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【ライブレポート】2022/11/12 ナギサワカリン「anti lost in revelry」@ 下北沢MOSAiC

今回はナギサワカリン企画『anti lost in revelry』へ。10月に開催されたJUNE ROCK FES以来、オンライン含めると3度目のライブ鑑賞。

ナギサワカリン以外の3組はいずれも初見となるので、いろいろと新鮮な味わいたっぷりだったイベントをコンパクトに振り返ろう。

GEN

まずはトップバッター、GEN。『りんご音楽祭』のオーディションでナギサワカリンと同じステージに立っていたことが縁で声をかけてもらい、今夜出演することになったという。

下北沢MOSAiCのコンパクトなステージ、その左右にミニシンセやMTR(もしくはターンテーブル?)のような機材を配置。高揚させたりしっとりさせたりするエレクトロサウンドと共に、英語詞、日本語詞を駆使した楽曲を披露する。

またエレキギターでの弾き語りでのパフォーマンスもあり、ひとりで何役もこなすマルチプレイヤーでもあった。シティポップやファンク味も散りばめられ、耳心地も抜群。

後半に披露された曲では、歌詞を身振り手振りで表現しながらの演奏。《「旅の途中で寄っただけ」って ジュリエットルイスも去っただろう》というフレーズも印象的。これは『ギルバート・グレイプ』をイメージした一節だろうか。

年齢層高めの男性9割、しかも着席なフロアを相手にやりづらい面もあったと思うが、そんな部分は全く見せずに堂々ハンドクラップを求めたり盛り上げたりと、ステージに立つ者としての気概を感じさせてくれるライブだった。

MCあんにゅ

2番手として登場したのは、ラッパー・MCあんにゅ。ナギサワカリンとは一緒に山登りをする仲だという。ライブ直前、まだ照明が灯らないステージで準備運動し、いざ開幕。

ロンTにひらひらしたスカート、ルーズソックスというビジュアル。そして自らを奮い立たせるように「がんばるぞ~!」と言い聞かせるなど、ふわふわした印象の持ち主だ。

キュートなラップを中心に歌パートも織り交ぜながらのパフォーマンスでオーディエンスとの距離を縮めていく。

今日の出演者には余裕を感じるというあんにゅ。でも「水面下ではバタバタもがいて苦しんでるんだと思います。そう思わないとやってられないですよね」と続ける。自身は「ひょうひょうとしている」と言われることもあるそうだが、いつも焦っているんだと本音も吐露していた。

自己紹介やナギサワカリンとの関係性など、即興のフリースタイルラップで綴りながらのライブは、彼女自身がちゃんと表現されているようにも思える。

そんな中、ライブ半ばに、曲の途中でトラックが止まってしまうアクシデントが発生してしまう。PC接続トラブルのようだったが、「こういうときに続ける動画がTwitterでバズりますよね」との言葉とは裏腹に、復旧できるのかと困惑するあんにゅ。ピンチをチャンスに変えられるか、という場面で観客から自然とハンドクラップが発生する。トラック代わりのリズムにあんにゅもすぐ反応してラップを継続。チームプレイのごとく会場一体となってこの窮地を名シーンへと変えていった。

ラスト、靴とルーズソックスを脱いで裸足となって歌うあんにゅ。まさに自らをさらけ出すようなパフォーマンスで30分のステージを締めくくった。

玖咲舞

3番手は玖咲舞。ピアノによる弾き語りでのライブだ。第一声からその歌声が持つ強さと深さが刺さる。厳かであり、どっしりとした重厚感を備えつつも流れるような美しい歌唱。

まずは一気に3曲を歌いきり、ガツンと玖咲舞の世界へ引きずり込んでいく。歌い終わると、披露した楽曲タイトルを紹介するという、きめ細やかなアナウンスが嬉しい。

また、フロアを射す照明が明るいため、恥ずかしくて観客の顔が見れなかったとのことで、照明を暗くしてほしいとスタッフにリクエストする玖咲舞。観客に対して「なきものとする」と言い放ち笑いを誘っていたが、先ほどの圧倒されるような歌と演奏とは真逆ともいえる、人間味が感じられるシーンだった。

そして再び歌へと戻れば、やはり独特の凛とした空気にピリッと引き締まる下北沢MOSAiC。ピアノの音と彼女の歌声のみで奏でられる楽曲には、シンプルだからこそ届くものがあると思わせてくれる魅力があった。

今日は7曲演奏する予定だったそうだが、どう計算しても持ち時間である30分を超えてしまうとのことで6曲のセットリストにしたという。

ピアノを弾きながら歌うのは、10か月振りだという玖咲舞。下北沢MOSAiCのステージに立つのはなんと9年ぶりだという。すかさず、笑みを浮かべながら小さな怒気を込めて「いくつだと思ったでしょ? 30だよ!」とすごむ玖咲舞が、姐さん感もありつつどこかチャーミングでもある。

「ナギサワカリンさんという、私の友人であり尊敬するシンガーソングライターの方がここに私を呼んでくれました」

「聴いていただいてこそ音楽ですので、こうした機会を作っていただけて、全然ライブをしていない私を呼んでくれて。ワカリンが声をかけてくれたことには意味があると思ったので、こうして久しぶりに歌いに来ました」

