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【ライブレポート】2022/9/9 『ENDSCAPE vol.18』

ライブシーンの勢いが少しずつ戻ってきた9月9日。この日も各地で、特に横浜で激アツな4バンドのイベントが組まれていたが、新宿も熱い。ということで、LOFT PROJECTの横溝さん企画『ENDSCAPE vol.18』に誘ってもらったので、新宿LOFTへ行ってきた。

出演する4アーティストについて、音源には触れていたのだがライブを観るのは初めて。それぞれが自身の持ち味を発揮した、密度の濃いライブを振り返る。

出演:Lucie,Too / 尾崎リノ / クレナズム / レイラ

■Lucie,Too

トップバッターはChisa(Vo/Gt)とヒカリ(Ba)のツーピースバンド、Lucie,Too。サポートドラムを迎え、スリーピース編成でのライブとなる。

「heartless」で幕を開けると、「幻の恋人0」「幻の恋人」と前後編に分かれたような楽曲でLucie,Tooの世界が立ち上がる。

歪んだり芯を感じたりするChisaのギターが気持ちよく響き、控えめな笑顔を浮かべるヒカリのベースと、時折、満開の笑顔でドラムを叩くサポートメンバーによるリズム隊がしっかりと楽曲を支えていく。

全体的にアクションは少な目で、一度だけChisaとヒカリが向き合って演奏する場面もあったが、それも一瞬。基本は各自の定位置でしっかりと歌い、演奏するスタイルだ。

MCでChisaは、2014年から開催されているという今回のイベント『ENDSCAPE』に言及。コロナもあって止まってしまったが、またやりたいという思いで始動したイベントと、同じくコロナ禍にメンバー脱退を経験した自分たちを重ね合わせながら、もっと続けていきたい、たくさんの人と出会いたいと話す

また、事前にWEB公開されていたこのイベントに関するインタビューでの「あなたの中の男性的な部分はどこですか?」という質問に触れながら、男や女に対する固定観念への違和感を口にする。「Lucie,Tooは女性目線の曲が多いんですけど」と断りを入れつつ、少し言葉を選びながら語ったChisa。彼女が抱く思いの一端を感じることができるMCだった。

なお、当該インタビューは下記ページから閲覧可能となっているので、ぜひ。

Lucie,Tooは、スリーピースならではのシンプルなアンサンブルで、適度な音の余白にChisaのボーカルが乗っており、それぞれの音や声がしっかりと届く。

まさにトップバッターにふさわしい、ド直球のバンドサウンドが楽しい30分だった。


■尾崎リノ(Cody・Lee(李))

2番手はCody・Lee(李)でも活躍する尾崎リノが、弾き語りのライブを披露する。前半は椅子に座って、後半はスタンディングでのパフォーマンスとなった。

しっかり耳を澄まさないとこぼれてしまいそうな、繊細な歌声に緊張感が漂う新宿LOFT。歌声にも増して細やかな挨拶の音量に、さらに集中力を要するぞ…とオーディエンスの気も引き締まる。

《東京メトロに揺られて ゆらりゆらゆら君のこと》の歌詞が、滑らかなメロディとマッチした「東京」や、《核兵器も秘密結社も知らない 平成》《原子力も宗教戦争も知らない 令和》という歌詞が2022年の今に突き刺さる「或る漁港」など、曲の強度も抜群だ。

心の機微や音楽の細部に至るまでを丁寧に歌い紡いでいく尾崎。様々なテクニックを駆使することで、たった一本のギターから出る音の一つひとつが、豊かな表情を見せてくれる。バンドとはまた違う、音楽の世界の広がりをもたらしてくれた。

前半では、触れたら折れてしまいそうな繊細さの際立つ尾崎の歌声だったが、後半のスタンディングでのライブでは、繊細さを保ちつつ少し力強さを帯びており、さらに複雑かつ立体的な尾崎リノワールドが展開。

