【ライブレポート】2021/10/25 庄八から愛を込めて Vol.1@新宿SAMURAI
都内での時短要請が解除された10月25日。新宿SAMURAIにて開催された4組のバンドによるイベント『庄八から愛を込めて Vol.1』に足を運んだ。サブスク音源だけでは伝わり切らない、人間味たっぷりだったライブを、NIYOCOと板歯目を中心にレポートしてみたいと思う。
■NIYOCO
組み立て、構成、シナリオ…そういったものとは無縁とも思える、瞬発力と胸倉を掴まれて引っ張り込まれるような引力が持ち味でもあるNIYOCO。その主成分となる川瀬(Vo/Gt)がどんな衝動を発露するのかに注目していた。
しかし1曲目「オールドオアダイ」での彼は、以前何度も観た、爆発力溢れるパフォーマンスとはどこか異なっていた。異変、と言ったらおおげさだが、彼の内側に秘めたる何かがあるような印象。
いつも同じライブであるはずもないので、2021年1月25日のNIYOCOのライブはそういう世界観で展開している、ただそれだけのことかもしれないとも思っていた。しかし後に川瀬が、プライベートで何かがあったことをうかがわせるMCをする。
一体どんな出来事があったのかはわからないが、そのことが今日のライブパフォーマンスに反映されているようにも感じた。
序盤からMCを末永(Ba)に任せる場面も多く、その間もギターを触りながらどこか自分と向き合っているような印象を受ける。末永は末永で、ようやく制限解除でお酒も解禁されるようになったので、これまで苦境に立たされてきたライブハウスに貢献するためにも、いっぱいお酒を飲んでほしいと粋な語りを繰り広げ、MC川瀬の不在を埋める活躍ぶりを見せた。
ライブ鉄板の「存在ビーム」でフロアを盛り上げると、「ロックンロールなんて」ではギターをハンドマイクに持ち替えて、ときおりサポートギターのマツムラタダトシと肩を組みながら歌う川瀬。
ギターにトラブルが発生し、急きょ他のバンド(UNFAIR RULEのみはね?)からギターを借りた川瀬。キラキラ光るそのギターにテンションが上がっている様子。その横で「借りたギターの弦切ったらやばいよ…」と冷静な末永。
次の瞬間何をするかわからない、というハラハラドキドキもNIYOCOのライブの楽しさのひとつだが、確かに他のバンドの楽器を借りている状態であることを考えると別次元でのハラハラが生まれる…!自分も末永視点と同じで、(壊さないように…!)と見守っていた。
そんな状況でのライブ後半。最新リリース曲「微熱」演奏時だったと思うが、川瀬は末永、マツムラ、そしてカンタ(Dr)の3人それぞれに視線を送り、笑顔で歌い演奏する。
冒頭でのどこか沈痛ともいえるような表情を浮かべていた川瀬とは別人のようだ。「こいつらが弱い俺を守ってくれるんだってよ!」とメンバーについて嬉しそうに話す川瀬の姿がとても印象的だった。NIYOCOは川瀬の「暴走」と表現しても差し支えないような予期せぬ激しいパフォーマンスが魅力のひとつだが、それを受け入れる他のメンバーがいてこそ成り立つもの。あらためて、NIYOCOとはこの3人(+サポート)でこそのバンドなんだと思わされるシーンだった。
ライブというものは「生(ナマ)」であり、決められた表情を作って歌い、演奏することはできない。そう語る川瀬は、私的なことで笑えないことがあり、ありのままで今日のステージに立っているんだと言う。
冒頭に感じていたものに対する回答ともいえる言葉だ。でも、これが動物的なライブをするNIYOCOにとって正しい姿なのかもしれない。その時々の感情がダイレクトにパフォーマンスへと繋がっていく。
いいライブ/悪いライブ、という区別とも違う、“今のNIYOCOのライブ”。「笑うだけが人生じゃない」と語る川瀬の言葉通り、泣いたり笑ったり、悲しんだり喜んだり怒ったり。喜怒哀楽がそのまま表現されるライブこそが、NIYOCOの真骨頂なのかもしれない。
どんな状況にあろうとフロアに響く、空気を切り裂くような鋭さと聴く者に寄り添うような優しさを併せ持つその歌声は、観客の心にしっかりと刻まれたことだろう。
セットリスト
1.オールドオアダイ
2.存在ビーム
3.ロックンロールなんて
4.微熱
5.ヘローイン
■UNFAIR RULE
2番手に登場したのは、2019年6月に結成された岡山のロックバンド。フロントに女子ふたり、後方にドラム男子という編成のスリーピースだ。
事前にSNSで一曲だけチェックしてみたところ、ゆるふわでガーリーな音楽が流れてきたので、今日の対バンの中ではちょっと異色なタイプだな、という予備知識で臨んだのだが…とんだ間違いだった。
みはね(Vo/Gt)の少し幼さも感じさせつつストレートに突き刺すようなボーカル、そして高速ビートからミディアムテンポまで曲中で変化するリズムを支える、よう(Ba)としょうた(Dr)によるコンビネーションが気持ちいい。
ギターロックからメロディックパンクまでジャンルを横断するようなテイストを持つ楽曲たちも魅力的だ。
MCはバンド名を告げ、自分たちの音楽を選んでくれたことへの感謝を伝えた以外ほぼ喋っていなかったのではないだろうか。
多くは語らず、音楽で伝えようとする直球勝負スタイルならではの清々しさが印象に残るバンドだった。
