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【ライブレポート】2021/10/1 KEMURI TOUR 2020 “SHUKUSAI” ファイナル

コロナ禍の影響で本来、2020年9月20日の開催を予定していたKEMURIの25周年記念ツアー『KEMURI TOUR 2020 “SHUKUSAI” -CELEBRATING 25 YEARSPLAYING OUR ALBUMS LITTLE PLAYMATE AND 77DAYS』ファイナル。紆余曲折ありながらも、1年後の10月1日に当初と同じ会場であるSHIBUYA O-EASTにて無事、終幕を迎えることができた。

この一年の間に、O-EASTもリニューアル。当たり前だったモッシュやダイブも姿を消し、マスク着用、声出しNG、与えられた小さいスペース内でのスタンディングと、新しいルール&マナーが浸透。

すっかり景色が変わったライブハウスで、どんなファイナル公演が繰り広げられたのか。

オフィシャルレポもあるだろうし、ここでは個人の感想を交えつつかいつまんで簡潔に振り返ってみようと思う。


登場SE、NOFX「All Outta Angst」で津田紀昭(Ba)をはじめとするKEMURIメンバーとサポートの須賀裕之(Tb)がステージに現れる。少し遅れて、伊藤ふみお(Vo)が登場し、左手にマイクコードをぐるぐると巻き付ける。

ファンにはなじみのありすぎる光景だが、当たり前が当たり前ではなくなった世界においては、このシーンだけでもう胸が熱くなってしまう。

最新アルバム『SOLIDARITY』の1曲目でもある「ANCHOR」でライブは幕を開けた。今回のツアー、ファイナルが初参戦となるファンも多いのだろう。冒頭から今までの渇きを解消するかのごとく、楽しむことに貪欲なフロア。その場からは動けないものの、限られたスペースの中で、ありったけの思いを込めてライブを楽しむ喜びを表現しているようだ。

最初のMCブロックでふみおさんは言う。

「明けたよ、緊急事態宣言!」

そして25周年ツアーなのに26年目に突入してしまっているが、気にせずに26年前に作った歌を歌いたいと宣言。フロアに向かって、声出したくても、それはやめて心の中で歌ってほしいと伝え、「New Generation」へ。

KEMURIのファーストアルバム『Little Playmate』1曲目収録のこのナンバーは、活動開始26年目の今でも頻繁にライブで披露されている。まったく色褪せないどころか、キャリアを積めば積むほど、人生の年を重ねれば重ねるほどに演奏する側、聴く側双方にとって味が増していくようだ。

ブチ上がるポップなイントロのホーンにスカ特有の細かく刻むカッティングギターが気持ちいい「deepest river」を経て、再びふみおさんのMC。

「世界は変わった」
「元に戻るとは思いません」

そう言いながら、世界が変わったのなら、変わらないんじゃないかと思っていたことでも変わるかもしれない…そんな思いがこもった曲「Heart Beat」へ。

アンチレイシズムともいえるこの曲を、戦闘モードというより明るくポップなサウンドで仕上げているのがKEMURI、そしてSKAの魅力でもある。

26年の時間を一瞬でワープするかのごとく、『77 DAYS』収録曲から『SOLIDARITY』収録の「Hungry Passion」へと続く。フロアからの手拍子が有観客ライブであることを鮮明に浮かび上がらせており、俄然テンションが上がっていく。

ここで早くもライブ鉄板の「Ato-Ichinen」。本来なら皆がわっかを作ってグルグルまわる曲ながら、今日はその場で各自がまわって、と告げるふみおさんに応えて場所移動せずにグルグル回転し始める観客たち。ノリの良さはさすがと言ったところ。「真に受けないでいいよ!」とハシゴを外すふみおさんも楽しそうだ。

自分の気持ちを言葉にできた、そんな曲をみんなに届けたいというメッセージから「I Love You」。もはやKEMURIファンにとっては結婚式定番曲と言えるかもしれない名曲だ。

激しいロックにポップなSKA、そしてミディアムなラブソングとバラエティ豊かなラインアップが続く中、インスト曲が投入される。

『SOLIDARITY』収録の「Contemplation」だ。これまでシンガーとしてフロントマンとしてその魅力を発揮していたふみおさん、ここでは一パフォーマーとしてリズムに合わせて体を揺らし、踊っている。主役となる楽器隊、特にホーン隊である河村光博(Tp)、コバヤシケン(Sax)、須賀の3人による見事なアンサンブルが会場を包み込んでいた。

打って変わって平谷庄至(Dr)のドラムから始まる「SEMISHIGURE」ではKEMURIらしい極上の軽快サウンドが炸裂する。田中‘T’幸彦(Gt)がコーラスとして歌う≪とおり雨過ぎれば蝉時雨!≫もキャッチーで耳に残る一曲だ。

早くもライブは中盤から後半へと進んでいく。

緊急事態宣言が解除になったということで、前日にスタッフから「会場でビールを販売してもいいか?」と連絡があったとのこと。バンドの意向を尊重したいという気遣いにふみおさんは「どんどん売ってください」と答えたそうだ。

