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この夏、アートセラピー②|ホドロフスキーの『サイコマジック』

◇2020年8月16日の日記より

やっと、やっと。
ホドロフスキーへの橋が掛かった。

実態がよくわからないのに、「我来たり(ドーン)」と、妙に圧の高い存在感で、いつの間にか頭の中に入り込んでくるキーワードと、ときどき出会う。しばらく寝かしてると、だれかの文章なんかに再びチラっチラっと光を当てられて、(いっとき、レヴィ・ストロースとかけっこう浮上してきていた)たまりかねてちょろっと調べたりするのだけど、たいてい近づく糸口さえ見つからなくて、また頭の中の「保留ゾーン」に仕舞い直す。

アレハンドロ・ホドロフスキーも、ルネ・ドーマルの『類推の山』を端緒に、ここ数年のあいだ頻出しては、「うーん…??」と仕舞い直していたキーワードだった。


が、何がどう開通したのか2020夏、とうとうYoutubeのオススメ動画にまで上り詰めてきたりしたので、(あの枠って超個人的なヒットチャート)長尺なうえにスペイン語の動画に膝をつきつけるかどうかはともかく、調べてみたら、新作映画が公開されているという…!

ので、映画『サイコマジック』を観に行ってきた。(公式サイトでは吉本ばななさんがコメントを寄せておられる! これも自分あるある)

ひとつ前の投稿も、つづく③も、通底するテーマは「セラピー」で、どうやらこの夏は徹底的に、ほったらかしにしてきた部分のトリートメントをオススメされてるみたい。


“「サイコマジック」とは科学を基礎とする精神分析的なセラピーではなく、アートとしてのアプローチから生まれたセラピーである。”
“私にとっては、サイコマジックはアートである。アートで人を癒すことができると証明しようとしているんだ。”
by アレハンドロ・ホドフロフスキー

https://www.uplink.co.jp/psychomagic/


この本質を受け止めなければ、ただただショッキングで奇異な映像が繰り返される104分。

長きに渡り、家族へのトラウマに囚われてきた登場人物のそれぞれが、ホドフロフスキーのアートパフォーマンスの主人公となることで、解放され、もともとの(あるいはあたらしい)自分を獲得していく。

施術後のカタルシスには個人差があったようだけど、ああ、今、突き抜けたな、と映像越しに伝わってくるエピソードでは、彼らほどの深刻なトラウマはないにしても、近いところで呼応して、こみ上げてくるものがあった。

パフォーマンスはケースによって異なり、ときに大掛かりで、「これ、どうやって手配したん?!」と野暮なことを思ったり笑 いずれにしても、表面的には「なにをいくつ、こんな使い方でどうする」という儀式に見えた。「これをして何になるというの?」と、ときに訝る登場人物には、ホドロフスキーはやさしく、「すべて無意識にはたらきかけているのだよ」と、不安をなだめる。

整体などのボディワーク、旧い魔術や錬金術のメソッドに則っているのかな?と思われるものや、まったくの創作によるものもあったかもしれない。なんてゆう邪推はさておき、込められたメタファーもいちいち理解できないけど、奇想天外な手法を生み出し、それを迷いなく実践し、作品として記録し、広めるまでのエネルギーには文句なしに圧倒される。

ときにお父さん代表のように、またはお母さん代表のように、自由自在に、おそらくは“愛”を現しながら、ホドロフスキーは、徹底して人のトラウマに寄り添う。

きれいとされるもの、いいとされるものを否定するでもないし、汚いとされるもの、わるいとされるものをも否定するでもないみたい。ただ、過剰に育ってしまったものを刈り取り、十全に育たなかったものを養って、ゼロにする。

自分だけの手に負えなくなるまでの道のりを経てしまったのは悲しいけれど、やがて自らの傷が癒しのプロセスを呼び覚まし、どこかのだれかにも癒しをもたらすという、壮大な変容と救いのストーリー。

☆彡ホロスコープでいうと、8室と12室で扱われるにふさわしい内容だろう。変容のエネルギーの示唆するのは蠍座、冥王星。すべてを包み込み溶かしてしまう様子には魚座、海王星のはたらきを感じる。

「サイコマジック」を実際に受けられる人は限られているし、あんなにまで大きなエネルギーと引き換えにできなかったとしても、たとえば小さな診療室で、または家庭や身近な人間関係のなかで。表れは地味であっても、それぞれに必要な変容のプロセスが起こっているといいと思う。

星の一葉 ⁂ 光代


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