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【ライブレポート】2022/12/1 UPSET CRAFT present「MINORITY FANCLUB」 ~ロックンロールなんて~@新宿Marble

NIYOCOと板歯目のツーマンライブに行ってきた。新宿Marbleが立ち上げた、バンドマンイベンター×ライブハウスブッカーの共同企画を運営するUPSET CRAFT。NYOCOのドラム・カンタも所属するこのチームによる企画が、今回のツーマンを実現させた。

この2バンドの、対バンでの出会いはおそらく2021年5月、同じく新宿Marbleでの、THE KING OF ROOKIE主催の17th ANNIVERSARY企画ではないだろうか。まだ板歯目はゆーへー(Ba)加入前の編成だったが、とにかく衝撃だった。

【ライブレポート】2021/5/14 新宿Marble 17th ANNIVERSARY×THE KING OF ROOKIE pre. 「MARBLE JACK 3DAYS」-DAY1-

あれから1年半。板歯目はメンバーチェンジを経て、グングン頭角を現す存在となり注目を集めている。NIYOCOもまた、愚直にライブハウスで自分たちを表現し続け、今もライブハウスで輝いている。

そんな2組の熱すぎるライブを振り返ってみよう。

板歯目

登場SEによるゆったりしたムードを押しつぶすように、3人が一気に全力で楽器を鳴らす。爆音を合図にライブスタート。1曲目は「ちっちゃいカマキリ」だ。鋭い切れ味が爽快なゆーへーによるベースがライブを引っ張っていく。終盤に3回ほどキーが上がる、喉に超絶負担がかかるこの曲をいきなり頭にもってくる、攻めのスタイル。

2曲目は「ラブソングはいらない」。まさに“顔で歌う”という表現がぴったりな、千乂詞音(Vo/Gt)のノンブレーキなパフォーマンスもすさまじい。負けじと庵原大和(Dr)も強弱を自在に操る情熱的なドラミングで魅了する。椅子の上に立ち上がるなど、見せ場もたっぷりだ。

外は寒い師走の新宿、しかし「KILLER,Muddy Greed」が演奏される頃にはハコ内、そして自分の体温もグッと上昇。彼女たちの熱がどんどん伝わっていく。

柵前に陣取った観客含め、曲に合わせてたくさんの手が上がり、板歯目にはしっかりとファンがついていることもうかがえた。

曲が終わると先ほどまでの無敵感はどこへやら。弱々しく、「こんにちは、あらためまして板歯目と申します。よろしくお願いしまーす」と挨拶する千乂。

そしてバツが悪そうに「初めて、今やった曲の前半の歌詞全部忘れちゃった笑」と告白すると場内からは笑い声も。「初めてだから許して」と観客、そしてメンバーに許しを請うと、ライブ再開。4曲目は「dingdong jungle」。“ディンドン”のフレーズがハマるリズムに乗せて、軽やかなステップで楽しませるゆーへー。千乂級の顔パフォーマンスでドラムを叩く庵原は曲中に「よっしゃあ!!!」と叫ぶなど、まさにエンジン全開。

通称“おでん”と呼ばれる、歌詞にも演奏にも遊び心が散りばめられた「Ball & Cube with Vegetable」では、暴れ馬的プレイは抑え目にマイクスタンドを前に歌を届ける千乂。

続く「コドモドラゴン」、そして流れるように繋いだ「コモドドラゴン」のセットでは、一転して千乂はヘドバンギターを炸裂させる。曲に合わせたフロアの拳もタイミングばっちりだ。ゆーへーはほぼ床に垂直な角度でベースを立てて、暴力的なまでのサウンドを繰り出す。

そしてここからがある意味板歯目の真骨頂。いくつかテイストの異なるタイプのセッションが続く、インストタイムが始まった。感情やエネルギーを全開放するかのような激しい演奏ながら、決して崩れることなく見事なセッションを披露する。時間にしてなんと約8分! 大胆な時間の使い方だが、音も動きも、すべてが一瞬も目が離せないほどの濃密さ。セッションタイムが終わると、自然な繋ぎで「コドモドラゴン」に戻って〆る、気の利いた構成。

MCでは、初めてNIYOCOと対バンしたここMarbleでツーマンできたことを喜ぶ千乂。NIYOCO企画に誘ってもらったとき、ライブを頑張りすぎてろっ骨を骨折してしまったNIYOCOのカワセ(Vo/Gt)について、「めちゃカッコいい。まだライブで骨折したことないから、やりたい」と危険な発言も飛び出す。

