モトカレ #創作大賞2024
あらすじ
モトカレとは。
前に付き合った人のことを言うけれど
そもそも付き合うとは?
このお話は
全てフィクションです。
28歳の夏
8月1日の仕事終わり。
夏至を過ぎた夕陽は
夜になるかならないかスレスレのところで
人々を陽気と興奮で照らしていた。
今日は青森ねぶた祭り前夜祭の日。
観光物産館アスパム裏の
青い海が広がる大広場で行われる。
アスパムに着いて
ステージや出店のある
お祭り会場へと向かった。
毎年の如く、そのお祭り会場への通り道には
大きな大きな白い小屋がいくつも並んでいて
観光客やら地元の人やらが
小屋の正面から中を見上げて
ゆっくりのんびり写真を撮ったり
楽しんでいた。
その小屋はねぶた小屋と呼ばれ
高さ6メートルほどある。
春からねぶた師さんが
こつこつと魂を込め作り上げた
今か今かと出陣を待ち遠しにし
迫力を、熱狂を、情熱を
明日まで抑えるのに必死な
【ねぶた】が敵と戦っていた。
私は小さい頃から
1人でねぶたの山車を見るのは怖くて
本当は通りたくなかったのだけれど
待ち合わせにはここを通るので
せっかくだからとみながら歩いた。
けれどやっぱり、少し怖かった。
そんなねぶたの山車を横目に
ステージのある方へ向かった。
そっちの方から
司会者の声や囃子の音が
少しずつ聞こえてきた。
会場に着くとたくさんの
白いテーブルと椅子が並んでいて
みんなビアガーデンの雰囲気も
楽しんでいた。
私は約束した友達が
どこにいるかを確認するために
まずは電話をした。
毎年の如く
回線がパンク寸前で
電話がかかるまで少し時間がかかった。
今日約束したのは
趣味でダンスを習っている
仲の良い仲間の1人と。
その仲間の職場の美容師さん達も
一緒にいく約束をしていた。
携帯で電話をしながら探していると
その仲間の女子が金髪なのと
美容師さんという職業柄
他の皆さんの髪型も相まって
電話を耳に充てている間に見つかった。
ステージからの音とたくさんの出店と
ねぶた祭りにテンションを上げる市民の声で
挨拶が聞こえなかったけど
みんなはもう席を取ってくれていて
「とりあえず乾杯しよう!」は
聞こえたので
出店にビールを買いに行った。
なるべく並んでいない出店を選んで
ビールを買った。
お店のお兄さんに
「未成年には売れないな〜」なんて
からかわれながら
みんなのいる方に戻った。
「乾杯!」
今日から一週間の
魔法にかけられた。
夜遅くまでいや、朝まで飲んでも
普通に仕事に行き
昼はまだ酒が残って具合が悪く
今夜の参加は辞めておこうと思っても
ねぶた囃子を聞くと
元気になってしまい
また夜に繰り出す。
2日から6日まで毎日毎晩
青森市内をねり歩く
ねぶたと囃子と跳人と観光客。
それを楽しむ地元の人のこの
ねぶたにしかない青森の夏の空気感。
8月7日最終日には
またこの公園で
賞を取ったねぶた達が船に乗り
海の上でキラキラと光る
ねぶたの海上運航が行われる。
地上で見る迫力とは違って
このねぶたは遠く儚い。
それから花火が打ち上げられ
このねぶた祭りは終わりを告げる。
そしてその次の日暦上の立秋となる。
興奮をあびながら興奮を抑えるような
長く短いねぶた祭り。
そんな不思議な1週間
青森の夏が始まった。
美容室の皆さんとも
もう何年のお付き合いだろう。
仲間がそこで働いてから通い
他の皆さんとも話すようになった。
美容師さんは夜遅くまで練習したり
営業時間が延びたりするので
人と約束するのが難しい事が多いため
お店の人同士で出かけることが多いらしい。
仲間を誘うたびに
お店の人と行く予定と
何回か被ることがあって
私も仲に入れてくれるようになった。
それがきっかけでねぶた前夜祭は
私も常連になっていった。
仕事仲間がいない私は
仲間が少し羨ましく
仲にいれてもらえたことが
とても嬉しかった。
海風が少し寒くなってきたところで
今日は解散となった。
けど私と仲間の夜は終わらない。
このイベントの後は
さっきステージに立っていた
DJさんが
クラブに来るというので
私たちはそっちに向かった。
クラブの雰囲気は
あまり好きじゃないけれど
習っているダンスで
出演する事が何度かあったおかげで
少しは慣れていた。
クラブに行くと
いつもの何倍も人がいて
ハコがぎゅうぎゅうになっていた。
時間はまだ早いのに
夏とねぶたのせいで
既に男女が獣化していた。
するとここの常連さんの
仲間を好きな男子が
仲間のことを呼びにきて
2人は人混みの中に消えていった。
とにもかくにも
この雰囲気が苦手なので
いつものように
隅っこでただお酒を飲んでいた。
ふと
いくつまでこうして遊べるのかなと
ミラーボールをみながら
考え事をしていた。
来年もこうして
クラブに遊びにきてるのかな。
ダンスはしているのかな。
音楽活動はどうなってるかな。
彼氏はできてるのかな。
どんな人と結婚するのかな
そういえば
昔ここのクラブでナンパしてきた
ベビーフェイスの外国人の彼は
元気かな。
別にクラブにいる人
全員が遊び人なわけじゃないけど
私はなかなか気が乗らない。
けどその外国人は唯一ちょっとだけ
ナンパされて気が揺れた記憶がある。
そしてDJさんの
ねぶたの曲が始まると
全員ステージに向かい
ノリ始めた。
私もステージに向かって
ノリ始めたら
誰かが腰に手を周りしてきたけど
何事も無かったかのように
スルッと抜けて
またノっての繰り返しをしていた。
曲が全部終わってDJタイムに入った。
より男女のキス率が増えていて
この獣タイムが怖いので
帰ろうと仲間を探したけれど
さっきの男子と
楽しそうにしていたので
後で連絡をしようと
こっそりとクラブを後にした。
タクシーで帰り
家で寝る。
少し寂しい気もするけれど
今日からはいつもと少し違う。
明日から本格的に魔法がかかるのだ。
そして8月2日
今日ももちろん毎年の如く
ねぶたに行かないという選択肢は無い。
もし1日でも行かない方を選ぶと
損をしているような
そんな気持ちになってしまう。
不思議な魅力のある青森ねぶた祭り。
今日は仕事が終わって
約束していた親友と見に行った。
親友との出会いもダンス。
高校生から一緒なだけあって
気心が知れている親友。
親友は後から旦那が合流すると
言っていたけれど
いつも親友の旦那は人混みが苦手なので
きっと気が変わって
多分最後まで2人だろうなと予想していた。
親友と旦那は
何とも羨ましい
高校時代から付き合って結婚した夫婦。
付き合いたても
同棲した時も
入籍した時も
結婚式も
ハネムーンの送り迎えまで
私は側にいた。
見守っていたという言葉を使えないのは
私はいつも
この夫婦に見守られている。
私が
恋をした時も
失恋した時も
同棲した時も
実家に帰った時も
いつも1番に2人は聞いてくれた。
ねぶた祭り初日の今日は
子供ねぶたといって
小さめのねぶたが出陣していて
ハネトと言われる
ねぶたと共に歩く踊り手も
幼稚園児がたくさんいる日。
お客さんも市民も少なめで
まだまだねぶたが本気を出さない。
そんな少し穏やかな日。
国道が歩行者天国になり
準備をしている幼稚園児をみながら
親友が
「あ、妊娠した。」と
サラッと報告してくれた。
私は嬉しさでついつい
「乾杯しよう!!!」と言ってしまった。
親友は全く拒否らずに
「うん!お茶で乾杯する!!」
と間違いを指摘せず話に乗ってくれた。
今日は終わったらいつものように
親友のうちに泊まるつもりでいたけど
どうしようか迷っていた。
でもきっとねぶたが終わったら
私が寂しくなることを予想して
家でつまみを用意してくれて
いるだろう。
それをそろそろ親友たちの自宅に帰り
テーブルを見た親友の旦那は
今日は私が来ると予測して
コンビニにいつものZIMAを
買いに行ってくれているだろう。
ようやく全てが歩行者天国になった国道。
よーいスタートで地元民は
椅子取りゲームのように見る場所を奪い合う。
私たちも自分たちで持って行った
アウトドア用の椅子を開いて
特等席を確保した。
そして妊婦になった親友に
「いいよ、待ってて」と言って
人混みの中にお茶とビールを買いに
出店に向かった。
この場合に限っては
コンビニの方が安くて
欲しいものが確実にあるので
コンビニへ向かった。
いつも使ってるコンビニは
今日は10倍の人だった。
缶ビールとお茶。
いつも2つ買ってたビールが1つになった。
時代が変わった。
また子供が落ち着いたら
親友といくらでも飲めるのに
さっきまですっごく嬉しかったのに
少しだけ寂しくなった。
買い物が終わって
また人をかき分けて椅子に戻り
2人でお茶とビールで乾杯した。
空はまだ明るい。
昨日まで白い小屋にいたねぶたは
やっと飛び出して睨み合いスタンバイしている。
囃子が始まるまで喧嘩を我慢しているようだ。
私の心が踊って仕方がない。
遂に花火が鳴った。
遂に今年も始まってしまう。
この合図で
心臓にお腹に全身に
太鼓の音が頭から足の先まで電気を走らせた。
私の興奮はピークに達した。
拍手も喝采でみんながねぶたの始まりに
興奮している。
そして一瞬だけ静まりかえり
全員が息を呑む。
囃子の先頭のひときわ目立つ1人が
横笛を奏でた。
全囃子の指揮をとったその音は
大きな太鼓、手振りがね、横笛
全てが一つでたくさんのねぶた囃子を
今年の青森ねぶた祭りをスタートさせた。
興奮がピークに達した私は
手に持っていたビールを一気に飲み干し
席でねぶたの魔法を全身で浴びていた。
コンビニまで行くのは面倒なので
すぐそこの出店で
ビールを買っては飲んでを
何度か繰り返していると
さっき準備していた
幼稚園児のハネトがまたやってきた。
小さい子特有の高い声で
ラセラーラセラーと頑張っていた。
ねぶたの掛け声が会場に響き
ねぶた祭りを盛り上げていた。
来年は親友の赤ちゃんも一緒かな。
楽しみだなぁ。
その頃わたしは何をしているんだろう。
その日は親友のうちに泊まるのかな。
新しい彼氏できてるかな。
ずっと先なのに来年のことを考えていた。
親友が携帯をみながら
「今日泊まると思ってポテチ出してたら
旦那がスミノフ買ってきたって!」
とスマホを見ながらそう話してくれた。
ねぶたに来ると言って
やっぱり最後まで来なかった親友の旦那
約束と違うそれでも
こうして2人は色々と
バランスをとっているのかな
なんて考えていた。
親友の体調が1番心配だったけれど
旦那も張り切ってくれていることだし
今日は甘えて泊まることにした。
今日のねぶたはあっさりと終わった。
1日目は毎年そうだ。
帰ってからは親友の旦那が
もうスタンバイしていて
飲み会がすぐにスタートした。
いい意味で親友の旦那は天然で
なんでもはっきりと聞いてくる。
もちろん今日一発目の一言目は
「彼氏できた?」と。
私はすかさず
「何回聞くねん!」と
津軽弁で関西弁の突っ込みを返す。
それが3人の乾杯の音頭のようなもので
いつも通りだった。
3本目を開け始めたら
3人のあくびが合唱を始めたので
今いる居間に布団を敷き始めた。
もう泊まるのに慣れすぎて
本当に眠く無くなる前に敷くのが
お決まりになっている。
私はもうどこに何があるか
マスターしているので
敷き終わるのはすぐだった。
敷き終わる前に親友はもう
寝室の方に寝に行ってしまっていた。
妊婦さんともあって
眠いのを我慢していたのかもしれない。
親友の旦那は
「まだ酒入ってるからなぁ」といいながら
残っているお酒を手に
ソファの上で飲んでいた。
私も残ってるお酒を持って
親友の旦那に向かって
「私に合ういい人がいたら紹介して!」
といつものことばで締めた。
親友の旦那は
「いやぁだって。
いつも好きになるタイプ違うから
どんな人が良いかわからないんだもん」
と笑いながら言って
残ったお酒をグイッと飲み干し
「おやすみー」と言って
寝室の方に行った。
私も布団に入った。
いつもと変わらない白い天井を眺めた。
またここにも
何年お世話になってるだろう
私は来年結婚してるかな。
2人が居れば寂しく無い。
だからここに泊まるのは好きだけど
どうしてもそのことを考えてしまう。
いつの間にか眠っていて
ねぶた祭りの初日を終えた。
ねぶた2日目。
まっすぐ仕事に行く準備をしていたら
親友の両親が朝早くやってきた。
もう私が泊まっててもびっくりしない。
今日は親友の両親もねぶたを見るらしい。
私も一緒に来ないか?と
誘ってもらったけど今日は大丈夫と言った。
ここまで来ると気は使わないけれど
親子水入らずという言葉があるので
また遊びに来る!と言って
私は仕事に向かった。
今日は誰とも約束をしていない。
1人で飲みに行きながらでも
見に行こうかなと
夜のことを考えながら
少し二日酔いで寝不足の体を
奮い立たせて仕事に励んだ。
仕事が終わると
ねぶたマジックからか
いつもクールで普段飲み会に参加しない
去年まで働いていた職場で
お世話になった女の先輩から
居酒屋で飲んでいるからこないか?と
メッセージが届いていた。
その女の先輩には本当にお世話になった。
仕事に厳しくて本当に飲み会にも参加しない。
けど一回だけ
私の仕事の相談を聞いてもらうために
帰りにご飯に行ったことがある。
正直少し怖いと思ってしまうくらい
おしゃべりもサバサバしている。
私はそんな先輩を
尊敬しすぎていて話す時緊張してしまう。
でもその先輩が今日は誘ってくれた。
私もねぶたでテンションが上がってるので
今向かいますね!と連絡し
先輩のいるという居酒屋に向かった。
国道から少しだけ道に入る居酒屋で
よく前を通るけど
あおもりと名前に入っていて
観光客向けだと勝手に思い込んでいたのもあり
行くのは初めてだった。
そのお店に行けるのも楽しみだった。
バスに乗り少し歩いてやっと着いた。
今日は外にテーブルが出してあり
飲みながらねぶたを見えるようにしてあって
そこに先輩が座って待っていた。
先輩は先に飲んでいて
顔が赤いのを初めてみた。
近づくとすぐに
「何飲む?」
「先輩何飲んでるんですか?」
「日本酒!一緒に飲もう。」
「良いですね!」
そんな会話をした後
「おーい!!日本酒!!」と
大きな声で店員さんに向かって呼びかけた。
先輩がフレンドリーに話してるのも
初めてみた。
先輩との挨拶もままならぬままに
その声を聞いたマスターらしき男性と
日本酒を持ったアルバイトらしき男性が
こちらの席に近付いてきた。
「マスターうちの元後輩です」
と先輩が紹介してくれた。
「初めまして、宜しくお願いします」と
先輩に恥じぬよう挨拶した。
続けて私に
「鈴木くん。めっちゃできるバイト君」と
バイト君を紹介してくれた。バイト君は
「初めまして」と爽やかに言ってくれた。
私ももちろん
「初めまして」と返したけれど
なんだかどこかで見たことがある気がして
それからそれをずっと考えていた。
マスターが
「ねぶたが始まったら料理も酒も落ち着くから、
また来るね!!」と言っていた。
私は時々直感が当たる。
きっとマスターと先輩は今いい感じで
付き合う寸前で。
今日もねぶたが始まったばかりで
お店に来たかったけれど
先輩の友達が主婦で誘えなかったり
普段誘える友達が一周回って
今日誘える分は底を尽きて
いつもと雰囲気が違っても問題のない
私をねぶたという口実も使って
誘ってくれたんだ。
一度ご飯に行って良かった。
先輩めっちゃかわええやん。
1人で来ないところも
緊張しててめちゃくちゃ女子やん。
と、津軽弁で関西弁の心のうちを
心の中にしまった。
「やっぱり外で飲むのは気持ちいいですね」
と言ったら見たことない微笑みで
「うん、ねぶたってこういうのがいいよね」と
日本酒に癒されながら先輩は
恋をしていた。
日本酒をまったり飲んでいると
また花火が鳴り、ねぶたが始まった。
ねぶたはしっかり見えるけれど
一本入った道なので囃子は見えず
今日の横笛さんは見れなかったけれど
音で充分興奮した。
ふわふわしている先輩と
しばらく雑談をしながらねぶたを見ていたら
さっきのマスターと鈴木君が
外の椅子の空いてる所に座った。
マスターと鈴木君は
全員分のビールを持ってきてくれた。
「かんぱーい!!」
私は日本酒と混ぜる不安を流し込むように
ビールを飲んだ。
でもやっぱり夏はビールだなと
ビールを美味しく飲んだ。
マスターが先輩に
「ねぶたの間の暇な時間になんでも作るよ?
何食べたい?なんでもいって!」というと
「今テーブルにあるので充分だよ飲もう!」と
言った。
マスターの
好きな人に好きなものを作りたい恋心と
先輩の
好きな人と飲みたい恋心が
渋滞していた。
マスターは鈴木君に
「あっ、鈴木君じゃさっき作ったアレお願い」
と言うと、鈴木君はお盆にいっぱいの
美味しそうなご馳走をたくさん運んでくれた。
先輩が「食べよ!!」と言ったので
「こんなご馳走食べながらねぶたが見れるなんて
幸せすぎます!!ありがとうございます!」
と言ったら先輩とマスターは喜んでくれた。
私は先輩とマスターが
楽しそうに会話しているのが楽しくて
横で頷きながら
本当に美味しい料理とお酒を
ねぶたと共に楽しんでいた。
すると鈴木君がマスターと先輩の話の
邪魔をしないようなボリュームの声で
「どこかで見たことあるんだけど、
会ったことある?」と
標準語で聞いてきた。
「私もそう思って。趣味でダンスと
バンドもやってるんだけど、鈴木君は?」
と聞いたら
「あっ、わかった!
この前ライブで歌ってたでしょ?
たかさんってBar TAKAさんのマスターと
同じライブで」すかさず私も
「あっ、わかった!
たかさんとこで前バイトしてたでしょ!