笑いを生みながらも、伝えるべき感謝や思いを丁寧な言葉遣いでしっかりと伝える彼女の、筋の通ったその姿勢が歌にも宿っているからこその、美しい歌唱なのかもしれない。

ラストに披露した「超新星★」。

《ビルの屋上から 身体を蹴り上げても》
《重力は許さない 空へは逃げられない》

こんな歌いだしで始まる重い曲だったが、わずか30分の中で感じさせてくれた、彼女が作り出す世界にピタリとハマるような楽曲だった。

セットリスト
01.来世(宣誓)
02.メメント
03.愛の宿
04.中野区、某日の夜
05.アウトサイダー
06.超新星★

ナギサワカリン

トリを務めるのはもちろん、ナギサワカリンだ。パートナーとしてキーボードのカノーリュータローを配した、「二人三脚編成」でのライブとなる。

ワンピース姿にアコースティックギターというスタイルなのだが、とにかく様になっている。バランスが絶妙で美しい。

そんなナギサワカリンが1曲目に披露したのは「ジンベイザメ」。彼女の大きな特徴として“デカい声”が挙げられるのだが、ここではすぐ目の前にいる観客に心に沁み込ませるような、柔らかな歌声を届けていた。

続く「シーサイドドーナツ」では、ジェスチャー&レスポンスなるパフォーマンスを促す。まずは初見でもわかるようにとレクチャーを施すナギサワカリン。《シーサイドドーナツ》の歌詞の部分で、観客は大きく両手を使って、あるいは指を使ってドーナツの形を作る。さらには《キラキラ キラッキラ》の歌詞に合わせ、両の掌をクルクル回して星のきらめきを表現するジェスチャー。

この《キラッキラ》の部分をカノーが太く低い声でコーラスすると、「ねえやだ~~ほんとにやなのそれ!」と嫌悪感を示すナギサワカリンに客席からは大きな笑い声も。そんな二人三脚編成のコンビネーションが、会場をより和やかな雰囲気へと変えていった。

3曲目に演奏したのは新曲「一線」。初めてフルコーラスで披露するという同曲。先ほどまで笑い声が溢れていたここ下北沢MOSAiCに、張りつめた空気が漂う。緊張のなか、最後まで力強く歌いきったナギサワカリンからは安どの表情が。

新曲に臨む際のバタバタした裏話をカノ―に暴露され、あるいは自ら打ち明けることで、一気に緊張が解けた会場には再び笑い声が溢れていた。

イベントタイトルにもある「revelry」は「夢見がち」なワードだそうで、本人も好きな言葉とのこと。しかしふと「夢ばっか見てんじゃねえよ」というモードになったというナギサワカリンは、今回のイベントタイトルで「revelry」に「anti=アンチ」を加え名づけたんだそう。

今日の共演者たち、そして来場者への感謝を伝えると、「Miree Drive」へ。哀愁を帯びる歌声と温もりのあるキーボードの音がいいバランスで融合し、じっくりと聴き入ってしまう一曲だ。

さらにかき鳴らされるギターの音が感情を刺激し、ドラマティックなキーボードとも相まって情熱的な音に包まれる「hopeful」へと続く。

気づけばあっという間に最後の曲。会場からの「え~~」の声に「ねえ!そんなオクターブ下の“え~~”ある!?」と驚くナギサワカリン。自分も含めた来場者の年齢層の高さが如実に出た瞬間かもしれない…!

本編ラストとなるMCでは、先ほどのライブでMCあんにゅが、着席している観客に余裕を感じる、というトークをしていたことから、「余裕」のあるなしについて話が広がった。「余裕あるように見せることはすごいことだと思う」と、「自分にはできないから」と付け加えて話す彼女。

さらに続けて、ライブハウスに来た観客の、「余裕の隙間」が見える瞬間が好きなんだと語る。その隙間、心を開いた瞬間が「音楽を、ライブハウスを通して私に伝わってきたとき、ありがとうって思う」と自身の思いを届けていた。

そして本編を締めくくる一曲へ。「見えないくらい小さな幸せにもスポットを当ててね」というメッセージと共に「スポット」を披露する。一寸先闇バンドのおーたけ@じぇーむず作詞・作曲の同曲は、まさにおーたけ印ともいえるメロディや節回しが特徴的。そこにナギサワカリンの、ここまでで今日イチともいえる熱唱が乗ることでグッと観客の心を掴んでいたように感じた。

アンコールでは、今日この場で出会えたことの感謝を示すように「ライブハウス」を披露すると、『anti lost in revelry』の最後を飾る曲として、「明日を生きるすべての不器用たちへ」との言葉から「ヒカリ」を歌い上げる。彼女の、伸びやかでいて意志をもっているようなパワフルかつエネルギーに満ち溢れた歌声が、まさに「響き渡る」という表現そのままに会場を満たしていった。

トークと楽曲、あるいは楽曲それぞれにも緊張と緩和があり、その押し引きが見事。圧巻の歌声だけでなく、その言葉や立ち居振る舞いにもたくさんの魅力があり、シンガーソングライターとしてだけでなく、人間・ナギサワカリンに引き込まれるようなステージだった。

セットリスト
01.ジンベイザメ
02.シーサイドドーナツ
03.一線(新曲)
04.Miree Drive
05.hopeful
06.スポット
EN.
07.ライブハウス
08.ヒカリ

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