そして、物販コーナーにNIYOCOメンバーが、「陰キャ陰キャ陰キャ」の文字と共に板歯目のイラストを書いたボードを展示していることに触れつつ、NIYOCOの物販も「超カッコいいCDなんで」と紹介。

末永画伯による板歯目イラスト

そんなリスペクトも感じさせるMCを経て、ラストブロックへ。「バトルカメ」「まず疑ってかかれ」と攻撃性たっぷりな2曲にフロアの盛り上がりもさらに加速。脚の開閉ステップで魅せるゆーへー。眼光鋭く、あるいは飛んだのか!?というくらいアブナイ目で歌う千乂。そんなフロントふたりにも負けない強度をもつ庵原のドラミングもすごい。

ラストを飾るのは、TikTokでもバズっている「地獄と地獄」。千乂の超高速ボーカルからのキラーフレーズ《ステージ降りるとメンバー左から陰キャ陰キャ陰キャ》と、聴きどころ満載。曲中に鮮やかなスティック回しを見せつける庵原、左手を上から被せてベースを弾くプレイを披露するゆーへーと、スリーピースの3人それぞれに溢れる個性が光りまくった45分だった。

セットリスト
01.ちっちゃいカマキリ
02.ラブソングはいらない
03.KILLER,Muddy Greed
04.dingdong jungle
05.Ball & Cube with Vegetable
06.コドモドラゴン
07.コモドドラゴン
08.バトルカメ
09.まず疑ってかかれ
10.地獄と地獄

NIYOCO

続いてはNIYOCOの登場。セッティング段階からTシャツを脱いで上裸になるカンタから、このライブに対する気合いも伝わってくる。

オープニングは「存在ビーム」から。千乂にも負けない目ヂカラでフロアを捉えながら爆発的な歌と演奏を放つカワセ。放っておくとどこかへ飛んで行ってしまいそうなほどのプレイを、熱さとクールさが表裏一体なカンタのドラム、そしてどっしりとした安心感を与えてくれる末永(Ba)のベースが支えている。

続く「マフエル」では、「俺の腰振りについてこれるか!」というカワセの叫び&激しい動きと、ゆったりグルーヴィーな末永のベースラインとの対比がまた面白い。何度も観ているNIYOCOのライブだが、今回初めて、マイクを最前の観客に渡して歌うことを促す場面に遭遇。そんなカワセを、ちょっと苦笑いを浮かべながら見守る末永。

曲が終わると開口一番「飛ばし過ぎた!」とカワセが叫び、「飛ばし過ぎてる」と呟く末永。いいコンビだ。

「ロックンロール大好きだから、ロックンロール歌いますわ!」との言葉から、「ロックンロールなんて」へ。まさにロックンロールなギタープレイから始まり、それでいて上っ面なロックを否定する刺激的な歌詞が並ぶ同曲は、NIYOCOのパフォーマンスとの相性もバッチリな攻撃的なナンバー。カワセひとりのバンドではないとばかりに、ベースの見せ場で盛り上がる観客に対しリアクションを見せる末永の姿もどこか新鮮に映る。

自らのプレイに「今のカッコよかった! マジでカッコよかった!」と何度も叫んで満足げなカワセ。次の曲にいきかけるも、再び「カッコよかった!」と流れをぶった切る。ここでライブの温度が下がってもおかしくないのだが、カワセのエネルギーがそれを許さない。勢いは持続したまま、4曲目「微熱」へ。

スイッチが入るとまさに唯一無二なフロントマンになるカワセの、本領発揮なプレイがさく裂。ヒヤヒヤと危うさも感じさせながら、でもつい引き込まれてしまう不思議な魅力の持ち主だ。

「ありきたりなこと言うけど、生きててくれてありがとうございます」
「俺頭が悪いから読めなかった、板歯目。最初は板橋区の歯医者さんかと思った」

そんな話で笑いを誘うカワセだったが、次のMCで空気が変わる。

自分にとってライブは、話をしに、悩みを相談しに来ている場所なんだと語りだした。自分は陰キャで、陰キャは気を遣うんだと。「大丈夫?」と言われたら大丈夫じゃないのに「大丈夫」と返すしかない。

個人的にいろいろあったとき、お客さんは「私も、僕もいろいろあったけど」と言いながらカワセを、NIYOCOを応援してくれた。そのことが不思議だと言う。なぜなら、自分がいろいろあるとき、他人がどうだろうと知らない。俺がいちばん苦しいんだと思ってしまうから。自分が苦しい中でも支えてくれる、そんなファンの存在がありがたいと語るカワセ。