打ち上げの時働いてたもんね。」
と2人が初めましてではなかったことが
発覚した。
たかさんとは
趣味のバンドサークルの先輩で
バーの切り盛りをしている。
なんなら今日
先輩に誘われてなかったら
たかさんの所に行くつもりだったので
とてもびっくりした。
ここ数年たかさんの所で
この鈴木君を見なかったので
多分鈴木君は辞めたんだろうなぁと
思っていた。
なので行こうとしたことも
わざわざ話さなかった。
「そっか繋がったね!」と言って
また先輩とマスターの話に耳を傾けたり
立ち上がってねぶたを見に行ったり
この時間を大いに楽しんだ。
そしてまたねぶたの終わりの花火が鳴り
マスターと鈴木君は
「じゃ繁忙期行ってきまーす」と言って
中の仕事に戻った。
きっと先輩はマスターが仕事が終わるのを
待っているのだと思い
ここの閉店まで付き合うことにした。
酔っている先輩は
恋をしている先輩は
とってもかわいかった。
仕事に厳しくてできる女性が
女性になった瞬間
こんなにも変わるんだと美しく思えた。
やはりねぶた期間は
居酒屋の繁忙期もなかなかで
いつも1時に終わる居酒屋も
2時を回っていた。
でもねぶたマジックのお陰と
今日はフレンドリーな先輩のお陰で
お話に詰まることもなく
あっという間だったし
なんならまだ居たいと思った。
すると鈴木君がやってきて
「ラストオーダーは無いですか?」と
聞きにきた。まだお酒も入っていたので
「大丈夫です!!」と言って
しばらくすると鈴木君がお会計を持ってきた。
私がお財布を出すと
「いいよ今日はまた飲もう」と
先輩が言ってくれた。私は
「また飲みたいんでとってください!」と
言った。すると小さい声で
「マスター相当おまけしてくれたの。
じゃ1000円で良い!」と言ってくれた。
私はニヤニヤしてしまうのを抑えて
「わかりました、ありがとうございます!
また絶対飲みましょうね!」と言った。
先輩は最高に可愛い微笑みで
「ありがとう」と言った。
大分お客さんがはけてきて
いつお店から出ようか悩んでいると
鈴木君が帰りの挨拶にやってきた。
これはチャンスだと思い
「先輩、鈴木君と出ますね!また!」と言って
早々とマスターと2人きりにした。
多分それをわかった鈴木君は
外に出ると笑顔で
「またお店に遊びにきてね!」と
手を振ってどこかに向かった。
私も「うんまた。お店に先輩と!来るね!」
とニヤニヤした笑顔で答えた。
家の方向に歩いて向かうと
まだ青森の新町には人が沢山いる。
ねぶたらしい。
桟敷席には酔っ払いが横になって寝ていたり
目が合うとナンパされるだろうというくらい
人がじろじろ見てきたり
東京の歌舞伎町に今だけは負けないくらい
人がいるように感じた。
すると
そのじろじろ見てきた1人が
通り過ぎた後に
「あ、あれ、元カノ。」と言っていた。
声で誰か分かったけれど
絶対に見ないように気づかないふりをした。
あいつと別れてから
どれくらい経ったっけ。
私はあいつと別れたショックより
人を信じることが怖くなったトラウマで
なかなか好きになる人ができない。
そして1人の夜が苦手になってしまった。
元カレの声を聞いて少し動揺して
いつもの場所より少し早めに
タクシーに乗った。
もうあいつに意図的に会うことは無い。
自分を見つめ直すきっかけになった。
嘘でもお礼を言おう。
10分くらいで家に着き
眠り支度を始めた。
みんなはもうもちろん寝ていた。
静かに静かに眠る準備をする。
ベッドに入って独り言で
嘘だけど元カレに
「ありがとう」と言ってみた。
すると今日先輩が最後に言ってくれた
「ありがとう」を思い出した。
自分の恋じゃないけど恋をするって良いなと
1人の夜が寂しいながらに
嬉しい気持ちが込み上げた。
新しい恋できるといいな。
3日目
また寝不足で仕事が始まる。でも
今日はまた何かが違う。
そう。今日は週末。
飲む気満々で今日は
ダンス仲間を全員を誘った。
前夜祭で一緒に飲んだ仲間も親友も
全員合わせたら女子10人にもなった。
週に一度だけのレッスンに
10年間一緒に習っているだけなのに
発表会やイベントを通して
先生のおかげさまで
みんなの絆が強くなっていっている。
そしてダンスの先生は先生の傍ら
Barの切り盛りをしている。
女性でシングルマザーでダンスの先生で
私は全てにおいて
高校生の時から尊敬というより
崇拝に近い感情で先生と長年接している。
今日はその先生が切り盛りしている
青森の飲み屋街、本町にある
BluesBarにみんなを招集した。
先生が早くきて良いよと言ったので
私は仕事が終わった後誰よりも早く
お店に向かった。
お店に入ると先生はさすが
Barなのにみんなの夕飯を用意してくれていた。
おにぎりに玉子焼き
焼きそばにウインナー。
みんなのお母さんのようなお姉さんのような
そんな役割も担う大きい存在の先生。
「こんばんは!」と言って先生に挨拶をした。
先生は「おかえりー!」と言ってくれて
「みんなのご飯足りるかなぁ」
と心配をしてくれた。
どこまでも優しい先生に癒された上に
私の心の中は
人が集まる嬉しさと
夏の陽気と
夕方と夜の境目と
ねぶたの魔法で
ワクワクがどこまでも溢れていた。
先生は1人来るたびに
「おかえりー」と声を掛けて
みんなもそれに合わせて「おかえりー」と
声を掛けた。
段々と「おかえりー」の声が大きくなり
最後の1人がやってきてみんなが集まった。
そして
「お店の椅子持っていって良いから
外に行こう!」と椅子を貸してくれた。
みんなチームワークがよく
椅子を持つ人
先生が作ってくれたご飯を持つ人
飲み物を持つ人と大体で分かれて
一瞬で外の宴会の準備ができた。
今日の場所も目の前は通らないけど
ねぶたがよく見えるとても良い場所。
歩行者天国になったおかげで
交差点の近くでねぶたがみえる。
ねぶたが始まる前に
「かんぱーい!!」と女子の高い声が響いた。
すると近くで見ていたおじさま方が
「いいなー若いって!!」と言った。
みんなは笑って笑顔で流そうとしたら
そのおじさまの1人が
「これで美味しいもんもっと食べな!」
と言って私に一万円をくれた。
「えー!!」と言って返したけれど
おじさま方は行くところがあったのか
「楽しんでねー若いものたち!」と言って
去っていった。
私はすぐに先生に渡して
「今日の飲み代これから引いてください」
と言った。すると先生は
「じゃ今日これしかいらない!」と言った。
10人全員が口を揃えて
「いやいやいやいやいやいや」と
みんなが財布を出し始めた。
先生が受け取ろうとしないので
「じゃ先生1000円は取ってください」
と言ってみんなから1000円を集めた。
先生は「ありがとう!これからもみんなで
頑張って行こうね!」と言って
みんなはまた宴会を楽しみ始めた。
またねぶたは見えるけど
囃子が見えない位置だったので
私は1人で「ちょっと笛みてくる!」
と言って少しみんなと離れて行った。
すると新町通りに向かっている男性が
こっちに手を振っていた。
よくよく見ると昨日の鈴木君だった。
「仕事?頑張ってねー!」というと
鈴木君は大きく頷いて
昨日の居酒屋の方にまた歩いていった。
花火が鳴り、太鼓が鳴り
また拍手喝采。
今日は週末ともあり人が多い。
3日目の今日からは
大型ねぶたといって
子供ねぶたより大きいねぶたが
青森を練り歩く。
迫力のある本気を出したねぶたは
活気がすごくていつもより圧倒される。
週末ともあって人も多い。
そのねぶたに圧倒された。
やっぱり1人でねぶたをみるのは
なんだか恐かった。
大きな太鼓が鎮まりまた息を呑む。
そして横笛が合図を奏でた。
太鼓と手振り鉦と横笛の
一気に大きな音を全身に浴びて
興奮しながらみんなの元に帰った。
すると親友が
「良いことあった?」と聞いてきた。
私は特に心当たりがなかったので
「ううん」と答えた。
女子が10人も集まるので
本当に色んな話が飛び交う。
話すのが好きだけど聞くのも好きなので
本当にワクワクが止まらなかった。
そして親友が
「あっ、妊娠しましたー!!」と
みんなに報告をした。
するとみんなが拍手して
「わぁ!!おめでとう!」と言った。
すると画家を仕事にしている
なんとも稀少価値が高い仲間が
「大きくなったらお腹に絵描かせてください」と
親友に言った。親友は喜んで
「ぜひ!お願いする!!」と言っていた。
画家の仲間は「さぁさぁ」といって
親友に先生の作ったおかずを沢山お皿に乗せて
食べさせようとみんなを笑わせた。
ダンスの先生になった仲間
学校の先生になった仲間
保育士になった仲間
アパレル店員になった仲間
まだ学生さんの仲間
10年以上一緒にいると
時代がどんどん変わっていく。
また将来のことを考えそうになった。
「さっき手振ってたの誰??」と
美容師の仲間が聞いてきた。
最初は誰のことかと思ったけど
「あー!昨日行った居酒屋の店員さん。」
と言った。誰も見てないと思ったから
びっくりしただけなんだけど
「すごい楽しそうにしてたからさ」と
言っていて、何でもないのに少し照れた。
続けて美容師の仲間が
「3日の法則って知ってる??
会いたいって思う人に
3日以内に会うとまた会いたいって思って
またその3日以内に会うと
また欲求が満たされて何度も会いたいって
気持ちになるんだって」
私は「へぇー」と感心して聞いていた。
「ま、だから美容室に来てくれたお客様には
3日以内に連絡してそのまた3日以内に
メンテナンス大丈夫ですか?っていう
連絡をする事でリピーター様になって頂く
経営のお話なんだけどね。」と言った。
みんなも「へぇー!」と感心していた。
大通りでは観光客の
大きな叫び声が聞こえた。
全ての大型ねぶたが出陣している今日
交差点ではねぶたがぐるぐると回って
一周して見せた上に
お客様のギリギリまで
ねぶたを近づけてより迫力を出していた。
終わりの花火が鳴った。
「あーあ明日帰りたくなーい」
旦那さんの転勤で県外に行ってしまった仲間が
本当に寂しそうに話していた。
私にはあと2回ねぶたがあるけれど
明日帰る仲間はねぶたが終わるだけでなく
地元を離れて家庭を守る義務がある。
寂しそうにしている仲間は
どこかかっこよかった。
「さて中に入りますか!」と先生が言うと
「はーい!!」といってまた
素晴らしいチームワークで
荷物を中へと一瞬で運んだ。
心の中で
よし!今日も朝まで飲むぞ!と
思っていたら
妊娠している親友と明日県外に帰る仲間が
「今日はこれで帰ります!」と言った。
続けて美容師の仲間が
「あー、明日仕事だしなぁ」と言った。
すると先生が
「来年もまたあるし、違う日も会えるし
今日はこれでお開きにしよっか!
妊婦のカラダくれぐれもお大事にね!」
と言った。
他のみんなもそれで納得していた。
そうかそうだよ
時代は変わったんだよ。
寂しい自分に教えてあげた。
「じゃ、またねー」といって
これから仕事の先生を後にし
みんなもそれぞれ散って行った。
てくてく飲み屋街の本町を歩いていた。
帰る方に向かって寂しいけれど
無理矢理足を運ばせた。
人混みの本町はねぶた期間だけなので
それをも楽しもうとなんとか歩いていた。
すると
BarTAKAのたかさんと会った。
「久しぶりー!とりあえず入ろう!」と
荒手のキャッチのようなナンパのような
強引にお店に連れて行かれた。
たかさんらしいなと笑えた。
みんなと解散して
寂しい私にはぴったりだった。
BarTAKAは2階にある。
酔っ払いには少し急な階段で
20段くらいいつもある気がしてる。
登るのにも降りるのにさえ一苦労なんだけど
それでも人が来るのは
たかさんの人柄なのだろう。
お店はカウンターが6席で
4人がけのテーブル席が2つ
即席の2人がけ用テーブル席が1つある。
中に入るとバイトちゃんと男性が2人いた。
男性は端と端にカウンターの両脇に座っていて
1人とバイトちゃんは良い感じに見えた。
バイトちゃんのいない方の男性の隣
お店の奥のカウンター席に通された。
「何飲むー?」
「テキーラサンライズ!」
「変わんねーな!」
そう。
変わらないのは私だけかもしれない。
隣に座っていたのは
年に一回だけ、ねぶた期間だけ
大阪から来ると言う
大型トラックの運転手の兄ちゃんで
マスターと3人で話した。
たかさんが「何歳になったんだっけ?」
と聞いてきたけど、変わらないという言葉が
いつになく引っ掛かってしまって
私は目を合わせずに「28」と言った。
大阪の兄ちゃんが
「若いなあ。独身??」と言ったので
「うん。」と答えた。
すると
「アイツのことまだ好きなの?」
とたかさんに言われた。
「別に。」と答えた。
するとタイミングが良かったのか
団体さんが入ってきて
この会話が終わった。
たかさんはよく分からなくても
今現在彼氏がいないと言うと
だいたい昔を引きずっている程になる。
だから別に。の回答で正解だった。
なんやかんやで
隣の大阪の兄ちゃんと話が弾んだ。
時計をみたら24時を回っていた。
いつもだったらダンス仲間といても
まだ一緒にいる時間だったな。
そんな風に思いながら
朝まで飲む気合いはどこかに消えて
帰ろうとしたけれど
たかさんが忙しそうでお会計を躊躇していたら
団体さんが急に帰って
たかさんとまた3人で会話をした。
大阪の兄ちゃんは大阪に家族がいて
大型トラックの運転手らしく
何年か前に青森ねぶた祭りに感動して
毎年仕事をくっつけて
来るようになったらしい。
青森ねぶた祭りを気に入ってくれて
嬉しかった。
「で、ここのBARに捕まっちゃったわけ。」
というと、たかさんが
「なんでや!本当は捕まって嬉しいべや!」と
津軽弁で反抗していた。
すると急に大阪の兄ちゃんが
「あ、鈴木どうしてるかな?鈴木呼んだろ!」
と言って、携帯の電話帳をいじり始めた。
「一昨日も飲みにきてだな、呼ぶべ!」と
たかさんが言った。
私が「鈴木?あの鈴木くん?かな?」と
言ったら、たかさんが
「うわぁ、青森狭い!恐い!なんで?」と
何で知り合いか聞いてきた。
「え、なんで?どの鈴木が言ってないじゃん!」
と私がいうと
「え、ここのバイトの鈴木のことでしょ?
おまえさん話したことあったっけ?」
「ここでは話したこと無いけど、一昨日鈴木くんの居酒屋に先輩から誘われて行った!
それでたかさんのとこのバイトだよねって
話しただけだよ!」
また、たかさんは
「うわぁ、青森狭い!恐い!」と言った。
確かに分かると思った。
すると大阪の兄ちゃんは
鈴木くんに電話を始めた。
大阪の兄ちゃんが小さな声で
「今日は来ないって言ってるから出て」
と言ったので電話に出てみた。
「あ、鈴木くん?
一昨日居酒屋で会ったんだけどわかる?
今たかさんの所に来てるからぜひ来ない?」
と聞いたら
「あ、今すぐ行くね!」と言ってくれた。
電話を切って
大阪の兄ちゃんとたかさんに言うと
「うわぁ俺たちだけだと来ないのかよ」と
いない鈴木くんに突っ込んでいた。
ものの2.3分で鈴木くんが来た。
鈴木くんは有無を言わずに
バイトちゃんに「ビール!」と言って
私の隣に座った。
大阪の兄ちゃんとたかさんは
「ずっきーお前最初来ねーつったべや」
「ずっきーお前最初きぃひんってゆーたやん」
と本物の津軽弁と関西弁がハモって
私はそっちに感動して笑ってしまった。
そして鈴木くんがそれを無視するように
「そういえば名前聞いてなかったね」
といった。私は
「あいだよ」と答えた。
「あいちゃん宜しくね!俺はずっきーって
呼ばれてる。宜しくね!」
そう言ってくれたので
「ずっきーくん宜しくね!」と言った。
するとたかさんが
「で、なに?あいの事好きでここに来たの?」
とずっきーくんを冷やかし始めた。
するとずっきーくんは
「えぇそうですけど何か?」と言った。
「マジか!え!マジか!」とヤケに
喜んでいたので不思議だった。
私はたかさんの言う事だし
初めて会ったプライベートのずっきーくんだし
全く真に受けなかった。
大阪の兄ちゃんも混ざって
男3人で話し始めた。
話を聞いていると
ずっきーくんは東京から
青森に遊びに来たときに
ただただ青森が気に入って
住んでしまったらしい。
それも今青森3年目で安定した仕事が
居酒屋さんで決まり
時々今もたかさんを手伝っているとのこと。
それからそれから
青森に来てからBARに遊びに来る女の子を
たかさんが何人か紹介するんだけど
仲良くなっても付き合わないから
色々心配してるんだと
私にも説明してきた。
私は「へぇー!そうなんだ!」と
言うしか無かった。
「で?ずっきー、あいのことどんだんず?」
「いやだからいいなーと思って」
「じゃ、あいは?あいはずっきーどお?」
私は正直
たかさんであろうとずっきーくんであろうと
そうじゃなかろうと。
別に誰でもそうなんだけど
この聞き方と答え方は
本気の人がやるべきでは無いと思っている。
だから本当に面倒くさくて
「んーよく分からない」と
模範解答をした。
「有りか無しかどっちか!」
とたかさんが聞いてきたのが
しつこかった。
「今は無いに決まってるじゃん!
