【ライブレポート】2023/1/18 Eggs×下北沢MOSAiC共同企画「アオキハルヘ Vol.5 -新春SP-」@下北沢MOSAiC
Eggsと下北沢MOSAiCの共同企画シリーズ『アオキハルヘ』の第5弾ライブに行ってきた。
このシリーズは、10代アーティストを対象に、早耳リスナーの間で話題になりつつあるアーティストや、まだ無名ながら今後注目の若手アーティストを呼んで下北沢若手シーンを盛り上げていこう、というもの。
今回は新春スペシャルとして、すでに注目されている若手をブッキングしてのライブとなる。
出演アーティストは以下の4組。
本来はガラクタも出演予定だったが、メンバー体調不良のためキャンセルとなり、代打でアカネサスの出演が決定した。
若さが光る瑞々しいライブを、ごくごく簡単に振り返ってみよう。
アザーカット(O.A)
日大二高出身のバンドで、(おそらく)2022年春に高校を卒業した、高卒1年目の“ルーキー”。メンバーは華音(Vo/Gt)、杏(Ba)、さとのり(Gt)、しゅうと(Dr)の4人。
高校生のライブ大会「MUSIC DAYS」等にも出場経験があり、すでに各種ライブ活動も行っており、ルーキーとはいえガンガン経験値を積んでいる真っ最中といったところだろうか。
ビジュアル的にも音楽的にもとても爽やかで、耳心地の良い華音のまっすぐな歌声が映える。また、さとのりによるギターの音色がめちゃくちゃカッコよく、ちゃんとしたテクニックも備わってて聴きごたえ充分。
バンドの華ともいえるギターとボーカルにしっかりと色があって、とても魅力的なバンドに見えた。
フロア前方エリアには、ファンと思われる人々が手を上げながらライブを楽しんでおり、すでにファンも付き始めている様子。
華音は「今日が今年初めてのライブで。緊張する気持ちもあるんですけど、楽しみたいという気持ちもありまして。みなさんで楽しんでいきましょう」と挨拶すると、喋りたそうな顔してる、というフレーズを使ってさとのり、そして杏にも話を振る。
さとのりは「高校時代から大会とかで一緒にやってたバンドさんが出てるので、気持ち的には再会する感じで、特別な気持ちで臨んでます」と話し、杏は「高校生の(軽音部?)引退の時にライブをやったバンドとまたできるのが嬉しいです」とコメント。
今や高校軽音部も大会出場して全国を目指す、というルートがあり、それらのシーンで活動してきた子たちが高校卒業後、本格的にバンド活動をスタートさせるというサイクルが出来上がっているんだなと実感した。
最後のMCで華音は、今日このライブハウスに、今まで自分たちのライブを観に来てくれた人や初めましての人たちの顔がたくさんあって嬉しい、と話す。
ライブ中、一人ひとりの観客に向けて視線を移していく姿に、なんて堂々としているんだろう、と感じていたのだが、そうやって個々のリスナーを意識しながらライブをしていることがMCからも伝わってきた。
音楽性だけでなく、ライブパフォーマンスでもファンを増やすことができる、そんな可能性を感じさせるアザーカットのステージだった。
板歯目
2番手に登場したのは、板歯目。すでに、若手枠とはいえ幕張メッセでのイベント出演も決定している、まさに今最注目株のバンドのひとつ。こちらも2022年春に高校卒業の“高卒ルーキー”だ。
ライブのオープニング。庵原大和(Dr)の一発目のドラミングから腹にドスンとくる破壊力。ライブハウス×爆音=板歯目の公式が成り立つくらいの代名詞だ。千乂詞音(Vo/Gt)とゆーへー(Ba)も負けじと迫力満点のパフォーマンスで、あっという間にこの場を支配していく。
順風満帆と思われたライブだったが、「dingdong jungle」で思わぬトラブルが。千乂のギターから音が出なくなってしまったのだ。皮肉なことに《ギターじゃんじゃん、鳴らせガンガン》という歌詞のある楽曲をギターレスのまま走り抜ける。それでもゆーへーのベースが、ギターの代役を果たせるほど楽曲を引っ張っていたので、大きな違和感なく楽しむことができた。
