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ピクサー社長エド・キャットムル (Ed Catmull)の新著からのメモ −その2

前回につづき、ピクサー社長兼ディズニー・アニメーション・スタジオ社長のエド・キャットムルの新著から、kindle でハイライトしたところをいくつかピックアップし、簡単な訳をつけてみます。

Creativity, Inc.: Overcoming the Unseen Forces That Stand in the Way of True Inspiration

(2014年10月2日追記:日本語版が出ました。「ピクサー流 創造するちから」です。)

今回は、第10章。とても印象深く、その示唆するところを何度も思い返しています。

エド夫妻が、友人夫婦と旅行に出かけたときのこと。大型キャンピングカーをレンタルし、交代で運転していました。友人がハンドルを握っているとき、後輪がパンクした音がしました。後輪は片側にタイヤ2つずつ、計4つあるので、一本パンクしても運転は続けられますが、早く車を停めて、パンクをなおさねばなりません。

友人の奥さんが「あんた、パンクさせちゃったんじゃないの?」「もっと気をつけて運転してよ!」と責め、友人は「パンクしてない」といらいらした様子で返事します。二人の間では、とげとげしいやりとりが続くばかりで、一向に車を停めてパンクを見ようという話にならない。友人夫婦の会話の様子から、これは昨日今日の話ではなく、何年ものふたりの感情のもつれがあるんだな、とエドは観察します。

このエピソードが、クリエイティブな組織のマネジメントに示唆するところを、エドはこう考えます。


The first, which I discussed in chapter 9, is that our models of the world so distort what we perceive that they can make it hard to see what is right in front of us. (location 2902)

私たち誰もが、自分のまわりの世界を整理し理解するために、「型」をもっている。友人夫婦のエピソードから示唆されることのひとつめは、その型は、目の前にあるものすら見えなくなることがあるほどゆがんでいること。このことは、9章でも触れた。



The second is that we don’t typically see the boundary between new information coming in from the outside and our old, established mental models—we perceive both together, as a unified experience. (location 2905)

ふたつめは、私たちはたいてい、自分の外から入ってくる新しい情報と、自分の内に作り上げた古い型をいっしょくたに理解してしまうこと。ふたつを切り分けず、一体のものして体験する。


The third is that when we unknowingly get caught up in our own interpretations, we become inflexible, less able to deal with the problems at hand. (location 2906)

みっつめは、私たちが知らず知らずのうちに自分の解釈にはまり込んでしまうと、柔軟性を失ってしまい、目の前の課題にうまく対応できなくなること。


the fourth idea is that people who work or live together—people like Dick and Anne, for example—have, by virtue of proximity and shared history, models of the world that are deeply (sometimes hopelessly) intertwined with one another. (location 2907)

よっつめは、友人夫婦のように一緒に暮らしたり、一緒に働いている者どうしは接点が多く、長い時間を共有しているために、「型」が互いの存在と深く結びついて、不可分になっていること。


the conflicts that arise can keep groups of people locked into their restrictive viewpoints even if, as is often the case, each member of the group is ordinarily open to better ideas. (location 2914)

職場では、気をつけないと互いの「型」が絡み合って、何か意見の不一致が起きたとき、それぞれの立場から動けなくなってしまう。一人ずつになれば、良いアイディアをオープンに受け入れられるのに。


specific methods we have employed at Pixar to prevent our disparate views from hindering our collaboration. (location 2920-2923)

一人ひとりの立場、見方の違いがコラボレーションの妨げにならないよう、ピクサーではさまざまな方法を工夫してきた。ここでいくつか取り上げ、詳しく紹介する。

1. Dailies, or Solving Problems Together 

1.デイリー、つまり一緒に問題解決に当たる


2. Research Trips 

2.現地調査


3. The Power of Limits 

3.制約の効果


4. Integrating Technology and Art 

4.テクノロジーとアートの融合


5. Short Experiments 

5.ショートムービーで実験


6. Learning to See 

6.「見る」練習


7. Postmortems 

7.「弔辞」(振り返りのミーティング)


8. Continuing to Learn

8.学び続ける


☆     ☆     ☆


フリーランスのプロを集めて、プロジェクトベースで映画を作り、出来上がったら解散、という一般のハリウッド方式とは一線を画し、トップクラスのクリエイターを社員として迎え、「ピクサーらしさ」という文脈を濃く共有することを映画作りの基本に置いているエド。文脈を互いに背負い続けると思い込みが強化される、という人間の本質に真摯に向き合ってるところに、感じ入りました。

さまざまな社会問題や政策の議論がうまくかみ合わない場面をみたときにも、エドがいう「型」(mental model)にみる、人間の本質を思い起こしています。


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