強い歌声が飛び出す瞬間もあり、彼女の多様な表現力を味わうことができた。バンド編成では出すことができないような刺激を感じさせてくれる見事なステージだった。


■クレナズム

トリ前を務めるのは、福岡発のバンド・クレナズム。登場する直前、メンバーそれぞれがステージに一礼する姿に早くも心を掴まれてしまう。

萌映(Vo/Gt)の「福岡クレナズムです!新宿LOFT、よろしくお願いします!」という、力強く清々しい挨拶でライブスタート。

1曲目の「白い記憶」では、いきなり暴れ馬のごとく激しい音と動きでLOFTを圧倒するけんじろう(Gt)とまこ(Ba)。まだひと言も歌ってない、イントロの段階で早くもローディが登場してステージを整えていくという、パンチのあるオープニングだ。

萌映の、温もりと、ある種ひんやりした零度的感覚を併せ持つ唯一無二の歌声、そして文学性のある歌詞が、シューゲイザーという音楽ジャンルと抜群の相性を発揮している。

Spotifyで100万回再生を超える「ひとり残らず睨みつけて」では会場の温度がグッと上がるような感覚を味わう。また、萌映がギターを降ろしてハンドマイクを握る「わたしの生きる物語」での、ポエトリーリーディングから始まる内省的な楽曲の世界観にも引き込まれてしまった。

5年半ぶりに開催という今日のイベントに出演するということで、福岡から気合を入れてきたという萌映。さらにMCで、クレナズムにとって新宿LOFTは初出演ということもあり、多くの観客の前で演奏できることを「幸せに満ち溢れている」と表現していた。

ちなみに、物販やツアーについての告知もあったが、クレナズムがここまで作り上げてきた空気を壊すことなく、ナチュラルに告知していたことにも触れておきたい。

ライブの最後を飾った「青を見る」では、けんじろうが弓を弦に当てて音を引き出すパフォーマンスでオーディエンスを釘付けにする一幕も。

ライブ全編を通して、まこのベース音もくっきりとした輪郭をもって響いており、ベース好きな自分にはたまらない時間でもあった。

ここまでのLucie,Too、尾崎リノと続くアーティストラインナップ、そして轟音曲やシューゲイザー、ポエトリーリーディング等を含むセットリスト、さらには1曲内での豊かな構成など、短い時間の中で様々な緩急を味わわせてくれた。

最初の一礼から、ライブを終えてステージで全員が深々とお辞儀をする瞬間まで、すべてが美しいクレナズムだった。


■レイラ

トリを飾るのは、横浜の4ピースバンド・レイラだ。何よりも印象に残ったのが、有明(Vo/Gt)のパワフルな歌声だ。硬くて飛距離があり、遠くまで届くその声はレイラにとって大きな武器だろう。

また、そんな彼女の歌声があるからこそかもしれないが、バンドが鳴らす一音一音がめちゃくちゃデカい。ここまでの3アーティストでは使用しなかったのだが、レイラのライブが始まってすぐ、思わずイヤープロテクターを装着するほどだった。近くにいた別の観客も同じく、レイラの演奏がスタートしてすぐにイヤープロテクターを装着していたことからも、その爆音ぶりが伝わるかもしれない。

轟音爆音大迫力、だけではないのがレイラの魅力。三浦太樹(Gt)らによるコーラスワークがパンチ力のある楽曲たちに彩りを与えていた。

また、イベント企画者の横溝について、出演が決まってから何度もレイラのライブ会場に足を運び、毎回フライヤーを配っていた姿を見ていたと語るレイラのメンバー。そんな横溝の熱意に応えるべく、本来は10月4日開催予定の自主企画でおろすはずだった新曲を、今日この『ENDSCAPE vol.18』で解禁すると発表。「特別な日にしたい」と語った有明、そして大事な新曲を初披露したレイラの、バンドマンとしての矜持が伝わる名場面となった。

その新曲は、一歩一歩踏みしめていくような演奏と、歌詞をしっかりと届けようとする丁寧な歌唱によるミディアムナンバー。終盤に向けてドラマティックに展開していく、スケール感のある一曲だ。

濃厚な本編を終えて一度ステージから去るも、すぐにアンコールへ。

「口下手なので“ありがとう”をうまく伝えられていないけれど、最後の曲で精一杯伝えて帰ります!」という有明の言葉を合図に、本日ラストとなる「つまらない」を披露して『ENDSCAPE vol.18』は終幕となった。


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