戦争

私達は大学に通っていた。Aくんは眼鏡をかけていて細身だった。よく笑う人友人だった。Gさんは、Gさんだった。

「アメリカと、戦争を行う。向こうのアメリカ人はこちらの日本人を殺しにかかってくる。お前たちもアメリカ人を殺せ」
と突然、言われた。

大学からのスタートだった。a-1チーム、b-1チーム…と小分けにされた。私達は偶然にも同じチームだった。この3人で走ろう、という話になった。

夕方ごろ。スタートがかけられてから、すぐに走った。私は体力が無く、二人に追い付くか不安だったが、二人は私に合わせて走ってくれているようだった。「マラソン大会を思い出すね」とA君が言った。

家族連れのアメリカ人を見かけた。私達は誰かを殺すつもりはなかったので、とりあえず話しかけてみることになった。
話しかけてみると、向こうも友好的だった。私達と同じく殺すつもりはないと。少し安心した。けれど嘘をついているかもしれない、とも思った。父親と見受けられる男性はゴルフケースを持っていた。私はそれを見てひやっとした。
「お金とそのゴルフクラブを交換しませんか」とA君が言った。父親は承諾してくれた。私はホッとした。

彼らが何かやっているうちに、私は周りを見渡した。茂みの中に佇むアメリカ人の子供。何かを手に持って私達に向けられている。あっと言う間もなく、それは撃たれた。目の前に居たアメリカ人の奥さんがうっと声を上げてひざまずいた。
「頭に、何か…」私は奥さんの後頭部を見た。金色に光る刺のようなものがブロンドの髪の中に埋もれていた。私はそれを抜いた方がいいのか分からなくて、そうこうしている内に、奥さんはみるみる青ざめていった。倒れそうになって、抱えた。
「あそこの子供だ!」と私は茂みに指差して叫んだ。旦那さんは泣き叫んでいる。子供は無表情のまま突っ立っている。
皆がその子供の姿を確認すると、とりあえずこの場から離れよう、という話になった。私が奥さんを背負おうとすると、旦那さんが「いいから。妻のことは私達がやる」というようなことを言った。私は旦那さんの言う通り奥さんを預けた。私達3人と、家族連れのアメリカ人たちは、これをきっかけに別れた。ゴルフクラブは結局お流れになった。

私達はうどん屋さんの前に居た。店の戸は私達が開ける前に勝手に開いて、目の前に店主と思われるオヤジが立っていた。「もう、食い物は無いよ。売り切れだ」とオヤジは言った。店の中の様子は、うどんを必死にすする音で賑わっていた。
店の戸が閉じた後も、私達は無言でうどん屋の前に立っていた。しばらくそうしていた。そうか、私達はお腹がすいていたんだ、と私は初めて気づいた。楽しげに振る舞っていたあの二人は、ずっと無言だった。
その内、誰が言うでもなく、店の前を立ち去ることになった。私は喉が渇いていることにも気づいた。水を入れたペットボトルを家から持ってくればよかったな、と思った。

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