そして「たまには、楽しかった!と思ってライブハウスを出ていかなくてもいい。泣いてこの扉を出て帰ったっていい。俺は無理には笑わないよ。今日生きててよかった、ホントにありがとうって言いたい」

そんな、熱いMCから間髪入れずに《今日一日生きた それでいい ありがとう》という歌いだしの「パラトラム」へ。「悩みを聞いてもらうのが俺のライブ。悩みに拍手はいらないさ」と観客の拍手を断っての演奏だったが、ただ衝動のままに突っ走る、押しまくるのがNIYOCOではないのだ、ということが伝わってくるステージだ。激しいアクションやちょっと笑わせるトークの直後にこのMCと「パラトラム」をもってくる構成は見事だった。

「一生懸命やっている人間はカッコいいんだよ」の言葉を添えながら披露したのは、6曲目「マーキュリー」。再び暴走ギアをトップにして、鬼気迫る表情と笑顔を交互に浮かべながら、汗だくのカワセが歌う。

「今日は何度でも言う。NIYOCOの音楽聴いて救われたって言う人が不思議。俺が力を貰ってます。俺がみなさんから力を貰って、歌うことができました」

そんなグッとくるMCに下ネタも混ぜ込んで笑いを生むと、「新曲でーす!」と告げ、まだ音源化されていないと思われる「レイニーペイン」を演奏する。チャイナ風サウンドのギターイントロから始まる楽曲で、耳馴染みの良いメロディと気持ちのいいベースライン、メリハリのあるドラミングと聴きごたえのある一曲だ。

本編ラストを迎えるにあたって、「HAPPYに歌うぞ!」「HAPPYな曲がねえぞ」と言うと、《まず疑ってかかれ》と歌いだす。「神が降りてきた!」「今できた」「絶対被ってないはず」「屋上みたいなところでPV撮りたいな」と板歯目のことをしっかりとイジる、おもてなしなシーンも飛び出した。

フロアが笑いに包まれる中、最後に披露されたのは

《君があの日「死にたい」》
《と言ったあの笑顔は》
《胸の奥で輝きながら》
(砕け散った》

というカワセのソロで始まった「ヘローイン」。ソロが終わると3人が音を繰り出し、末永が曲タイトルを叫ぶと一気にバンドサウンドに切り替わる。音と演出の抑揚がピタリとハマり、グッと心を掴まれる。この熱量はきっと板歯目のファンにも届いていたに違いない。

曲が終わってメンバーは去り、疲労困憊状態でステージに残るカワセに向かって、フロアからはアンコールの手拍子が生まれる。「殺す気か!」と叫ぶカワセだったが、再び3人がステージに。

最後のMCでカワセは「この半年いろいろあって部屋から出れないような状態だったけど、真っ先にメンバーに、そして観客にも救われました」と話す。そして「自分が傷を負わないと、他人の痛みはわからない。失敗したら胸を張って、誰かのために優しくしてください。堂々と失敗してください。失敗しなきゃ自分を見れない。自分を見ない者に、誰かを幸せになんてできないよ」とも。

常に弱い者の立場から歌ってきた、カワセらしい言葉だった。ちょっと涙ぐみながら聞いていたのだが、「板歯目ありがとう、板橋の歯医者さん。今度行くよ。ヤニがついてるから」の言葉でその涙はすぐに引っ込んだ。湿っぽくは終わらせないな、と思っていたらアンコールに演奏したのは、最高に切ない一曲「シンデレラ」。メロディとカワセの歌声が、とびきり感傷的にさせてくる破壊力のある楽曲だ。

歌詞の中にある《神様はこの街を》の部分を《新宿》と言い換えるニクいアレンジも差し込みながら、人間味溢れる、というよりも人間味100%のライブは幕を閉じたのだった。

1.存在ビーム
2.マフエル
3.ロックンロールなんて
4.微熱
5.パラトラム
6.マーキュリー
7.レイニーペイン
8.ヘローイン
EN.
9.シンデレラ

ライブで音源を超えられないアーティストもたくさんいるなかで、NIYOCOは音源を凌ぐ輝きをライブハウスのステージで放っていた。もちろんCDやサブスクで聴いても素晴らしい楽曲たちだが、ライブで味わえばNIYOCOが持つ魅力の全貌が掴めるはず。

もしまだNIYOCOのライブを観たことがない、という人はぜひライブハウスに足を運んでほしい。そしてこれは板歯目にも当てはまること。あの爆音と圧倒的な爆発力は、ぜひとも直接、その目と耳と心臓で味わってほしい!

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