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【ライブレポート】2022/11/3 UPSET CRAFT presents『MINORITY FANCLUB-AUTUMN FESTIVAL-』

うっかりスケジュールを見落としていたのだが、当日のNIYOCO・カンタによる告知ツイートが目に留まり、慌てて参加を決めたUPSET CRAFTによるイベント『MINORITY FANCLUB-AUTUMN FESTIVAL-』。

参加の決め手は、NIYOCOとHwylの存在だ。新人アーティスト発信プロジェクト・IMALABにスタッフとして参加中の自分にとって、このプロジェクトで出会ったNIYOCO、そして6月のIMALAB主催ライブに出演してくれたHwylはとても印象深い存在となっている。

その2バンドが同じライブに出演するとは。予定していた仕事をなんとか仕上げ…ることはできなかったが、終わりのめどが立ったので急ぎ新宿marbleへ。

開演が16時半と早く、トップバッターのタジウナヒューズは間に合わず。Hwylのライブから観賞となった。

Hwyl

あきたりさ(Vo/Gt)とクマダノドカ(Gt)による2人組バンド。リズム隊をサポートメンバーで編成して4ピースでのライブだ。

まずはあきたによるアカペラで始まった「i don't know」。やがて楽器隊も音を放つと、徐々にテンポアップし、クマダのギターが激しく響き渡る。始めから終わりに至るまでの曲調の変化がユニークな一曲だ。

3ヵ月連続配信となるシングルのひとつ「SIREN」や独特のリズムが癖になりそうな「オマエアレルギー」など、表現力豊かな楽曲を立て続けに披露する。

あきたの、感情スイッチの入ったボーカルには芯があり、またクマダのザ・ギタリスト然とした立ち居振る舞いには耳だけでなく目も奪われてしまいそうだ。

音数が少ない楽曲でも成立する、あきたの歌声の強さをあらためて感じさせてくれたのは「暮らし」。ワードの選び方から歌唱表現のパターンまで、「歌」を楽しむ要素が詰まっている。

また、ピックを唇にくわえ、指弾きとピック弾きを使い分けるクマタのギター演奏がやたらとカッコよく映る。

新曲「戯れ言」では今日唯一といっていい、観客に手拍子を促す場面も。MCも決して得意ではなさそうな雰囲気ではあるものの、伝えたいことはしっかり伝えようという意志は届いていた。

ライブを締めくくった「セカイヘイワ」での、余韻を残さないことで逆に余韻を生むような終わり方も鮮烈。

illiomoteやTHEティバ、そしてHwylと、ここ2年ほどで出会った女性2人組アーティストたちのライブはどれも見どころ、聴きどころがたくさん。これからも引き続き、追いかけていきたくなるようなライブだった。

THE SQUID OLDMEN

仲田涼我(Vo/Gt)、小宮山健太(Gt)、安田ほたる(Ba)、そしてサポートの田中超あすか(Dr)を加えた4人編成のロックバンド。

予備知識なし、まっさらな状態で彼らの音を聴いた。そのギターサウンドからは2000年代ジャパニーズロック、とりわけアジカンの匂いが立ち込めていたが、仲田のプロフに「アジカン好き」とあり納得した。

2010年代の4つ打ちの流れとは異なる、00年代を彷彿とさせる疾走感溢れる楽曲も心地いい。確かなテクを持つ小宮山のギタープレイも必聴もの。

メンバー全員、上は黒で揃えた統一感のある衣装…なのだが仲田は革ジャケット、小宮山はTシャツ、安田はボタンシャツ、そして田中はジップアップニット(?)と、揃っているようでバラバラなのも面白い。

技術があるのでギターとベースに見せ場のある楽曲もしっかりと映えている。また、仲田のどこか繊細な部分もありつつ、ざらつきを感じる歌声も特徴があってユニーク。

疾走感だけでなく、ミディアムテンポでスケールを感じさせる楽曲や、U.K.ロックテイストを帯びた楽曲もあり、30分の持ち時間の中で様々な味わいを提供してくれた。

一見、おとなしい文系眼鏡男子を思わせる仲田だが、ラストの曲ではドラムを踏み台にしてジャンプするなど、気づけば眼鏡がどこかへ消えていたほど、激しいアクションを見せていた。

ハイエナカー

こちらも予備知識なしでのライブ体験。4ピースバンドだと思って観ていたのだが、あとでSNSを確認したところ、ギターボーカルの村瀬湊によるソロプロジェクトとのこと。

サポートギター・白井岬(THE だいじょぶズ)の足元にあるエフェクターが、Hwylのクマダ以上に要塞レベルな仕上がりとなっていたのが印象深い。また、サポートドラムのフカイショウタロウ(からくりごっこ)は体を大きく見せ、豪快ながら軽やかにドラムを叩く。

サポートベースの長島アキトは、指弾きでのプレイが強く、音もしっかりと粒立っていて気持ちのいい低音を響かせていた。

正式メンバーは村瀬湊だけながら、フロント3人の息の合ったパフォーマンスは熱量豊富で、ステージ柵前まで来てフロアを煽る場面も。村瀬は柵に登ってさらにアグレッシブなスタイルで魅せるステージを展開する。

本日配信スタートしたという新曲「No Plan The Long Run」をはじめ、ポップで跳ねるリズムが楽しい楽曲や、ロックンロールナンバーなどを繰り出して新宿marbleに嵐を巻き起こしていた。

ラスト、村瀬は再び柵に登って腕を振り回す、いわゆるウィンドミル奏法をド派手に決めた後、着地に失敗して白井側によろけてしまうのだが、白井は何事もなかったかのようにさらりとかわしながらギター演奏を続けていた。こういうシーンには慣れているのだろう。