SKAの現場を知り尽くすふみおさんは、当然酔っ払いの質の悪さも把握済み。やらかす前に釘を刺す意味も含んでいると思うが、大声を出したくなったら外に出て穴を掘って叫べと告げる。

また、飲みすぎている奴がいたら穏やかに外につまみ出そう、などと注意喚起(?)しつつ、「俺たちは、今の状況を変えるように今を一生懸命やります!」と熱いメッセージでキメてくれた。

「クソみたいな仕事やりたくないって気持ちを忘れたくない。1998年に作った曲を一曲やりたいと思います」

そんな言葉にステージが一瞬混乱の空気を纏う。メンバーの顔を見て、少しだけ間を置いてからふみおさんの口から出た曲タイトルは「My Ghost Town」。コロナ禍に部屋から街を見たときの思いを歌ったというこの曲の紹介としては明らかに間違っており、これはふみおさんやらかしたな、と気づいたフロアからは笑い声も生まれた。

スムーズとは言えない導入だったが、セットリストを間違えるチャーミングなふみおさんも見ていて楽しい。そんなほころびではびくともしない。ステージの上で何が起ころうと、受け入れる準備は整っている。それがKEMURIだ。タイトルとは真逆ともいえる陽気なリズムと、思わず拳を空に突き上げてしまいたくなるサビが印象的な2分強のナンバーでフロアを存分に盛り上げた。

曲が終わると再び「クソみたいな仕事…」と先ほどの口上を繰り返しつつ「編集できますか?」とスタッフに確認する場面もありつつ、あらためて1998年に作った曲を、ということで変則的なイントロのリズムが癖になる「Minimum wage」を披露する。

続いての曲は、Tさんが書いた「Patience」。冒頭に飛び出す掛け声のパンチが特徴的であり、どこか初期KEMURIを思わせる一曲でもある。今日の時点では観客による声はないが、いつかステージとフロアがともに大声で《HEY! Wait! Hey!!》と叫んで始まる「Patience」を味わいたい。

いよいよライブも残りわずか。初期を思わせる曲から正真正銘初期の曲「Along the longest way...」、さらには須賀さんのトロンボーン演奏によるイントロで会場がひとつになる「Prayer」と続いていく。Tさんの隣でエアギターを披露するミッチーさんの姿に思わず顔がほころんでしまった。

本編ラスト1曲、というタイミングでKEMURIではおなじみのふみおさんによる挨拶。「バンドを代表して…」と、会場やツアーのスタッフ、そしてレーベル関係者、さらには家族や友人、そして会場および画面の前のファンに感謝の言葉を贈る。サポートで参加している須賀さんが誰よりも丁寧に、ステージ袖にいるスタッフに向かってお辞儀で謝意を表している姿が目に飛び込んできて、こんな人がメンバーであり、サポートとして今もKEMURIを支えてくれていることがなんだか誇らしく感じた。

ふみおさんはMCの中で「今のKEMURIを聴いてください」と話す。

26年目に突入しているKEMURIには、たくさんの代表曲がある。解散までにリリースした曲たちの多くはまさにライブ鉄板曲ばかりだ。しかし再結成してからも続々とアルバムを発表し、常に新しいKEMURIを提示してきたその貪欲な姿勢があるからこそ、「今のKEMURIを聴いてください」という言葉に説得力があったように思う。

ライブ本編を締めくくったのは、分断せず、団結して困難を乗り得ようと歌う「SOLIDARITY」、自信作という最新アルバムのタイトル曲だった。

アンコールに突入すると、26年前、3人集まってリハスタで初練習を行ったときのエピソードを交えつつ、これまでの歴史の中で「これで最後だ」と思うことが何度もあり、腹をくくったんだと話すふみおさん。

今を燃え尽きる、今を全力で生きる。

そんな力強いメッセージとともに、「25年間の今がめちゃくちゃ詰まった」というラスト2曲を披露する。

KEMURIといえば、の名刺代わりな一曲「PMA」。その場で飛び跳ね、スカダンで汗をかくファンの盛り上がりは素晴らしく、それでいて立ち位置は守り距離も保つミラクルな景色が広がる。

最後の曲を演奏する前にメンバー全員とグータッチするふみおさん。フロアに背を向け、後ろにいた須賀さんを正面に見据える。イントロのトロンボーンに重ねてひと言「白いばら」。

最後の曲にして最大の爆発を巻き起こすパフォーマンス。ライブで何度も何度も味わっている曲にもかかわらず、まったく飽きることなく都度、感情を揺さぶってくる。KEMURIのメンバーだった森村亮介氏を歌った曲でもあり、また彼の命日が近いこの日の「白いばら」によって、会場にいた多くの人の胸に様々な思いが巡っていたことだろう。



曲が終わるタイミングでの庄至さんの雄叫び、そしてふみおさん、コバケンさん、さらには津田さんのジャンプ。ミッチーさんのスカダンやTさんのカッティングにコーラス。

それぞれに年齢も重ねてなお、ステージの上では激しくて、まさに今を燃え尽きるようなパフォーマンスは、人生の後輩である自分に大きなエネルギーを与えてくれた。

これからもしっかりと身体をケアしつつ、素晴らしいライブと最高の音楽を届けていってほしい。

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