普通に開いた）
で、どう見てもあれ花瓶じゃねえよな骨壺だよな、って大きさのものが四つ、各ベッドに置いてあるんですって。
四つ。
えーっと思って閉めたんですって。えっ……。
でも人間ってほら、自分しかいなくて逃げようがないと変な心理が働くもんで、
ヨシ、異状はない！（防犯的な意味では）
ってことにしちゃったらしいんです。
だからね次行ったんです。
405行ったんです。偉いから。
ただ誤魔化してることは自分でも薄々わかってる、恐怖心はすごいんです、えっ！？えっ！？とか言いながら行ったんです405に。
でまあ何事もなく一番奥の408まで行けてはいはい……じゃ閉める……ぐらいのときにあれぇっ？あれあれあれ？って。
そうなんですよ。
もうカンがいい人は分かったんじゃないですか？
その病院、404号室なんかあるわけないんですよ。不吉だから。
昼間は行くから知ってる知ってる404は無い、403、405だ！となって。
（えーっ、マジでぇ……）
しかも帰り道、階段左右にあるんでそのまま降りようと思ったんですけど、改装中かなんかで、そっちから降りられないんです。
だから戻るしかないんです。
（しまったぁああああ……！）
ってなりますよね。
……まあでも、しょうがない。
もう……もう、廊下ダッシュすればいいだけだから。
いや、ダッシュはちょっとダメかもしれない……早足ぐらいで。
意を決して振り返って、廊下にシュッて懐中電灯戻した瞬間に、うーわ！！マジか！いややっぱダッシュしよ と思ったんですって。
404あたりが、ドア開いてるんですって。
病院のドアって一回閉めたら開かなくなってますよね。ちゃんと。
そんな簡単に開かないですよね。ゴム付いてたりして。
絶対に閉めたわけです。自分は。
うわ怖い怖い。
戻ったらわかるじゃないですか、病院のドアってほらバーンて音がして。
絶対に閉めたはずなのに、404、あるはずのない部屋のドアが開いてるんです。
うわああ怖い、すげー怖い！と思ったけど、しゃあない、もう、徒競走の気分ですよ、ナースシューズって走りやすいから、うーおーってありえない速度で。一応走っちゃダメなのは分かってるんだけどって感じの変なフォームでどぅーあー！！って走ったんですって。
でまあなんとか、下まで行けたんです。
もう階段なんか数段抜かして飛び降りたりして。
ドォン！ダァン！みたいな。
ただ、やっぱり開いてたんで。
見ちゃったらしいんですよ。ちょっとは。
チラッと一瞬、どうしても。
ナースセンター戻って、うわ～一瞬見た一瞬見た、あれ何だったっけ何だったっけってなったときに人間って無駄に記憶力がいいもんでねこういうときってね。
ドア開いてて、仕切りのカーテン全部なくて、四人分のベッドがあって、
骨壺を手に持った人が絶対に四人座ってた
っていうんですよ。
四人。
うわ怖いどうしようと。
どうしようどうしよう、どうしようどうしよう……と思ってて、そしたらナースコールが。鳴って。
見たら三階の患者さんで、
「さっきの音はなんですか？」
って言われたんですけど。
ちょっと寝付けなかったか、起きてて気になった人が、大丈夫でした？みたいなそういう話で。
「あーごめんなさいあれ私が！ 階段をちょっとね、ちょっとね！」
なんつって。
「あーよかったよかったなんだそうだったんですかーもうそそっかしいなー」
とか言われてアハハーなんつって、笑って。
あーあーなんだ怖かった404からかと思ったもう、無いけど！そんなんなったら怪談のオチだよーなんて思いながら病室出て、二階へ向かおうとして階段から四階見上げて怖かったなーさっきなーって。
ジャンプして降りたら患者さんが驚いちゃったから良くない、ゆっくり降りよう、とか思いながら。
しかしなんで、骨壺持ってベッドの上にこう、四人も座ってたんだろうって。
あれなんだろう、なんかタチの悪いね、地縛霊っちゃ失礼だけど、そういう悪いものかなんかなのかな～……？と思って歩き出した瞬間に、誰かに突き落とされちゃったらしいんですよ。
で階段からバーンて落ちて、結局またドォン！って音がして。
しかも肩の筋かなんかちょっといっちゃって、しばらく入院したらしいんですよ。自分の病院にｗ
彼女が言うには、突き落としたやつ、まあそれは絶対、後ろに誰もいなかったんで、人じゃないし入院患者のいたずらとかじゃ絶対にないし。
監視カメラもあったんですって。
でも結局提出しなかったんですって。
彼女が話したら病院側も「そうだよね」って言ったらしいんですよ。
なんか変なのが映ったんでしょうね。
しかも彼女、耳元でね、
その突き落とされる瞬間にね、
「 好きでやってるわけじゃないよ 」
って言われたらしいんですよ。
そういうことがあったと。
でその後お祓いとか色々して四階も重篤患者だけにしなくなったらしいんですよね。それからだいぶよくなって、今は骨壺を持ってる人の幻覚を見ることもないから大丈夫、普通に見回りしてるってことなんですけど、もう当時はみんなめちゃめちゃ怖かったらしいんですよそれで。
という病院の話を聞いたあとに肝試ししてひどい目に遭うんですけど、それはまた別の機会に。
【おわり】
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◆こちらは「ツイキャス」にて配信されている怖い話「禍話」を書き起こし、編集したものです。
【震！禍話 第５夜】より。（0:46:05ごろから）
すごく印象に残ったのでリライトさせて頂きましたが、やっぱりこのお話は読むより聞くほうがコワイと思うので、ぜひアーカイブをお聞きになり恐怖と笑いの緩急を体験されてくださいませ。
◆私は配信者のかたとは関係のない、いちファンです。
このリライトの転載、使用はご遠慮ください。
◆「禍話」は毎週土曜23:00〜配信されています。
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◆有志の方がまとめた過去配信一覧もあります。
【半ライス大盛り少なめ(仮)】（タイトルをお借りしています）
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