ソロプロジェクトながら、4人全体で生み出す熱は4ピースバンドに負けていない。ハイエナカーは激しいロックバンドだった。

えーるず

たかはしけいご(Vo/Gt)、ギギ(Vo/Ba)、ふくもりさとし(Vo/Dr)からなるスリーピースバンド。以前IMALABを通じて取材したことがあり、今回初めて彼らのライブを観ることになった。

スリーピースということもあり、各メンバーの音がしっかりと伝わってくる。リズム隊による主張たっぷりな演奏もあり、聴きごたえのあるライブだ。

前述した各メンバーのパート表記には、3人全員に(Vo)と記載があるように、彼らはそれぞれがメインボーカルを担う楽曲がある。

たかはしがメインを務めた後、次の楽曲ではふくもりが、さらに別の曲ではギギがボーカルとして歌う。一曲の中でメインを交代しながら歌う楽曲もあり、多種多様な彩りが添えられていく。

また、30分のライブを通して感じたのは、ボーカルとコーラスワークを大切にしている、ということ。3人の歌声がメインであれコーラスであれ、様々なかたちで“歌”を丁寧に観客へと届けている印象があった。

ボーダーシャツにチェックのパンツを着こなすギギにはプレイスタイル含めて華があり、彼女の存在感はえーるずにおいて特に輝いているように見えた。

1~2分程度のショートナンバーをいくつも揃え、MCもほぼ「ありがとうございます」のみで通し、短い時間の中に多数の楽曲をぎゅっと詰め込んだえーるず。

ボーカルと楽曲、それぞれに個性が出ており、とても面白いバンドだった。ちなみに、ここまでやや押していたタイムテーブルを、一気に巻いたセッティングとライブ展開も素晴らしいファインプレイだった。

NIYOCO

本日のトリを務めるのは、NIYOCOだ。これまでサポートギターとして常にNIYOCOと共にライブをしてきたマツムラタダトシが、スケジュール都合もあってサポート期間満了となり、原点回帰のスリーピースとして再始動。

私自身、3人だけのライブを観るのは久しぶりだ。頼もしいギタリストがいなくなった分をどう補うのか。いや、欠けた穴を埋めるのではなく、あらためて3人で鳴らす音をどう作り、届けていくのか、とても楽しみだ。

オープニングは「存在ビーム」。カワセ(Vo/Gt)による悲しげなギターと歌で幕を開けると、カンタ(Dr)の気合じゅうぶんなカウントが入ってスイッチが切り替わり、一気にエンジンの回転数が上がっていく。

シンクロするヘドバン演奏など、3人の気持ちが一点集中するような爆発力がたまらない。

「マフエル」での、まるで叫ぶようなカッティングギター。そして末永(Ba)の太くて頼もしいベースラインの上を自在に踊る、空気を切り裂くカワセの歌声。小さな体で誰よりも激しく、ダイナミックなドラミングで魅せるカンタ。3人それぞれの個性が解き放たれたNIYOCOは今、完全にスリーピースロックバンドとしてカッコいいライブを繰り広げている。

ひとりギターを担うカワセのハチャメチャな暴れっぷりには、以前より拍車がかかっているのか、サポート加入前に戻っただけなのか、それとも何ら変わらないのか。(ただし以前なら恒例ともいえるギターの弦切断は発生せず)

そんな自分のプレイに観客が引いていると思ったのか、フロアに向かって「君たちは審査員か!」と一喝するカワセだった。

「矢沢の永ちゃん、忌野清志郎さん、甲本ヒロト。リスペクトしてます。ロックンロール歌いましょう。Shall We Dance 俺!」と告げると、「ロックンロールなんて」へ。テンションが演奏を追い越すのか、演奏がテンションを追い越すのか、という危ういエネルギーの集中が生み出すパフォーマンスは圧巻。

飲み込まれてしまうかのようにただ見つめるしかない観客に対してカワセは「そういう感じになりますよね」と言葉を発すると、フロアからは笑い声がこぼれた。

同曲は上っ面なロックを攻撃する歌詞が描かれているためか、この曲をTikTokにアップしたところ、“おじさんたち”からの誹謗中傷が止まらないという。「おっさんがtiktokやるな! 若者のツールだ!」とド正論を言い放つカワセ。ついついTikTokを利用してしまう自分にも、耳が痛い話だ…。

MCで何度も笑いを生みながら、「平和な歌を歌いますわ」と言うと次の曲「マーキュリー」へ。絵面だけを見るとパッション過多では、とすら思う演奏シーンも、カワセの歌とカンタ、末永の音が見た目の“過剰っぷり”と均衡を保っており、むしろ説得力をもたらしている。

「ありきたりなこと言います。みんな幸せであってください」

そんな優しいセリフを挟みながら、「まだ歌うんだこの歌。歌いたくないわこんな曲…」と、そんな言葉を口にして《君があの日「死にたい」と言ったあの笑顔は、胸の奥で輝きながら砕け散った》という歌いだしで始まる「ヘローイン」を演奏する。休符が生むダイナミズムをもコントロールし、楽曲の魅力を存分に発揮するNIYOCOの面々。

時間の長さは関係ない。与えられた時間の中で、すべての燃料を燃やし尽くすライブをする彼ら。それはもしかしたら非効率なスタイルなのかもしれないが、ライブ後に、汗だくになりながらステージに倒れ込んで動けなくなるカワセの姿に、どうしても惹かれてしまうのだ。

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