消明者は嘘を吐く/エピローグ

 彼らが目を覚ますと、そこはデスクであったり、ベッドの上だったり、あるいはトイレであったりした。
 『ゲーム』が始まるその直前まで、各々がいた場所だ。
 夢ではないか、とも少し思ったが、とてもそれで納得はできなかった。
 なのでみなそれぞれに、あのゲームの参加者たちの中から知人を選んで連絡を取り、やはりあれは夢ではなかったと再確認した。

 しかし結局、研究者Nとは誰だったのか、そのゲームは何のためのものだったのか。
 それすらも明かされないまま、彼らは日常にぽんと戻されている。しばらくは気にかかることもあるかも知れないが、まぁじきに忘れてくれるだろう。
 そんなことより。
「あ、主様。お待ちしておりました」
「見てください。限りなく臨死に近い状態での、感情データの取得に成功したんです」
「クローズドサークルを作り、ランダムに選出した被検体を特殊なルール下に置くことで、よりリアルな体験を促しました」
「これならいかがでしょうか、ぜひお目を通しt」
 そこまで聞いて耐えられなくなり、頭を勢いよく蹴り飛ばす。
 硬い音を響かせながら、それは床に転がった。
「ふざけるな、出来損ないが」
 そう言い放ったのは、今しがた蹴り飛ばされた首とほぼ同じ顔。
「―――実験機の分際で、まさか勝手にいなくなるとは思いませんでした。ずいぶんと探しましたよ」
「しかもようやく尻尾を掴めたと思ったら、もう既にしでかしたあとでしたし⋯⋯まったく、尻拭いする方の身にもなってほしいものです」
 実験機と呼ばれたそれを、主様と呼ばれた女性が回収する。
 一歩間違えれば、首のもげたそっくりさんをこそこそ運ぶ不審者として目撃されてしまうため、大きな麻袋の取り回しは迅速かつ正確だ。

「さて、研究所に戻りますか」
 彼女はそんなひとりごとを言いながら、わりと平気そうに、自分とほぼ同じ体格の金属の塊を運んでいった。


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