消明者は嘘を吐く/2日目

 顔を上げると、次の朝が来る。
 それが嫌で、1番最後まで頭を机に付けてたのは、多分オレだ。
 だって今、上げられる頭があるということは。
『おはようございます。朝になりました。皆さん顔を上げてください』
『ロリコンさんの、無惨な仮死体が発見されました』
 オレではない誰かが、一人消えているということになるから。


2日目:挑善者は身を捧ぐ


『昼時間は20分です。それでは話し合いを開始してください』
 時計の長針は、11を少し越えたくらい。
 とりあえず3になるまでは話し合いだ。
メ「時間が惜しいです。何か情報を持ってる人は今すぐ出してください」
 様子を見るような沈黙。だがそれではいけない。すぐに一人が口を開いた。
神「はい、COします」
メ「どうぞユズカさん」
神「僕は霊能⋯⋯もとい、戯術師〈ミディアム〉です」
神「そして昨日処刑された星海さんはクロ、消明者〈デリーター〉でした」
ト「マジかよ!?」
あ「希士〈ナイト〉って言ってたのに⋯⋯?」
デ「待て、まだ早い」
蛇「うむ。一応聞くが、対抗で霊能COする者はおらんかの」
 皆それぞれ否定の意を示す。ここでは対抗が起こらないようだ。
 ミディアムが実はもう死んでいてそれに成り代わった、という可能性もなくはないが、それはどちらかというと考えにくい行動だとオレは思う。
 仮にオレがデリーターで、ミディアムになりすますとしたら、むしろ星海カノは白だったと嘘を吐くだろう。
 それに、デリーターがなりすますなら他に適任の役職がある。例えばそう、
ト「占いはどうだったんだ?」
 しん、と沈黙が答える。
あ「⋯⋯まだ出たくないみたいだね」
ト「つまり黒は見つからなかったってことか」
神「潜伏もいいけど、それで死なれちゃ困るな⋯⋯」
メ「それで明日、デリーター側が占いに成り代わったりしたら最悪ですね」
あ「でもロリコンさんが占いだった可能性も一応あるよねぇ」
メ「んんーーー⋯⋯」
 最善の手ってのは、打った時点ではそうとわからないものだ。一見無難な策に思えても、とんでもない落とし穴だったりすることは珍しいことじゃない。
デ「今いるのは6人か」
 あらはらあひと、神無月ユズカ、デミス・クライン、トマニトラ、蛇艸、そしてメイドロイドユイ。
あ「デリーターが残り1人で、ユズカさんが霊能だとして、あと残ってる役職は何なんだろうねー」
ト「おいおい、ローラーにはまだ早いだろ」
あ「もちろん、言ってみただけ」
デ「昨日の我の案に乗ってくれるなら、あのときトマニトラ処刑に賛成した奴という選択肢もあるな」
メ「そういえばそんな話しましたね、吊りの結果を見て改めて考えるみたいな」
蛇「ん?ならワシを吊るか?」
神「でもあれに同じく乗っかった僕も霊能だったわけだし、もうさすがにいないんじゃないですか?」
ト「まぁそう簡単にいきゃ苦労はしねえわな」
デ「ふむ⋯⋯」
メ「やっぱり私からも、提案いいです?」
 全員がユイを見た。言葉はなかったが、肯定したようなものだ。
メ「⋯⋯先日意思統一をしましたが、このゲームはただ終わらせるんじゃ意味がない。面白くないと判断されれば、誰も無事に帰っては来ない。そうですね?」
神「ええ、そう思います」
メ「なら、面白くしてみませんか?」
あ「というとー?」
メ「時間を与えるんです。想査官〈ウィザード〉にも、そしてデリーターにも」
メ「仮に今ここで名推理をして、2人連続で吊ったとして、それは面白いでしょうか?」
ト「あーー⋯⋯」
メ「きっと感心することはあっても、ドキドキはしないはずです。そして研究者Nは、おそらくそういったスリルこそを求めている」
メ「ウィザードがまだ出てこないつもりなら、それで構いません。明日までは待ちましょう」
メ「そして、時間稼ぎの処刑先は、私で。どうせ私はただの挑善者〈イノセント〉、もとい村人メイドです」
神「そんな!」
メ「大丈夫。あなたは生き残って、こちらの陣営を導いてください」
メ「何の考えもなく、ただ定石だからと命を投げ出すのは、私も嫌でした。けれどこれなら、いいと思える」
メ「あなた方なら、このゲームをもっと面白くできます」
メ「いかがですか?」
デ「⋯⋯黒ならそんな提案をするはずはない。そして、ここで終わらせても満足できないのは、我々も同じだ」
デ「いいだろう、今日だけは様子を見ることに賛成する」
ト「やっぱ人狼の華は、疑い合い騙し合いだもんな!オレもいいぜ!」
神「⋯⋯みんながそう言うなら、分かりました」
蛇「まぁ煮詰まってきてからの方が面白いからの、こういうのは」
あ「わかる」
メ「ありがとうございます。では皆さん、今日は私に投票してくださいね」
あ「はーい」
神「ナイトは引き続き僕を守ってください。占いはお任せしますが、明日が勝負になると思うので、もう特定するつもりでやってくださいね」

『はい終わりー!投票の時間だよー!』
 暁奏響とか言ったか、最初はだいぶ塞いでいるように見えたが、もう落ち着いたらしい。
 よくわからんが、やっぱ女の子は笑顔の方がいいよな!
『それじゃ、今日吊る人を指さしてくださーい』
 結果は見えていた。メイドロイドユイが5票。
 そしてとりあえず適当に入れたと思われる、メイドロイドユイからトマニトラへの1票。
 いやオレかよ。いいけどよ。
 ったく、こんな時までネタにしやがって⋯⋯
『今日の処刑は、メイドロイドユイさんに決まりました』
メ「⋯⋯ありがとうございました」
 やめろよ。そんな本当に死にそうな顔すんなよ。どうせオレらが、すぐに元に戻すんだからよ。
メ「きっと、いいゲームにしてくださいね」
 微笑んで、そして止まった。
 星海カノの時と同じだ。足の方から徐々に体の自由がきかなくなり、やがて体が傾く。ユズカがそっと近づいて、彼女の体を受け止めた。
 本当に死ぬわけでもないんだから、大切にしとかないとな。
 彼女の顔は穏やかだった。本当に信じてくれるんだと思った。ここまでしてもらって、結局救えませんでしたじゃ男じゃねえよなぁ?
ト「⋯⋯ああ、やってやるよ」
ト「お前をこんな風にさせた奴を、オレぁ許さねぇ」
ト「遊びは終わりだ。明日からは、容赦しねぇからな」
 2日目の夜が来る。
 ここがきっと、勝負の分かれ目となるだろう。

つづく

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