「初トラブル。乱暴に扱い過ぎたのかな。機嫌損ねてしまったみたい。機嫌直してくれよ~」とギターと対話しながら、スタッフと共に復旧作業を進める千乂の横で、ライブ中に無音を作ってはならんとばかりに、ゆーへーと大和がセッションを始める。
ふたりの演奏が続くなかで、なんとかギターが復活。セッションを止めず、そのままの流れで千乂も加わり、次の曲「エバー」へと突入。繋ぎの部分で若干のぎこちなさはあったものの、さすがライブバンドだと思わせてくれる胆力だ。
高校時代のライバルたちとのライブ、ということもあるのか、現役高校生時代にも演奏していた「エバー」をセットリストに組み込むあたり、勝手に物語を感じてしまう。
まるでアスリートかのような派手なアクション連発のゆーへーから目が離せない「芸術は大爆発だ!」、フロアから拳がたくさん上がって盛り上がり、ラストの大和のコーラスはもはや絶叫、という「まず疑ってかかれ」、さらには「ラブソングはいらない」「コドモドラゴン」など、次々に激しいライブ鉄板曲を投下して会場を熱くさせる板歯目。
個人的にも大好きな「Ball & Cube with Vegetable」は、演奏もメロディもめちゃくちゃ痺れるナンバーなのだが、そんなカッコいい曲に乗る歌詞が《まるでおでんのようだ》というギャップがなんとも彼女たちらしい。
機材トラブルもあり、また30分という短い持ち時間ということもあってか、千乂によるMCはほぼなし。そのままラストまで「KILLER,Muddy Greed」「地獄と地獄」と今の板歯目を代表する楽曲でライブを〆た。
アクロバティックともいえるようなゆーへーのパフォーマンス、常に笑顔で楽しそうな大和のドラミング、そして様々なタイプの歌声を使って楽曲を表現する千乂。3人の個性がこれでもか!と爆発する板歯目のライブは、まさに1本として同じものはないと思わせてくれるものだった。
アカネサス
本日3番手は、高知県・四万十発3ピースロックバンド、アカネサス。メンバーは愛(Vo/Gt)、梨代菜(Ba)、百華(Dr)の3人だ。
転換中、セッティングを終えると一度ステージから去り、登場SEと共に再びステージに現れるという演出で、演奏前から彼女たちの世界観を作っていく。
ステージの上で3人拳を合わせて掛け声一発、10-FFETスタイルで準備OK。「アカネサスです!よろしくお願いしまぁす!!」と愛の力強い第一声からライブが始まった。
まずは「リアル」、そして「アサガオ」と力強い楽曲が続く。3ピースならではの、個々の楽器の音がよく感じ取れる演奏が楽しい。
愛はMCで、今日(1/18)の0時に配信スタートしたという新曲「大人になりたくない」について紹介する。「私の気持ちがモロ表れた曲で、タイトルの通りなんですけど、4歳になりたいとか、お昼寝できる頃に戻りたいとか書いていて、ずっと歌いたいなと思える曲」
この新曲はどんなメロディで、どんな歌詞が歌われているんだろう…と演奏を楽しみにしていると、「次の曲は『0927』という曲です」とのアナウンス。とんだおあずけを喰らってしまうまさかの展開で個人的にはざわざわしてしまったが、「0927」はそんな動揺を落ち着かせるようなしっとり歌い上げていくミディアムナンバーだった。
アカネサスのライブは、観客に向けて手拍子を促すなどフロアとのコミュニケーションにも積極的。そしてコーラスワークでは、ハモだけでなくユニゾン歌唱もあり、バンド全体としてのまとまりが感じられるようなパフォーマンスだったように思う。