会ったばかりでわかんないよ。」と
少し強く答えた。
「今はだって!ずっきー頑張れ!!」
と言ってやっとこの話が終わった。
正直言って
ずっきーくんの第一印象は良かった。
居酒屋で爽やかに挨拶してくれて
仕事も頑張っていて
先輩にはできるバイトくんと言われていた。
でも今日のずっきーくんは
凄くチャラい人間に思えた。
だから私はあまり関わりたくなくて
流石に帰ることにした。
もう3時だった。
結局朝まで飲んでしまった。
するとずっきーくんが
「もう一杯行こうよ」と言った。
え?今から?と思ったけれど
そう。今日はねぶたの週末なのだ。
私が何て言おうか悩んでいると
たかさんが出したお会計を
ずっきーくんが私の分も出してくれた。
びっくりしながらお礼をいうと
すかさずたかさんが
「ほら、閉店!次にみんなでいくぞー!」と
言った。
バイトちゃんやその仲間も
大阪の兄ちゃんも一緒らしく
それなら良いかと
私も次に行くことにした。
さっきまで何ともいえなかったテンションは
またねぶたマジックにかかって
私の気分を高揚させてくれた。
BarTAKAを出ようとすると
ずっきーくんが高い階段を気遣って
私の前をリードしてくれた。
落ちないように下を歩こうのしたのだけど
ずっきーくんこそ酔っ払っていて
20段ある階段の1番上で躓いた。
私は一瞬青ざめたと同時に
ずっきーくんは
一瞬で1番下まで一気に走って降りて行った。
怪我は無くて良かったけど
行動がチャラくてしかも格好が付いてなくて
あまり嬉しく無かった。
階段をゆっくり降りて道路沿いに出ると
まだのまだ人がいた。
流石はねぶたの上に週末だ。
徒歩1分かからない
次にいったのは初めてのお店で
薄暗くて静かだった。
昔スナックだった作りで
床は赤っぽい絨毯に
カウンターが6席と
ボックスが3つあった。
その薄暗くて静かなせいで
大分酔いが回り眠くなってしまった。
なのでずっきーくんに謝って
帰ることにした。
すると一緒に来たたかさんは
「一緒に帰れば」とずっきーくんに言ったけど
私は有無を言わさず
「いや大丈夫。」と言った。
すると
「ふられでらー!!」とまたたかさんは
ずっきーくんを冷やかしていたけれど
私はそういうノリで付き合うとかが
1番嫌なので放っておいた。
ずっきーくんは入口まで送ってくれた。
すると
「ね、連絡先交換しよ!」と言ってきたので
今のずっきーくんと第一印象のずっきーくんが
どっちが本当なのか知りたかったので
「うん、良いよ」と答えて交換した。
「じゃ気をつけてね」と言って
ずっきーくんはみんなの元に帰った。
もう外は明るくなっていた。
タクシーもすぐに捕まった。
朝まで飲んでいた去年までと
同じ日をやっと過ごした気がする。
金曜日。ねぶた3日目。8月4日。
嬉しいわけじゃ無いけど
いつもとはちょっと違うそんな日だった。
いつもと同じような違うような
わたしは寝る準備をして
不思議な気持ちで布団に入った。
ねぶた祭り4日目。
今日の5日はねぶた祭りで最大のイベント
「審査」が行われる。
跳人も囃子も審査があるので
各会社がとても張り切る日だ。
私は仕事が休みなので
ねぶたの為にゆっくりと寝た。
独身貴族の特権だ。
窓からの太陽の熱気が耐えられなくなり
お昼頃起きると
甥っ子が遊びに来ていて
賑やかで楽しい雰囲気の居間になっていた。
今日来た兄家族は市内ではあるものの
中心からは少し遠くに住んでいて
今日は甥っ子とねぶたを見に来たらしい。
知り合いの多い父はすぐに
甥っ子のためにいい席を用意した。
私も今日はそれに一緒に行くことにした。
友達からその後に誘われて
断ってしまったけれど
今日は審査なので私もねぶたを
しっかりと観る機会になった。
お昼はみんなでラーメンを食べて
甥っ子と遊んだりふざけて喧嘩してみたり
あっという間に夕方になって
みんなで出発した。
着いた先は
国道沿いのとてもいい席。
観光客にでもなった気分だった。
父に頼むといつもこういう席を
用意してくれる。
でもいつもだと悪いので
私は家族と一緒の時だけ
しっかり観ることにしている。
甥っ子が
「クルトフランク」と
フランクフルトを逆に言って
食べたいとアピールしてきた。
その間違いが可愛すぎて笑ってしまったら
本気でお腹が空いてる甥っ子は
「あいちゃん嫌い!」と
怒ってしまった。
でも買ってきたら機嫌は
すぐに直るのがわかっていたので
私は急いで買いに行った。
今日父が用意してくれた席は
この前行った居酒屋は遠い。
昨日行ったBARも遠い。
だから
ずっきーくんと偶然会うことはないけど
なんとなく会えるんじゃないかって
思っている自分に気がつくと
私は少しチャラいずっきーくんを思い出して
ずっきーくんの事を忘れようとした。
恋をするのが恐いから。
もうあんな恋はしたくない。
好かれて好きになって
一生を考えた先に
浮気という名の関係に
私の未来は潰された。
家族みんなの
悲しい顔が今も忘れられない。
そんなことを思い出しながら
家族みんなの笑顔が揃っている
先ほどの元へ戻った。
フランクフルトを半分食べた甥っ子は
やっぱりすぐに機嫌を直してくれた。
まだねぶたの通らない大きな道路へ
飛び出して行ったり
知らない子とおしゃべりしたりして
みんなを微笑ませていた。
こっちに戻ると
「あいちゃんフランクフルトありがと」
なぜこのタイミングだったかわからないけど
そう言ってまた走り出した。
間違わないで言えるようになった甥っ子は
いつまで私と遊んでくれるだろうか。
少しずつ成長する甥っ子にまで
時代は変わること痛感させられた。
今日もまた
花火が鳴り、その合図で太鼓が始まり、
静まり返り、横笛が準備をする。
この繰り返しのルーティンに
慣れてきたけれど
もう少しで夏は終わってしまう。
今年の花火も親友とかな。
嬉しい。けど。
考え事をしていたら
あっという間に5日のねぶたは
終わってしまった。
ねぶたをしっかり見る予定だったのに
あと1日あると思ったからか
気が緩んでしまっていた。
するとずっきーくんから
メールが来ていた。
「今日もねぶた出てる?
仕事終わったら飲まない?」
私は甥っ子が帰ってしまったら
寂しくなるのがわかっていて
正解かどうかわからなかったけど
つい行くと即答してしまった。
でも何時にどこなどと約束していないので
今日の家族との予定を優先することにした。
これから家族みんなで
ご飯もしっかり食べることになった。
母が屋台の食べ物は
種類があり過ぎて選べなくて
結局何も食べないのがいつものパタンなので
それもわかって父はお店を用意していた。
父に場所を提供してくれた知り合いの
少しだけ高級感ある居酒屋へ向かう。
甥っ子はいつも頼む玉子焼きを
既に楽しみにスキップしながら歩いていた。
居酒屋に着くと少し狭めだけど
6人用の個室に案内してくれた。
甥っ子は着いた瞬間から
部屋を走り回って転んで
ママに叱られていた。
みんながテーブルを囲んで微笑む。
甥っ子を心配したり時には怒ったり。
この普通をこの幸せを
みんなの笑顔をつくるにはきっと
「結婚妊娠出産」が第一前提なんだ。
ご飯を食べ終わって
みんなが帰ろうとしたので
私は知り合いの店に寄ると言って
みんなとバイバイした。
甥っ子はもうママの背中で寝ていて
私は寝ている甥っ子と握手した。
携帯をみるとずっきーくんから
メールが来ていた。
「たかさんとこでいいよね?
待ってるから!」とあった。
なぜだろう
行きたいのに行きたくない。
行くって言ったのに行かないって言いたい。
この恋をする前の気持ちが
全く嬉しくない。
けど今目の前にある
チャンスらしきものに飛び込まなければ
私は一生独身かもしれない。
とりあえず行こうと
ずっきーくんがいる
たかさんのお店に向かった。
お店に6つしかないカウンターは
全て埋まっていて補助席まで出されていた。
でも入るとずっきーくんが手招きして
荷物を置いていた隣の席の荷物を取って
座るように誘われた。
私は素直にそこに座った。
カウンターからバイトちゃんが
「何飲みますか??」と聞いてきたので
何となく落ち着きたかった私は
「一回ウーロン茶でお願いします。」と
頼んだ。もちろん
「今日は飲んでないの?飲まないの?」
そんな質問から始まる。
私は用意していた言葉を並べて
「飲むよ。一回休憩。」と言ったら
ずっきーくんは
「良かったー」と言った。
正直飲まなくても楽しめる人で
あって欲しかったけれど
とりあえずそこは流した。
するとたかさんがやってきて
「おめだぢ付き合ってまれ」
津軽弁でそう言われた。
するとずっきーくんが
「俺、今日、告白しようと思ってたのに
邪魔しないでくださいよー」
と言った。
続けてたかさんが
「で、どんだんず?」
私は多分1,2分の間に
ものすごい量のことを天秤にかけた。
ずっきーくんをもう少し知るべきか
向こうの一目惚れを信じるべきか
焦らず保留にすべきか
彼氏をとにもかくも作るべきか
付き合ったら好きになるかな
好きになったら結婚できるかな
結婚できたら両親は気に入ってくれるかな
私から出た言葉は
「え?今?お酒入ってるんだけど。」
照れと本当に怒りとが入り混じって
多分相当強い言い方をした。
するとずっきーくんは
「俺、本当だから。本当だから、
また後で2人で話したいな。」
無責任にたかさんは向こうのテーブルに
行ってしまい、私はこの答えには
「うん、わかった。」
としっかり答えた。
でも。今日か。
さっきお酒入ってるって
言ったばかりなんだけどな。
そう思いながら
他愛もない話を続けた。
「明日でねぶた最後だね。
いつもこうやって結構飲みに出るの?」
と聞かれた。
よく飲みに出てたけど
今年からはそんなに出たくなくなったから
なんて言えば良いか考えた上に
「最近は出なくなったかな。」
そう答えた。すると
「えー寂しいじゃん、これからも飲もうよ」
と言ってきた。
私はなんて答えたら良いか分からなかった。
「ずっきーくんはよく飲むの?」
「ま、夜の仕事だからね。毎日飲んでる。
たかさんのとこにもしょっちゅうきてるよ。」
正直なところ私は
毎日飲む時間とお金があっていいねと
思ってしまった。
居酒屋とはいえ夜に生活をしてると
噂で聞いてた通り
本当にこうなるんだなぁとも思った。
「そうなんだ。楽しそうで良いね。」
そう答えると一度会話が終わった。
もし去年までの私だったら
毎日夜出る事は気にならないし
私もお酒と人が集まるところは大好きなので
今の会話に違和感は感じなかっただろう。
しばらくすると
「いらっしゃいませー」
とバイトちゃんが言った。
なんとなくみんな入り口に目をやると
「ヤマモトケイイチじゃーん!!」と
数人の大きな声がハモった。
私はお笑いの?と思ったけど
そこにその本人の姿はなく
背が高くて爽やかそうな青年が
そこに立っていた。
「ヤマケイ!こっちの端に座りなよ」
と言ってずっきーくんは立ち上がって
その青年を私の隣に座らせた。
いつもなら愛想良くできる私なのに
何が起きたかよく分からなくなって
私はそちらを振り向けなかった。
たかさんが
「ずっきーの彼女」と紹介してきた。
そのヤマケイ君の顔をなぜか見れず
「いや、違うし。」と小さな声で言った。
私はこれを予想していたから
愛想よく振りまけなかったんだ。
そう気づいた。
きっとヤマケイ君には
悪い印象与えただろうなと
胸の辺りがモヤッとした。
するとずっきーくんが
「ちょっと昔に戻りますかぁ」
と言ってカウンターへ入って行った。
ずっきーくんがヤマケイくんの前に立ち
ちょっと久しぶりだねなどと
話していた。
ヤマケイ君は標準語だと気づく。
ずっきーくんも標準語なので
一瞬青森にいることを忘れていた。
ずっきーくんは3人で話そうとしてくれて
私も会話に混ざった。
「ヤマケイ!こちらはあいちゃん。」
というと、すかさずヤマケイ君が
「え、ずっきーさん彼女出来たんですか?」
と言った。私は首を振って何も言わなかった。
するとなぜか
ずっきーくんも何も言わなかったので
私がすかさず
「違いますよ!」と笑顔で言った。
やっとヤマケイ君と笑顔で話せた。
するとヤマケイ君は
「初めまして。ヤマケイです。」
と笑顔でもなく真顔でもなく
ごく普通のテンションで自己紹介してくれた。
生まれは九州。
お仕事は公務員さんで転勤族らしい。
けどずっきーくんと同じで
青森が気に入って
一度転勤を断ったとのこと。
ヤマケイ君も青森を気に入ってくれて
そんなに地元に興味があったわけじゃ無いのに
なんだか嬉しかった。
少しずつ店も空いてきたのだけど
また新しく常連さんっぽい人が入ってきて
真っ先にヤマケイ君の所に向かってきた。
彼女かな?と思ったけれど
会話を聞いていたら
待ち合わせしたわけでもなく
女性は偶然会えたことを喜んでいて
彼女さんでは無いようだった。けれど
ヤマケイ君にピッタリくっついていた。
夏って感じだなーと
私は勝手に1人の世界に入っていた。
しばらくするとまた、たかさんが
「はい!閉めます!次行くぞ!」と言った。
気付くと1人になってたヤマケイ君に
「ヤマケイ君も行くの?」と聞いた。
すると意外にも
「あいさんはどうするんですか?」
と聞いてきたので
「私は明日休みだから行こうかな」
と答えると
「じゃ俺も行こうかな」
と言ってきた。
あまり深くは考えなかったけど
とりあえずずっきーくんがカウンターで
違う方にいたので
一緒に行ってくれる人が決まって
良かったと思った。
たかさんが出るように促したので
とりあえずずっきーくんはわからないけど
ヤマケイ君と外に出て
また急な階段を降りようとした。
ヤマケイ君は自然に下に立って
「酔ってない?大丈夫?」と聞いてくれた。
「うん、ありがとう」と答えて
下まで降りて行った。
私は道路に出ると私は
「さっきの女の子は?」と聞いた。
「んー分からない。帰ったのかな」と
本当にわからなそうにヤマケイ君は答えた。
自然にこの前のBARに
2人は歩いて着いた。
ドアを開けるとそこのマスターは
「あ!ヤマケイと!この前の!
たかたちくる?」
と覚えててくれた。ヤマケイ君は
「来ますよ」と答えて
ボックス側に2人で腰掛けた。
たかさんとは真逆の物静かなマスターと
ずっきーくんとは何かが逆のヤマケイ君。
新しく出会った2人なのに
何も喋らなくて良いこの空間が
心地良かった。
すると私は携帯が無いことに気付く。
慌てて探していると
ヤマケイ君が電話をならしてくれた。
見つかってホッとしたのも束の間
ものすごいテンションで
たかさんとずっきーくんと
バイトちゃんとさっきの女の子と
後はわからないけど
8人位でやってきた。
さっきの女の子はたった今まで
ずっきーくんと腕を組んでいたのがわかった。
ずっきーくんが嫌がってるのもわかったけど
それよりもものすごい勢いで
わたしとヤマケイ君の間に座ってきた、、
びっくりしたけど
正直若い頃そうしたくなった事があるので
気持ちは少しわかる気がした。
この子はきっと
本命はヤマケイ君なのに
相手をあまりしてくれないから
津軽弁でいうとエヘていて
酔いも回って
気持ちに整理がつかないのだろう。
わかるわかる。
自然とヤマケイ君と離されて
違う方の隣にはずっきーくんが座った。
「ねぇあいちゃん、一瞬いい?」
と言われ、入り口の外に向かったので
私が忘れ物でもしたのかと思うと
ドアの音がしないように
ずっきーくんはそっと開け閉めした。
「どうしたの?」と聞くと
「さっきの話。俺と付き合ってくれない?」
私はあっ。と思った。
「さっきも言ったけどお酒入ってるから
信用できない。」
当たり前のことをそう答えた。
するとずっきーくんは
「じゃお酒がはいってなかったら
オッケーってこと?」と聞いてきた。
私は本当はお酒が入ってる事で
逃げていることに気がついた。
私は本当に本当の心の声を聞くのが
とっても苦手だ。
だから考えることから逃げてただけで
お酒なんて関係ないんだ。
「明日また考えて話そう。」
そう答えた。
私はこのまま帰ることを伝えて
小さなカバンから財布を出すと
「今日の分は出すよ」
そうずっきーくんが言ってくれた。
「昨日もだから」というと
「今度奢って!またね!」と言って
何とも言えない表情で中に入っていった。
私はタクシーを捕まえるまでというより
考えたくて歩いた。
そう言えばねぶた2日目に
元彼と会った道に辿り着いた。
私、ずっきーくんと付き合ってみようかな。
そう。元彼とは違う人。
まだ知り合って間もないけど
そんなにすぐ私を好きになってくれる人も
なかなかいないよね。
お酒を飲むとちょっとチャラいけど
仕事の時は真面目で爽やかで
いい人だった。
なんだか
お店に戻って行く時の
寂しそうなずっきーくんの顔が
本気度を伝えてくれた気がして
頭から離れなかった。
明日伝えよう。
ねぶた最終日。
朝起きると母とねぶたの大賞の
話になった。
今年のねぶた大賞は
初の女性ねぶた絵師さんが
勝ち取ったという。
ローカル番組で
「母の私にしかできない作品を作った。」
と話していた。
その作品はねぶたながらに
やはりどことなく柔らかで
確かに女性らしさというものが
弱いという意味では決してなく
母親の強さとしてはっきりと出ていた。
女性は母になる。
初の女性絵師が誕生したことで
また時代が変わったことを思わせると共に
私もそろそろ考えなきゃと
また何とも言えない気持ちになった。
最終日か。今年は最終日が日曜日か。
最終日なのにもう夕方にもなったのに
誰とも見る気になれなかった。
ずっきーくんに気持ちを伝えるべきか。
私は携帯をずっと見つめていた。
すると昨日の着信に知らない番号があって
誰だろうとボタンを押したら
間違って電話をかけてしまった。
慌てて切ろうとしたら
「もしもし?」
と声が聞こえてしまった。
私は声でわかったのでとっさに
「あ、ヤマケイ君?あいだけど。」
「うん。」
「この番号誰のだったか思い出せなくて
考えてたら間違ってボタン押しちゃったの
ごめんね!!携帯探してくれた時のだね。
本当ごめんね!」
「あー、そうだね。大丈夫だよ」
そう言ってくれたのに安心して
電話を切ろうとした。
するとヤマケイ君が
「今日もずっきーさんと会うの?」
と聞いてきたので
「うん、軽く約束してるんだけど
まだちゃんと決まってないし
ずっきーくんは仕事が終わった後だから
多分遅くなるんだ。だからわからない。」
ヤマケイ君は
「そっか。今日仕事の人と
ねぶたに行く予定だったんだけど
さっき行けなくなったから
ずっきーさん待ってる間一緒にみない??」
ねぶた最終日にやる気がなくなっている
自分がすごくもったいなかったので
とてもありがたい誘いだった。
「いいね!そうしよう!」
「じゃ待ち合わせは、、、
俺もう今車で迎えに行こうか?