■ザ・シスターズハイ
3番手は新潟発のロックバンド、ザ・シスターズハイ。インナーもTシャツもなく、上裸に直接ジャケットスタイルなベースに、ジャージ姿で歌うギターボーカル。
トリを担うのはTHE KING OF ROOKIE。こちらも板歯目同様にまだ10代と若いバンドだ。
黄色つなぎのヒロム(Gt)に上裸&黒ジャケットの鈴木琳(Vo/Gt)、青ジャージのワシミリョウ(Ba)、左肩丸出しTシャツなちゃんけん(Dr)と衣装の統一感ゼロ。そしてフロントの3人は裸足。この子らちょっとヤバいかも、という予感は的中することになる。
【ライブをレポート】2021/5/14 新宿Marble 17th ANNIVERSARY×THE KING OF ROOKIE pre. 「MARBLE JACK 3DAYS」-DAY1-より引用
今年5月に観たTHE KING OF ROOKIEのライブでも、上裸ジャケやジャージ着用のメンバーがいた記憶。そしてTHE KING OF ROOKIEも新潟バンド…。不思議な共通点に少し興奮しながらのライブ鑑賞。
ステージ狭しと激しいアクションでフロアと自分自身を盛り上げていくフロントの3人。まさやんぐ(Gt)はギターソロを顔で弾くタイプで、ソロプレイ中に何度も表情が切り替わる。
「今日できないことは明日も、1年後も10年後もできない。今日やるしかない、自分がやりたいこと、やらなきゃいけないこと。変えたいこと、変えなきゃいけないこと。今日、やって帰りましょう」
これは、長い髪を激しく揺らしながら歌う“これだから女子供は”(Vo/Gt)がライブ中に語ったMCの一部だ。迫力あるパフォーマンスに加えて、語る言葉にも彼の美学というか、ポリシーのようなものが感じられ、芯の強いメッセージに身が引き締まる思いがした。
不器用で泥臭い印象を与えながらもキャッチーなメロディと切れ味のある言葉でグッと観客の心を掴んでいく。
新潟にまたひとつ、面白いバンドがいると知ることができたライブでもあった。
■板歯目
本日のトリを飾るのは、板歯目。現役高校三年生バンドだ。10月からはベースが替わり、新たにTHE LAST MEALから大里侑平を迎えての始動となった。
「板歯目です!よろしくお願いします!1曲目!エバー!!!!」と息継ぎする暇もないほど一気に叫んだ千乂詞音(Vo/Gt)が、そのままの勢いで「エバー」を歌う。
今年5月に彼女たちのライブを初めて観た衝撃は忘れられないが、あれから半年経ち、彼女のボーカリストとしての迫力はさらに増しているように感じる。空気を震わせるほどのとんでもない馬力を持つ歌声を、しっかりとコントロールしつつスピリットも込めてストレートにフロアに解き放つ。観客の立場で言えば、襲いかかってくる、という表現を使っても違和感ないほどのパワーがある。
一度聴いたら忘れられない、強烈な存在感を放つ詞音だが、MCとなると高校三年生が顔を出す。
「こんばんにちは板歯目と申します!」
「いい感じで頑張ってバイバイってするのでみんな観てってくれたら嬉しいです!イェーイ!」
無邪気な喋りに思わず頬が緩んでしまうが、曲に入れば再びバケモノボーカリストに豹変。声だけでなく彼女が奏でるギターの音色もまた引き込まれるほどの魅力があるのだ。
そして板歯目の面白いところは、彼女だけが輝いているわけではない、ということ。ドラムの庵原大和は軽やかなアクションと弾むようなドラミングで、聴覚に加えて視覚でも楽しませてくれる。ベースの大里は、まるでウッドベースのようにベースを立てて指弾きをする。ここまで極端な縦スタイルはなかなかお目にかかれない。
《めんどくせーめんどくせー》のフレーズが耳から離れない「Y(ワニ)」や、ギター一本でメロディの凹凸もなくフラットに《花見へGO海へGO焼き芋GOイルミネーション》と言葉を連呼する序盤に、この後の展開はどうなるんだとハラハラさせながら、中盤からは彼女の喉をフル活用した震える叫びでフロアを圧倒する「沈む!」。さらには板歯目の曲の中でもトップクラスにキャッチーで勢いのあるメロディを持つ「まず疑ってかかれ」、他にも「バトル亀」「コモドドラゴン」といった曲たちを披露する。
板歯目(ばんしもく、英: Placodontia "平板状の歯"の意)とは三畳紀前期から後期にかけて生存していた爬虫綱・双弓亜綱に属する分類群である
ウィキペディア(Wikipedia)「板歯目」から引用
その名を踏まえてか、爬虫類系タイトル楽曲を多く持つ遊び心も面白い。
ブルースチックなギターもあり、ガレージテイストや激しいパンキッシュなサウンドのごちゃ混ぜ感も楽しい板歯目。
卒業後、どういった活動をしていくのかとても気になるバンドだが、ここ最近の音楽界隈における主流とは異なる彼女たちが、2020年代の音楽シーンを猪突猛進で爆走する姿を見てみたい。
コロナにおける時短要請が解除となった25日の夜に、これまでの1年半に積み上げてきたもの、育ててきたものを解き放ちながら、それぞれのロック、それぞれの音楽をぶつけ合って新たなスタートを切った4組のバンドたち。
ここからの快進撃を楽しみにしたい。
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