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番組演出論 《「面白くない」を知る》

テレビマンの端くれは、社内教育に片足を突っ込んでおります。

制作教育の一環として、去年から若手社員に向けて過去の優れた番組を見せる活動をしてきました。でも頭のどこかでずっと「これでいいのだろうか?」と疑問を持ってたんです。なんか違うんじゃないかって。

優れた番組、面白いVTRは、見やすくて良くできています。だからフツーに面白く見られて「あ〜面白かった〜」になってしまわないか。それじゃ教育とは言えませんよね。

むしろ若手にはまず、「面白くない番組」を見せて、なぜ面白くないのかを議論させた上で、類例の「面白い番組」を見せるのが正しい順序だと確信しました。きっかけになる出来事が最近あったのです。

ある番組の演出をすることになった際、3年目のADと1年目の新入社員AD、2人が私の下に就いてくれることになりました。彼らと一緒に制作を進めていたある日、これから私たちの番組に出演予定の著名な方が、Eテレのある番組にも登場すると知ったので各自そのオンエアを見ようと指示しました。

私も見たのですが、構成や演出を考える上で大変良い教材と言える番組でした。

というのも、番組自体が全然面白くなかったのです。

早速、若手のふたりに番組の感想を聞きました。ふたりともあまり面白くなかった旨を考えながら話してくれました。この「なぜ面白くなかったのか」の議論が、非常に有意義だったのです。感覚的には「面白くない」と分かっていても、それがなぜなのかを言語化するは結構難しい作業だからです。

まずは客観的な分析をします。

その番組は、時間をかけて丁寧に取材していました。海外ロケにも行っていて、お金が掛かっているのも伝わってきました。重要な関係者も登場して、押さえるべき所もちゃんと押さえています。密着取材もしていて、なかなか貴重な瞬間も撮れていました。なのに、中盤くらいから見ているのがとても退屈になってきて、頑張って最後まで見終えたけど、大して読後感もなく全然面白いと思えなかったね〜、という意見がぼくらの中で一致しました。

さて。どうしてこんなにお金と時間をかけているのに、つまらないんでしょう?

番組を見ながら退屈だなぁと思ってしまったのは、どうしてでしょう?

じゃあ、自分ならどうしますか?

これを考えるのが大事なのです。


だって、お金掛かってるんですよ。海外ロケまで行って、密着取材もして、重要な登場人物も数人出てきてて、要素は揃っているのに、めっちゃつまんない。どうしてでしょうか?

私は明確な答えを言うことができました。

ズバリ「構成」ができていないんです。取材したものをブツ切りに並べただけ。断片的な要素の羅列で、何ひとつ物語が紡がれていないのです。被写体を取り巻く様々な周辺状況を点として取材し、点としてタイムラインに置いただけの番組だったのです。

(この番組を作ったディレクターは若手とベテランのコンビだったと後に知りました。「ロケVTRの教科書 構成編」を熟読することをオススメします。こんな番組にGOサインを出したプロデューサーも構成の基礎が分かってないので読んだ方がいいと思います。私なら同じ素材を使って何倍も面白い番組に編集し直せる自信がありますよ。少なくとも新入社員ADにつまんなかったなんて言わせません。)

しかしこの視点は、フツーに面白い番組を見ていても気付けないものです。人は面白くない番組を見た時にようやく「なんで面白くないんだろう?」と考え始められるのですから。

「なんで面白くないんだろう?」には様々な解があります。的確な言語化は非常に難しい。そうして悩んだ時にはじめて、類例の「面白い番組」を見るのが良いと思うんです。そして、ダメな番組との違いは何かを自分なりに分析する。「こうすると面白くない」「こうすれば面白い」がわかるようになれば、自分の作るものが変わってきます。

そこに気付いて欲しいのです。

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