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月の嫉妬

すっかり桜も散り落ち、いよいよそこかしこに新しい緑が覗くようになってきた。
実家の葉牡丹はゆうに一メートルを超えた背丈の先に、菜の花の如き花を咲かせている。
なるほど、そうこうしているうちに菜種梅雨なんて言葉の聞こえる季節になっていたりして。

夜のはじめ、ふと見上げた桜の木はすっかりこざっぱりとした枝葉を揺らしていた。
枝々の隙間から、上弦の三日月がこちらを見下ろしている。
三日月とはこんなにも明るいものだったか。
もしかすると、細いぶんだけぎゅっと明るさも凝縮されているのだろうか。
ちらほらと花びらの残る枝にまるで、「ふふん、私のほうがきれいでしょ」とでも言いたげな輝きで桜と私を照らしている。

月だけでなく、なんだか、そこここの花々も、次は自分が主役だと言わんばかりに花を覗かせる。
自分ももっと主張してよいのかもしれないな、と咲き時を逃すまいとする花に少々圧倒されながら思う。

春の力をすこしばかり借りたいものだ。



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