ねぶた開始までそんなに時間無いしね。
駐車場からは少し歩くけど。」
「え?いいの?ありがとう!」
最寄りのコンビニを伝えて
ヤマケイ君とねぶたに行くことになった。
コンビニに向かってまもなく
ヤマケイ君から着信が鳴ったけど
電話には出ないで駐車場に向かい
ヤマケイ君を探した。
すると右から3番目の
かっこいい車の運転席から電話を切りながら
ヤマケイ君が顔を出した。
「もう駐車場も無くなってくるから
急いで行こう!」
「うん、そうだね!宜しく!」
と言って車に乗せてもらった。
ノリでこうなってしまったけど
車が走り出してから
知り合って間もない男性の車に
乗ってしまったと気付いた。
でもなんとなく
ヤマケイ君には最初から警戒心が無かった、
「急にごめんね。
最終日なのにねぶた行けないと思ったら
いてもたってもいられなくて
ちょうど良く電話もらっちゃったから。」
「わかるわかる!
最終日行けないと悲しいから
私もちょうど良かった。ありがとう!」
「ずっきーさん何時に終わるだろうね?
ずっきーさんの居酒屋に行こうか?」
「そうだね、それが一番良いかもね。」
車を停めてずっきーくんの所に行った。
日曜日だからか
この前先輩と座った外の席は
空いていて座れそうだった。
「あれ?どうしたの?」
びっくりするのは当たり前で
仕事中の爽やかな
ずっきーくんが迎えてくれた。
ヤマケイ君が
これまでの流れを説明してくれて
ずっきーくんは
「びっくりした。
2人くっついたのかと思った」
と、笑顔で言っていた。
外の席に着くとずっきーくんが
「2人とも生で良い?」
と言ってくれてそうする事にした。
ビールが届く前に
始まりの花火がなってしまった。
最終日ともなると
何だか周りの空気が少し違う気がした。
「間に合って良かったね」
「そうだね」
ずっきーくんはビールを置いて
すぐに忙しそうに厨房に戻って行った。
「乾杯」
「うん、乾杯。」
ねぶた囃子が向こうで聞こえる。
ねぶたも今日は審査が終わり
誇らしげに見えた。
特に話す事が無いので
お互い向こう側のねぶたを
じっくりと楽しんでいた。
「今年大賞女性だって聞いた?
すごいよね、何あるかわかんないよね。」
私がそういうと
「うん本当。人生何あるかわからないね。」
そう答えた。
ずっきーくんが
ちょいちょい顔をみせてくれて
食べ物や飲み物を気にしてくれた。
マスターがやってきてこの前の挨拶もした。
「今日はねぶた始まっても忙しいや。」
そう言ってまたマスターと
一瞬だけねぶたを見て中に入って行った。
「今日この後どうなるだろね?」
ヤマケイ君がそう言った。
「また、たかさんの所かな。」
「俺、最初からいつもの2軒目行こうかな?」
「どうして?」
「昨日隣に座った女子わかる?
俺告白してもらって断ったんだけど
ああやって近づいてくるから
申し訳ない気持ちになるんだよね。」
「そうだったんだ。」
「俺、お姉ちゃんが2人いる末っ子だからか
女の子への距離感が人と違うみたいで。
勘違いさせちゃう部分もあるみたいなんだ。」
「そっか。私もよく言われるよ。
男性との距離感がちょっとバグってるって。」
「そう言われてもわからないよね!」
「じゃこのままで良いんだよきっと。」
確かに2人は出会ってすぐなのに
車に乗ってこうして居酒屋で
2人で飲んでいる。
普通の人からしたら
付き合ってるとか付き合う前とか
そういう状態なのかもしれないけど
お互い違和感を感じないから
こうしていたんだと
多分お互いが思った瞬間だった。
「あ、ねぶた大賞のねぶたきた!
見に行かない?」
「あ、いいね行こう行こう!」
少し歩いて2人で道路沿いまで見に行った。
ヤマケイ君が何か言ったので耳を近づけると
「やっぱりなんか違って良いね」
と言ったので私は
「うん、良いよね、なんかね。」
ねぶたが通り過ぎてハネトが通った。
「戻ろっか。」「うん。」
2人で席に戻ってまた飲み始めた。
するとずっきーくんがまたやって来て
「あいちゃん、この後一緒にどう?」
そう言われる気がしてたのに
「うん、ヤマケイ君も一緒に行こう」
と2人きりを避けてしまった。
するとヤマケイ君は
「俺は後から合流するよ。
ずっきーさんとりあえず仕事終わるまで
飲んでここにいますね。」
と言った。
どうしてそうなったかわからないけれど
とにかく2人の時間は出来るのか。
今日言ってスッキリさせよう。
遂に今年のねぶた最後の花火が鳴った。
周りのお客さんもみーんな
大きな大きな拍手をした。
私も大きな大きな拍手をした。
ここ数年襲ってくる
ねぶた終わりの寂しい気持ちに
心の準備をしていたけれど
今年は少し違う。
「今年のねぶたも楽しかったな。」
そういうヤマケイ君に私も続いて
「うん楽しかった。」
そう答えた。
やっとずっきーくんの仕事が終わり
3人で移動することになった。
ずっきーくんは私たちに何も聞かず
いつものBarTAKAさんの所へ向かった。
すると途中でヤマケイ君が
「あ、俺先に次の店に先行ってます」
と言って走って
いつも二次会に行く店に行ってしまった。
ずっきーくんは
「また後でー!!」
と陽気にしていた。
私はさっさと言ってしまおうと
「昨日言ったことって本当?」
そう聞くと
「もちろんだよ。
好きです。付き合ってください」
そう言われた。
「私ね、付き合うとか今よくわかんなくて。
付き合うつもりで今返事してるけど
これから色々考えながらになると思う。
少しずつ付き合っていくというか。」
ずっきーくんはキラキラした声で
「もちろん!全然それで大丈夫。
ずっと一緒に居たいから
そんな風に考えながら一緒に
ゆっくり進んで行こう」
私は言い切ってスッキリした。
そしてきっとこのまま
たかさんの所に行ったら
からかわれるのが嫌だから
ヤマケイ君の所に行かないか提案した。
ずっきーくんは
ヤマケイ君にも報告したいからと
それをすぐに承諾した。
そのBARに着くとマスターが
「お、この時間から珍しいね」
と言って迎えてくれた。
ヤマケイ君は
1人でカウンターに座っていて
携帯をいじっていたけれど
こちらに気付いて手を振ってくれた。
そちらに向かって私は隣に座った。
ずっきーくんは立ったまま
ヤマケイ君とマスターにニッコニコで
「今日付き合いました!」
と報告していた。
私はあまりこういうのが好きじゃ無いので
黙っていたけれど
マスターとヤマケイ君は物静かな人たちなので
「おーおめでとう」
と言ってすぐに話が終わってホッとした。
するとずっきーくんの電話が鳴った。
「わかりました。すぐ行きまーす!」
そう言うとこちらに向かって
「たかさんから、店が混みすぎて
困っているから手伝ってってきたから
ちょっと行ってくるね。」
と言って走って行ってしまった。
マスターはいるけれど
ヤマケイ君とまた二人になった。
「明日の花火大会は
ずっきーさんと行く約束した?」
「ううん、付き合う話しかしてない。
明日も仕事なんじゃないかな。」
「あー、そっか。
実は明日知り合いからもらった
良い席のチケットがあって。
それも勿体無いから一緒に行って
また今日のパタンで
ずっきーさんのお店に行くのはどお?」
「それ!嬉しい!良い席で花火!
何年振りだろう。ありがとう!
そうする。」
すぐに親友にメッセージを送った。
【体調はどう??
明日の花火は無くて大丈夫。
いつもありがとう。
カラダゆっくりしてね。】
そう送った。
【了解。こちらこそありがとう!】
とすぐに返信が来た。
何杯か飲んだら1時を回っていた。
ねぶたマジックにかかってるとはいえ
今日は最終日な上に
明日からまた平日が始まる。
ずっきーくんはなかなか帰ってこないけど
私はそろそろ帰りたくなった。
「私そろそろ帰ろうかな。
明日から仕事だし明日の花火もあるし。」
「俺もそう思ってたところ。
今日はおめでとう。」
「ありがとう。」
そう言ってそれぞれマスターに
お会計を出してもらって
その間にずっきーくんにメッセージを入れて
お店を後にした。
二人で歩いていて
私は家の方向に歩いた。
ヤマケイ君は車の方に歩こうとしたけど
「代行を待ってる時間があるから
少し送るよ」
と言って私を送ってくれた。
「ずっきーさんから連絡来た?」
「来ないからまた2時とか3時に
さっきのお店にみんなで行くんじゃ無い?」
「きっとそうだね。」
「私そろそろタクシーに乗ろうかな。」
「うん、わかった。
気をつけてね。
今日はありがとう。おやすみ」
「うん、おやすみ。明日ね。」
そう言って私はタクシーに乗り
家に着いていつもの通り準備して
ベッドに入る。
私は今日彼氏ができたのだけど
バイバイも言わず一人で結局帰ってきた。
いつもと違いすぎる夜に
私は何だか嬉しさの他に何かも感じた。
けれど明日の花火が楽しみで
それを胸に眠りについた。
8月7日。ねぶたの本当の最終日。
ねぶたマジックも切れかかり
流石に無理はできないのか
少し眠気が昼に襲ってきた。
携帯を見るとずっきーくんから
【昨日は何で帰っちゃったの?
寂しかったよ。今日は飲みに出るの?
待ってるから。】
とメッセージが来ていた。
やっぱり花火大会には誘われなかった。
何で帰ったのって言われたけど
普通にお昼の仕事してるんだけどな。
と思いながら
なんて伝えようか伝えなくて良いのか
私は少し考えてから
【今日普通に仕事だったから。
ヤマケイ君が
花火大会のチケットがあるらしく
それ見てからずっきーくんの所に行こうって
誘われたからそうするね。】
と答えた。
仕事終わりにずっきーくんからは
連絡が入っておらず
代わりにヤマケイ君から来ていた。
【今日はまた
あのコンビニに迎えに行くね。
俺今日はお酒飲まないから。】
【私も飲まなくても良いかな。
花火を楽しめたら良いな。
ありがとう待ってます。】
約束した時間にコンビニに行くと
ヤマケイ君は既に
駐車場で待ってくれていた。
あまり考えてなかったけど
迎えに来てくれているヤマケイ君をみて
背が高くて爽やかで職業も良くて
何なら乗っている車もカッコよくて
モテないわけないわな。と
ふと思った。
手を振ってくれたヤマケイ君の
車に乗り込み会場の方へ向かった。
近くの駐車場が運良く空いてて
「ラッキーだったね」と
ヤマケイ君が言った。
私は
「うん。」と言いながら
ヤマケイ君が駐車する時
よくモテる男子がやる
ヘッドレストに手を自然にやったので
やっぱりなぁとちょっぴり感動していた。
車から降りて
花火大会の会場へ向かうと
たかさんの店で見たことがある
男性がヤマケイ君に声をかけた。
「ヤマケイー!隣は奥さん?」
彼女を通り越して
奥さんになっていた。
私はすぐに拒否らず
ヤマケイ君が何かいうのを待った。
「あ、いや、たまたま一緒で。
なんならずっきーさんの彼女です。」
「こんにちは。」
と私がいうと向こうも
「あー!」と言った。
またヤマケイ君は
「一緒にって言いたいところなんですが
チケットが無くてすみません」というと
「これから待ち合わせだからありがと!」
と言って男性は向こうに歩いて行った。
会場は毎年の如くすごい人で
ヤマケイ君について行くのがやっとだった。
有料の入り口についたけれど
それでも人はいっぱいで
ねぶたの最後を感じさせた。
この有料区域は
決まった席はないけれど見晴らしがよく
どこに座っても花火がキレイに見える。
席に着くと
「俺なんか買ってくる。」と言って
ヤマケイ君はどこかに行ってしまった。
ぼーっと海を見ていた。
今年は最近とは違う。
親友とここにいないし
つい5日前まで友達といた祭会場に
彼氏の友達といる。
来年はどうなんだろうと思った
今年の今日、いつもと違う時間を過ごしている。
ヤマケイ君はウーロン茶2つと
たこ焼きとフランクフルトと
牛串と焼きそばと買ってきてくれた。
それを2人でシェアしようと
目の前にキレイに広げてくれた。
「わぁ美味しそう!!」と
思わず拍手をすると
ヤマケイ君も拍手をしてくれた。
アナウンスが始まって
ねぶたの会場運行が始まった。
花火は毎年見るけれど
有料区域くらいに来ないと
ねぶたは見えないので小さい時以来だった。
「小さい時から久々にみたけど
海の上のねぶたもなかなか味があるね。」
私がそういうと
「そうだね、初めてみたけど
誰が考えたんだろうね。」
確かに誰が考えたんだろう。
船にねぶたを乗せるそして
みんなに楽しんでもらうって
誰が考えたんだろう。
花火も始まった。
2人はそんなに会話をすることなく
ただ花火を見ていた。
近くでみる花火は
とってもキレイで大きくて
音の大きさと感動で心臓がドキドキした。
最後の方に私は
「この下まで垂れ下がってくる大きな花火
ここまで来そうで怖いって思った
小さい頃の記憶があるんだ。」と言うと
「小さい頃から感受性豊かなんだね」と
言われた。
もう大満足で家に帰ってもいい位の
テンションになってしまった。
でも一応スマホを見ると
【オッケー待ってる!】と
ずっきーくんから連絡があったので
それをヤマケイ君に伝えると
「行くつもりだったし行こうか。」と
また駐車場に向かった。
「花火キレイだったね。」
「うん、ものすごく楽しかった。」
ありきたりだけど
そんな普通の会話をしながら
車に乗り
ずっきーくんが働くお店の近くまで
向かってくれた。
すると駐車場が空いてなくて
ヤマケイ君が困っていたので
「仕方ないからこのまま帰ろうか。」
と私が言うと
「あいちゃんのこと降ろして
俺だけ帰ろうか?うんそうしよう。」
と彼の中で決まっていて
そうなってしまった。
何も言う間もなく、私は
「ありがとう」とだけ言って車を降りて
ヤマケイ君は帰ってしまった。
ずっきーくんのいる居酒屋に入ると
また爽やかな笑顔で迎えてくれた。
「待ってたよー!!」
そう言ってくれた。
「ありがとう!ウーロン茶お願い」
そういうと
「え?今日飲まないの?」というので
「明日仕事だから。」
「えー寂しいじゃん飲もうよ。」
「ごめんね。そういう気分じゃない」
「そっか。わかった。」
あからさまにずっきーくんは
態度が落ち込んでいた。
もしかしたらこの前
ダンスの仲間たちと飲んだとき
時代が変わったなんて
思っていなかったら。
私はまだまだいけるなんて思って
最後までねぶたを楽しもうと
飲んでいたかもしれない。
時代が変わる時代に
私も乗りたかった。
だから
飲まないと寂しいって言う言葉が
いつまでも纏わりついて
ウーロン茶が美味しく無かった。
ずっきーくんは今日も忙しそうで
待っていたら
日付を越してしまうのは
わかったいたけれど
ヤマケイ君も一緒なら
何とかなると思っていたのに
何だかやっぱり帰りたくなってしまった。
「ずっきーくん!」
呼ぶとすぐに来てくれた。
「ちょっと疲れたからごめん帰る」
そういうと
「わかった!また明日。」
私は店の前からタクシーに乗って
家に帰った。
寝る準備をして寝床についた。
去年は親友の家で過ごした
花火大会の夜。
親友の家から仕事に行った次の日。
その後はあまり覚えていない。
また明日。か。
明日からはもう
ねぶたじゃないんだよな。
8月8日(火)立秋。朝。
ねぶたが終わって
普通の日が始まった。
暦上の秋が始まった。
付き合ったはずのずっきーくんからは
何も連絡が来ていなかった。
付き合うって何だろう。
そうこうして
ずっきーくんからは毎晩
今日は飲みに出るのか?会えるのか?
その連絡はあるけれど
お休みがいつなのかもわからない。
日中は確かに私は仕事をしているので
向こうがお休みでも会えないのだけれど。
会いたいと言われても
飲み会は好きでも
毎日飲みに行けるほど
時間もお金もないのが普通で。
ねぶた期間は
ねぶたマジックで特別なだけだったのにな。
ねぶたが終わって
何だか現実に戻されたような気がした。
8月の終わりの週末。
髪を切りに仲間のところへ行った。
これまでの経緯を話して
彼氏が出来たことを説明した。
そしたら仲間は
「やっぱり3日以内のあの法則かな?」と言い
「うん、そういうことだよね」と返した。
「でもさ付き合ってる感じしないんだよね」
「まだしょうがないのかな。」
「ね。」
そんな会話でずっきーくんの
会話は終わった。
「そういえば花火大会は?」
そう聞かれたので
「ヤマケイ君って言う
あの山本圭壱と同姓同名の人がいて。」
そこからまた私は経緯を話した。
「で、彼と花火大会に行ったんだけど
めちゃくちゃ綺麗で楽しかった。」
そういうと美容師の仲間は
何かを言いたそうにしたけど
呼ばれてしまった。
少し暇になった私は
スマホをみるとヤマケイ君から
連絡が来ていた。
津軽衆かよ!と心で突っ込んだ。
【お疲れ様。
来週の日曜日何してる?
多分ずっきーさんも日曜だから
休みだと思うんだけど
俺、まだ恐山行ったことなくて。
運転もちろんするから3人で行かない?】
と連絡が来ていた。
私は生粋の青森県民なので
あまり恐山には行きたく無かった。
霊感も無ければ何かあるわけじゃないけど
遊びに行くところなのかというのも
疑問だった。
私は
【あまり恐山は気が乗らないな。
ちょっと恐い。
ずっきーくんなんて言うかな
直接聞いてみてくれる?】
と返信した。
戻ってきたら仲間は
何か言いたそうな顔はもうしてなくて
私の髪をブローしてくれた。
すると最後に
「今日会いたい人に会えたら良いね」
そんな意味深な言葉で
お見送りしてくれた。
恐山を検索すると
観光名所なだけあって
たくさん情報が流れていた。
でもやっぱり行く気が出なかった。
するとずっきーくんから連絡が来た。
【ヤマケイから聞いたよ!