「孤独」という曲を披露する前に愛は、ひとりの時間を過ごすことの大切さと同時に、近くにいる大切な人、彼女にとってはバンドのメンバーのような存在のありがたさについて語った。曲を深く理解したり、あるいはその世界へとグッと入り込んだりするための導入として素晴らしいMCだった…のだが。
そんな切ない一曲の後、ライブのラストを飾ったのは「バイト」という曲で、これがまた、「明日から、バイトです!バイト行きたくない!」という叫びから始まって、バイト代、これじゃ足りねえもっと出せ!と歌う、めちゃくちゃ激しくてぶっ飛んだ一曲。ついついSu凸ko D凹koiの「店長、私バイト辞めます。」を思い出してしまった。
ラスト2曲の高低差がよりアカネサスを強く印象付ける、そんなセットリスト。本来出演予定だったガラクタの代打として、急きょ出演が決まったアカネサスだったが、しっかりと爪痕を残したライブになったのではないだろうか。
HATAKE
今回のイベント、トリを務めたのは、兵庫県・淡路島出身の同級生、池澤寛太(Gt)、北谷隼斗(Vo)、秦大翔(Gt)、刑部壮登(Ba)、仲野剛瑠(Dr)の5人組バンド、HATAKE。
登場SEと共に、それぞれがポージングしながら入場する、パリピ感溢れる幕開け。彼らにとって今日が初の下北沢MOSAiCとはとても思えないリラックスぶりだ。YouTubeチャンネルの登録者数は6万人を突破し、フジテレビ系『めざまし8』のエンディングテーマも担当するなど、関連ワードや数字的には、4組の中でもインパクト大。
華のあるボーカル・北谷と、主張の強いボリューミィなヘアが印象的なギター(たまにボーカルの一翼を担う)池澤を中心に、独特の雰囲気をまとったバンド。上裸のドラム・仲野以外の4人がフロントに横一直線で並び、所狭しとプレイする景色は壮観。なおかつ曲中に「いい感じいい感じ♪」と叫ぶなど緩く、そして自由な彼らのパフォーマンスについ惹きつけられてしまう。
『めざまし8』エンディング曲であり、90年初期のような、歌謡曲からJ-POPへと移行する頃のテイストを帯びた疾走感溢れる「漣」をはじめ、オルタナロックから歌謡曲、さらにはシティポップ味あるナンバーなど、ジャンルを自在に横断する楽曲をズラリ並べたセットリスト。
世代も性別も超えて、多くのリスナーが楽しめるようなラインナップに彼らの引出しの多さを垣間見た気がする。北谷と池澤によるツインボーカル時の無敵感もたまらない。
MCでは、某メンバーが本日大学留年決定という悲しいお知らせも発表。彼はもちろん他のメンバーも共に泣いたというとんだサプライズになってしまったが、そんな彼を元気づけるためにもライブを楽しんでほしいと告げる北谷。この後披露された「forgive」が、ラブソングではあるがなんとも切ない歌詞が綴られたムードたっぷりな楽曲で、他人事ながら留年決定の悲哀を感じずにはいられない。
「最近は寒い日が続いてますが、この冬乗り越えましょうね!」と優しい言葉をかけたり、「今日はみんな手を真っ赤にして帰ってください」と気の利いた言い回しで手拍子を促したりと、楽曲だけでなく言葉でもフロアの心を掴むHATAKEの5人。
留年したメンバーについて、大きな傷口ができてしまったと語る北谷は、さらに「ここにいるみんなの小さな傷とか大きな傷口とか、そういうのを助けられるような曲をやります」と告げて、その名も「傷口」という楽曲を演奏する。傷を負った人の心に寄り添うような、優しく柔らかい北谷の歌声がMOSAiCにすーっと広がっていった。
表現力も豊かで、バンドとしてのポテンシャルを発揮したHATAKE。本編最後で池澤がフロアに降り、観客と肩を組んで踊りだすという、まさに自由な振る舞いも飛び出すなど、楽しさ溢れるステージを見せてくれた。
YouTubeのカバー動画から火が付いたという彼らだが、ライブシーンでもその火がさらに燃え盛る、そんな未来が見えるようなライブだった。