日曜日恐山行こうよ!
朝早くヤマケイがうちに
迎えに来るそうだから
土曜日も俺仕事だけど
あいちゃんうちに
泊まってればいいよ!先寝てて。】
【うん、わかった。】
心の中は整理整頓されないまま
その土曜日を迎えた。
ご飯を食べてから出かけるのは
大人になった今でも
親が心配してくれる。
だから仕事が終わり次第
すぐに出かけた。
ずっきーくんの店に行くと
また帰るまで待つのかな?とか
色々考えるので
ポストに入れてあるという
ずっきーくんのアパートの
鍵を手に入れて
ずっきーくんの部屋に入った。
ずっきーくんのアパートは
飲み屋街のすぐ隣の住宅街で
毎日飲む気持ちが
少しだけわかってあげられた。
本人がいない部屋に
しかも初めて入った。
玄関から少しだけ廊下があって
そこにトイレとシャワーがあり
通り過ぎると
ワンルームのお部屋がある。
怪しいものも怪しいことも無いから
私への信頼の印として
この行動に出たのだろう。
なんだかやっと
付き合ったのかなという感じがした。
何をしたら良いかわからなかったので
台所を借りて
自分の晩ごはんと明日のお弁当を
作ることにした。
そういえば
ずっきーくんって何が好きなんだろう。
とりあえず
近くのスーパーへ向かった。
この前ヤマケイ君と
ずっきーくんの店に行った時
ポテサラか冷やしトマトを
2人で迷った時
私がじゃんけんで勝って
冷やしトマトになったから
ポテサラ作ろう。
唐揚げとエビフライ迷って
唐揚げになっちゃったから
エビフライにしよ。
あとずっきーくんそういえば
たかさんの店に
ねぶたの出店の
焼きそば買ってきてたから
メインは焼きそばにしよ!
よし。3つもあればいいかな!
買い物をして
ずっきーくんの家に帰り
ポテサラは作り終わり
揚げ物も冷めても美味しいように
作り置きしてしまった。
焼きそばだけ後は炒めるだけにした頃
ヤマケイ君から電話が来た。
「もしもし?」
「あ、もしもし?
明日があるから
てっきりずっきーさんとこで
あいちゃんも飲んでるかと思って
今飲んでるけど来る?」
「うん、行く!
明日の予定も立てられるしね!」
私は鍵をかけて
少し早歩きでずっきーくんの
お店に向かった。
ヤマケイ君の
隣のカウンターに座った。
カウンターに座るのは初めてで
ずっきーくんが一生懸命に
働いているのがすごく伝わった。
カウンターにはもう
冷やしトマトと唐揚げが並んでいた。
どっちがそうしてくれたか
わからないけれど
とっても嬉しかった。
「乾杯!」
ねぶたは終わったけど
やっぱり週末に飲むビール
暑い時期に飲む生は
とっても美味しかった。
「明日10時にずっきーさんの
アパートに迎えに行くから。」
「朝早いって言ったから
もっと早いのかと思ったら
普通でびっくりした!」
そう言って2人で笑った。
「あとは他に何か2人で決めた?」
と聞くと
「何も決めてないよ」
と言ったので
お弁当はサプライズにしようと決めた。
12時を回る頃
ねぶたも終わって居酒屋も静かで。
私たち以外お客様がいなくなった。
「明日もあるしそろそろ帰ろうか。」
「うん、そうだね。」
ずっきーくんにお願いして
お会計を済ますと
「俺、たかさんとこ行くよ!行こう!」
と誘ってくれた。
ヤマケイ君は
「俺、明日の運転で酒残るとダメなんで
遠慮しておきます。
明日楽しみにしてるんで。」
「そっか。明日よろしくね!」
と言った。
お店を出て
ヤマケイ君が少しだけ
ずっきーくんのアパートの近くまで
送ってくれた。
「ありがとう!明日楽しみだね!」
「うん、楽しみだね、また明日。おやすみ。」
「うん、おやすみ。」
アパートの階段を登って
明日のお弁当のことを
また考えていた。
部屋の鍵を空けて
メイクを落としてシャワーをして。
歯磨きをしてドライヤーをして。
いつも家で寝る前にやっていることを
旅行用の小さいもので
全てこなした。
あー、今、私、
彼氏の家にいるのか。
洗面台にある電気を見つめて
今実家でも無ければホテルでもない
他の人の家にいることを
実感した。
この前のメッセージでは
先に寝てて良いよとのことだったけど
ほぼ閉店までいたから
待ってた方がいいかな。
そう思ったけれど
少し回ったお酒が
眠気を誘い私はいつのまにか寝ていた。
夜中というか朝方
私はいつも仕事の時に起きる
6時に目が覚めた。
いつもと違う天上に
旅行の時のワクワクみたいな
嬉しい気持ちになった。
のも束の間。
ずっきーくんがいない。
玄関の方にあるトイレで
用を済ませていると
ガチャっと音がした。
鍵閉めて鍵を置き
靴脱いで中に入って行った
今来たのかな?。
恐る恐るトイレをでて
ワンルームの部屋に帰ると
お酒の匂いしかしなくて
ワンルームいっぱいに
脱ぎ捨てた服と
酔っ払ったずっきーくんが
横たわっていた。
何だか近づきにくいし
もう寝てるし
心配になるほど酔っ払った
ずっきーくんをみて
そおっとしておくことにした。
あまり音を立てないように
さっき寝る準備をしたばかりの
旅行用のセットで
また朝の身支度をした。
着替えもずっきーくんが寝てたので
ささっとできた。
小さな音で動画を見ているうちに
9時半になった。
待ち合わせの10時まで
ずっきーくんの準備は間に合うのだろうか。
仕込みしていた焼きそばを焼いて
少し音を立てることにした。
良い匂いがして朝も食べてないし
私はお腹が空いた。
ずっきーくん喜んでくれるかな。
ずっきーくんをみると
頭から布団を被り
多分音がうるさくて二度寝した様子だった。
9時50分になったので
流石に声をかけた。
「ずっきーくん、もうヤマケイ君くるよ」
「うん」とだけ言って動かない。
付き合ったばかりの彼氏に
ムカついてしまう私。
私はもう出発できるだけ整った。
するとずっきーくんの電話がなり
ものすごくテンションの低い声で
「うんわかった。少し待ってて。」
そういうと私に向かって
「ヤマケイ着いたって。下で待っててくれる?」というので
「わかった。」といって
荷物を持ってヤマケイ君のところへ行った。
私は運転席側の窓の前に行き
「おはよう!」というと窓をあけて
「おはよう。とりあえず乗って乗って」
そう言ったので車に乗ると
「え!何お弁当?
わぁ嬉しい!俺、朝食べないから
もうお腹空いちゃった!」
今まで見たヤマケイ君の中で
1番笑顔だったので私も嬉しくなった。
ふといつもの流れで
助手席に乗ってしまったことに気づき
このままで良いかなと思ったら
5分でシャワーを浴びて
準備をしてきた様子のずっきーくんが
「おはよう、ごめん、お願いします」
そう言って後ろの席に流れるように
座ったというか横になった。
ヤマケイ君も私も多分同じことを考えて
何も言わずに出発した。
「楽しみ?」とヤマケイ君が聞いてきたので
「全然!めっちゃ恐い緊張する!」
そう答えると笑っていた。
やっぱり県外の人とは
恐山への気持ちには温度差がある。
「ヤマケイ君はどうして行ってみたいの?」
「観光名所だからかなー。」
「そっか。」
音楽をかけては会話をして
1時間走ったところで
ヤマケイ君が
「トイレとか大丈夫?コンビニ寄るから。」
と声をかけてくれた。
すると後ろの人が
「ヤマケイ!コンビニ!お願い!」
と言ったので目の前のコンビニに停めると
ずっきーくんは小走りに向かって行った。
私とヤマケイ君も降りると
とても景色の良い駐車場で
少し向こうに
丘と屋根のあるテーブルとベンチを見つけた。
私は1人でゆっくり歩いて
ベンチに吸い寄せられるように向かった。
風は強いけれど
広い空間に癒されて
私は深呼吸をした。
するとヤマケイ君が近寄って
「ねぇ、ここで食べたい。」
と言って私のお弁当の袋を
笑いながら持ってきてくれた。
「私もお腹空いたから名案!」そう言った。
「じゃここに一旦置くね。
お茶何飲む?ウーロン茶でいい?」
「うん。お願いします!」
1人で座っていたら
何かを持ってきて具合悪そうな
ずっきーくんが戻ってきた。
「大丈夫?」と声かけると
「まだ抜けない」とガラガラ声で言った。
テーブルを挟んで向こう側のベンチで
また少し横になっていた。
テーブルの上にはインスタントの
味噌汁が乗っかっていた。
袋に入ったお茶と手に2つ味噌汁をもった
ヤマケイ君が近寄ってきた。
向かいはずっきーくんが
占領してしまっていたので
私の隣にヤマケイ君が座った。
風が吹いて味噌汁の湯気が揺れた。
「これも飲んで良いの?」と聞くと
「お茶と味噌汁、足りないけど
お弁当のお礼。」
「え、まじ!ありがとう!」
「じゃいただきます!」
と言って2人で食べ始めると
思いカラダをあげたずっきーくんが
少し小さい声で
「頂きます。」と言って
味噌汁をすすっていた。
するとヤマケイ君が
「いつも居酒屋で頼む逆だ!」
と喜んでくれた。そして
「俺、今回のねぶたで
何故か焼きそば食べられなかったんだよね
嬉しい!ありがとう」
喜んで食べてくれた。
暗黙の了解でなんとなくお互いに
三分の一ずつ食べて行った。
「食べる?」とずっきーくんに聞くと
「味噌汁で精一杯。」
「そっか。」
「じゃ残り食べて良い?」と
ヤマケイ君が全部食べてくれた。
「うん、全部美味しかった!
ありがとう!!」
「お粗末さまでした!」
そうして3人でまた車に戻って
出発した。
長い長い山道をぐるぐる走りながら
ヤマケイ君は
「車酔い大丈夫?」と聞いてくれた。
「うん。大丈夫。ありがとう。」
私は恐山に近づくにつれて
とても緊張していた。
友達が言ってたホラーな話を
頭でぐるぐると考えていた。
「帰り、なんもないように帰ろうね」
そういうと
「大丈夫だよ、気にしすぎずいこう。
本当に感受性豊かだね。」
そう言われたけど納得できなかった。
何もない山道を急に抜けると
サッと周りの空気が変わったのがわかった。
「三途の河だって。」
ヤマケイ君が言った。
「一瞬で空気変わったね?」
「それは俺にもわかった。」
「絶対何か静かになった。恐い。」
「三途の河渡っちゃったね!」
「やだーどうしよう」
「大丈夫、生きてるから!」
駐車場に着くと
たくさんの観光バスがあって
人がたくさんいる事に安心した。
車を停めると
ずっきーくんもムクっと起き上がった。
「恐山で生き返るなんて信じられない」
と私が言うと
またパタっと倒れて前の2人を笑わせた。
車を降りて3人で入り口へと向かい
遂に入場してしまった。
私は殆ど緊張から無口になってしまった。
さっきまで普通の山だったのに
あたり一面が真っ白だった。
風がないのに風車はずっと回っていて
不思議な空間じゃないわけがなかった。
何かを供養したいハサミや洋服など
意味深なものが並べてあったり
色んな文字が書いてあったけど
文字とすら目を合わせないようにした。
賽の河原の石積みと呼ばれる
それらしきものもあった。
何より不思議だったのは
あたり一面に広がる
波のある真っ白な湖だった。
海や湖はいつもみているから
最初は全く違和感なく
その湖を眺めていた。
海の向こう側ってどうなってるんだろ
いつも海を見る時に思っていた事。
でも段々と
ここって山奥だったよなと気づく。
山奥の湖の向こう側なんて
あるのだろうか。
何で波があるの?
やっぱり三途の河って
存在していてこれなのかな
現実に引き戻された感があって
また私は緊張感で溢れていた。
時折目の前に流れる川には
沸々と下から泡が出ていたり
大きな石像の大きさが
また恐かったりして
殆どなにも喋らず一周した。
車に戻る途中で
イタコさんの案内がいくつかあった。
「亡くなった人にメッセージか。」
ずっきーくん君がそう言うと
「俺はあまり信じないんで。」と
ヤマケイ君が言った。
売店によって行くことになり
私はそこでお団子を買った。
「神社だかお寺だかわからないけど
お参りした後って
現実世界のものを口にした方が
現実世界に戻りやすいんだって。」
と言うと
「やっと喋った」とずっきーくんが言ったので
「やっと元気になった?」と返した。
「車でおやつ食べて良い?」と
ヤマケイ君に聞くと
「もちろん。」と答えてくれた。
帰りの車ではやっと起きたずっきーくんと
3人で恐山を振り返った。
2人に
「なんであの風車とか恐くなかったの?」
と聞くと
「そう言うもんなんだろなって。」と
ヤマケイ君が言った。
「何そんな怖がってんの?」と
ずっきーくんに言われた。
「行く前から恐いって言ってたんだよ」
というとずっきーくんは微笑んでいた。
「うん、でも普通に戻ってよかった」と
ヤマケイ君が言った。
どんどん市内に近づいていき
夕方になった。
ずっきーくんはすっかり元気になって
2人は安心した。すると
「どうする?どこに飲みに行く?」
とずっきーくんが言った。ヤマケイ君は
「明日も普通に仕事なんで帰りますね。」
と言った。すかさず私も
同じことを言おうとしたら
「じゃ、あいちゃんご飯だけでも行こう」
と言われたので
「うん、わかった。」と答えた。
ヤマケイ君の車を降りて見送った後
近くの焼き鳥屋さんへ行った。
「飲みたかったら飲みなよ」
と言われたけれど
「明日仕事だから」と答えた。
「なんかあいちゃんのイメージ
すんごく変わった!
明るくて楽しいのは変わらないけど
毎日飲んでそうなイメージだし
そう一緒にできたら楽しそうって
思っていたからさ。
今日はせっかくのお休みだから
一緒に飲みたかったな。」
「そっか。昔はそうだったけど
まぁ、大人になろうって思ったんだよね。
お酒好きなのは変わらないけど。
そういえばさ、ずっきーくんって
結婚願望ある?」
「じゃ飲みながら話そうよ」
ずっきーくんは隙を与えず
店員さんに生を頼んだ。
「乾杯!」
乾杯してビールを飲んだ。
「結婚願望もちろんあるよ。
でも今の仕事のままだったら
できないなと思ってる。」
「そっか。私結婚願望あるんだけど
ずっきーくんとは付き合ってみるって
あの日言ったけど
これを言ったらどういう気持ちになった?」
「それはそれで告白の返事をした
あいちゃんと一緒で
今はまだわからないかな。
でも大好きだよ。」
「ずっきーくんの考えはわかった。
ありがとう!」
お腹もいっぱいになり
お酒もそこそこに
時計を見ると24時を回っていた。
「そろそろ帰るね」
「たかさんの所一緒に行きたいな。
お願い一杯だけ。」
「本当に一杯だけだけど良いだよね?」
「うん、もちろん。行こう!」
少し歩いて
たかさんの店の階段前まで着いた。
ずっきーくんに着いて
登って店の前まで来ると
店の前まで聞こえるくらい
たくさんの人で賑わっていた。
ドアを開けると
「いらっしゃいませー!」
と元気いっぱいの
たかさんとバイトちゃんの声がした。
お店に入るとカウンター席が
一つしか空いてなくて
私が座るような促され
ずっきーくんはカウンターに入っていった。
なんだかなかなか帰れないような
悪い予感がした。
隣に座ったのは
ヤマケイ君を好きだという女性だった。
「ずっきーさんの彼女さんですか?」
と聞かれたので
「あ、はい。」と言ったら
「なおです、宜しくです!」
と言われた。
「あ、あいです。」
「ずっきーさんイケメンですよね」
「そうなんですかね」
なんと答えたらいいかわからなかった。
「今日、あのずっきーさんと仲良い
ヤマケイってわかりますよね?
来ると思ったんですけど
最近なかなか会えないし
連絡もなかなか来なくて。
あいさんに聞いてもわからないですよね?」
もっと
なんと答えたらいいかわからなかった。
さっきまで一緒だったなんて言えないし
昨日も一緒だったなんてもっと言えない。
すると会話を聞いていたずっきーくんが
「今日3人で恐山行ってきたんだよ!
誘えば良かったね。
多分運転で疲れて
もう休んでるんじゃないかな」
言って良かったのかどうかもわからないけど
私が言ったんじゃなかったので
仕方なかった。
「えー行きたかった。
今日も明日も休みなのにー。」
私は何も言わずに
2人の会話を聞いていた。
チャンスだと思って
「本当に帰るね?」とずっきーくんにいうと
「なおちゃんともう少し話したら?」
と言われた。
私はヤマケイ君が
この子に気がないのも知っているから
余計なことは喋れないし
ヤマケイ君の気持ちを知っているのに
誘ったりできない。
なんせ一杯で帰るって言ったのに
明日も仕事なのに。
時代が変わる流れに
私も乗りたいのに。
「今日も泊まったらいいよ!」
「今日は帰るよ。仕事だし準備してないし。」
「そっか。」
するとなおさんが
「えー、私なら絶対泊まる!
逆に何で泊まらないんですか?」
ずっきーくんが
「そうだよー」と言った。
私は
「んーそのままかな。準備してないから。
本当ごめん。マジで帰る。」
そう言ってお金を渡して
逃げるように帰った。
タクシーに乗って家に着いて
眠りにつくまで
ずっと去年までの私だったら
きっと泊まっていたんだろうなと
何度もこれで良かったのか考えた。
9月にもなり暑さは段々と引けていった。
それからは
週末はずっきーくんの家に
なるべく行くようにした。
だからといって何をするでもなく
いつもずっきーくんは
朝の5時くらいに帰ってきて。
私は6時に起きて
いつも家でやるゲームなんかを
ただずっきーくんちでやって。
お昼に起きたずっきーくんと
ラーメンを食べに行って。
午後はのんびりテレビをみたりして
夕方居酒屋にいってデートして。
私が家に帰るルーティンを
3回くらい繰り返した。
3回目の日曜日の夜
ずっきーくんが少し寂しそうに
「実は俺、来月から
日曜日も仕事になって。
あいちゃんともっと会えなくなる。」
「そっか。仕方ないよ。
週末しか泊まれないけど
なるべくアパートにくるよ。」
「今日は泊まらないよね?」
「仕事の前の日はやっぱり帰りたい。」
「そっか。じゃタクシーまで送るよ。」
「この次も行くの?」
「うんまだ早いからね。
休みがこれで終わるの寂しいから。」
「飲み過ぎに気をつけてね。」
「うん。またね。」
正解がわからないまま
10月に突入した。
今月からずっきーくんは日曜日も仕事で
それに仕事帰り毎日飲んでくるから
土曜日の夜からアパートにいても殆ど会えない。
今週末は久しぶりに
親友の家を訪ねる事にした。
前より少しだけ体が重そうな親友と
いつも通りの親友の旦那が
飲み物とおつまみを用意して
出迎えてくれた。
ある程度の話は
メッセージでやり取りしていたけれど
細かい全貌まで2人は聞いてくれた。
今日も3時間くらい3人でお話をした。
妊婦の体を労って
早く寝ようと提案し
私は慣れた手つきで
居間に布団を敷いた。
親友は先に寝室に行き
また親友の旦那と残った酒で
少しだけ話した。
「大丈夫って思えないから
きっと私2人のところに来たんだよね。」
「いつものパタンならね。
でもうちの奥さんが
まだ口を出さないとこ見れば
大丈夫なんじゃない?なんてね。」
「そうかもね。いつもギリギリまで見守って
最後は1番効く言葉だけ言うもんね!」
「てか、あいなら大丈夫。おやすみ。」
「そういえばさ。彼氏とまだ
『おやすみ』って言った事ないや。」
「そうなんだ。
俺は結婚して1番最初に嬉しかったのは
家でおやすみって言えた事だったな。」
「良い話。じゃおやすみ。」
「うん、あまり考えないように。」
そう言って寝室に行った。
いつもの天井。いつもの匂い。
彼氏がいるのに
いつもと変わらないような
そんな気持ちになった。
久しぶりにヤマケイ君から
連絡があった。
【2人に出張のお土産があるから
予定合わせて会おう!】とあった。
私はずっきーくんの仕事の事情を話し
私は週末ならいつでも良いと伝えた。
たかさんにも
いつも2件目に行くバーのマスターにも
お土産があるとのことで
来週の土曜日に
一緒に焼肉を食べてから
たかさんのお店でずっきーくんと合流して
2件目にも行く約束をした。
すると今週の金曜日にも
またメッセージが入った。
【ねぇ!あいちゃん!
行こうとした焼肉屋さん明日半額だって!
明日は空いてる??】
【え?信じられない!
明日空いてるよ!行こう行こう!】
【オッケー!
明日18時にあそこのコンビニで】
【ありがとう!楽しみ!】
そして次の日になり仕事も終わり
コンビニへ向かった。
ヤマケイ君はもう来てきて
いつも通り車に乗った。
「ありがとう!半額なんてびっくりだね。」
「ね、いっぱい食べよ。」
飲み屋街に入り
また有料駐車場に停める。
ヤマケイ君が予約してあったようで
2人席に通された。
「私ビビンバ!」
「あ、俺も。冷麺も。」
「良いね!
後は色々食べたいから盛り合わせにしよ。」
「そうしよう。」
ヤマケイ君は
言った注文を全部頼んでくれて
来てくれた肉をどんどん焼いてくれて
焼いた肉をどんどんお皿に乗せてくれた。
「今日はこれからどうするの?」
と聞かれた。
「いつも土曜日はなるべく
ずっきーくんのアパートに行くんだけど
向こうは日曜日も仕事になっちゃったから
行ってもゆっくりできないんだ。
今日はとりあえず
自分の中でこの予定しか立ててない。」
「そっか。家に送るなら飲まないし
こっちのずっきーさんの
アパートに帰るなら飲んで代行で帰るし。」
「あ、良いよ。タクシーで帰るから。」
「あ、大丈夫だよ。じゃ飲まない。」
多分ずっきーくんに
わざわざ今日のことを言っていないのを
ヤマケイ君は悟っていた。
「今日焼肉食べちゃったから
来週どこにしよっか。
しかもお得しちゃったから
どこでもいいよ!」
「じゃ来週はずっきーくんとこ行こ。」
「いいよ。」
来週は泊まってあげよう。
ヤマケイ君がうちに送ってくれた。
「ありがとう。飲まずに本当に。」
「全然良いんだよ。
元々どっちでもいいから。
じゃぁね、おやすみ。また来週」
「うん、おやすみ」
ずっきーくんには
ヤマケイ君のお土産のことと
来週はお店に行くことを連絡した。
そしてまた週末が来た。
そしてまたヤマケイ君が
いつものかっこいい車に乗って
いつものコンビニに迎えに来て
待っててくれた。
そしてまた
ずっきーくんのお店に向かった。
「乾杯!」と2人で言った。
「週末のビールはききますな。」
そういうと
「たまに飲むからいい。」
ヤマケイ君が言った。
「先週の焼肉美味しかったね」と
またヤマケイ君が言ったので
「たまに食べる焼肉最高だよね」
と返した。
「よし今度はめちゃ仕事頑張って
給料日に
焼肉とビールやろう?そうしよう!」
「そっちの給料日って21日?」
「そうだよ。あいちゃんは?」
「25日だよ。」
「もう再来週11月の給料じゃん!
時間たつの早いね。
じゃ再来週は焼肉とビール宜しく!」
とヤマケイ君と給料日付近の約束をした。
いつも通りずっきーくんが終わるのを待ち
2人で先にたかさんの所へ向かい
お土産を渡しながら3人で飲んだ。
3人で二次会のバーへ行き
またヤマケイ君がお土産を渡しながら
3人で飲んで。
そろそろ眠くなって帰ろうとしたら
ずっきーくんは残るといい
ヤマケイ君が駐車場に向かう途中の
ずっきーくんのアパートまで
送ってくれた。
「じゃおやすみ」
「うん、おやすみ」
そう言った瞬間
ずっきーくんから電話が鳴った。
「もしもし?まだヤマケイといる?
なおちゃん来たから
まだ、今日はもう少し頑張らない?」
ん?という顔をしている
ヤマケイ君の顔を見て
私はそのまま伝えたけれど
ヤマケイ君は困った顔をするのを
わかっていたので
解答を聞かずに
「ヤマケイ君代行呼んじゃったって。」
勝手に答えてしまった。
「わかった」と少し寂しそうに言って
ずっきーくんは電話を切った。
すると急にヤマケイ君が
「ね、旅行に行かない?
十和田湖冬物語に行こうよ。」
そう言った。
「もちろん良いよ!
それ、行ってみたかったやつ!」
「じゃ再来週はその企画だね。」
「そうだね、改めておやすみ。」
「おやすみ。」
なおさんの話が無かったかのように
また挨拶を交わして
私は誰もいないアパートへと向かった。
ここに泊まる意味あるのかな。
そう思った気がするけど
そっと[結婚願望]の中にしまった。
また週末泊まることをした。
けれど
今度は日曜日のお昼も
ずっきーくんは起きれなくなった。
やっと夕方に起きたずっきーくんに聞くと
最近はたかさんの所も混んでいて
カウンターに立たされて
ついでに時給をもらえる事になったので
一杯頂けるお客様からは頂いて
時給を稼いでいる。と
教えてくれた。
「あいちゃんとの為に
今のうちに貯金しないとね。」
「嬉しい!ありがとう!」
将来を見据えた言葉は
素直に嬉しかった。
そしてこの日曜日は家に帰る。
休みの日の夕方に何もしないで帰るのは
前は日曜日の夜
ずっきーくんが
毎回飲みに誘ってくれていた時の気持ちが
少しだけわかった気がした。
また次の土曜日
ヤマケイ君と
焼肉ビールの日がやってきた。
私は楽しみにしていたせいか
いつもヤマケイ君の方が早いのに
私が早く着いた。
駐車場で待っていると
ヤマケイ君がやってきて
手を振り合って
いつものように車に乗せてもらって。
またこの前の焼肉屋さんに行った。
「今日はずっきーくんちに
泊まりに行く約束したから
もちろん送らなくて大丈夫!
たくさん飲んで食べよう!」
「うん、了解!飲もう食べよう!」
私が
「今日はビビンバじゃなくてナムルかな」
というと
「あ、飲むからね。良いね」
と言って後はなにも言わず適当に
店員さんに注文してくれた。
その日ヤマケイ君は
いつも二次会に行くバーに行かないかと
誘ってくれた。
多分ずっきーくんは
たかさんの所から朝まで帰らないから
暇な私にはとても嬉しかった。
ヤマケイ君が珍しく話し始めた。
「青森が楽しすぎて。
こんなにフラッと飲みにこれる
飲み屋街があって。
飲みに行くだけなのに
帰る場所のように人と仲良くなってさ。
…俺、多分そろそろ転勤なんだ。
このせっかくできた人との繋がりが
楽しすぎて転勤したくない。
転勤がないずっきーさんが羨ましい。」
私はショックという言葉が
これほどまでにピッタリなのは
初めてだった。
「そっか。そうだよね。
もともと転勤族だもんね。
寂しくなるな。」
「多分春に異動だと思うから
だからその前に
たくさん思い出作りたいなって。
まずは十和田湖冬物語!」
「うん、いっぱい思い出作ろう!
十和田湖冬物語にまず行こう!」
そして二次会に行くバーに移動した。
「よし!
じゃ日にちと時間はオッケー。
あとはずっきーさんに確認して?」
「オッケー!
ここの旅館も楽しみだね!
あと花火もやるみたい!」
「そうなんだ!
かまくらで飲める箇所が
2つもあるみたいだよ。」
スマホで調べながら
旅行の企画は進んでほぼ決まり
後はずっきーくんに確認して
後日ヤマケイ君が
予約をしてくれることになった。
気づいたら1時を回っていて
いつもなら2人は帰るので
その準備をしようとした。
「今日の分はいいよ。俺誘ったから。」
そうしてくれると
やっぱり嬉しかった。
「男前やなー。ありがとう。」
そうしてお金を払ってくれて
マスターのお釣りを待っていると
「ヤマケーーーイ!!!」
となおさんが嬉しそうに入ってきた。
もちろんヤマケイ君の隣に座ると思いきや
膝の上に座った。
「えー?もう帰るの?」
「うん、ごめんね、帰るんだ。」
するとマスターが
「はい、2人分もらったよ。お釣り。」
と言った。
マスターの言葉がわざとだったのか
なにも考えずに言ったのかはわからないけど
なおさんの顔が一瞬にして
笑顔がなくなったのがわかった。
「じゃ、また。」
私が先に出ようとしたら
なおさんが
「今ずっきーさん来ますよ!」
と言った。
あーだめだ。1番嫌いな雰囲気だ。
どうしよう。なんて言おう。
ものの1秒でたくさん考えた。
そしてその1秒の隙に
「あ、ずっきーさん来るなら俺いる。
あいちゃんも顔見たら帰ったらいい」
と、どのつもりがわからないけれど
ヤマケイ君が言った。
「やったー!飲もう!」
なおさんが言うと
「うん、飲もう。」と
ヤマケイ君もまた追加した。
残ったものの予想通り
なおさんは2人の世界にしていった。
ずっきーくんが来るまで暇か。
この時間が勿体無いと思ってしまう。
1時間経ってもずっきーくんは来なかった。
流石に眠くなったので
マスターに目で合図をして
こっそりとドアから帰った。
するとヤマケイ君が追いかけてきた。
「ごめんね。」
「あ、ううん。
またきっとずっきーくん残業だよ。」
と笑って言った。
「そうじゃなくて、、、、
いいや。俺このまま帰ろ。」
と笑っていた。
「なおと付き合っても良いんだけど。
あーやって俺のこと好きって言ってくれるけど
好きの言葉以外はみんなにやってるんだよね。
ずっ、あ、色んな人に。
夜の仕事だから感覚が違うんだろね。
本当に好きかわからなくなっちゃう。
前言った
俺らの勘違いさせちゃうのと
また違うんだよね。
それに時間も合わない。
あ、これはあいちゃんも一緒だねごめん。」
珍しくヤマケイ君がテンパっていた。
またドアが開いたと思ったら
ヤマケイ君の手を引っ張って
なおさんが店に引き摺り込もうとしたら
転びそうになったヤマケイ君を
思わず全身で抱えてしまった。
すぐに一瞬で持ち越したヤマケイ君は
慌てて
「わかったわかった。」と言って
中に入っていった。
私に小さく手を振った。
帰ろうとしたら今度は
ものすっごく酔っ払ったずっきーくんが
店の前に来た。
「いたの!!」と
嬉しそうに言ってくれた。
ハグしようとしてきたけれど
反射的に避けてしまった。
「恥ずかしいからやめてよー」と言うと
「ラブラブかー!」と
後ろから来たたかさんがからかってきた。
ずっきーくんが私の手を取って
「今日は帰さん。行くぞ!」と
またその店に私を連れていった。
眠い目を少し擦って
休みの日に何も出来ない2人の時間を
埋めてあげようと
さっきまで飲んでいた
ピーチウーロンを頼むと決めた。
ドアを開けた瞬間
ヤマケイ君と
ずっきーくんの目があったようで
更にずっきーくんのテンションが上がった。
カウンターではなく
全員でボックスに座った。
ずっきーくん、私、なおさん、ヤマケイ君
この順番は計算したのかな?と
思ってしまった。
少しだけ嫌な予感がした。
ずっきーくんが
「あいから聞いたよ!旅行の話。
せっかくなら4人で行こうよ!」
私はヤマケイ君の顔見れなかった。
「えーなにー!いくー!!」
なおさんのテンションが上がった。
「で、いつだっけ?」
申し訳なくて何も言えず。でも
何も言わないのも申し訳なくて
私はヤマケイ君の言うことに
「そういう感じ!」と
テンションを上げて答えるので
精一杯だった。
なおさんもずっきーくんも
夜の仕事なので年末年始は忙しいのと
さらにずっきーくんは
帰省しなければならないのとで
最初決まった12月とは遠のいて
2月の終わりの週になった。
最後にずっきーくんが
言わなくて良いことを言った、
「部屋は2つね。」
ヤマケイ君は
「わかりました。明日予約しておきます」
そう言って、さっぱりした様子の
ずっきーくんとなおさんは
ようやく帰っても良さそうになった。
「閉店!」マスターが言うと
いち早くずっきーくんが立ち
「じゃまたね!」とみんなに言い
私の手を掴んで帰ろうとした。
全員を見渡して
「お疲れ様でしたー!またー!」
というとみんなが手を振ってくれた。
最後にヤマケイ君と目が合って
「おやすみ」と言ってくれた。
「うん、おやすみ」と言って
手を引っ張られるがままに
ずっきーくんと店を出た。
夏と違ってまだ外は暗かった。
寒くってねぶたの日を思い出すには
程遠かったけれど
「ねぶたぶりだね」と話すと
「本当はいつもこうしたいけど」
そう言われた。
「そう出来たら良いんだけどね。
もう身体もお金も大切にしなきゃ。
昔の私ならそうしてるけど
周りもだんだん変わってる。
大人になってる。
私も大人になりたいから」
「寂しいなぁ」と言われた。
ずっきーくんの家に着き
私がシャワーを借りている間に
玄関の音がしたので
多分コンビニに
酒とタバコを買いに行ったんだろうと
予想した。
シャワーも終わって
髪を乾かしているうちに
ものすごい眠気に襲われたのを
覚えているけれど
いつ寝たかわからない。
気づいたら朝になっていて
お酒の空き缶とタバコの吸い殻と
寝ているずっきーくんが
近くにいた。
時計を見ると14時で
私も昨日頑張ったもんなと思いながら
朝に起きたかったなと思った。
帰る支度をして
ずっきーくん味噌汁を作って
少し待ってみたけれど
起きなかったので
ラーメンも食べず私は帰った。
12月にもなると
ねぶたには勝てないけれど
人の出が少し増えた気がする。
ずっきーくんのアパートに行く間
すれ違う人はこれから飲みに行く人で
楽しそうだった。
相変わらずのずっきーくんと私たち。
でも日曜日の昼に2回外食に行けた。
私が車を運転して隣の市の
弘前まで行き
桜の代わりに雪が咲いている。
そんな弘前城を横目に
「お花見の時は休み取るね。」
とずっきーくんが言った。
そして私が
「その前にクリスマス♡」
「だよね、イブが土曜日か。
んー時間ないなぁ。
土曜日はたかさんとこのバイトは
しないで帰ってくるようにする。」
「わかった。」
どんな気持ちでどんな風に
どんな雰囲気で待っていればいいのか
その時から考えていた。
クリスマスの週になった。
この気持ちを知ってか知らずか
親友から
【昨日美容室行って、明日
みんなでうちでピザだよ。きてね。】
とメッセージがきていた。
【りょ】とだけ返した。
そして次の日仕事が終わり
親友の家に行くと
親友と美容師の仲間と画家の後輩がきていた。
親友の旦那は飲み会らしくいなかった。
「かんぱーい!!」
「メリークリスマス!」
「クラブにも行かなくなったねー。」
「というか行きたいクラブが無くなった。」
「確かに。それで行かなくて良くなった。」
「時代変わるよねー。」
「ねー。」
「いつのクリスマスだっけ?
クラブのショーケースで踊らせてもらって
その後テキーラ飲まされたやつ」
「うわぁ思い出すだけで具合悪い!」
みんなでケタケタ笑った。
「なんかさ、うちらって
クラブが好きってよりダンスが好きで
クラブの雰囲気に慣れてるだけで
パリピにもなれるけど
別にパリピじゃなくても良かったよね。」
「わかるー」
と全員が言った。
「や、
なんかさ、ちょっと聞いて欲しくて。
彼氏のずっきーくんが
私がパリピのイメージしかないらしく。
一緒に飲まないと寂しいって言うのと
夜の仕事だから基本デートも飲みで。
そして最近は日曜も仕事だから
デートなんてしてないわけよ。
大人になって。
飲む頻度も考え始めた頃にこうなって。」
3人は何かを考えていた。
私はみんなの意見を待たずに
「まっ、いっか。とりあえず。
結婚するまでに考える。」
と意味不明なことを言った。
また今日も21時ごろに解散した
昔に比べたら考えられないほど早いけれど
それが全員にとって
心地良くなっていった。
木曜日
ヤマケイ君から
【十和田湖冬物語の旅館ゲット!
明日また計画しよう。
チキンのクリスマスクーポンあるから
俺ん家良かったら!】
と来た。
【駐車場あったっけ?行く!】
【ある!仕事終わったら好きな時に来て。】
【りょ】
ヤマケイ君のアパートの場所は
大体知っていたので仕事が終わり向かった。
ヤマケイ君のアパートは
1LDKで新しかった。
ずっきーくんの家より少し広くて
物が少なくて
転勤族って感じだった。
少し広めのリビングに案内してもらい
もう並んでいる、ザ・クリスマスなチキン達に
「わぁ!」っと声が出た。
「イヴは明日だし
ずっきーさんともやるだろうけど
俺明日暇だしせっかくだから
大したもの無いけど色々買っちゃった」
「大したものだよ!ありがとー!!」
テンションが上がった。
ヤマケイ君は缶ビールを開けたあと
私にキャラクターがついている
シャンメリーを笑いながら開けてくれた。
「乾杯。」
旅行の計画といっても
ものの30分で終わり
車も私の軽自動車だとキツイので
結局ヤマケイ君の車で行くことになったのと
朝早く行きたいけど
向こう2人起きれるか心配なので
昼に出ようとなった。
あと気になって正直に聞いた。
「なおさん来るのは気にならないの?」
「来ることは良いんだけど
俺が気が無いのは気にならないかなーと
気を使うかな。」
「だよね。そういうことだよね。
私も人としては話すの全然嫌じゃない。」
「あと酔うとずっきーさんにも絡むと思うし
あいちゃんも嫌な気分じゃないかなって。」
「ずっきーくんに絡んだら
私がヤマケイ君に絡もうかな!笑」
「そうしよう!笑」
「めっちゃ性格悪いね!笑
とりあえず嫌じゃ無いことに
安心した。行ったら楽しめるね」
「うん、楽しみ!」
時計をみたら24時だった。
「あっという間だった!
そろそろ帰ろうかな!
良いクリスマスだった!ありがとう。」
「俺も楽しかった。きてくれてありがとう。」
『『おやすみ』』
2人がハモって微笑んだ。
車まで送ってくれて
手を振り合って解散した。
明日というか明後日は
ずっきーくんとどんなクリスマスになるかな。
土曜日クリスマスイブ。
ずっきーくんの家に行くまでも
街中というのもあり
人が多かった気がする。
そんな街を横目にアパートに向かった。
行く前にスーパーに寄って
小さなケーキは買った。
後夜でも明日のお昼でも良いような
食べ物も少し買った。
誰もいないアパート
何もない部屋。
本当にずっきーくん帰ってくるかな。
寒さに耐えられずお風呂を借りた。
その間に部屋も温まっているはずと
ゆっくりとお湯に浸かった。
温まった部屋でぼーっとしていた。
たかさんの所に
寄らないでくるって言ってたけれど
最低でも24時にはなるな。
そう考えてたらいつのまにか寝ていた。
1時ごろ電話が鳴った。
ずっきーくんからだ。
「もしもーしなおです!
みんなでクリスマスやりましょー
ずっきーさんと今います!」
帰ってくると言ったので
ノーメイクももちろん、部屋着だし
寝起きだし行けるわけがなかった。
「ごめーん。今寝てて。
行けないですごめん。」というと
「珍しくヤマケイも居ますし。
旅行の計画立てましょうよー」
「ありがとう!
3人で決めて良いよ!
決まったら教えてくれたらいいよ」
「そっかー了解です。」
昨日クリスマスしてくれて良かった。
このまま眠ろう。
スマホをみたら
【ごめん、おやすみ】
とヤマケイ君からきていた。
多分朝方帰ってきた
ずっきーくんの寝顔を横目に
昨日スーパーで買ったご飯を食べて
ケーキも食べた。
今日は
ずっきーくんが起きるのを待たずに
さっさと家に帰った。
すると
クリスマスプレゼントを貰いにきた
甥っ子が走って近づいてきた。
母に渡しておいてと頼んだプレゼントを
直接甥っ子に渡すと
「ありがとう!!!!」と
キラキラした目で言ってくれた。
お昼ご飯はみんなで済ませていたようで
雪が深くなる前に帰ると
夕方にもなる前に帰っていった。
何もしない日曜日
結婚したくて作った彼氏と
クリスマスも出来ずに帰ってきた現実が
ぐっと押し寄せてきた。
今年のねぶたには感じずにいられた
将来の不安がグッと押し寄せて
この寒い冬に
もやもやっとした
苦しい切ない気持ちになった。
これで良いのかな、、、
昨日のヤマケイ君からの
メッセージにも返してないし
ずっきーくんからのなんて
開いてもいない。
やるせなくなって
お酒を買いにコンビニに行った。
店員さんがサンタの帽子を被って
接客してくれた。
よくドラマかなんかでこれを見て
切なくなるヤツだと思った。
この青森でドラマが生まれるなんて。
そんなことを考えながら店を出ると
かっこいい車でスマホを耳に充てている
ヤマケイ君がいた。
意味がわからなかったけど
電話をしているので無視して歩いて帰った。
というくらい
誰とも話したくなくて無気力だった。
家に帰り部屋に戻り
チューハイの缶をプシュッと開けた。
時計を見ようとスマホを滑らせると
ヤマケイ君からの電話に
出てしまった。
「あ、はい。」
「あ、ごめん、ヤマケイだよ。」
「うん、どうしたの?」
「昨日のこと謝りたくて。」
「ヤマケイ君1番悪くなくない?」
「そう言ってくれるとは思ったけど
なんか気になって。
昨日の連絡にも返信ないし
15分くらい前に電話しても出ないし
心配になって。」
「そっか。全然大丈夫だよ。
なんていうか誰も悪くないよね。」
「ずっきーさんは仕事だって言ってたから
俺で申し訳ないけど
これからご飯いかない?
いつものコンビニに迎えにいくよ。」
「というかさ、さっきコンビニいたよね?」
「あ、うん、え?きてたの?」
「見つけたけど電話してたから
素通りしちゃった。」
「なんだ。あいちゃんにかけてたんだよ!」
「15分くらい前ならそうだね!笑
チューハイ開けちゃったけど行こうかな。」
「うん、もう最初から
迎えにきてたのバレてるなら
チューハイ持ってきて車で飲んでいいから
どっか行こ。」
「うん!」
てくてくとコンビニまでまた行った。
さっき停まっていたヤマケイ君の車に
いつも通りに乗り込んだ。
「何食べたい?」と聞かれたので
「ハンバーグ」と言ったら
「あそこにしよう」と言って
お洒落な洋食屋さんに連れて行ってくれた。
4人がけ席が3つカウンター5席の
小さめのお店だ。
メニューもおしゃれで
なのにリーズナブルで
このお店を知れて良かったなと思えた。
「昨日のことうまく言えないけどごめん。」
「本当に別に誰も悪くなくて。
ずっきーくんもみんなでって
楽しそうな提案をしてくれているだけで
責めるつもりはなかったよ。」
「ね。」
「ね。」
なんかね、を省略して
2人の会話は終わった。
昨日のお詫びと言って
ヤマケイ君はココを出してくれた。
「良いのに。」
「や、なんかこの方がスッキリする」
「そっか。ありがとう。
美味しかった。」
「美味しかったね。また来ようね。」
このまま年末年始になった。
ずっきーくんから連絡はあって
ごめんねというのと
年末年始は東京に里帰りするといって
会えないのが寂しいということと
家族に彼女が出来たことを報告すると
言っていた。
私は年末年始は
大掃除をしたり何も考えないようにした。
とにかく何も考えないようにした。
またねぶたの時みたいに
ダンス仲間みんなで集まった。
その時はより一層何も考えないようにした。
ずっきーくんから
【帰ってきたよ。
顔も見たいしお土産も渡したい。
いつ会える?】とあった。
【ちょっと予定が立て込んでるから
十和田湖冬物語の旅行の時でいい?】
そう送ると
【俺たち付き合ってるのに
そんなに会えないの?寂しいよ。】
ときた。
アパートに行っても寝るだけだし
起きても寝てるだけだし
ずっきーくんのお店に行ったところで
ゆっくりできるわけでもない。
これをどう伝えたら良いのだろう。
伝えられるはずもなく
【ごめんね。】としか言えなかった。
そうして
ずっきーくんの家に行かなかった
1ヶ月と少し。
ヤマケイ君も半端な時期に
帰省したらしく
【3週間くらい青森にいないから】
と連絡がきていた。
明日は十和田湖冬物語の日になった。
前に恐山に行った時のように
ずっきーくんの家に泊まることになっている。
明日はお弁当も作らない。
外には雪も降ってるし
電話が来たって絶対に家にいる。
そう思って家で全て済ませて
寝るだけにして
ずっきーくんの家に泊まった。
案の定1時に電話が来た。
「あいちゃん?
なおちゃんもいるから
明日の前夜祭しようよ。」
堪忍袋の尾が切れるとは
こういうことなのだろうか。
「何回同じこと繰り返したらわかる?」
そう言ってしまった。
「俺、付き合った頃から
あいちゃんと楽しく飲みたくて
根気よく誘ってるのに
来てくれないのはそっちじゃん。」
「そうだね。期待に沿えられる
素敵な彼女じゃなくてごめんね。」
「そうじゃなくて。」
わかってた。
こう言って欲しいわけじゃないって。
でもそうしか言えなかった。し
私が悪い風に言うことで
罪から逃れようとしていた。
「明日旅行なんだよ?
どうして早く寝て備えようとか
思わないの?
こんなこと言いたくないよ。
母親じゃあるまいし。」
ずっきーくんが黙るとわかってた。
そして私は更に言おうか迷ったことを
言ってしまった。
「飲みたいって言ってないのに
飲みの場所で出会ったからって
飲みが好きだって決めつけて
それを喜ぶって思い込んで
自分が楽しみたいだけでしょ。」
妥当すぎて自分のことを
嫌いになりそうだった。
「ごめん。」
ずっきーくんのその一言で
後は私も無言になってしまった。
「たかさんやなおさん達といるんでしょ?
その場は楽しんできて。
何時に帰ってきてもいい。
車で寝てもいい。
けど寝坊したりして
迷惑はかけないで。」
「うん。」
次の日。
待ち合わせは10時。
私は9時にはもう全ての身支度が終わっていて
ずっきーくんがどうするかだけを
じっと見ていた。
9時半のアラームでいつもは
起きないところを起きてシャワーしていた。
9時50分で出てきたずっきーくんに
「先、出てるよ。」というと
「寒いから中にいなよ」と言われて
靴を履いて中で待っていた。
ヤマケイ君から
【着いたよ】とメッセージが来たので
出ようとすると満遍の笑みのずっきーくんが
「間に合ったよ!!」
と言って来た。
当たり前だからと喉まで出かけたけれど
笑顔で出発できる方を選び
「良かった!」と言った。
ヤマケイ君におはようと言う前に
ずっきーくんが後ろにまた転がり込むと
「おっ!」と大きい声を出しながら
座りなおした。
運転席のヤマケイ君に
「おはよう!」と窓越しに言うと
「おはよ、いつも通り助手席に。」
と言うので助手席に乗った。
すると後ろにはもう
二日酔いのなおさんが寝ていて
ヤマケイ君が
「二日酔い組は後ろだよって言って
そしたら寝ちゃった。」
と説明してくれた。
「じゃ出発するね。」
「うん、お願いします。」
「冬だから道がいつもと違うみたいで。
時間少しかかりそう。」
「そうなんだ。ゆっくり行けていいね。」
「お昼何食べたい?」
「そうだな。この前ハンバーグだったから
夜もあるしお蕎麦は?」
「そうしよう。」
そんな会話をしながら
後ろで寝ている2人を少し忘れて
この後のことを2人で決めていた。
道の途中にあった道の駅に停まり
ヤマケイ君が後ろの2人に聞いてみたら
「無理ごめん。」
「まだダメだわごめん。」
と帰って来た。
2人で降りて
道の駅しちのへ
という看板を写メで撮ってみた。
そしたら画面をみて
ヤマケイ君がくすくす笑うので
見せてもらうと
私がうまく撮れなくて
眉間に皺が寄っている私が映っていた。
「消してね!」
「多分ね!」
食堂ようなレストランのような
道の駅らしい席につき
2人でお蕎麦をすすって
帰りにソフトクリームを食べたいと言ったら
ジェラートがあるよと教えてくれて
2人で真冬にジェラートを食べていることを
笑いながら車に戻った。
二日酔い組を
起こさないようにそっと
お互いの席に座った。
また車を走らせていくと
山道の葉っぱたちも
雪を被って
雪が咲いていてとてもキレイだった。
「キレイだね。」
「うん。」
また車から降りて写真を撮ったり
のらりくらりゆっくり向かった。
ようやく旅館に着いた。
2人を起こそうとすると
なおさんが言った。
「熱あるかも、、、。」
すかさず私が
「えっ?大丈夫?」というと
「俺もあるかも、、、。」
とずっきーくんが言った。
「とりあえず部屋に行こう。
俺チェックインしてくるから。」
2つ予約してくれたけど
まずは一つの部屋に集まり
旅館の方から体温計を借りた。
「わっ、37.5度」
と、ずっきーくんが言った。
続いてなおさんも
「37.9度。ごめん」と言った。
私が
「2人昨日同じ空間で飲んでて
2人発熱って
インフルエンザかもしれないし
こっちの部屋で2人で寝てたら?
私たちに移ったら
明日ヤマケイ君運転大変だし。」
というと
「その方が助かる。」
とヤマケイ君も言った。
そういうと2人はしぶしぶと頷いた。
旅館の人に
布団を敷いてもらうようお願いし
「ずっきーくんもなおさんも
今日夜ご飯出ないから
会場行ったら売ってるもの連絡するから
欲しいのあったら遠慮なく言ってね。」
そう言って
もう一つの部屋に2人で移動した。
「ていうかそもそも、
ずっきーさんどの部屋割りだったんだろね
男2人かあいちゃんとずっきーさん?と?」
「男同士って恋バナしないでしょ?
たまたまヤマケイ君の気持ちを
私は知ってるけど
ずっきーくんは
なおさんからだけ聞いてると思う。
だから一緒になるの応援してるように見えた。
から、ヤマケイ君となおさんの
予定だったね。」
「ま、仕方ないけど。
結果こうなったしよろしく。」
「こちらこそ。」
まだ会場には行くのが早くて
少しだけ旅館でゆっくりすることにした。
「お茶飲む?淹れるよ?」
「うん。飲む。ありがとう。」
ヤマケイ君がお茶を淹れてくれた。
お茶と一緒に置いてあった
茶菓子を食べたり
各々旅館の案内をみたり
また会場の検索をしたり
一緒にテレビを観たり。
何もしてないようなしてるような
まったりした時間が過ぎて行った。
「休日って感じする。」
「俺も。」
「開ける?笑」
「開けるか!笑」
「乾杯!!!!!」
「早く温泉も入りたいけど
外寒いから帰ったらだよねー。」
「そうだよねー。
暗くなって来たし
そろそろ会場行こっか。」
歩くと遠いけど
ゆっくりとした時間の中でも
お話ししていたらあっという間についた。
入り口から
幻想的なイルミネーションが広がって
「わぁ」という声が自然に出るほど
綺麗な景色に見惚れていた。
「お腹すいたからなんか食べよ。」
「そうしよ」
屋台の並ぶ方へ行った。
お鍋でグツグツ煮込まれたモツ煮や
鉄板で焼かれた牛串
おでんや焼き鳥なんかもあった。
「あ、私、まずコレ!!」
「いいね!俺も食べる」
いわなの七輪焼きを選んだ。
私が店員さんに
「2つください!」と
言ってる間に
ヤマケイ君がお金を出してくれた。
お店のノリノリのおじちゃんが
「どっから来たの?」と聞いたので
「青森市です!」というと
「おー!いいな!わがいふたり!」
と言ったので笑って誤魔化した。
そう。周りから見たら
うちらはカップルでしかない。
多分きっと今に始まったことじゃなくて
さっき2人で部屋を移動した時も
お蕎麦を食べた道の駅も
お詫びにご馳走してくれたハンバーグ屋さんも
いつも行く焼肉屋さんも
いつも待ち合わせするコンビニも
きっとみんなそう思ってる。
きっとこのテーブルに腰掛けたら
隣の家族もそう思うだろう。
「あと適当になんか買ってくる」
「うん、ありがとう!」
混んできたので私が席を取って
ヤマケイ君が買い物に行ってくれた。
買って来てくれたモツ煮混みが
寒い身体に沁みてなんだかホッとした。
「よし、歩こうか。」
「うん。」
その辺を歩くだけで
色んな雪像とイルミネーションがキレイで
ワクワクした気持ちが止まらなかった。
「ホットワイン飲み放題だって!」
「それやろー!!」
カップを持っていれば
各コーナーにあるホットワインが
飲み放題という面白いシステムで
2人で飲みながら歩いた。
「ね!かまくらバーある!」
「おー!入ろう!」
氷のジョッキに入ったビールが
このお店の目玉で2人で頼んだ。
「寒くてもビールはキンキンがいいね!」
「ね!」
かまくらの中は幻想的で
賑やかなのに時間が止まっているような
異次元空間だった
次に空くのを待っている人がいるので
後半はグイッと飲んで外に出た。
雪上バナナボードや
雪山から降りるソリが人気で
並んでいた。
メインステージの方に近づくと
なんとメインステージは
ねぶたの雪の彫刻がデカデカとあった。
「すごいね。」「ね。」
ステージからはねぶた囃子が聞こえた。
「ねぶたの最終日もう懐かしいね。」
私がいうと
「初めて遊んだ日がその日だもんね。」
ヤマケイ君が言った。
すると花火が上がった。
「あ、花火。」と2人同時に言った。
「きれいだね。」「ね。」
ヤマケイ君がまたコップを持って
ホットワインを2つ入れて来てくれた。
そのワインを飲みながら
ヤマケイ君は何を考えていたか
わからないけれど
2人で花火をずっと見ていた。
帰り道
「まさか冬にねぶたと花火
同時に味わえるとは思わなかったね」
とヤマケイ君が言った。
「今日さ、ヤマケイ君が転勤前に
たくさん思い出作ろうって
ここに来たじゃん?
初めて遊んだ日もねぶたで
花火まで観れてさ。
思い出全部ここにギュッと詰まったね!」
会話の途中で知らない家族に
話しかけられた。
「写真撮ってください。」
「もちろんです。」
私が撮ろうとするとヤマケイ君が
荷物を持ってくれた。
「はい、チーズ!」すると
「はい、2人も撮りますよ」と
奥さまらしき女性が私のスマホを指差した。
「はい、そこに並んでー!
はい、チーズ!」
「ありがとうございましたー!!」
恥ずかしがったり
戸惑っている暇もなく
流れるように撮ってもらった
ツーショットの画面には
楽しそうに笑うヤマケイ君と
自然に笑えている私が映っていた。
「それ、ちょうだい。」
「うん。」
その後の2人は無言だった。
「あ、お熱の2人に何か買わないと。」
私がずっきーくんに電話をしようとしたら
調度メッセージが入っていた。
【なおちゃんも俺も少し落ち着いて
売店からお互い欲しいもの買って食べたから
何もいらないよ大丈夫】
「だって!良かったね。落ち着いて。」
「そっか。良かった。」
また歩いて旅館に向かうと
星がきれいだった。
部屋に着いて
「鍵2個あるから
好きな時温泉から帰って来て。
ゆっくり入ろう。」
とヤマケイ君が言って鍵をもらった。
少し遅めの温泉は人がいなくて
とっても心地よかった。
今日のできごとを振り返る。
どこを切り取っても
楽しかったなと口角が自然に上がった。
部屋に戻ると
ヤマケイ君が深夜番組をみて
クスクスと笑っていた。
「あ、あの旅館のじゃなくて
自分たちの飲み物入れる冷蔵庫に
チューハイとお茶入ってる。」
と言って、テレビに夢中なのに
最大限気を使って話してくれたのがわかった。
その冷蔵庫から
今日は飲み過ぎてもいっか!と
チューハイを開けて飲んだ。
わたしも一緒にテレビを観ていたけれど
チューハイの缶が空く頃に
眠くなってしまった。
それに気づいたヤマケイ君が
「電気消すよ。おやすみ。」といった。
私は布団に入って
「ありがとう、おやすみ。」と返した。
小さくしてくれたテレビの音と
時々テーブルから缶を取る音が
よくわからないけど安心感を覚えて
ものすっごく心地良い眠りに着いた。
お酒を飲んだせいか
夜中にトイレに起きると
全部の電気もテレビも消されて
向こうを向いて寝るヤマケイ君がいた。
同じ時間に人が寝ている。
そう思ってしまったことを何故か
上手にしまわないといけない気がして
寝ぼけた頭で何も考えないようにした。
朝起きてヤマケイ君のアラームが鳴った。
ヤマケイ君は一回アラームを止めて
布団に潜った。
私は時計をみたら7時だったので
約束のバイキングの時間まで
温泉に行くことにした。
飲んだ次の日の朝風呂は最高で
一気にアルコールが飛んだ気がした。
すると気づいたらなおさんがいた。
「あ、え、おはよう!もう大丈夫?」
と聞いたら。
「あ、おはよう!
もう熱下がってて。勿体無いから
温泉だけでもって。」
「良かった元気になって。
8:30にヤマケイ君と朝食行くよ?
一緒にどう?」というと
「え、本当?早く上がってメイクして来ます。」
そう言ってなおさんはメイクをしに行った。
そのままでもキレイでかわいいのに。
部屋に戻るとヤマケイ君がいなくて
多分朝風呂に行ったんだろなと
また身支度をした。
ヤマケイ君が戻って来たので
「おはよ!」というと
「おはよ!いつのまにかいなく
びっくりした!おはよ!」
と2回おはようをした。
「行こうか」とヤマケイ君が言ったので
「あっ、さっきなおさんに会って。
なおさんもくるみたいだよ」というと
「俺もずっきーさんに会った!
熱下がったって。なんだったんだろって。
じゃやっとみんな揃うね。」
「そっか良かった。」
そう言って朝食の会場に行くと
もう2人が来ていてこっちこっちと
4人席に手招きしてくれた。
向かい合って座っていたので
どっちに座ろうか迷ったら
ずっきーくんが隣に誘導してくれた。
「二日酔いじゃないこんな爽やかな朝
何年ぶりだろう」とずっきーくんがいうと
「私も。体調が良すぎる。」と
なおさんが言った。
各々でバイキング形式の朝食を選んで
私がポテトサラダもトマトサラダも
どちらも取ったら、ヤマケイ君が
「今日はどっちも食べられるね。」
と言って彼も2つ取っていた。
今度はずっきーくんが
「あいちゃん
唐揚げもハンバーグもあるよ」と
手招きしてくれた。
「あ、ほんとだ。ありがと!」と言って
どちらも取った。
席について4人で
「頂きます!」と言って
おしゃべりをしながら食べた。
なおさんに
「昨日の写真みせて!」と言われたので
写真のフォルダを開くと
1番最初に最後に撮った
ツーショットが出て来て
急いで削除した。
その他をみたなおさんが
「いいなー本当きれい。写真で伝わる。
昨日の熱なんだったんだろ。」
というと
「本当なんだったんだろね。」と
ずっきーくんが言った。そして
「楽しかった?」と聞いて来たので
「もちろん楽しかったよ」というと
「良かった。ごめんね。
一緒に行けなくて。」と言った。
朝食会場を後にし
またそれぞれの部屋に戻ると
荷物を持った向こうの2人が
こちらへ遊びに来た。
「逆だけど同じでおもしろーい!」
と元気になったなおさんが言った。
缶ビールと缶チューハイの空を見て
「あいちゃん昨日寝る前飲んだの??」
とずっきーくんがいった。
「うん。」というと
「珍しい!良いなー。」と呟いていた。
心の中でここにくる前の
小さな喧嘩を思い出しながら
なんかごめんね。と呟いた。
「さて、行きますか。」と
ヤマケイ君の合図でみんな立ち上がった。
「先行ってて」と
私はトイレに寄った。
凄い良い旅館だったなーと
車に乗り込もうとしたら
助手席にはなおさんが乗っていて
後ろのドアをずっきーくんが開けてくれた。
帰りの車では
前と後ろの会話が分かれていて
私はずっきーくんが
帰省した時の話を聞いていた。
「おみやげさ
クリスマスプレゼントも込み!」
と言って凄くかわいい財布をくれた。
「後で食べ物もあるよ!」と言ったので
「そんなに嬉しい!ありがとう!」と
かわいい財布を眺めていた。
お昼は4人で十和田の有名だという
バラ焼き屋さんに着いた。
「朝あんなに食べたのに
今日健康だからもうお腹すいた」と
なおさんがとても張り切っていて
とてもかわいかった。
鉄板に盛られてジュージューと
音を立てながら
バラ焼き定食が運ばれて来た。
ずっきーくんとなおさんが同時に
「飲みてー!」と言った。
4人で笑うとヤマケイ君が
「昨日飲めなかったんだし
2人飲めばいいよ。」と言うと
ずっきーくんはチラッとこっちを見て
何か言いたげだったけど
「なおちゃんそうしよっか。」と
2つ生頼んだ。
2人はめちゃめちゃ美味しそうに飲んだ。
また車を走らせて青森に戻っていると
ずっきーくんの電話が鳴った。
「今日ですか?」と言って電話に手を充てて
「あいちゃん日曜だから今日帰るよね?:と
言ったので
「うん。帰るよ。」と言ったら
「夕方にはそっち着きます!」と言って
電話を切った。
「たかさん、常連の誕生日だから
来て欲しいって。」
「そっかいってらっしゃい。」
と言うと
「え!私もいく!さっきの生で
スイッチ入っちゃった。」と
なおさんが言って
「じゃそうしよう」とずっきーくんが言った。
2人をたかさんの店に下ろして
「ヤマケイありがとう。
じゃあいちゃんのこと
家まで宜しく。」と言って
手を振るなおさんと
2人でたかさんの店の階段を登って行った。
少しだけ切なかったけど
行きたくはなかったので
気持ちはすぐに戻った。
「うちで納豆ご飯でも
食べてから帰る?笑」と
めちゃ笑いながら
ヤマケイ君が聞いて来た。
「そうしたいけどまた送ってもらうの
申し訳ない。」
「大丈夫だよ。
じゃ明日からの食材の買い出しは
あいちゃんを送るの途中のスーパーでする。」
と言ってヤマケイ君の家に着いた。
台所に立ったヤマケイ君は
「あ、納豆もあるし、お茶漬けもある」
と言ったので
「お茶漬け納豆」と言ったら
「本当に?」ときたので
「うそ。」と言ったら
「罰として今日までの納豆しかあげない」
と言われ、笑っていた。
その納豆ご飯を食べながら
冬物語で食べたご飯の話や
旅館の温泉の男女別の違いを話したり
私が寝た後のテレビの続きを教えてくれた。
気づいたら21時になって
「そろそろ送るね。」と
2人で立ち上がった。
車に乗り
ヤマケイ君が必要な物を買いに
スーパーに寄り
今日もコンビニまで送ってくれた。
「またね、おやすみ。」
「うん、またね。おやすみ。」
またいつもの通り
ベッドに入り家の天井をみて
旅行を振り返っていた。
また口角が自然に上がって
少し寂しいけれど
楽しかった気持ちが
胸の辺りを覆っていた。
3月になった。
ずっきーくんの家に一度だけ泊まった。
ずっきーくんは相変わらず
朝まで飲んで朝に帰り
その日は珍しく昼に起きれて
ラーメンを食べに行った。
ヤマケイ君は転勤がほぼ確定だと
仕事が忙しくなった上に
休みの日は引っ越し準備に追われてると
ずっきーくんから聞いた。
知っていたけれど
「そうなんだ。寂しいね。」と答えた。
「ずっきーくんさ
朝まで飲むの楽しい?好き?」
と聞いたら
「あいちゃんと飲むのが1番好き」
と言った。
その言葉でこれから言う言葉を
飲み込みそうになったけど
今日の私は決意が固かった。
「ごめん。今日は別れ話しに来たんだ。」
「え?俺なんかした?」
「何もしてないよ。
でもずっきーくんが大切にしている
普通の生活は
私にしたら豪遊でしかなくて。
朝まで飲むのはたまにで良いし
飲んでる私を楽しそうって思うのは
酔っ払ってるからそりゃ楽しいし。
朝まで飲むのはもう違うんだ。
きっとずっきーくんは
酔っ払って楽しそうな私を好きなんだと思う」
「でも俺、あいちゃんと結婚したい。」
「伝わらないな。ごめんなさい。」
「どうしたら伝わる?」
「行動が、今までの行動が
好きでしかない。
結婚って好きなだけじゃ出来ないと思う。」
「これから頑張るから」
「ううん、頑張ったら良いことない。
結婚は生活だから。
親友を見てそう思った。」
私は究極の一言を言った。
「ずっきーくんの家で
私とおやすみって言ったことある?」
ずっきーくんは黙った。
「ちょっと時間をちょうだい」
と言われた。
そして私は少し厳しいことを言った。
「時間が経っても変わらないよ。」
「整理させて。次いつ会ってくれる?」
「私には週末しか休みないよ。」
「じゃ1ヶ月。4月の最初の週末。」
「わかった。」
この日からずっきーくんは
何を考えて何をしていたかわからないけど
毎晩【おやすみ】と
メッセージが来るようになった。
そしてまた私は親友の家に行った。
もうそろそろ産休に入れると
親友は重そうな身体で迎えてくれた。
美容師の仲間も今日は来ていた。
3人で食卓を囲んでいると
親友の旦那も帰って来た。
そこで十和田湖からのお土産を
みんなに渡しつつ
食べ物なので広げて出した。
県内の旅行なので珍しものはなく
十和田湖冬物語と箱に書いた
おまんじゅうの様なカステラの様な
おやつを渡した。
「ありがとー!!」と言って
3人は美味しそうに食べてくれた。
かくかくしかじかと
結局ヤマケイ君と
十和田湖冬物語を回った話をした。
親友が
「楽しそう!良かったね!」と言った。
美容師の仲間は
「写真みせて」と言ったので
冬物語で撮った写真を見せた。
「いい!キレイ!結果楽しかったよね!」
そう言ったので、うんと頷いた。
けど、ヤマケイ君との写真を
削除したことを思い出して
少し寂しくなった。
「あ、でさ。
ずっきーくんに別れを告げたんだよ。」
全員のびっくりする声が
もう既に聞こえた。
と思ったら誰もびっくりしていなかった。
親友が
「スッキリした?」と聞いて来た。
「まだ4月に確定だから。まだ。」
「早くスッキリできると良いね!」
美容師の仲間が
「3日の法則って覚えてる?
ねぶた期間
またあいちゃんに会いたいって
またあいちゃんが会いたいって
3日以内に思ったのは
1人じゃなかったのかもしれないね。
今日もあいちゃんはここ泊まるの?」
「え、あ、うん。」
「うちもう帰ろうかな。
明日予約立て込んでるのさ。
良いリフレッシュなった!!
じゃおやすみー!!」と言って
颯爽と帰って行った。
親友の旦那と私は
缶を開けたばかりだったけど
いつもの布団を敷いてしまう体制に入った。
親友は
「ずっきーくんが良い人だから
あいもフレなかったんだよね。
話聞いてると前悩んでた嫌なヤツとは
全然違って。良かったなーとは思ってた。
けど、結婚したいっていう
あいの意思を尊重するなら
これで良かったよ。大丈夫。
そんじゃおやすみー」
と言って寝室に行った。
親友の旦那は
「うちの奥様が口を開いたので
僕からは何も言うことありません。」
と棒読みで私を笑わせた。
「ずっきーくんの気持ちも男としてわかる!
すっごい良い人だったよ。
次は絶対幸せになる。大丈夫。
もう考えないようにー!!おやすみー」
と言いながら寝室へ行った。
またいつもの天井を見ていた。
みんなの言う通り
ずっきーくんは素直で良い人だった。
嫌なこと言われたことないし。
好きだって言ってくれるし。
いつでも頭の中に私がいるようだったし。
思ってもらうって幸せなことだった。
この夏結婚の希望が見えたのにな。
またゼロからか。と
ため息をついた。
4月の最初の週末に会う約束の日になった。
それまで私は普通の日々を過ごしてた。
仕事をして帰ってご飯を食べて。
お風呂に入って何かしらして寝る。
週末は何か少し足りない気はしたけど
ずっきーくんの家は暇なので
行きたいとは思わなかった。
そして今日から
私はもう心の準備をしていたので
何も恐くなかった。
するとずっきーくんから
朝一でメッセージが入っていた。
今日はきっと朝まで飲んでいたんだ。
【今日は本当は約束の土曜日だね。
会うと寂しくなるから
また会いたくなるから
今日来なくて大丈夫。
今まで本当に楽しかった。ありがとう。
じゃあね、元気でね。】
と書いていた。
私の一夏の恋はあっさり終わった。
結婚願望という気持ちで付き合った人は
結婚というものが1番合わないけれど
とても私を好きでいてくれる人だった。
文章を読みながら何かに浸って
ありがとう返信を打った。
電話がなってずっきーくんからだと思い
素直に出た。
「あ、ヤマケイだけど。」
私はずっきーくんだと思い込んでいたので
少しびっくりして出た。
「あ、ごめん!びっくりした!
元気だった?いつ?引っ越し?」
「連絡出来なくてごめん!
今日車で引っ越しなんだ。
荷物の整理追いつかなくて。
やっと自分だけになって。
車で行けばオッケーになった。」
「えー!今日?びっくり!」
「仕事と引っ越し準備で忙しすぎて
誰にもあいさつしてない。
とりあえずお昼一緒にどう??
そのまま出発する。」
「行く行くもちろん行くよ。」
じゃあ、いつものあのコンビニで。」
身支度してコンビニに着いた。
ヤマケイ君より先に着いたので
コーヒーを買ってあげた。
外を見てるといつもの車が停まったので
駆け寄った。
運転席で手を振るヤマケイ君をみて
助手席に乗った。
「何食べよっか?」と聞くと
「青森っぽいヤツ」と言うので
「じゃ味の濃い煮干しラーメンじゃない?」
「いい!そうしよう。」
いつもずっきーくんと行く
ラーメン屋さんに着いた。
時間的にも少し混んでいてお店の前に2人で並んだ。
そしたら
あのずっきーくんの働く居酒屋を
教えてくれた先輩が
居酒屋のマスターと一緒に来ていた。
きっと無事付き合っているのだろう
2人でこっちを見て
「おー!」と手を振ってきた。
「あれ?ずっきーは一緒じゃないの?」
とマスターが聞いて来た。
私はさっき別れたなんて言えず
なんて言おうか考えていたら
ヤマケイ君が
「僕、今日で引っ越しで。
さっきずっきーさんに連絡したんですが
まだ寝てるみたいで。」
「え?今日引っ越し?
あいちゃん一緒に来てくれてたのに
寂しくなるね。」
「そうですね。」
「じゃお元気で!あいちゃんまたね!」
続いて先輩も
「またね!」と言ったので
「はい、また!」と返した。
ラーメンを食べながら
青森での感想を聞いていたら
ヤマケイ君は
「この最後の一年が1番楽しかった。」
と言ってくれた。私がすかさず
「ねぶたから始まって
次の日特等席で花火みて。
恐山行って
十和田湖冬物語でもねぶた
花火までみて。
私まで観光しちゃった。
お陰様だよありがとう。」
「こちらこそ。
あいちゃんいたから楽しかったよ。」
車に乗って
私を送ってくれたヤマケイ君に
「じゃあね。元気でね。またね。」
というと
「うん、またねぶたに来るから連絡する。
それと、、、ずっきーさんと仲良くね。」
「あ、それなんだけど。」
「ん?」
「いや、何でもない仲良くする!またね!」
ドアを閉めて。手を振った。
いつもならヤマケイ君が私を見送ってくれて
多分その後に出発してるんだけど
今回は私が見送ろうと
車の横で手を振っていたら
ヤマケイ君が窓を開けて言った。
「早いけど。おやすみ。」
「そうだね、うん、おやすみ。」
車が出発して見えなくなるまで手を振った。
曲がって見えなくなっても手を振った。
いつも自然に口角が上がってしまっていた
コンビニから家までの間
何故だか胸が苦しくて涙が自然に出て来た。
来週からは
焼肉に行く人も一緒に飲む人も
車で迎えに来てくれる人もいない。
おやすみって誰に言えば良いんだろう。
私が今本当に別れたのは誰なんだろう。
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